15 ロロイ
「な・・・なんでこんな所に?」
1人驚く中、その様子に周りはザワザワと騒がしくなり視線は集中する。
「なんだ?魔獣の旅人さん?その男がどうかしたか?」とテーブル席から私に声をかけてくる男性が1人。
その声に周りも反応を示す中、私はすぐ様答えてその場を収めようと必死に弁明をした。
「すみません、ちょっとぶつかった人が知り合いで驚いてしまって・・・」
なんだなんだと一笑いに変わり、その場にいた客は再び各々楽しく飲みかわし元の賑わいに戻っていく。
そんな中私は彼と再び出会えた事に感動し涙が零れてしまう。
「ロロイ・・・良かった・・・」
涙する私に対しロロイは顔色一つ変えぬまま、頷き一つ見せず再びテーブルの料理に手をつけ食事に戻る。
「相変わらずだね・・・会いたかった・・・。あの日あなたが見つからなくて私・・・。
ラックきっと喜ぶと思うよ」
彼の隣に座り私はそう言うと「そうか」と素っ気なく返される。
いつもの事だ。これが彼だ、本人に間違いなかった。
リーヴからなんとか逃げ出してきたリフレシアは私達のいる席に混じる様に座ってはジロジロとロロイの顔を見る。
「なんだこいつ?」
「ロロイ・トゥエルブ。私の前のパーティの仲間」
「ほう・・・、成程な〜」
興味ありげにまじまじとロロイを睨むリフレシア。
彼女はラックがそのパーティのリーダーであるとは知らなくとも、私が彼女の父であるこの世を統べた龍"支配の龍"を倒した一員の1匹とは知っている。
ならばその仲間である彼も。
「・・・お前、相当強いだろ?」
彼女の問い掛けに私は嫌な予感がしすぐ様止めに入ろうとしたが、無視する様にロロイににじり寄り追い込む様に更に問いかける。
「なんとか言ったらどうだ?」
微動だにせずロロイは食事を続けては視線をリフレシアに向けたまま黙る。
いつもの事だ、彼はとにかく口数が少ない。
旅の途中何も言わずに空腹で倒れ20m前で倒れていた事がある程にとにかく言葉を発さない。
何も答えないロロイに対し彼女は痺れを切らし始めた時、私は丁度そのタイミングで彼女と彼の合間に入り私から彼女へ伝える役に出た。
「ごめんリフレシア、彼本当に口下手なの!」
「質問位には答えろ木偶の坊」
「煽ってもだめ!」
「お前は黙っていろ、俺は奴に用がある」
「訳があるの!後で話すから今は抑えて!」
「ダメだな」
グイグイと彼に詰め寄るリフレシア。
それでも尚マイペースなロロイ。
遂に彼女の手により私は押しのけられロロイの首元に手をかけるとリフレシアはロロイにすっと伸ばしてきた手を片手ひとつで掴んでは軽々とまるで雪玉でも投げるかのように店の外へと投げ出し、分厚いドアを背にリフレシアは外で固められた小さな雪山には突っ込んでしまった。
「ちょっ・・・ロロイ!?」
私は驚きを隠せず注意をしようにも状況を上手く飲み込めなかった。
私の知る彼であっても、流石に見た目どう見ても華奢な少女1人戯れにも近い様な突っかかりでこんな乱暴に外へ叩き出す様な人では無い。
「彼女は私の仲間なの!乱暴は止めて!」
ゾワッと一瞬にして空気が変わった事が分かる。
きっとこの酒場にいた人間全員が感じたであろう。
ロロイの表情はいつもと変わらないながらもその雰囲気は通常のそれとは違う。
確実な殺気。
「ロロイ!!」
すぐ様外を見るとリフレシアは既に立ち上がり笑っている。
やる気の表情、戦う気だ。
「分かってるじゃないか。挨拶は出来んが、話の飲み込みは早くて助かる」
やる気満々のリフレシアにロロイは席を立ち外へと出ようとするも、私を含めその場にいた誰もが立ち上がり彼の前に立ち塞がった。
「止めな、たかだか女の子1人に言われたからってよ!」との言葉に続き私も彼に言う。
「ロロイどうしたの!彼女が悪い事したのは確かだけどそこまでしなくても」
その言葉に彼は一言やっと私に返してくれた。
「あいつ。まだ生きていたか」
「え?」
大人数を跳ね除け酒場を飛び出し外にいるリフレシアの元へとかけ出すロロイ。
真っ向に立ち向かう彼女に私は後を追い2人の仲裁に入る事に必死に足早に向かう。
交わる2つの拳、素手のぶつかり合い。
どちらも引けを取らずとも激しいぶつかり合いは格闘や競技の類に留まらない本気で相手を倒しにいくもので、どの一撃をとっても傷では済まない。
酒場から出てくるギャラリーは誰一人としてその戦いに止めに入れないと踏んでしまいその場に留まっては2人の戦いを傍観してしまっている。
「止めてって!!2人共!!」
私の声はもう届かない、けれどリフレシアは冷静だ。
彼女は本気を出していない。
本気であるなら彼女の体の部位は龍のそれと化しているはずだけど、今も尚人の姿のままロロイとやり合っているから。
きっとどこかでやめ時を探っているに違いないと思う反面、ロロイのその攻撃一つ一つがどれも本気だった。
いつの日でも、彼は手を緩めることはしない。
けれど彼のその動きは明らかにいつも見る戦い方ではなかった。
まるで強大な敵を前に畳み掛ける様な攻撃の連続。
もしこの戦いが続けばロロイが彼女を殺すまで止めない。
もしくはこの大観衆の中リフレシアが本気の姿を見せてしまう羽目になる、それだけは避けたい。
意を決し私はグッと体を強ばらせ、痛みとその一撃を受ける覚悟で目を瞑りその身一つ飛び込む様に2人の戦いの輪に飛び込んだ。
2人の争いを止める一心の決死の思い付きである行動。
「はぁ!?」
驚く声はリフレシアだろう。
視界には映らない迄も私の頭に強い一撃が一つ。
私が2人の間に飛び込むその一瞬、どちらかが攻撃を止め、一方は寸前にブレーキをかけ間に合わなかった一撃が当たったといったところだろう。
半分死んだ物だと思いながら飛び込んだので当たってしまった拳での一撃の痛みは思っていたより痛いものでは無かった。
「い・・・いたい〜・・・」
「何やってるんだお前は?」と呆れた様子で蹲る私を見下げるリフレシア。
そしてロロイは静かに拳を収め一歩引いた所まで下がり、なんとかして2人の喧嘩というか、殺し合いを止める事が出来た。
この痛みで済むなら安い。
ほっとする酒場から出てきた全員は安心した様子で、私と彼にリフレシアといる2人と1匹を酒場へと中へと引き入れ、本気の殴り合いをしていた2人はお説教をされながら私はその様子を傍目にイコライの手当を受けることとなった。
「大丈夫?カペラちゃん?」とリーヴは優しく頭を撫でながら心配してくれ、イコライは痛み止めの薬やら外傷が無いか細かく私を見てくれた。
「すみません・・・。ウチの2人がご迷惑かけて・・・」とイコライに謝ると苦笑いをし彼女は答えた。
「自分の事よりここの事気にしてるなんて・・・、大丈夫。あなたの怪我程じゃないから。
それよりまさか彼と知り合いだなんて知らなかった」
ロロイの方を見るイコライは優しい表情で、私は彼女の目線を追うように彼の方を見ると。
怒られながら正座する彼の姿が映り込み、私は苦笑いだった。
「昔の仲間で・・・。大きい戦いがあった後に行方不明で死んだんじゃないかって言われてたんです」
「そうだったんだ」
「彼、昔からあんなんで・・・」と私が言うとイコライは笑いながらその一言で伝わったのか「成程ね」と頷く。
その様子から彼がこの街へは度々訪れては、普段の様子を知っている様に捉えられた。
彼が暴れた時もこの酒場にいる人や魔獣交え全てが驚いていたのもそうだ。
私はロロイについて尋ねるまでもなく彼女は彼について話を始めてくれた。
「ロロイ君はもう随分前になるかな、前任の子が亡くなってからあの運び屋さんと来ては度々海氷割りの手伝いしてくれたりしてね。
寡黙だけど娘の面倒まで見てくれたりして助かってるの」
「と言うと4年前からずっと?」
「うん、運び屋さんが来る度」
「へぇ・・・」
彼がいなくなったあの日。
それも4年前になるだろうか、私の知らない彼が生きていたその期間。
何があったのか気にはなっていたものの、それ以上に彼が彼女に対してあそこまで敵意を見せた理由が気になって仕方がない。
読了ありがとうございました。
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu