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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
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6 イニシャル




辺り一面白銀の世界、何処をどう見ても白一色で木の形をした雪と言っても過言では無いほど木々や草や岩に至るまで雪で覆われ白く染る。


一色に染る世界から目を背けるように空を見上げると、今にも落ちてきそうな暗い色をした曇天が白い雪を降らせ私達さえ白く染めようと冷たい雪が視界を隠してしまいそうになる程しんしんと降ってくる。



「凄い雪・・・どこを見ても同じに見える、目印も無いし1度迷えば帰るのも困難だね・・・」


「幸い、拓けて道が見えるって位だがこうもどこ見ても同じ景色だと方角も怪しくなるな」

「それにリフレシア、後ろ」

「ん?」


私達の振り返る後ろにはもう足跡が消えかけていた。降り積もる雪は私達の足跡さえも覆い尽くし道標を消してしまう。彼女は笑いながらその様子を「神隠しだな」と表現した。



彼女の言う通り道と言うには怪しいが、歩みを進めるには問題の無い平坦な地形に視界は何か木々や岩山と言った死角が作られるような自然物も無い。


この調子で誰にも襲われず、包囲磁石の示す針に間違いがなければ無事に"オンブル"まで辿り着ける。

簡単な様でとても難しい道のりだった。



「それにしてもあのメルってやつ、間に合わせとはいえ中々いい物寄越したな」


「そうなんだ・・・私本当に分かんないけど、今着てるこれ凄く暖かくて良いよ」

「薄い生地でここまで防寒性能に優れていて尚且つ動きやすい。高い買い物だけはあるな」

「そう言われてみれば私のもそうかも・・・」


「武器も新調してもいいかもな」と私の持つ杖をまじまじと眺め彼女は言うが私の答えは勿論。


「これだけは絶対に手放さない」

「いいだろそんな古いものより新しく強い杖に変えたら」

「これがあるうちは絶対にこれで行くの」

「つまらんな・・・しかしどこを見ても景色が一変しない・・・これがもう二日目になると思うと気が狂いそうだ」



さすがの彼女も歩き続ける疲れは出ずとも精神的な疲れが出てくるのか参った様子で愚痴を溢す。

しかしながらその気持ちは私も同様でとにかく歩けど歩けどしっかり進んでいるのか不安になってくるほどに景色が変わらない。


”トリル・サンダラ”の時とは違い、今回はあまりにも遠く行く先々にも何もない、かといってこのまま歩み続けなければ"オンブル"には辿り着けない。



「あ・・・そういえば、”オーロラ流星”確かここら辺で見られたはず」



私は思い出した様に彼女に急いで伝えるも彼女は何の事かさっぱり忘れている様で首を傾げながら「何だそれと」答える。



「サニアさんが見たがっていたって言ってたじゃない!忘れたの!?」

「・・・あぁ、言ってたな。今の今まで忘れていた」

「あなたね・・・」

「まあいつか旅していれば見られるだろうと思っていたからな。別に急ぐ必要もなかったがどんな物なんだ?」


「私も聞いた事ある位だからどんなのか分からないんだけど話ではこのあたりの地域のお話だからいつか見られるかもね」


「大雑把な情報だな」

「さっきまで忘れていたあなたに言われたくない」

「お前はここら辺を以前にも来た事は無いのか?」

「来た事ないね、色々な所へは旅に出ていたけど私達の旅はあくまでピリオドを撃つことだったから」

「成程な、ここらにはそれらしき形跡や被害も無かったと言う事か」



「そう言う事になるね、それにこの地域に住む人も魔獣も少なかったし近くにある国も決して大きい物ではなかったから目に留まらなかったのかもしれない」



「あり得るな、父の事だ大きな所から侵略を進め後は小さな国が自発的に降伏するだろうと考えるだろうしな。

わざわざ戦う労力も割かずに相手から負けを認めれば楽だろう?」


「そう考えるとやっぱりピリオドって頭なしに手当たり次第色んな所を滅ぼし蹂躙していたって訳じゃないなって今になって思えてきたかも」


「まあ半分は考え無しだと思うぞ」

「どうしてそう思うの?」



「詳しくは知らんがお前達の言う所の”厄災の龍”は別に父が統治していた訳でも無ければ別にその枠組み自体お前達人間らが勝手に言っていた事だからな。勿論父を筆頭に動いていたのは違いないが、利害が一致していただけで龍全体での共有や共闘みたいな事はしていなかったそうだしな」



いつかそれらしき事はムジークやラックが憶測で話していた事を覚えている。

身近な存在であった彼女から語られた言葉はどんな情報より信憑性があった。今更になってそんな話を聞いてどう思うこともないけれど、彼等の考察はとても冴えていたんだと感心するには十分な話だった。




暗い雲が空を覆い今が何時か分からないが随分歩いた気がする。いつまでも歩いている訳にもいかない、どこで休みを取るか、何か風を凌げられる場所がないか白に染まる大地を隈無く眼を通すも、身に映る景色はやはり変わり映えのしない雪の世界。

私達はついに会話が途切れてしまう中、視界に一つの光が映る。



「おい、あれ」

「リフレシアも見えた?」


見慣れた視界に映る一瞬の小さな光は、長い時間退屈なほどに白いの視界には十分気が付ける。立ち止まり様子を伺うとその小さな光は徐々にこちらの方へと近付いて見える。私はしばらく様子を見る中、彼女は既に戦闘体制に入り迎え撃つ準備はしていた。



「敵か?」

「それはない、状況は同じはずなんだからわざわざ目立つ様な事はしないはず」

「近付いてみるか、どうせ暇なんだ」

「一応気をつけて行こう、もしかしたら現地の人かも」



歩みは自然と静かに、進むスピードを落としながら近付く光の元へと。

徐々に視界に現れるそれは雪降る中徐々に実体が見えていき。視界に入るその姿形は照らされる光によりしっかりと映し出される。



「人だ・・・」

「こっちに気付いたな」



立ち止まり掲げられたランタンから見える人影、特徴的な尖った耳に人に近いがどこか人ならざる存在感と顔立ちはエルフの容姿。不思議そうにこちらの様子を伺うそのエルフに遠目から大声で話しかけてみた。



「あの・・・こんにちは!旅の者なんですが、”オンブル”の街までまだ遠いですか?」



ザクザクと雪を踏む音、雪原地帯に住まう住民がよく履いている靴が雪を踏む時鳴らす特徴的な音。

近付いてくるエルフは私達の元へと来ては私達の顔を見て、手に持つランタンを腰の位置まで下ろす。



「あの・・・こんにちは」

「・・・旅人?」と首を傾げるエルフ、遠くからでは見よく分からなかったが近くで見るととても綺麗な顔立ちをした女性なのか男性なのか分かりずらい中性的な顔立ちに声色。近くで見てもエルフという情報以外分からなかった。



「はい、”オンブル”まで行きたいんですが、まだここから先長いですか?」

「長い」

「そうですか・・・街の方ですか?」

「いいや」

「もし良ければどれ位の距離あるか教えて貰えませんか?」



エルフは少し悩んだ表情を見せながら、ある事を提案した。


「食事をご馳走してくれ」

「食べ物・・・ですか?」



持ち合わせの食料は十分に用意している。けれどどれも簡易的な物ばかりで、きっとこの人が望む様な物を与えられるか少し不安だった。



隣に立つリフレシアは小声で「くれてやるな」と何度も囁くが、そういう訳にもいかないので

私は背負っていたリュックからいくつかの携帯食料を差し出すとエルフはゆっくりと首を横に振り、木々らしき物が生え並ぶ、行き道とは少しズレた位置にある林の奥を指差し、先導する様に指を刺した方角の方へと歩いていく。



「・・・なんだろ」

「住処に誘き出して俺達を食うんじゃないか?」

「冗談言わないでよ・・・」



不安が残る中、エルフに導かれるまま辿る道の先に見えたのは明るく暖かく煙の立つ一軒の家。

私はこの不安な気持ちを少しでも和らげる為に前を歩くエルフに聞く。



「あの、あなたの名前を伺ってもいいですか?」



彼女は歩みを止め振り返り答えてくれた。



「”シメオン”」




読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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