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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第1部 死神の白魔法
6/77

5 ランブル




12



海辺で見た"砂上の夢"が見せた"龍"の姿に一致していた。


ニヤリと口を開き見せる刃の様な歯。


禍々しく黒と赤、青を軽く溶いたような妖しく光沢を見せる鱗の色、そして鋭く艶やかな目と爪。


「龍」独特の長い首に大きな翼膜、短く太い腕と脚に長く太い尾。



疑う余地も無く、「龍」その姿が目の前に現れた。



しかし、それ以上に今は強く叩きつけられ弾き飛ばさたローライが気にかかっていた。



「ローライくん!大丈夫!?」



大声を出しながらも目の前に立つ龍の姿には一瞬足りとも目が離せない。

返事を聞いている余裕と集中力さえ無い。



「ローライくん!逃げて!とにかく走って!!」



返事はされたのか、それとももう逃げたのか。

彼の方を向くことすら一瞬足りとも気を緩められない中、必死の願いで掛けた言葉。



目の前に立つ龍はその言葉を嘲笑いながったような笑みを溢す。



「おい、お前。連れ子は遠くでノビてるぞ?血も流して大変そうだな?助けてやらなくていいのか?」




分かっている。


風を切る最初の攻撃に鈍い音がした。


それは龍が着地と同時に砂埃に紛れて放った一撃がローライに目掛けていたもの、そしてまともに食らって耐えうるものでは無い事。




一縷の望みだ、生きているかすら怪しい。そんな最悪な事すら頭に過ぎり、彼のいる方へとチラリと視線を移してしまう。



やはり龍もその一瞬を逃す事は無く。

再び龍の方へと視線を向けた時にはその巨体は風を纏うように飛びたち全身を使い突進して来ていた。




すかさず身体ごと這うように姿勢を低く屈むが、龍の巨体の鱗がかすれただけで、コートは切り刻まれたかの様に切り裂かれ、身を隠すほどのコートは無惨な程にボロ布と一瞬で化した。




「かすめただけでコートがこんな!?」

「なんだ貴様、魔獣か」




素早く姿勢を立て直し、龍にいる方へ振り向くと既に目の前で腕を振り上げていた。



腕の先から見える鋭利な刃のような爪は怪しく輝いて見え息をのむ。

咄嗟の反射で杖を龍の腕に叩きつけると龍はバランスを崩し少し怯んだ様子を見せるが、その視線は緩がることなくしっかり私を捉えている。




楽しそうに笑みを溢す龍の姿、その巨体からは想像し得ない身のこなしとバランスの良さ。



"支配の龍"との戦いを回顧し恐怖した。




「やるな、魔獣風情が」




ニヤリと口を開き、歯をカチカチと鳴らすと共に赤い火花を散らし。

バランスは崩れたまま長い首を器用に動かし閃光のような炎を吐き出す。




切り刻まれたコートを脱ぎ捨て、盾のように大きく目の前に振り広げ炎を一瞬避ける。

力の限り飛び跳ねる様に地面を蹴りあげ転がり炎を回避する事が出来た。



間一髪の即座の判断。


[スターキャリアー]で支給される装備は数あるギルドや機関、部隊の中でも、防具の中でもかなり上級の物で防御力が高くちょっとやそっとではコート自体にダメージを受けることはそうそう無い。



そんな上等な装備である黒いコートが炎によって一瞬の内に焼き切られる瞬間を目にしゾッとした。



「お前相当慣れてるな・・・」

「龍相手は死ぬ程してきたから」




ただ、この龍は別格。

一瞬、翼膜に刻まれていた紋様が見えた。それは”厄災の龍”のみが付けられる刺青の紋様。

悪戯につけられるものじゃ無い呪いに近い代物、それに”厄災の龍”も他の龍同様滅ぼした。




それは他でも無い私達のパーティが成し遂げた事なのだから。

深く考える暇もなく次々に仕掛ける龍の攻撃を全力で一つ一つ回避することしか出来ず、体の部位という部位を軽やかに使い余す事も無い程に攻撃に応用し、全く好きの無い攻撃が無く。攻撃を遇い、避け、受け止める他動することも出来なかった。

依然攻撃する隙も遠くで倒れていると思われる彼の回復すら出来ない、ただひたすらに龍の攻撃の流れ弾に当たらない様少しづつ彼のいる場所から距離を取る様に龍の攻撃を捌くしか無い。


倒せないということを頭に置いた上で攻撃を捌き続けていてもイタズラに体力を消耗し不利な戦闘になるのは目に見えていた。

離脱、出来ない。戦闘、勝てない。ましてやローライを連れ逃げ延びることも出来ない、隠れる場所もない一面砂と小さな岩。

どう考えても最悪な展開しか考えられない。


いつしか息も上がり始め、魔力の消耗も激しい。最悪な事に砂漠の気温は上がり、龍の攻撃も当たりはしないもののカスることが多くなり自身への回復もこなさなければならなくなっていった。

呼吸は荒くなり、脱水状態になりつつある。これ以上攻撃を捌きながら避け切るのは難しい。

私に出来ることはもうこれしか無かった。


杖を地面に突き刺し、両手を大きく横に広げ無防備の状態を龍に見せる。降伏、交渉もうこれしかなかった。


「私の負けだ!もう戦う意志はない!」


龍はピタリと止まり笑う。


「降参?だからどうした?まさか降伏すれば殺されないと思ったのか?」

「思わない。でもこれ以上戦っても勝てる算段はもう無い」

「随分と潔いな。折角だ、どうせ死ぬなら戦い死ね」

「私は死んでもいい、だからあそこで倒れている子だけでも見逃して欲しい」

「あそこで倒れているガキをか?戦えもしない役立たずを一匹残した所で意味も無い、それにお前を殺した後あいつを殺せば良い話。それを願って何の意味がある?」

「言ったでしょ、もう手はないから、だからもうこうする他無い」

「お前、情け無い上に相当間抜けだな。お前はそんな戯けた事をぬかしいくらの龍を殺してきたんだ?」

「返す言葉もない」


一瞬シンと静まり返り。これでいい、今は1秒でも長く時間を設けたい。緊張感は続く中、一つの短剣が私の横を通り抜け龍の翼目掛け飛んで行く。

龍はヒラリと翼を羽ばたかせると短剣は風に飛ばされ情けなく地面に突き刺さった。

短剣が飛んできた方を見ると、血を吐き倒れたまま顔を上げリュックの中に手をやるローライの姿がそこにはあった。


「このクソドラゴンが!お前も何してんだよ!!クソ魔獣!!お前それでも伝説の英雄にいたパーティかよ!!どうせ死ぬなら戦って死ね!!!」

「ローライ君・・・生きてた・・・」


彼が生きていた事にホッとしたのも束の間、龍はニヤリと笑う。


「同感だクソガキ。交渉決裂だな、英雄様」


龍は羽ばたき空へ舞う。翼膜には刺青とは違う紋章が浮き上がった。一目で分かる程の情報量と魔力を有した上位魔法の図形、魔法陣。


「嘘でしょ・・・龍が魔法を使うなんて聞いた事ない・・・」


どういった魔法かはわからないにしろ、避けることも防ぐことも困難な事だけは理解出来た。

ローライのいる所まで全速力で走った。間に合わない可能性は今は考えない、倒れている彼を拾い担ぎ上げ走りその場から離れる事を優先した。


「バカ!!逃げるな!!戦うぞ!!」


ローライの声は耳元で大声に響くが今は反応する程余裕は無かった。

担ぎ上げ逃げる最中、彼の回復を行うがより一層元気になり騒ぐ彼は暴れ出す始末。その様子を龍が高らかに笑う声は聞こえた。


「ローライ君、最後のお願い。ここで私はあの龍を食い止める、だから逃げて」

「ふざけんな!!戦うんだ!!」

「勝てない、あれは”厄災の龍”に違いない」


それを聞いた彼は暴れるのを止めた。


「私はもうこれ以上体力も魔力も無い、けれどあなたはもう大丈夫。少ししたらまた痛みが出てくるかもしれないけどその時にはもう逃げ切れてるって信じてる。だから今は逃げて」


走るのを止め、ローライをその場で下ろし再び龍のいる方へと向き直した。


「お前・・・杖」

「さっき逃げる時置いてきちゃった」

「防御魔法は・・・?」

「早く逃げて」

「おい返事しろよ!」

「逃げて!!」


怒鳴ってしまった、しかしこうでもしない限り伝わらないと思った。

遠くなっていく彼の足音を聞き少し安心し、はるか上空で滞空する龍を目の前にどう時間を稼ぐか精一杯考えた。

しかし息も上がり頭も回らない、まともな判断は出来ず頼りには出来ない。ふと足元に目をやると、ローライの荷物が逃げてきた所から散らばっていくつも落ちていた。

足元には出発前にラックが私にも手渡してくれた物と同じ四角の大きな包みが落ちていた。


「お前は半殺しにして目の前であのガキをなぶり殺しにしてやるよ」


龍は急降下し地面スレスレを滑空、炎を纏い私のいる方へととてつもないスピードで向かってきていた。

避ける事が出来ない、そう悟った。絶望の中、落ちていたラックが彼に渡した包みを開くと一つの箱が出てきた。


「お弁当かな?早く食べとけばよかったな、ごめんねラック」


徐に箱を開いた時、今まさに魔法を纏い、飛びかからんとする龍の元へ無数の斬撃と衝撃波の嵐が放たれ、襲いかかり、龍はその攻撃に耐えかね一瞬の内に撃ち落とされた。

凄まじい爆音と風と共に乱れ撃ちに放たれた斬撃は撃ち落とされても尚、龍を標的に襲い掛かる。

怯む間も無く龍の身体中に斬撃が刻まれる様子を目の前にし、突然の光景に見惚れてしまう程に龍は成す術のない攻撃を身体中に受けていた。


「貴様何をした!!!」


轟音の中、龍は叫ぶ。

しかしそれでも無数の斬撃の嵐は止む事を知らず。瞬く間に龍の体は傷だらけになり身体中には切り傷、そして鱗はひしゃげそこら中に飛び散っていた。


「ソードレイ・・・ラックの技・・・」


斬撃は止み、地に伏せ倒れる龍。

鋭い眼差しは殺意を宿し私を睨んだ。あれだけの攻撃を受けても尚立ちあがろうとする龍は、先程とは比べ物にならない程の禍々しい魔力に迫力を見せた。


「許さないぞ、貴様・・・だが本気で貴様を潰したくなった・・・」


ヨロヨロと立ち上がる龍、あの攻撃を受けて尚まだ戦う意思と力が残っている。そして何よりあの力、もう成す術のない私はその目に怯み座り込んでしまっていた。

普通では無い、やはり”厄災の龍”なのか?ラックの秘技すら耐え得る力、そしてあの目に宿る禍々しく鋭い目。紋章の刺青、姿形。

どれもいつか見たあの”支配の龍”と重なって見えた。


「・・・貴様、この俺をよくもここまで・・・」


鼓動は激しくなる、バクバクと体を揺らす程に心臓は動き出し、呼吸は荒くなってゆく。

ゆっくりとユラユラ近づいてくる龍を見上げていると空に大きな影が同時に見えた。


「ハァハァハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」


ゆっくりと息を整え、最後の力を振り絞り。足に力一杯の力を込め立ち上がり走った。

南へ、とにかく走る。南に向かって!!

もうこれ以上も無い程に力いっぱい走った。何も考えず、ただ只管に龍から距離を離す。


「逃げるな!!!」


龍の叫び声が響くがまともな呼吸をしていない為、自身の呼吸する音しかその時は聞こえていなかった。

振り向かずとにかく走った。


「逃す訳無いだろうがぁぁぁぁ!!!!」


ある程度の距離は取れたと思うタイミングで走る最中チラリと後ろを見ると、立ち上がっていた龍のはるか上空には龍の何倍もの大きさをした”砂上の夢”が形を成した”オペラ”が、龍の真上へ落ちようとしていた。


「アアァアァァァ!!!!」


一山にも及ぶ砂の塊は勢い良く、龍に直撃した。

叫び声は虚しく、龍は砂に埋もれていき、まるで何もなかったかのように砂の山が一つ。

私の背のはるか後ろに現れたのだった。しかし、走る事は止め無かった。多少弱らせる事が出来たとしても、いつまたあの龍が”砂上の夢”により押し潰された山から抜け出し襲い掛かってくるか分からない。

今はとにかく、街へ向かい走るしか無い。


肩に背負っている荷物の入った鞄を投げ捨て、身軽にし全速力で逃げた。その時ペンダントは捨てられなかった、意識が朦朧とし、本能で体を動かしていた中。それだけは手放せなかった。

途中何度も転ぶ程にもう足は限界。


ローライ君さえ無事ならそれでいい、町に着けば誰かが助けてくれる。

私に龍のヘイトが向いている今、時間をとにかく稼がなければならない。


彼だけでも無事でなら。誰かがきっと助けてくれる。


ラック、ありがとう。またあなたに救われたね。

読了ありがとうございました。

これからも続けて行きたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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