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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
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10 思慮




「私は間違いだと思う」


私は面と向かって彼女に言うと彼女は「そうか」と言い再び前を向き直るが私は続けて言う。



「でも、反面それしか生き方を知らなかったのなら仕方ないとも思う。こう言ってしまうとリフレシアに意思が弱いと言われてしまうけれど・・・。



私はこの仕事に誇りを持ってる。そしてその信念に反する行為を私は許してはいけない」



「許さない?」


「"許してはいけない"。それが私達の仕事だから」



「仕事?」



「昨日少し話したよね?

[スターキャリアー]、亡くなった人達の遺品を遺族や友人といった親しい人に還す仕事をしてるの」



彼女は私の言葉の意味を全て理解したのか少し頷く。

その様子に呆れた様子を見せるリフレシアは話に割って入り私に言う。



「回りくどいな、つまり同情してるんだろ?」


「ど・・・同情って・・・なんでそうなるの」



「職業上はそう言わざる得ないが個人ではそうは思わんと言う事だろう?どっちつかずの返答だが、間違っているか?」



「・・・そんな言い方しなくても」



「間違ってないじゃないか。それに最初からお前個人の意見を聞いているだろあいつは」



指差すリフレシアに彼女も答えるように少しだけ首を縦に振る。

彼女の言葉の意味を一番に理解を見せるリフレシアだが、私だってそれくらい分かっている。




私は彼女のそんな生き方をする彼女を根本から否定はしたくなかった。


どこまでも私は優柔不断でどっちつかずだし、その事についてはリフレシアに何度も言われている。




「私は別にどうも思わない、ただ聞きたかっただけだ」と慰めでもしてくれているかのようにシメオンは私に向かい言う。



その言葉にため息混じりにリフレシアは私の耳元で「気を使われたな」と嫌味たらしく言い放ち、少しムッとして私は彼女に言い返す。




「・・・じゃあ、なんて答えれば良かったの」


「聞かなければ分からないのか?そのままだ」


「そのまま?」


「仕事とか、仕方ないとか。生き方がどうだとかでは無い、お前が好きか嫌いかだけだろ?」



「・・・そんな事言われても」



「お前は晩飯の献立を毎回それらしい理由を付けて説明して作るのか?いちいち回りくどいんだよお前は」




リフレシアよりかは私はこの人間が統べる社会で長く生きているつもりが、こういう事に関しては知った様に言う。



しかし彼女の言う事は一理あり否定しきれない。

いや、こう言う事がよく無いのでは無いのか?



彼女の言葉を鵜呑みにし私自身の意見が言えないことこそ彼女の言う”ハッキリしない”と言うことにもなってしまうのでは無いのか。



もやもやとした気持ちは顔に出たのか、彼女は気付いた素振りで急に私の頭を叩きこう言う。



「そういう所だ」


「な・・・」



「何考えてるかは知らんが、考えている事を口にせずに一旦持ち帰るその癖を治せ。そうすれば自然と自分の言葉も口に出る」



「それって考えなしに話せって事?」



「まともに自分の言葉も出ないならその方がマシかもな。嘘をつくなとも言わんが、それも見苦しくて仕方ない、イライラする。

せめて相手に悟られぬよう努力しろ」



思わず少し頷いてしまう。

決して全て納得いっている訳では無いにしろ間違った事を言っているとは思わなかったから。



私は誰に対しても何か考えて話す時若干のラグがある。

それは話す時の癖だと思っていたけれどそう言われると素直に話す時だけそれが無い気がする。



あと顔にも出るのはよくラックにもツッコまれていた。


彼女は私のその癖を見抜いていたのだ。生きてきてこの方知らずにいた自身の癖に数ヶ月と一緒に過ごしただけの彼女に教わる事となるとは・・・。




「しかしまあ、そんな事をあって数日と無い奴らに聞いて意見として鵜呑みにでもするのか?」と挑発する様にシメオンに尋ねるリフレシア。


期待とは裏腹にそれでも彼女は顔色変えず言う。



「いや、聞いてみたかっただけだ」



「ほう?そんな生き方で今の今まで生きてきた奴が急に世間様の認識とのすり合わせに興味が出たか?」




リフレシアの言葉に強く反応するわけでも無く彼女は初めて、私達との会話の中で一瞬答える間が空いた。



横から覗く彼女の表情は変わりはしないが私にも分かる彼女のその言葉に対する反応はいつものそれとは違う事。


きっと私はこれの連続であり、側から見ればきっと簡単に何かを読み取れてしまう程で見苦しくもあったのだろう。



彼女は少しの間を開けはしたもののその問いに答える。



「私はこの地から去ろうと思っている」


「え?」



人の社会に交わらない魔獣やエルフ等と言った者を”野生”と総称するならばあり得ない話では無い。



土地やテリトリーを何らかの形で追い払われたりし生き場所を失ったり環境が激変し住めなくなった者達の中にはそういった考えに至る事もある。



しかしそうなると一筋縄ではいかず馴染めず路頭に迷う事の方が多い。



彼女の今までの言葉はきっと人との共存の為に認識を改めるための確認だったのだろう。



強かに賢く自らの生き方、組み上げてきたその生きる術を捨て1から、寧ろ自ら進みマイナスから生きていく事等とてつもなく覚悟がいる事だ。




「この土地から離れてどうするつもり?」私はつい口走り彼女に尋ねてしまう。



「私は人の地にあるどこか住処を変える」


「その為の認識の確認?」


「そうだ」



「それなら近くの街である”オンブル”で暮らせばいいんじゃ無いの?」



それについて彼女は首を横に振い答えた。



「あの場所に私は足を踏み入れられない」


「・・・受け入れて貰えなかったとか?」


「本能が、足が私に行くなと言っている」



こんな危険な地より?とふと疑問に思ってしまった。共存とはいえ常識が通じる相手と共に生きている訳では無い。


そんな場所よりも”オンブル”の方が危険とは考えにくい。




「でもそんな危険な所じゃ無いんでしょ?・・・事前に聞いた話ではそんな印象は無かったんだけど・・・」



「ヘイルがそういったのか?」



「うん・・・、領地の問題はあったにせよ住んでいた人は彼の事を考えてわざわざあの街から遠い場所に暮らす様に言って遠くはあれど家も貸して貰えているから・・・。


きっと優しい人達のいる良い所なんだろうなって」




「ヘイルが言うならきっとお前に嘘を言ったわけでは無い。

現にあいつの食料や家財の大半はあの街から仕入れたものばかりだからな。悪い所では無いんだろうな」




「なら尚更じゃ無い。魔獣の彼ですら対等に扱えている様な場所に怖がる事なんか無いと思うけど」



「怖いか・・・、怖いのかもしれない。私には分からないが」



不思議な言い回しに私は訳も分からないまま「そっか」とその会話をその時止めてしまった。



なんにせよ無理強いも良くは無い。

本人の意思で決めた事をとやかく言うつもりもない。


もしかするとヘイルの言う冷戦状態の緊張感に嫌気が差したのかもしれないのだから。




すっきりとしない、歯切りの悪い会話にふと後ろで歩くリフレシアの顔を覗くと、私の事を睨みながらその目はから察せられる言葉。


”詳しく聞きたいなら、自分で聞け"


と言いたげなそれで、きっとこれ以上私が質問した所で具体性の無い答えがいくつか出るだけだと決めつけそれ以上に聞く事は出来なかった。




しかし分かった事がある、リフレシアは気がついている。


何故彼女が”オンブル”へと行けないのか知っている、知らずとも何か感じ取っていると私は何故かそう思った。




「街の近くまで行けばそこからは自分たちの足で行け。私は近い所まで案内を終えれば元の場所へ戻る」



「分かった」



シメオンは街の近くへと辿り着くまでそれ以降彼女と話す事もなく黙々と足を前へ前へと運び進み続けた。


リフレシアがいてから久しく感じなかった会話の無い静かでただ只管に目的の地まで歩む道は少し苦痛に感じた。



耐えかねた私はいつの間にか後ろに付いて歩くリフレシアに話しかけようとするも、彼女もまた少し冷ややかな目で私を見ては無視を決め込む。



会話という意識を誤魔化す場所をなくし、冷たい風や疲れや足取りに気が取られてしまい降る雪一つ一つが冷たく感じてしまう程に。



「さむい・・・」



紛らわす様に自然と出てしまう独り言は風に打ち消され強く吹き、寂しさを増してしまうのでした。





読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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