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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第2部 不香花の黒白
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2 メルシー・ルー




扉から出て、廊下へと出ると進行方向の廊下を妨げる様に横並びにこちらに歩いてくる4人がやって来る。


取り巻きを従え真ん中に優雅に歩く背丈が高いエルフの女性は凛とした立ち振る舞い、その堂々たるや自信を振り撒き私の前に立ち止まり言う。



「あらあら、何か臭うと思ったら・・・これは弔い屋のお嬢さん。ペットを連れてどこかへお出掛け?随分お暇ね」



とてもいい匂いを漂わせ身体中に高級な装備や装飾を施された服を身に纏う彼女らは"特殊対策討伐隊"。

国営機関の中でも選りすぐりの戦闘部隊のエリート。



通常の依頼とは違いその仕事内容は貴族や王族の護衛から驚異となる強敵の敵対組織や魔獣の討伐等、一般では請け負う事が出来ない依頼が主な活動内容だ。



他の組織より二回りも待遇や給料が違う事もあり、大抵の組織やギルドを見下し、その中でも一番下に近い私達[スターキャリアー]は格好の的である。



ここ最近でもリフレシアが入った時から何度も私達の目の敵にしては嫌味を言ってくる。

どうやら私がいない時にリフレシアは初対面の場で彼女に対し無礼な行為を行ったという事なのだけど・・・。




「これはこれは、特殊部隊のお姉様方のお揃いだ。危機感の欠片も無い戦闘部隊はキツい香水のせいで鼻もおかしくなったのか?」


「今日はあるお国の大臣の護衛があるの、彼等は場や立場をお気になさる方々、私達もそれなりに身嗜みを整えないといけないのよ。貧相なお嬢さん」




負けじと睨みを効かせながらも平常心を見せかけ答える彼女は"特殊対策討伐隊"のリーダー”グラシー”。

彼女はこの隊における指導者でありその実力はギルド内でも有数の戦力の一人であり、その事は自身も自覚がある様でとてもプライドが高い。




「そんなにビカビカ輝かせながらくどい匂い匂わせてちゃ、悪い虫を呼び寄せて邪魔だろうな。いっそ装備を全て外せば枯れ木かなんかだと勘違いされて襲われにくいかも知れないぞ?」



それを聞いた彼女は分かりやすく顔を赤くし、「フン!」と言いながら取り巻きを連れ、私達を横切っていく。



出来るだけギルドやそれら関連関係者とは関係は良好でありたかったが、どうやらこの先難しそうだ。

リフレシアは「なんだあいつら」と言いながら少し顔をしかめ1人先々と歩いていく。先が思いやられる。



ギルド支部のある建物から出て直ぐに

私達は新たな依頼の準備の為、一旦家へと帰ることにした。



カラットの住宅街から少し離れた閑静な場所、家は特に密集せず余裕のある空間が設けられた場所で、周りの家に比べると少し小さめの特徴的で目立つ一軒家がある。そこが私の、私達の家。



買い物をするにはどこの店も少し遠いけど、いつだって静かなこの家はいつ帰っても落ち着いて過ごせる。

不便はあれどお気に入りの場所。部屋は2、3部屋程あるのでリフレシア一人住まおうが特に困る事も無い。



身支度をしようと彼女と共に荷物を整え、装備や服を1枚1枚選定しているととなりで見ていた彼女は私に言った。



「地味な服ばかりだな」

「え?」


「あの年増エルフは派手で下品だが、服はしっかりしてただろ。あの女みたく着られてる様では話にならんがな」


「あなたそんな事分かるの?」


「まあ、良く城の貯蔵庫に略奪した備品の中にそういった衣類等もあったからな。それなりに服や装備に関しては目が肥えていると思うが」


「へ〜・・・。説得力は兎も角として、リフレシアが言う様にそれもそうなんだよね」

「前の言葉はいらんが、自覚はあるのか」


「うん、基本的にこの街でもそうだけど、他国やここ以外の街に訪れる時、魔獣ってあまり好まれていないから出来るだけ目立たない、姿が見えにくい服ばかり選んでたんだよね」



いつも来ていた身丈より大きい黒いフード付きのコート。特注な上に中々優れた素材を使用していた為一張羅として良く使っていた物がある。

それは"トリル・サンダラ"で初めて龍であるリフレシアと対峙した際、ボロボロにされてしまい泣く泣く捨てる形となってしまった。



再発注をかけるもどうやらもう同じものが作れないという事でしばらくは普通のどこにでもある装備品や服で代用。



いつも顔を隠していると、顔や体が少しでも露出すると気恥しさがあり外を出るにもほんの少しだけ抵抗感がある。

代用品が無い以上通常の装備も気慣れてなければいけないと最近では昔使っていた服や装備を使い回しているもそれも年季が入りボロボロである。


そんな話をしていると彼女はそさくさと私の服や装備品の入ったクローゼットを覗き言う。



「ダッサイ。やめろこんな服ばかり着るの!」

「急にどうしたの?いつも言わないじゃないそんな事」

「言わなかっただけだ。というかこんな物ばかり集めているとは思わなかったが、こんなのが俺の手下だと思われたくない」


「そんな事言われても・・・」


「魔獣がなんだ。お前がどう身を潜め動こうとどう足掻こうと魔獣だろ、人間では無い。


"人々と魔獣が歩み寄れる世界にしたい"等とちゃんちゃらおかしい事言う癖にさも当たり前の如く自ら身を隠し肩身を狭くしているじゃないか」



ついその核心のついた言葉に息が詰まり私は彼女のその言葉に胸をつかれたように「うっ・・・」と言葉混じりの息が出てしまう。

ほら見た事かと彼女はそう言いたげな表情で私に続けてお叱りを加える。




「ただでさえ見栄えが悪く身を隠したい等と言うのなら逆だ。見栄えを良くして良く見せろ、隣に立つ俺の身にもなれ!


下らんおもちゃばかり買いおってからに、身嗜みを疎かにして何が対等な共存だ」



「ハイ」としか言えない、返事も反抗も出来ない。

情けなく彼女の言葉を聞き入れながら私は「ハイ」と頷き答える機械の様になっていた。


彼女の言う事には一理ある。というか多分、私がズボラなだけだ。その事実に気がついた時、とても普通に悲しくなってきた。



「お前、金は?」

「前回と前々回の依頼はまだ換金してないけど・・・手持ちなら今少しある・・・けどなんで?」


「それはつまり俺の分も換金してないんだよな?」


「そうだね、換金したらあなた直ぐに下町で飲み食いに使うでしょ?」


「まだ夕暮れ前だ。今から服と装備を揃えに行くぞ」

「えぇ・・・今回はもうあるやつでいいんじゃない・・・?」



「カペラ・・・?」といつもより脅迫的な声色。もう冗談を言っていないぞという現れである。

今回ばかりは彼女のいうことの方が正しいと思った私はもう答えは決まっていた。



「はい・・・・」


町に新しく出来る大きな玩具屋、いっぱい買う為にお金を貯めていたのに・・・。こんな事吐露すれば彼女は私を殺しかねない。



「それでこの街で良い服屋はどこだ?適当抜かせば分かってるよな?」

「・・・丁度この近くに少し高い防具や服の仕立て屋があるよ」

「そうか、そこへ行くぞ」

「はい・・・」



私とリフレシアは旅の支度の途中、急遽暗くなる前にギルド本部の近くへと戻り換金を済ませ、そのまま街の服屋へと足を運んだ。

住宅街の中にあるその仕立て屋はこの街では珍しい店で世界有数の有名な仕立ての職人がいるというが、お店の外装はと言うといかにもお高い雰囲気でとても入りやすい場所では無い為私は入った事はなかった。



「ここがそうだな」



一目で分かる程に周りの建物や家々には溶け込まないその店へと出向くや否や彼女はなんの躊躇もなく入っていく。



それに乗じる様に後に続き私も入っていくとどれも目を引いて離さないほど洗礼された品々、綺麗に並べられた品々、並べ方すらキチンとしている店は少なく、更には品数はそこまで多く無い上に金額が書かれていない。

会計口の前に座る一人の女性は入ってくる私たちと目が合うと睨みつける様に私達の動向を探っていた。



「なんだあいつ、感じ悪いな」と聞こえる様にリフレシアは躊躇無く言い放つ。

ただでさえ高そうなお店、場違いが物を言う様に居心地が悪い中、彼女の一言は更に状況と空気は悪い。


それでも彼女は気にも止めず服の一つ一つをまじまじと見つめ、触りながら材質を確認している。

こうも肝が据わっていると頼りになるというか・・・。恐怖すら覚えてしまう程に堂々としている様は大物の様な立ち振る舞い。


まあ、厄災の龍の娘というだけはあるのだろうか。



「リフレシア・・・帰らない?」

「何故だ?まあまあだが良さそうだぞ」


「ちょっとあんた、あんまベタベタ触んないで貰える?」


呼び止められたその声の元の方へと振り向くと、いつの間にか会計口に座っていた女性は私達の前に現れ、品定めをするリフレシアの腕を掴んでいた。



「ここに魔獣の服なんか無いんだ。とっととその魔獣連れて帰んな。それともあんたがなんか買うのか?あんたみたいなお子様が買える服なんか置いてないよ」



強い口調の店員、彼女の手を振り解きリフレシアは不敵に笑う。



「ああ、丁度帰ろうと思ってたんだ。こんな出来損ないの物ばかり並べるような店を選ぶこいつの目の悪さに免じて許せ」と私を指差し言い放つリフレシアに私は内心”巻き込まないで欲しい・・・”と思いながら俯き顔を隠した。



勿論そんな事を言われた店員も険しい表情で睨むその眼光はさらに強くなっていた。



「見栄えだけだこんな物、肝心の着心地や防御力といった機能面も大した事ないだろ?とんだ殿様商売だ、下らん」

「え・・・え?」



確かにこの店の品はどれも良いものとして評判が高い。たった数分、彼女は置かれた品を一通り触っただけでそう言い放っている。あまりに失礼な態度はきっと目の前に立つ女性の逆鱗に触れるとそう思っていた。

しかし店員であるその女性は冷ややかな視線は送れど冷静に言い返す。



「あんたに何がわかる?」

「分かる」


「最近多いんだよね、知った口する生意気な娘。どこぞの成り上がりのファッションデザイナーかなんかか?それとも評論家?」


「お前は俺の事をそんな風に見えているのか?」

「何も知らない生意気な小娘に見えるね」



空気は最悪、張り詰める二人の重い空気に私は文字どうり息苦しく仲裁に入るべきタイミングを見失ってしまっていた。一歩も引かぬ両者に決着や落とし所はきっと険悪なものになる、まがいなりにも国営機関に属している私達は基本的に街で良く無い評判が流れてしまえば、仕事にすら支障が出てしまう。


それを恐れ私は間を割り発言する他無い。



「あ・・・、あのすみません!直ぐ出ていきます!失礼しました!」



頭を下げ彼女を外へ連れ出そうとするも、彼女はその場から踏み留まり離れる事無く店員である彼女から目を離さず会話は続行する。



「馬鹿、カペラお前は黙ってろ」

「そこの魔獣さんはそう言ってるけど?」

「こいつは俺の手下だ。こいつの装備一式出せ」

「リフレシア!失礼だって!」

「あんたさっきまでここで何を言ったか忘れたの?」



「忘れてなんかいない、分かりずらかったならもっと簡単に言ってやる。ここに並べられた服は見栄えだけの布切れだ。こんな物売りつけるんだ、大した店じゃない」


「リフレシア!」


「随分な言い草、あんたに売ってやる服なんかここに無い、さあもう良いでしょ?」


「ならさっさとまともな服の一つでも出せ」




彼女の喧嘩腰の口調に呆れたのか店員は大きくため息をつきながら、会計口の元へと戻り煙草を一つ取り出し口にくわえたまま店の奥にある部屋へと入っていった。



チラッと覗けるほどの隙間から見えた店の裏側の様子。それは部屋と思われる場所に敷き詰められ置かれたタンスや箱、店の倉庫なのだろうか。

しばらく私達は部屋に飾られた時計の針の進む音だけを聞きながら待っていると、倉庫から1つの箱を抱える店員が姿を現し、私達の前にその箱を置く。




「その中の物、適当に気に入ったのあれば会計口まで持ってきて、会計したげる」



店員はそう言いながら会計口の方へと戻って行き、私達は早速その箱の中を開けるとその中には沢山の服に装飾の施された装備品等が詰め込まれていた。



「こんな雑に詰め込まれている物・・・こういうのが私達にお似合いってこと?」



「だろうな」と一言彼女は箱の中身を黙々と一つ一つ物色し答え、私も箱の中身に手をかけようとすると、「魔獣の着れる服はないよ」と奥の方から彼女のその一言だけが飛んでくる。

