8 知らせ
並べられたご馳走は瞬く間に食べ切られてしまう。
いつも食卓に並ぶ量の倍ほどの料理は彼女らによって全て平らげられ、窓を除けば夜は更け辺りは漆黒の景色と共に浮かぶ、白く弾丸のように風に舞う雪は吹雪きながらドアをノックする様に強く窓に貼られた厚いガラスを叩きガタガタと揺らしている。
見るからに極寒の寒空、悪天候を窓越しから眺めていると、
「良ければ今日は泊まっていって下さい」とヘイルは親切にそう勧めてくれ、私達はその言葉に甘えこの家で一夜過ごす事となる。
夕ご飯を終え、シメオンとリフレシアは部屋の隅で2人酒を飲み、私はヘイルと共にこの家にある客間の簡単な掃除と寝床の準備を2匹で用意する。
「ご飯美味しかったです」
「ほんと〜?ありがとう」
「ヘイルさんはなんでこんな場所に家を?街から遠く離れてますよね?」
「2年前にここら辺に訪れて、住処にしようとしに街へと行ったんだけど、街の人たちが口を揃えて”この街に留まらない方がいい”って〜。
けど住む場所も何処にも無くてって話をしたら”オンブル”から離れた場所にある一件の空き家があるからってここ使わせて貰ってるんだ〜」
「・・・断られた理由って、魔獣・・・だからですか?」
よくある話、人々の住む町や村に魔獣が住む事を嫌う所は多く大体の魔獣は住居が無く危険な場所や無法な所を住処にすることが多い。街によっては休む宿さえも貸して貰えず居場所がない事の方が多い。
”この街に留まらない方がいい”。まだ優しく追い払われている方で、街によっては最悪殺されかねない。
良心のある断り方だと思う。しかし私の考えとは裏腹に彼は首を横に振り答える。
「あの街、”オンブル”は今海の向こうにある国と冷戦状態なんだって、それでいつ襲われるか分からないし危ないから~って」
「海の向こう・・・・」
「うん、海を跨いだ本当に近い場所に”海辺の国・ハイライ”っていう国があるんだけど、領土の問題で昔からいざこざがあったんだって〜。
”ハイライ”としては直ぐにでも”オンブル”を支配して統治したかったらしいんだけど、昔はあの国と街とでは距離があったんだって」
「距離・・・?というと交流のって事ですよね?」
私の問いかけに彼は「う〜ん・・・」と腕を組みながらしばらく悩んだ末「なんだろうね〜?」と濁す訳でも無く本当に知らないのだろうか少し困った様子でそう答える。
彼もまた流れ着いてこの地に住み着いた一匹、街との交流も少ないと見て取れる分知らない事も多いに違いない。
しかし話を聞く限りではまだ魔獣に対して友好的とも思えるその内容に街の人に聞けば何かしら教えて貰えるはず。
特に今回の依頼には関係の無い事の様にも思えるが、場所によってはこの様に私達がこの依頼を熟すに辺り戦争や戦いに巻き込まれてしまう恐れがある為。
その場合私達としても直ぐに退散したり状況を見極め動ける様に、訪れる国の最低限の情報は欲しい所である。
「じゃあそろそろ僕も寝ようかな〜」と言いながら用意された客間の寝床を綺麗に直し終えた彼は食堂で待つリフレシアとシメオン、彼女らを呼びに戻ろうとする。
まだまだ聞きたいことはある。けれど夜も更けているのでこれ以上私生活に乱れをきたすのは迷惑に違いない。
けれどあと1つだけ、聞きたいこと。一生懸命に考え抜き選んだ質問。
「あの・・・お休みになる前にもう1つだけ」
「何?」
「シメオンさんって・・・どういう人なんですか?」
彼は微笑みこう返す。
「大丈夫、君達が思っているような子じゃないよ。
害意がなければ実害にまでは至らないから安心して、それに君達はそんな子達にも見えないしね〜」
彼は何事もないかのように平然とした様子でそう答えた。思い出した様に更に付け足したようにこうも答える。
「彼女の事気になるなら、本人に聞いた方が早いよ」
「そう・・・だよね」
「そうだよ〜、じゃあ2人も呼んでくるからカペラさんもゆっくり休んでね〜」
「ありがとうございます。お休みなさい」
「はい、おやすみ〜」
彼は丁寧に扉を閉め部屋を去り、
用意された簡易的だが暖かな布団に包まり1人先に就寝する。
気になる事はいくつもあるが考えていても仕方がない、私達のとりあえずの目的は無事"オンブル"へと辿り着く事。
探し物である指輪も形や亡くなった人の位置から大体の場所は特定出来るけれど、もう長く探している物
一応念の為に遺品を探す本人に話を聞いてみたい。
考え込みながら布団の中に沈んでいくと、疲れが急に現れ瞼を持ち上げる事さえ出来ないほどに力が抜けていき夢の中へと深く誘われる様に入っていった。
「・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・、・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・」
誰かが話している声が微かに聞こえる。
目の前は真っ暗で瞼は開かない、相当つかれているのだろうか?
