うわのそら
静かな一室にて、俺は考えるには十分過ぎる時間を与えられた。
仮にも世界を統べた魔獣の王であり世界に混乱を齎した”厄災の龍”が一匹の娘。
今やその力関係も逆転された。それはどこかしらの英雄御一行により”厄災の龍”達を全て倒したお陰だそうで、
今や魔獣の地位は地に落ち、龍という強大な敵は友好的、敵対的に関わらず脅威対象として絶滅にまで追いやり今の平穏に至るとか。
語られるはそれが世界の真相だとばかりにカペラは俺に説うが、その手にした世界では人同士が争うという結果的から言えばあまり良くならなかったのが現実らしい。
なんとも馬鹿馬鹿しいオチで片付けられたこの話。
そんな話を聞けばこの平和と呼ばれた世界を歩き何を見るか、俺達を下し得た人々の言う"自由"という物に興味がやや薄れてしまう。
ここは皮肉を込めて、自らで首を絞め死に行く様を見届けるのも良いだろうと俺はカペラの奴に言ってやると。
「あなたの方が死神みたいね」と生意気にも口にする。
まあ悪い響きでは無いと内心そう思っていたのだが、私のその表情を読み取り「やっぱり、タチの悪い野次馬かも」と言い直す。
なんとも可愛げの無い部下、魔獣であるあいつも心のどこかでこの世で生きづらく虐げられた、こんな世界を鼻で笑っているに違いない。
だとしなければあの人に対する従順さと来ればもはや狂気に近い。奴隷だ。
人と魔獣が分かり合い共に尊厳を対等に生きるなど戯言を"夢"と称し語る熱意には驚かされる・・・というか呆れる。
「リフレシアが私との旅を経て、色んなものを見てから決めたら良いよ。自分に無いものを見た時きっと感じ方も変わるから」等と先も分からぬ何かに期待しろという始末。
ちゃんちゃら可笑しく欠伸も出てやる。しかし暇はしなさそうだ。
生物と言うのは面白いもので、時たまに暇を持て余す生物というのは何か大きな物を代償にし自ら危険な行為を行う者が多い。
それは命を粗末にするのでは無く、命という限りある時間と自身のその命に纏わる第二の命と名称した、金であったり名誉であったり、自らの大切な物を賭けたり引き合いに出し一興を得るという、生き物が"生き得る"為に不必要な行為を行うというもの。
なんとも生に対する冒涜だろう。
しかし俺もそんな無駄な事に時間を費やしてやろうと思う。
理由は特にない、興を獲る者おおよそは暇だからだ。あいつと共にする旅がその価値があるかどうか見定めてやろう。
とまあこんな感じで色々と言い訳がましく自問自答も交えながらあいつと共に動くと決めたのだが、あの一件からしばらく休暇を取るとの事でさっそくあいつは一匹でどこかへと行き、俺は留守番を強いられた。
俺だって色々行きたい所はあるのだが単独の行動を尽く禁止されている。何故この俺があんなチンケな魔獣1匹の言う事を聞かなければならないのか腹立たしくて仕方がない。
しかしまあ・・・あれだ、その昔俺の近くには似た様なお節介の側近がいた。懐かしくもあり、あの時の言葉を蔑ろにした事を悔いている。
それもあってかあいつの言う事をこうもすんなり受け入れ聞き入れてしまうのだろう。
三日間の食事に暇をしない様にと用意された玩具、非常に不愉快だ。子供扱いだ。
三日間の食事はとうに食い尽くした。金は無い。
やつの集めている玩具を売って飯でも食いに行こうか悩んでいると、ドアを叩く音が1つ聞こえる。
「何の用だ」
俺は部屋の真ん中で仰向けに寝転がったまま大きな声で返事をする。
しかしその答えに対する返答は言葉では無く再びドアを叩く音。つまりドアを開き表へ出ろというお達しのようだ。
「俺はここから離れんぞ、さっさと要件を言って去ね」
ボソボソと何か扉越しから声が聞こえる。
痺れを切らし、立ち上がっては扉の前まで行き力任せにドアを開くと2匹の小さな魔獣が大きなバスケットを持ち立っていた。
「なんだ」と軽く脅す様な声色で尋ねると2匹の魔獣はポカンとした表情で尋ねてきた。
「あの・・・カペラさんのお家ですか?」
「ほう、話せるのか。この街の者か?」
オドオドとした表情の2匹は静かに頷き、俺にバスケットの中身を見せる。
その中にはいくつかの玩具と果実が入っていた。それらを見せた2匹は言う。
「カペラさんにお借りした玩具を返しに来ました。それと・・・そのお礼に・・・」
「あいつなら居ない」
「そ・・・そうなんですか?」
「あぁ、・・・それでそれだけか?」
「え?」
「要件はそれだけかと聞いている」
「は・・・ハイ」
ブルブルと怖がる2匹、何か面白い反応が見たかったが思っていたより肝が据わって無い。
片方の1匹は口をパクパク動かすだけで何も話さない、別に弱い者イジメは趣味では無いのでこの辺にしてやる事にし、バスケットの中から果実を1つ手に取りドアを閉めようとすると黙っていた方の1匹がドアを止める。
「あの・・・玩具もカペラさんに返して置いて下さい」
「要らん、持って帰れ」
「でもこれカペラさんの物ですし」
「あいつは俺の手下だ。下らんガラクタが山ほどあるんだ、一つや二つくれてやる。俺が要らんと言ったら要らん、さっさと帰れ」
半場強引にドアを閉め、鍵を掛けて果実を口にし再び部屋の奥へと戻った。
飯が手に入ったしラッキーだ。
さて、明日と明後日もガキを使って飯を持ってこさせようか。
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu




