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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
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12 ハロー




探索が続く日々が続き、この街へと訪れてから1週間。



相変わらず遺品は見つからないまま、気が付けば残る時間も折り返しにかかろうとしていた。



そんな最中ではあるものの疲労は溜まる一方で支障が出てしまうと良く無いと言う事で依頼主の”イコライ”から今日は休みを貰う事となり、街を楽しむ事にした。



お言葉に甘えた形にはなるもののそれでも依頼は依頼、街の人たちから色々な事を聞いて周り亡くなった人の事や遺品である指輪についても聞き込みもしなければならない。


早朝、夜しか普段まともに見ることの無いこの街はとても静かで、実際にはゆっくりと街を回ると活気あるその姿は正に人の住む街と言ったところだった。




「建物が少ないな、街と言うと"カラット"の様なイメージだが・・・」


リフレシアはそう言いながら飲食店が無いか辺りを見渡しては少し残念そうに言う。

確かに建物の数や賑わっているとはいえ人の数は”カラット”に比べれば決して多くはない。



「住んでいる人や魔獣の数で言えば村の密度って感じだね」


「広さがあるから街と銘打ってるという所か?」

「それもあるけど、この街には施設が多いんだって」

「施設?」



「工場に天体や環境調査の施設。他外国にそういう情報や物資を生産して売ってるらしい」



「ふーん」と露骨に興味なさげといったあからさまなその表情。


そろそろこの依頼にも「飽きた」と言い1人帰りそうな勢いの彼女の興味を引きそうな物を見つけないと街へと留まらないであろう別の危機感が私を襲う。



「めちゃくちゃ興味無いじゃない」

「凄く面白くなさそうだからな」

「たまには他の街や国の文化に触れる事も大切だよ」


「幾つか旅した中では少し変わった街ではあるが、それだけだ」



彼女の言う"変わった街"。

それはこの街には数多くの魔獣が住み人と共存して生きている事。

これに関しては私も驚きを隠せなかった。



「そうだね、私も驚いてる」

「人と魔獣が半々といった所か、見る限りでは特にいざこざも無さそうだ」



「そうだね・・・、ヘイルさんが親切にされていた理由も分かるかも」



街の中心に立てられた何かの象徴としたオブジェ。

それに囲われるように設置された長椅子の上に2人座りしばらく街の様子を眺めているとどこからともなく私達の元へとやってきた1匹の魔獣。



顔から足まで全身完全防備の防寒をし厚着で身体が見えはしない物の、隙間から見え隠れする鱗の付いた尻尾に腕や爪は明らかに人のそれではない。


2つの入れ物に湯気が立ちほのかにいい匂いを漂わせる暖かい飲み物を私達の前に差し出し、彼は言う。


「こんにちは、最近やってきた旅人さんだよね?」

「どうもこんにちは」



物腰柔らかそうな彼に対してリフレシアは差し出された物を受け取り何の用だと睨みを利かせ、彼はそんな彼女の表情に少し引き気味になりながら私達の座る隣に腰掛けた。



「この街の伝統的なスープだよ。温まって美味しいんだ」


「ありがとうございます。あの・・・何か御用ですか?」


「いや、旅人が来るなんて珍しいから話しかけたいんだけどいつもきっかけが無いからスープ出してるんだ〜・・・アハハ、姿も見えないし変なやつだよね」



「いえ、気にしてませんよ。寒いですもんね」


「僕はもう3年近く住んでるけど慣れなくてね、この街の人達軽装でしょ?凄いよね。


君達もこの街に移住しに来たの?」


「いえ、この街には仕事で」

「仕事?」


「おい」と割り込むリフレシア、私と彼の間に割って入り込むように移動し座ると彼女は彼の顔を見ながら言う。



「お前、名を名乗れ」

「僕ですか?」と少しお退けながら答えると同時、

リフレシアは彼の付けていたマスクや大きなグラスを外し隠していた顔を晒す。



なんの驚きも無い、普通の魔獣。リザードという皮膚が鱗に囲われ翼の無い竜のような姿を特徴としている種類の魔獣である。



「わ・・・あぁ」と一瞬何をされたか分からない彼。



「人前に挨拶する時は顔出した方が良いぞ」

「そ・・・そうなんだごめん」



素直に謝る彼の姿は気が強いようには見えない。

そんな彼に対し更にリフレシアは強気な物言いで言う。



「お前名前は?」

「"グラード"です」

「何か食べ物を売ってる店を知っているか」


「それなら宿屋と併設してる酒場の"エンリルの月"があるけど」


「その宿屋に泊まって衣食住してるんだ、他はないのか?」

「他は・・・無いかな・・・」



グイグイと押される彼がいたたまれない。私は彼女の質問責めを止め口を挟む。



「ごめんなさい、私は"カペラ"、この子は"リフレシア"っていうの」


「カペラにリフレシア、そっか宜しく」

「グラードさん、私達に話を聞きに来たんでしょ?」

「うん、旅人の話を聞くのは面白いからね」

「その前にいくつか聞きたい事があるんだけど」

「何?」



私達がこの街へと訪れた理由を切り口に、遺品の事、亡くなった人についてやこの街に外れた場所に住むヘイルとシメオンについての事を尋ねた。



グラードがその話を聞いて少し頭を悩ませている様子からどうやら詳しい事は知らないと半ば半分期待薄で彼の言葉を待った。



「そうか・・・君たちが[スターキャリアー]・・・以前来ていた人の代わりか」

「はい」


「僕は3年前からここへ住み始めてるけど、そうだな・・・何から言えば・・・。

以前来た君達と同じ職種の人にも聞かれたんだけど」



「すみません、実は以前来た"リオラ"は亡くなってしまって・・・あまり情報が無いまま私達も来てしまったもので」



「亡くなった・・・そっか、カペラ達が悪い訳じゃないよ。


それとその遺品と亡くなった人については僕が来る前の話だから分からないんだけど、その以前来た人ちゃんと探してなかったと思うよ」



「どう言う事ですか?」


「うん、街の人達ってあんまりこの街から出る事ってないんだけど、僕たち魔獣や一部の人は丁度君達が来たであろう道の反対にあるこの山を下って海の方にある海氷を砕きに行くんだ。



その時よくそのリオラ・・・だったかな?その人と一緒に行く事もあるんだけど。


探しているって言う割には足跡が全然ついてなかったから多分サボってるんだろうって」



「足跡?」



「ほら、雪って踏むと足跡出来るでしょ?雪原地帯で雪がどんなに降っていても足跡って結構残るもんでね、たまに埋めたり同じ足跡を辿っていたりしてても溝の深さで分かるもんなんだよね。


まあ色々誤魔化していたけど精々百歩未満の圏内で移動してたってところかな」



リフレシアはその事を聞きすぐ様こう言う。



「安心しろ、うちの組織でそんなクズあいつ位だ。同じにしてくれるな」



苦笑いの彼に思わず私も何も言えず苦笑い。

良いフォローも返せないので直ぐに話題を切り替えることにした。



「ヘイルさんは知ってますか?」


「あの可愛らしい魔獣なら良く食料買っていったりたまにこの街で美味しいご飯作りに来てくれるから知ってるよ。

本当は街にいて欲しいんだけどね」



「断られたって聞きましたけど?」

「うん、でもその事なら街の人の方が詳しいよ」

「グラードさんも離れる予定が?」



「ないない、この街の人もそうさ。今更この街を離れてもまた人里に降りるのが大変だしね。


それに僕ら魔獣はもうここ以外行き場なんか無いだろうしね。


現にこの街は技術的な仕事が多いから僕らみたいな力だけが頼りの魔獣がやれる仕事なんかここでしか与えて貰えないよ」



「そう・・・ですよね。私も魔獣だから分かります。

今の職につけてるのも奇跡みたいなもんですし」



「お互い運が良かったね」とニコリと笑顔を見せる彼は本当にこの街で生きている事が幸せなのだろう屈託の無い笑顔を私に見せてそう言った。



「そうだ、カペラにリフレシア!酒場にいかない?」

「酒場・・・ですか?まだ昼間ですけど?」


「君達の話も君達が聞きたい話も"海氷壊(コールドフレイム)"の人達に聞けば情報集まると思うんだ」



「"海氷壊(コールドフレイム)"?」


「さっき言った僕の仕事もその"海氷壊(コールドフレイム)"ってグループが仕切って動いてるんだけど、たまたま今日僕休みで、そろそろ皆帰って酒場で飲むはずなんだよ」



断る理由は無い、人が一遍に集まり情報が集中するなら行かない訳にも行かずグラードの提案を受け取り私達は直ぐに酒場の方へと戻る事となった。





読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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