こっそりと私はリフレシアの耳元で囁く様に言った。


「・・・ねえ、リフレシア。あなたそんな知識あったの?龍だったんでしょ」



彼女は一つ一つ選定しながら答える。


「龍が人間の服や装備品について知っているのは変か・・・。と言いたい所だが我ながら変だと思う」

「そんなに変とは思わないけど」


「変だ。敵対する相手の弱点や急所や戦術を学ぶなら分かるが俺の母は人間の文化的な事や言語といった事にばかり私に教えていたのだからな。我ながら物好きで変な母親だったよ」



いつもの口調で言う彼女。けれど懐かしむ様などこか楽しげにも聞こえた。

彼女にとって母親という存在がどういう存在だったのかが分かる、とても羨ましく思えて仕方がないけれどそれ以上に微笑ましくもあった。



「それじゃあお母さんに聞いたの?服とかそう言う事も」


「人間どもから略奪してきた物には本やそれらも多かった。文化や技術を知り、歴史をなぞれば自ずと敵の武器としているものの特徴や弱点も見極められると、クラーレのやつに馬鹿みたいに本を読まされた」



クラーレ、”災篤(さいとく)の龍”と呼ばれた”厄災の龍”の一匹。その名前を聞くまでは思い出したくも無い相手だった。主な攻撃は方法が毒。ありとあらゆる疫病や毒を使い人々を苦しめ殺してきた龍。史上最悪の疫災をもたらし数多の村や国を滅ぼしている。

一瞬その名前を聞いた時、顔を顰めてしまう。



「・・・そっか、それで色々物知りなんだね」

「まあな、寒い地域なんだよな?じゃあこれとこれだな」



彼女はいくつかの服や装飾といった防具を含めた何点か手に取り会計口に向かおうとする。

あれでいいのだろうか?何故彼女があれらを選んだのか全く分からなかった。デザインで言うなら確かに可愛くはあるけれど。



「なあ、お前。この魔獣の分も一式見繕え」と会計口に座る彼女に言いつけるも彼女は「魔獣の服はない」と一点張りで答える。押し問答の中私は彼女の言葉と裏腹にここの店の物をいくつも買おうとしていた事に疑念が晴れず、この時はまだよく分かっていなかった。



「なんだ?魔獣の服も作れないのか?」

「作れないとはいっていない」

「じゃあ作れ」

「うちはかなり高いよ?」

「俺は作れと言ってるんだ」

「随分と生意気じゃない?でも良いよ、仕事だし」



彼女は黙々とリフレシアの置いた品物を一つ一つ確かめながら、会計を済ませ丁寧に包んで渡してくれた。



「じゃあそこの魔獣、これ。明日またここにおいで」



彼女は不意に立ち上がり一枚の名刺を私に手渡し言う。そこに書かれている名前と、こことは違う場所は指す地番。



「あ・・・えっとハイ・・・、メルシー・ルーさん?」

「メルでいいよ」

「私はカペラって言います」

「私に名前を告げるってことは、しばらくは贔屓にするんだろうね?もう一回言うけどウチは高いよ」



そんな意味があったんだ・・・こんな高そうなお店に来たことが無いので知らなかった・・・。

オドオドとした態度で「はい・・・」と返事をしてしまい、それを見兼ねた彼女は苦笑いで「嘘だよ」と言う。


私とリフレシアはそのまま店を出ようとすると同時に会計口に座る彼女はリフレシアに向かい言った。



「生意気なあんたもまた来な。今度はちゃんとしたもん出すから」

「一々こんな事されては不愉快だ。面倒だからさっさと出してこい」




メルシー・ルー、不思議な人だった。





読了ありがとうございました。

これからも執筆を続けていきたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

これからも宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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