リフレシア?シメオンさん?彼女らはまだ眠らず話し合いでもしているのだろうか?
遠のく意識は定まらず、曖昧に思える誰かの声と話し声、目の前は不安になるほどの暗闇の中、夢の中なのか勘違いしているだけなのかフワフワとした浮遊感。
意識は再び落ちていく中、ハッキリと一言だけ聞こえた言葉。
"ツィツィリン"
目を覚ました。厚い窓の外から見えるのは日が射す空、何日かぶりの晴天を覗かせる空は寒いけれど曇天の時より少し暖かく清々しくもある。
隣にはリフレシアにシメオンもピタリとくっついて眠りについている姿は相当夜が寒かったのだなと感じさせる。
「おはようございます、カペラさん」
小声でこちらに呼びかけるその声を辿るように振り向くと、ドアを少し開き顔を覗かせるヘイルの声。
私はゆっくりと寝床から離れ彼と共にその場を後にし食堂へと向かい朝ごはんの用意を始める。
「すみません手伝って貰って・・・」
「良いよ〜、僕も朝は早いから〜」
「あの・・・二人夜中うるさかったですよね・・・ごめんなさい」
キョトンとした表情で首を傾げ彼は言う。
「二人とも直ぐに眠ったよ?僕もその少し後に自室で眠ったけど・・・話し声は聞こえなかったよ?」
「え・・・」
「夢でも見てたんじゃ無いかな?」
「そうなんですかね」
「どんな夢見たの?」
彼の言葉に私は直ぐに返す事が出来なかった。何故なら覚えていないから。
けれど誰かが夜に話をしていた、ということだけは覚えている。
ハッキリとしないその事をそのまま彼に告げると
笑いながら「夢なんてそんなものだよね〜」と話はそれだけで終わってしまった。
彼の慣れた手つきで次々に要領良く支度を済ませる独特の動き姿、何かに似ている・・・。
私はそんな夢の事を忘れてしまう程にその動きの見覚えをモヤモヤとさせながら思い出そうと必死に頭を働かせた。
「カペラさん、そろそろご飯も出来るので二人起こして貰って良いですか?」
「は・・・ハイ」
朝は頭が上手く回らない、その事も本任意聞くのをすっかりと忘れてしまい私は再び寝床へと戻ると二人はすでに起きていた。
「おはよう、リフレシアにシメオンさん」
挨拶に対し相変わらず大欠伸をしながら「おう」の一言のリフレシアと静かにその場から立ち去るシメオン。
「なんだあの陰気臭い奴」とリフレシアは体を解しながらボヤく。
この二人が話をしていたとも思えない、私とヘイルが寝床の支度をしていた時に二人きりの時間仲良くでもなっていれば夜中に話の一つくらいしていただろうけれど・・・。
「ねえリフレシア」
「なんだ?」
「夜中に彼女と何か話をした?」
「してない」
「そっか」
「恋話の一つ位してみろと言いはしたんだが何も言わずとこについたな、つまらん女だ」
もう何も言うまい、ため息が自然と漏れ出てしまう始末、その姿に不満そうにリフレシアは「なんだ?」と言いたげの表情。
「早く支度してね。ご飯もう出来てるからそれ食べたら直ぐ出ていくよ」
「用意が良いな」
ご機嫌な様子で支度を雑に済ませ食堂へと急ぐ彼女に私はその後に続き食堂へと向かう。
彼女の案内で今日中には"オンブル"へと辿り着きたい。
読了ありがとうございました。
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu