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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
60/80

5 オールライト




来ている服を剥ぎ取られ、裸の状態で巻き尺をありとあらゆる場所にぐるぐる巻かれてはグッと引かれたりとキツくしばられたり少し乱暴な採寸。

彼女の表情は真剣そのものだが鼻歌を歌いどこか楽しそうにしているのが伝わる。



「あの・・・メルル・・・そんなとこまで測るの?」

「ダメ?」

「ダメじゃないけど・・・さすがに恥ずかしい・・・」

「魔獣なんて裸が多いんだから恥ずかしがる事ないでしょ、人間だって裸の部族がいる位なんだから」

「いや・・・そういう事じゃなくて・・・うぅ!」



ぐるぐるに巻かれた巻き尺は解かれる事なく強く締められ身体中を締め付けられる。

恥ずかしいやら痛いやら、何故服を作るのにこんな思いをするのか全く分からない。



「う〜ん、やっぱ体毛があると採寸って難しいな・・・ここから着心地が良いものに仕上げるにはどうしたら良いんだろうか・・・」

「あの・・・メルル・・・、測り終えたのなら解いて貰えると嬉しい」

「ん?そんなに痛かったか?悪い悪い」


「痛いと言うよりなんだか・・・その・・・なんというか変な気持ちになっちゃってよく分かんないの・・・」


「え?何それ?」

「解いてください・・・」

「よく分かんないけど分かった。まあある程度分かったしな」



やっと彼女の拘束が解かれ一安心するも休む束の間も与えて貰えず今度は彼女からいくつかの服が用意されて渡される。


「着て」と言われ、言われるがまま着せ替え人形の如く色々な服を着る事になり、その度に彼女はその姿をスケッチしそれをまとめて机の上へと並べ眺めていた。



淡々と渡され着替えた服一つ一つは着る時間より着替える時間の方が長く、一時でさえ分かる着心地の良さと可愛かったり綺麗だったりと目を止め眺めてしまう程に美しく、どれも私が着ても着られている様な不釣り合いなデザインでは無く、一瞬にして数多ある服から何枚も決め、選び抜き渡される。




採寸の時はふざけているのかと思っていた彼女の行動も真剣なものだったのだろう、目の当たりにする彼女の真剣な眼差しに仕事姿に私は圧倒されながらも感動していた。




「着心地はどうだった?渡した服全部人用なんだけどサイズ自体はあなたに合うはず」

「特に違和感なかったよ引っかかりもないし」

「成程、そこまで変わらない・・・と」

「思ってたより大変なんだね・・・」

「魔獣は初めてだからね、やり甲斐はあるよ」

「そっか・・・そういえばメルルってこの仕事始めて長いの?」

「うーん?まあ物心ついてからやってるから20年位か」

「す・・・凄いね」




「まあね」と簡単な返事をしつつ彼女は棚にある色々な生地や装飾品に使うであろう宝石などを取り出し、会話混じりであってもその手は止まる事は無く着々と装備品作りの準備をしていた。一通り素材となる物を床に広げ椅子に座ると彼女は再び髪とペンを手に取り何かを書き出す。



「さて、質問。今回どう言う用途なの?」と彼女からの突然の問いに私は少し戸惑いテンポ悪く答えた。


「えっと・・・”オンブル”に行く為の装備品がなくて・・・」


「”オンブル”・・・随分遠い場所。しかも雪原地帯でかなり寒い場所ね・・・。そういえばあの娘が選んだのも防寒に適してはいたっけな」


「うん、実は私装備品や服にはかなり無頓着で同じ様なのでいっつも旅に出てて」

「それはダメ、ちゃんと行く場所場所によって変えないと適応出来ない。その感じだとフリーサイズの一丁らで今まで凌いできたでしょ?」


「・・・ハイ」


「良かったね、私が良いの作ってあげるんだから。だとしてもそれも着回しなんかしないで。適材適所、覚えておいて」

「・・・ハイ」


「次に質問、何歳?」

「年齢関係あるの?」

「機能面だけなら別にだけど折角なら見栄え良くでしょ?私の店の服を着るんだから見た目もこだわるに決まってるでしょ。年齢相応のデザインが好ましいし」


「えっと・・・20後半・・・です・・・」



仮にも一応私もメスであり、年齢は少し気にしているので自らの口で言うのも少し躊躇う所はある。


ただの装備品作りの参考情報、そんな事別に気にする必要もないのだけど・・・。気にしてしまうお年頃。



「へー、魔獣って見た目にそぐわず若くみえるから良いね」

「えへへ、子供っぽいって言われます」

「だろうね」


喜んで良いのか悲しんだ方がいいのか。情緒がぐちゃぐちゃになる。



「職業は・・・あれで、えっと・・・あんたパーティでの役職は?」

「"白魔導士"」

「成程ね。て事は回復だったり、防御が硬い敵に対して貫通出来る攻撃魔法とか光を扱う魔法の系統ね。戦力でありながらサポートの立ち回りって大変って聞くけど、あんたもそうなの?」


「あの・・・それが私・・・回復魔法しか使えないの」

「へ〜、珍しい。私も魔導士の類の人間の一着作った事あるけど基本攻撃魔法を主軸だったな。あんたは違うんだ」



「うん、育ての親が戦う事より自分の身や人を守る立ち回りを大事にしてた人だったからその影響で私も回復魔法しか使えないんだ」


「いいじゃない、方向性も分かりやすい。それで、武器は持つ?」


「杖が一つ、今は持ってきて無いけど良くある呪木の杖」


「あとはそうだね・・・人間と違う点での質問というか、尻尾は出したいの?」



「あまり気にした事無いし私はあまり大きいタイプじゃないけど、もし出せるなら服の外に出したいかな」



「成程、機能面も追求したい所ではあるけど防御面でいえば動きやすさを優先しちゃうとどれだけいい物を使っても落ちるんだけど、そこら辺はどうする?


魔獣は人と違って体感や運動能力はかなり長けてるでしょ?」


「そうかも?出来るだけ動きやすい方が嬉しいかな」



「ふんふん、成程。今の所正直あまり人と変わりは無いけど、魔獣の白魔導士なんて中々ないケースの発注、今後参考になるかどうか分からないけど、逆に言えばこんな機会でもないと作らないだろうね」



「ごめんなさい・・・あまりお役に立てなくて」


「気にし無くていいよ。それに人と変わらない作りをした時にもしかすればもっと魔獣用の改良が必要かもしれないしね」



大事な事を忘れていた。今回の受けた依頼は現地に着くまで時間がとにかくかかる。


それ故に依頼へ行くまでに装備品が完成しなければ

手持ちの装備品で行く事となる、それ自体は良いと思うけど、せっかくなら彼女の作った装備品で行きたい気持ちはある。



「あの、メルル。完成するのってどれくらいかかるの?」

「上から下までだと・・・そうだな、一ヶ月は欲しい所だけど。急ぎなの?」


「それが実は受けた依頼が遅くても1週間後に行かなくちゃならないの・・・」


「流石に無理だね。一ヶ月でも相当早いくらいだ」


「だよね・・・ごめんね、無茶言うつもりは無いから大丈夫。ありがとうね」


「装備品自体は持ってるんだろ?」


「うん、もう随分前から使ってるやつだけど・・・、リフレシアが"そんなの着るな"って怒るんだよね」


彼女は少し考えた後に作業部屋から離れ何処か違う部屋へと行き、しばらくすると彼女はその部屋から何かを持って現れ、私に手渡し言った。



「これ貸したげるよ」

「これは?」


「昔作った寒帯地域の伝統服をオマージュした装備一式。着方がちょっと難しいけど慣れれば直ぐだよ」


「い・・・良いの?」


「お客様に待ってもらうんだ、持ってきな。ただそれサイズはフリーだからいけると思うけど一応人用だから着にくいかもだけど」


「ありがとうメルル・・・」


「そうなると・・・しばらくはもう"オンブル"みたいな寒い所に行かないの?」

「そうなるかな?」

「ならデザインし直しだ」

「え!?なんで?」



彼女はさっきまで用意した図面も服も装飾品も材料となるものも何の躊躇も無く全てさっさと片付けてしまい。

再び机へと向かい新たな白紙の紙を手に取り再びペンを手に取り何か色々と書き留めながら布の生地を一枚一枚選定を始める。


その様子を見て私は悪い事をしてしまったと反省していると彼女は私の方を見て言う。



「着る機会の少ない装備品なんか今作っても仕方ないだろ?素体は測ったけど素材の選定からだね・・・。カペラ、服の完成やっぱりかなり先になりそうだから、今回はそれで我慢して」



「我慢して・・・って・・・」



こうして、何はともあれ"オンブル"へ行く為の装備品一式を手に入れる事が出来た。が、私の為に作られるはずだったものは更に先となり3ヶ月後を予定に完成させるとの事。



メルルは楽しそうに机へに前のめりで必死に手に持つペンを走らせ何枚もの紙に色々な事を書き記していた。


夢中になる彼女を目の前にはもう私は写っていない。私は彼女に別れを告げその場を後にしようとするも、何度呼びかけても返事は返ってこない。

完全に自分の世界に入り込んだ彼女の耳にはもう私の声が届くはずもなく、そのまま彼女の作業場を後にし、その日は彼女から貸して貰った装備品一式を片手に家へ帰る事となった。



そんな彼女を見て私は思う、


完成が待ち遠しい。




読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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