14 伝令
「"特殊対策討伐隊"、あいつらが来るんだとよ」
「ポテ・・・え?何?」
聞き馴染みのない響き、その単語に困惑しているとだろうなと言わんばかりの顔でため息をつくリフレシア。
「特殊対策討伐隊、いけ好かないあの女共の部隊の名らしい」
"特殊対策討伐隊"、ここへ来る以前に丁度この依頼を受けた時に出会ったエルフの彼女達の事だ。
特殊対策討伐隊というある意味秘密部隊や組織
それこそ、"sEEkEr"程では無いとはいえ表だった事はしない部隊がわざわざ名前を付けるとは如何なものなのか・・・。
よく分からないと反応を示すとリフレシアは同意の意を顔で見せながら言った。
「そんな馬鹿馬鹿しい事が重要では無いぞ。わざわざ大袈裟な部隊がこんな街までやってくる、理由は知らんしそいつから聞いた話では近日中に来るだそうだ」
「その運び屋の人は何をしに?」
「それを伝えにだとさ、後はこの街の市長に"カラット"の上層からその事についての詳細が書かれた封書を渡しに行ってからは知らん」
カラットの上層からの封書?"特殊対策討伐隊"をわざわざこの"オンブル"まで来させる理由。
どれもこれもが急過ぎる話。私達が知らなかっただけなのか、それにしても何やら不穏にも感じる大きな動きに私は嫌な予感を頭の片隅に過ぎらせていた。
「まあ何にせよだ、この依頼自体もうそんなに日は無いんだろう?さっさと済ませて変に巻き込まれる前に退散するのが吉だな」
「リフレシアの言う通り場合によっては中止して直ぐにでも離れなきゃいけないんだけど・・・。
出来れば詳しく話は知りたい所かな」
「どっちでも良いがな、後はシメオンか」
「ウサンに聞いたけど、この街の人や魔獣はほとんどこの街や山から離れないから良くは知らないって話らしいんだけど」
「そこについてはほぼ同じだな。
運び屋から聞いた話ではシメオンは男だ、つまりは別の奴」
彼女、シメオンの言う自分達同じ種族全員が"シメオン"と名乗っているという事であった。
つまりそれは嘘では無いと言う事かあるいはそう見せかけているか。
この場合変に疑っても仕方が無ければ、彼女があの場で嘘をつく理由などは無い。
だからほぼ間違いないと言ってもいいと思う。
「ちなみに言うとそいつは俺達が会ったシメオンとは違って街には度々足を踏み入れていたらしい」
「そうなの?それじゃウサンが知らない理由は・・・」
「街の人間の話だと宿場で酒を大量に買って直ぐに帰るんだと、あの氷割ってる奴らは午前中に仕事を済ますと言ってた。
時間の変動はあるがそうそう会う事は無いんだと」
よくよく考えれば、シメオンの案内を受けこの街へ辿り着けた時刻も早朝から歩き続けお昼頃。
当たり前ではあるが、夜が深ければ山の雪原地帯の吹雪視界が悪くなり危険度は一気に上がる。
この地に身を置く人々ですら遭難してしまうほどこの自然という脅威は凄まじい物。
だとすれば降りる時間も踏まえれば午前中に案内を済ませたい。
「じゃあシメオンの中でも彼女だけがこの街との交流が無かったって事?」
「そうなるな」
ここで、私は彼女に確かめたかったことを今聞くべきだと思い、思い切って尋ねた。
「ねえ、リフレシア。シメオンがこの街を怖がっていた理由って・・・なんだと思う?」
予想通り、彼女は呆れた様子で「はぁ?」と眉間に皺を寄せる。そう、まだ気付いていないのか?と言いたげに。
「まだ気付いていないのか?」
実際に言葉にした。恥ずかしがる事は無い、分からないのだから。
堂々と頷くと彼女はその姿勢に「まあいい」と口頭に付け加え話し始めた。
「あまり長々と説明する様な物では無い。あいつは"本能的に"と言ったな?
自然界に身を置きながら死と直結した生き方をしているやつ独特の感覚だ。
"こいつには絶対勝てない"という意識がある」
「野生の勘って事だよね」
「違うな、こればかりはもっと正確な物差しだ。まあ俺レベルになればそれも無いがな」
「戦わずに相手の力量が分かるのとは違うの?」
「違わなくは無い、それに近い物だな。所謂"天敵"だな。
そいつの祖先が過去に戦い相当の実力差で敵わなかった相手を認識し、記憶が遺伝子で子々孫々受け継がれたと言う所だな」
信じ難いまるで想像が出来ないスケールの話。
そんな事があるのだろうかと疑問に思うが彼女の語るそれはとてもからかう様な物では無いと確り伝わる。
リフレシアの言うそれが事実なのであれば、例えるなら・・・そう。
「まるで呪いみたいだね」
そういうと彼女は笑いながら「そうだな」と答えてくれた。
飲み干した酒瓶をクルクルと回し手遊びを初めるリフレシアは立ち上がりそのまま部屋を後にしようとする。
「どこ行くの?」と問い掛けると彼女は背を向けたまま空の酒瓶を掲げる。
「まだ日は落ちてないし追加だ、下の酒場に行く」
「そう、行ってらっしゃい」
窓から吹き込む冷たい風を受けながら、頭を冷やして私は考えた。
残りの時間、どう過ごすべきか。
予定より早くに依頼を中止し、この街を離れるべきだと普通なら判断する所ではある。
「私もお水貰いに行こうかな」
どちらにせよ今の状況を鑑みてイコライに話は通しておかなければならない。
きっと分かって貰えると私は信じ、固い意を決し宿場の部屋を出て下の階へと続く階段を下った。
階段を降りる途中から聞こえる賑やかな酒場に見える人々は未だ冷めやまぬ活気を見せている。
カウンターから次々に運ばれる料理にお酒、とても忙しそうな中リフレシアの姿があった。
「離せ、ガキ」
「やだ!お姉ちゃん今日こそ遊んでよ!」
「遊ばん」
酒を片手に1人の子供を相手にあのリフレシアが少し困った表情を見せる。
彼女にまとわりつくその子はイコライの娘"リーヴ"。
イコライには旦那と子供が居る。
この街を訪れた初日に私達は宿を借りる際1度顔を合わせているから私はその子が"リーヴ"だと直ぐに気づいた。
人懐っこいというのかとても可愛らしい子だ。
「こら、リーヴ。お姉さん困ってるでしょ」と慌ただしくする中でもしっかりと怒るイコライに周りの客は笑いながらリフレシアの困っている姿を楽しんでいる。
微笑ましいその一時に私もつい笑みが零れてしまう。
「リフレシア、楽しそうだね」
声をかけながら階段を下りきり彼女の元へと近寄っていくと、酒が残っていたのか足元が絡まりよろけてしまいカウンターの隅に座る1人の背にぶつかってしまい、私は直ぐにそのぶつかってしまった先に目をやり謝罪の一言を済ませようとした。
「すみません・・・」
振り向くその人に私。
目が合う数秒前、私はその背を見て直ぐに気が付いた。
それは彼も同じだったようだったけど、いつも通り私だけが驚いた。
「ロロイ・・・」
無口な彼はいつも通り、顔色1つ変えず一言。
「カペラ」
ゆったりとした口振りは相変わらずでした。
背が高くいつもどんな時でも来ている黒く厚い革のコート。病的に白い肌に鋭い目、忘れもしない挙げたらキリが無いほどに特徴だらけのその男。
"ロロイ・トゥエルブ"はかつて"厄災の龍"並び"支配の龍"を降したかつての私達のパーティの1人なのだ。
読了ありがとうございました。
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu