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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第1部 死神の白魔法
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6 南に向かって

13


いつまで、どこまでだろう?どの方向のどの方角を走ったのだろう?

一心不乱に走り続け、息も絶え絶えになりながら朦朧とした意識の中、がむしゃらに走っていた。

命からがら逃げ延び、気が付けば夕暮れが見え始めている。もう体力も魔力も残っていない。南に向かって、ただそれだけが脳裏で反響しそれ以上の事も考えすら出来なかった。


フラフラと足取りはおぼつかなく重くなり、徐々に視界は歪みいつしかペースは乱れ膝は動かなくなっていく、棒になった足を支える力はもう無、体は力なくその場に崩れ落ちるようにうつ伏せに倒れこんでしまう。

体はピクリとも動かない、死期を悟ったかのように、体が動かなくなった途端に色々な事を考え始めた。


ローライは無事逃げきれたのだろうか?

"厄災の龍"がまだ生き残っていた?

荷物の行方は何処に?

私は誇れる生き方が出来たのだろうか?

"トリル・サンダラ"の環境や気候のせいなのだろうかいつも以上に魔力の消耗が激しく感じたけど、もしかして歳のせい?・・・嫌だな〜・・・。


いつしか考える事すら疲れ始め視界は遂にボヤけだし、睡魔が襲い始める。「あぁ、ここで終わりなんだ」と感じた。


疲れた・・・、瞼はだんだんと重くなり、激しい眠気が襲う、視界は閉ざされ目の前が真っ暗になっていく。


このまま私は死ぬのだろうか?いつしかあの龍に見つかってしまい殺される。

けれどローライくんが生きていればそれでいい。きっと大丈夫だ、だから安心して良いんだ。

色んな人に迷惑かけちゃったな、もっと皆に認められたかったな。

でも約束は守れなかった。ごめんなさい、ラック。

お母さん・・・・、そして、ムジーク。


辛い事もあったけど、良い生涯だったと思う。



------------------------ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



目を覚ました。まるで今までのことが夢だったのでは無いかと疑う程に目に映るのはテントの天井に微かに透け日差しが見える。

体を起こそうとすると節々の痛みを感じる。よく見れば身体中は傷だらけ、やはり夢では無い。

隣には少しの携帯食料と満タンに水の入った皮袋が置かれ、膝元には一房の色取り取りの花束が置かれていた。


「きれい、でも前に”トリル・サンダラ”に訪れた時にこんな花咲いてたっけ?」


傍に置かれていた水と食料を頂き、一息つき癒えていない体を無理矢理動かそうと、立ち上がろうとした時。テントの入り口が開き、そこに入ってきたのはローライだった。


「おぉ!!?」


驚き後退りし尻餅をつく彼、体を越そうとしている自分も体を起こし切れず同じくして尻餅をついた。


「お・・・お前生きてたのか・・・?」

「うん・・・なんとか生きてたみたい」


大きく息を吐き彼は「良かった・・・」と一言漏らし安堵した顔を見せた。


「ここって・・・?」

「”トリル・サンダラ”の町の中だ。建物の中にテント張ってる」

「どういうこと?」

「・・・。説明する事が少し多い、体は動かせるか?」

「ごめんなさい、多分ちょっと難しい」

「分かった。待っとけ」


そういうと彼はすぐ立ち上がりテントを後にし、しばらくすると再びテントの入り口から顔を出し。

砂だらけの瓶に入った液体と小さな包みを手渡してきた。


「ありがとう」

「その瓶は一時的な痛み止め、包みの薬は粉薬だ。これで少しの間は動ける、ただ無理は出来ない」


瓶に入った液体で包に入った薬を飲み干し、しばらく楽な姿勢で座ることにした。

ローライはテントの中へ入ると同じく腰を下ろし、ズボンから携帯食料を取り出し食べ始める。


「ありがとう、ローライ君」

「・・・いいよ」

「ここまで運んでくれたんでしょ?」


彼は黙ったままそっぽ向き目を合わせてくれなかった。


「本当にありがとう」

「・・・最初」


一言、そう言った後。間を明け彼は少し震えた声で言葉を続けた。


「最初、お前が死んだと思った・・・」


花束に、少しの食料と水。最低限の弔いのつもりで置いていた物だったと、その時気がついた。


「それで・・・」

「遠くで倒れてるお前見た時、訳分かんなくなって。町まで運んだ後、町にあったテント貰ってきて、その中に寝かしたんだよ。息もしてないし、心臓もかなり音が弱ってて・・・。どうしようもなかったから、せめて町にあった傷薬と使いまくって止血するしか出来なくて・・・それでも状態が良くなんなくて・・・。もうダメだと思って・・・」


自分でもなんでこんな事をしたのか分からなかった。けど多分凄く嬉しかったからだと思う。

気が付いた時には彼を強く抱きしめていた。


「ほら、ちゃんと心臓動いてるよ」

「おま・・・」


ドキドキとする彼の心臓の鼓動が伝わった。離れようとする彼から腕を解き言った。


「ありがとう。ローライ君」

「・・・おう」


彼は軽く私の頭を手で叩き、「二度とすんな」と一言言いそのままテントから出ていった。


しばらくそのまま身体を休ませ、息を整え立ち上がる。

痛みも少し引き、体を持ち上げ、最低限歩く程にはなったが無茶は出来ないなと感じる程には疲労とダメージは残っていた。

テントを出ようとすると同時位のタイミングにローライが再びテントに入ってきた。


「まだ休んでろ」

「もう大丈夫だよ」


彼はそう言い、両肩に背負っていた二つのリュックを下ろし、テントの中にそのまま座り、私も続いて座ると彼は二つ抱えていた一つを私に手渡してきた。


「とりあえずこれにある程度ここから離れる分に必要な荷物を入れといた」

「ありがとう、でもそんなにいっぱいお金は大丈夫だった?私、逃げる時に荷物全部捨てちゃって・・・お金も勲章も今持ってないんだ・・・。また帰ったら返すね」


そういうと彼は黙ったまま、眉間に皺を寄せ俯いた。その姿に少し焦り、直様頭を下げる。


「ご・・・ごめん帰ったら絶対返すから・・・」

「・・・・。取ってきたんだよ町の店から」

「え?」

「この町には誰一人、人がいないんだよ」

「え?」

読了ありがとうございました。

これからも続けて行きたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

宜しくお願い致します。


次回の更新は4/17(水)7時頃になります。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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