3 オアシス
8
それからは再び何事も無かったかのように探索が再開された。
ローライと共に歩いては止まりを繰り返し、それ以上に何も話すことは無く黙々と移動を続ける。
「何も無いと逆に見つけやすいと思ったけど、こうも広いと探してる物も見つからないな」とローライはため息混じりに今回の依頼が面倒な物なのか痛感していた。
"トリル・サンダラ"に入り数時間程。
彼の探索は魔力を消費し集中する事により広範囲にある物や人、はたまた野生の魔獣等を空、地中関係無く特定の範囲の探知をする事が出来るそう。
常にそれを行った状態での移動はとても効率が悪く消耗も激しい為、ある一帯のポイントを決め行うという事の繰り返しを行っているのだそう。
砂漠地帯ということもあるが、見渡す限り辺りは砂に少しの傾斜がある位の砂山がポツポツとあり、どこを見渡しても砂と少しの岩と景観はほぼ変わらない。
”砂上の夢”はあれから”オペラ”程の巨大な塊は現れず、小さな砂の塊となり、到底砂漠地帯とは思えない程の自然豊かな土地に生息していたであろう生き物や植物の形を成し、度々視界に現れる。
最初こそは二人して終始砂が元の姿へと崩れ落ちるまで眺めてはいたが、途中からは反応を示さず度々寄り道をしながら目的の鞄を探す事の方に注視し始めていた。
"砂上の夢"は稀に見かける自然現象ではあるにしてもこんなにも1日に何度も見るのは聞いた事が無い。
道中で出会う"トリル・サンダラ"に生息する野生の魔獣、妖虫もあまり見かける事もない。
かつてラック率いる私を含めたメンバーで訪れた際とは全く異なる環境下にある、それは月日が経ち今や”支配の龍”が存在しない事による影響の物なのだろうか。
今回の"リオラ"というかつて同業だった人物の荷物は同じ[スターキャリアー]に属すると支給される黒く大きなリュックの為、この砂漠地帯において目立ちやすく比較的見つけやすい物には違いない。
事前にラック達の家でローライには説明をしているうえに同様の実物である持参したリュックも見せていた事もあり一見すればすぐ分かる程の物である。
道中の探索や現象と環境で気掛かりな事はいくつもある中、簡単に状況を鑑みるに一つの最悪の仮説が浮かび上がる。
この地に訪れてから随分と歩き進んだ。私はどうしても拭えぬ違和感に立ち止まり、彼の意見を聞く事にした。
「ねえ、ローライ君。北東の方に進んでるよね?」
「何言ってんだ?北東で亡くなってるんなら北東の方にあるんだろ?」
「"砂上の夢"の影響で荷物が移動してる事って考えられない?」
それを聞いた瞬間、ローライは苦い顔をし地図を畳んだ。
「砂を通じて荷物が移動してるって事だよな?まあ確かにあんなでかい魚の形した砂の塊が空に浮かんで近くに落ちるんだ。その中に入っていたなんてありそうだな」
「うん。とりあえず最北東の方まで移動してみるしかないんだけど・・・。荷物がある確証がないって事になってしまう」
それを聞くと少しイラついた様子を見せ私に問い掛けた。
「じゃあ、あの馬鹿デカイ砂の塊が落ちて地形が変わって、本来の場所と荷物の場所の地形を見間違えて報告に勘違いがあったとかそういうこともあるって事もありえそうだよな?
まあこんな地形だしどこ見ても似たような景色なら勘違いもありそうだな?結局どの過程を想像してどこに進むんだよ!冗談じゃないぞ」
彼が怒るのも無理はない。”砂上の夢”による地形の変化を考慮していなかった自分も悪いにしてもここまで頻発するとは・・・、想定外だった。
「地点に関しては間違いないんだ。[スターキャリアー]は消息が不明になった地点か魔力が消えた場合のみにギルドの集会場にあるマークボードっていう世界地図に消失した地点に小さくそれぞれ固有の紋章が魔力によって証印される信号が送れるの。
紋章も大体の地点も人物と場所は一致してる。けど荷物に関しては探知する術がないから、あくまで亡くなった地点の付近にあるだろうっていう予測でしか探せないんだ」
「亡くなる前に荷物を捨てなければいけない状況で、荷物の場所と亡くなった地点が違う場合はどうする?」
「うん、それも考えれるね。あくまで私の推測だけど町から遠い地点でこの環境下、荷物を捨てて逃げなければならない状況があまり考えられないんだよね・・・」
「それも含めてもまだ行くのか?確証もないのに?」
半分諦めた様子で彼は投げやりに私に問いかける。私は苦笑いでこう答える他無かった。
「そういう仕事だからね。勿論ローライ君には当初の予定通り指定した期間内に見つからなかった場合、この依頼から離脱してくれていいし勿論報酬も払うから安心して」
「そういう事じゃねえよ」
「”砂上の夢”がここまで頻繁に起こると、”オペラ”位の大きな形をした砂の塊も頻度が高いはずだから砂の中に荷物があっても何度も移動している事を考えたら途方もないと思う。
けど、とりあえずは最初に決めた様に最北東まで探索を進めよっか、考えてても仕方ない」
「・・・進路は変えないんだな?北東とはいっても、何処とは具体的な位置は聞いてないからな」
「荷物の有無はあまり期待は出来ないけど・・・。恐らくここら辺に"リオラ"さんが目的としてた、あるいは亡くなった場所があると思うの」
それを聞くとローライは首を傾げ「根拠は?」と質問した。
「亡くなった"リオラ"って人、私は面識が無くて所長も内容の知らない依頼を受けていて、その詳細が書かれた紙を荷物に入れているって話なんだけど」
「そんな話外部の人間にして良いのか?」
「ダメかな?」
「駄目だよな?今度から気をつけようなバカ。で、それがこの人が亡くなった場所と何の関係あんだよ」
「内容は分からないけど"トリル・サンダラ"の方で亡くなってる事や北東の方に進んでいた事、最北東は海だから多分そこまでの間だとして、今いる場所から海までそう遠くないはず。
それ以上に進む事が出来ないことを考えると恐らくリオラさんが受けていた依頼は今いる場所に近い所に用があったんだと思う」
「お前ここらから先に海があるってなんで分かるんだよ」
「鼻が良いからね、微かに潮の匂いがする」
「で?荷物もそこにあると思うのか?さっきの考察を踏まえるとそこにあるのかも分からないんだろ?それに海の方に用事があったのかも知れないだろ?」
「そうだね、でも今は荷物が移動していない事を祈って北東へ向かお、とりあえず近辺に何か見つけたら教えて」
「結局、行くべき方向は変わらずか・・・」
「一応、探している荷物の居所の場所が変わる場合の話があるから話しておいた方が良いと思って・・・。それにほら会話も無かったし」
最後の一言にローライは呆れた様子だった。
「お前良くそんなんで今まで1人で旅出来てたな、寂しがりで死にそうだったのか?」
「そうかも、誰か居ると何か話さなきゃって・・・寂しがりやなのかもね」
少し照れながら話していると、ローライは深いため息をつき「分かったよ」と言い、再び探索と探知を再開する。
彼は水の入った皮袋を取り出し一口飲み、蓋を閉め再びそれを大きく空へと飛ばし落ちてきた皮袋をキャッチ。
独特のその探索方法はやはり見慣れないだけあって何度見ても面白いものだ。
しかし今回は少し違った。彼はいままでに見せた事のない少し驚いた表情を見せ眉間にシワを寄せた。
「ここから直接の視認は出来ないけど目の前の高い傾斜を超えた辺りにオアシスがある」
「オアシス?海じゃなくて?」
「距離的には近いけどな、オアシスだと思う・・・俺も本でしか見た事無いから明確には分からないけど」
早速、足早に2人して砂山の傾斜を上がった。上がりきり頂上に立つと丁度来た反対側にローライの言っていた通り、少し大きなオアシスの様な水の溜まり場が出来ていた。
傾斜を勢い良く滑り降りオアシスの方へと行くとローライは付近の方で魔力を大きく使い更に探知を始める。
「探知に集中しにくいな・・・そろそろ集中力と魔力が不足してきたか・・・」
「オアシス・・・なのかなこれ?」
"トリル・サンダラ"にはかつて何度か訪れた事はあるがオアシスがあるという話は聞いた事が無く、町の住民からその様な話を聞いた事が無い。
オアシスらしきそれを円を描くように周囲を歩き水を観察し、服を脱ぎ水辺に入る事にした。
「お前また・・・!!いい加減にしろよ!こっちはここにあると思って魔力使ってんのに!!集中力切れるだろバカ!!」
「私"トリル・サンダラ"にオアシスがあるなんて聞いた事なくて、ちょっとこの場所怪しいから調べるね」
「お前裸になりたくてわざと理由つけてやってないか?」
そう思われると何故か少し恥ずかしくなってきた。ともかく、水辺の中に入りながら周囲や水中に潜り調べ始める。
外見から見た所、綺麗な大きい水溜まりのようにはなっているが水辺には少しも緑が無い事から随分前に出来たもので無く最近出来たものと分かる。
水に潜り底の様子を見ると砂が少し焦げた様な跡、まるで何か強力な熱で溶かされた様に固められていた。
水底には少し水流が見られ底から水が湧き出ている事が確認出来る。
水辺から上がり、オアシスの水を少しすくい飲んでみるとほのかに少し味を感じた。
身体を振るい水気をある程度飛ばしカバンからタオルを取り出し身体を拭いていると、さっきまで集中していたローライがこちらに歩み寄り呆れた様子で「どうだ、遊泳は気持ち良かったか?」と尋ねて来た。
「このオアシス、最近作られた物だった」
「作る?こんな所に?"トリル・サンダラ"からこんなに離れた場所に?」
「ここのオアシス範囲は小さいけど底は結構深い。
多分水脈まで掘られてるんだと思う。だから雨露やそういった自然に出来たものじゃない人工的に掘られたものなんじゃないかなって。
ただ・・・掘られていたと言うより何か抉りとったみたいな・・・丁寧な感じはしなかった」
「どういう事だよ」
「目的は見えないけど、何か急いで作ったみたい・・・かな?そういえば荷物はあった?」
ローライは鼻で笑った、つまり無かったという事なのだろうか。
しかし、その後に怪訝な表情を見せ俯きながら言う。
「荷物は見つからなかったけど、海辺にちょっとヤバそうなものは見えたぜ、行くか?」
「ここからどれくらい?」
「まあ数キロって所かな」
空を見上げると日はもう落ちかけていた、辛うじてまだ光はあるが、日が落ちると急に光は無くなる。その事をふまえた上で数キロ程度なら歩いても日は跨かず、直ぐに着く距離ではある。
「いや、今日はここまでにしよっか・・・光もない状態でこの土地を歩くのも不安だし、何があったのか知らないけど、出来れば日の光で視認したい。それでローライ君何を見たの?」
ローライは少し考えた様子を見せ、少し間隔を空け答えた。
「デカい穴・・・いや足跡2つ」
"トリル・サンダラ"へ足を踏み入れてから、これだけの情報があったのにも関わらずこの時点でも尚、事の重大さと状況を完全に理解していなかった。
あまりにも軽率なものだったと猛省している。
9
日も落ち始めて頃オアシス付近での野宿、今回は近い場所に二つのテントを建て火を焚き夜食の用意をする。
薬草、適当な肉や香味料にオアシスの水を使い鍋にする。もちろん栄養素や魔力回復や増進を主体とした材料ばかりなので味のところはいまいち。
日中ずっと探索に集中していたローライは味など気にせずガツガツと食べていた。成長期という事もあるのだろうか、子供の頃はなんでも良かった味も大人になると選り好みをしてしまう、舌が肥えているとなんでも美味しそうにいっぱい食べられる彼が羨ましく思う。
「美味しい?」
「不味い」
即答。
「まあ薬味や香味料入れても回復系統の薬草や果実、薬やらなんやらでそもそも味なんて期待してねえよ」
「美味しくならないかな・・・」
「贅沢言うなバカ、我慢しろ」
「怒られちゃった」
会話は途絶え、二人黙々と食事を口に運ぶ。どこか遠くの方では”砂上の夢”による大量の砂が落ちる音が鳴り響く。
節々で会話が途切れ終わってしまう。口下手なのは自覚はあったものの、久しく誰かと行動をここまで共にしたのも久し振りだし、そもそもここまで会話量があったのもラック達のパーティに所属していた時以来のものだった。
そんな事を考え俯いているとローライがこちらを見ていることに気がついた。
「なあ、聞かないのか?」
「あ、えっ?何が?」
「海岸にあった足跡のこと、翌日行っても海の流れで消えてるかもしれないんだろ?どちらにせよ事前情報だけでも聞こうとか」
「教えてくれるの?」
「こんな旅さっさと終わらせたいんだ。長引くのも面倒だしな、お前と一緒に居たく無い」
彼はそう言っていた。彼が最初足跡らしきものを見たと言った時、ほんの少し手は震えていたのを私は見逃さなかった。
きっと彼が見たものがなんだったのか怖くて仕方ないのだろう、不安の中何かが気になりしびれを切らし聞いてくれたのだろう。
今回の依頼には直接的には関係が無い事を考慮すると、あまり不安を煽るのも良くは無い。
あくまでローライを引き連れたのは"リオラ"の荷物を探し出す為、出来るだけ危険な状況は避けたい。
現在の状況が悪いのも事実、出来るだけ早く用事を済ませ、あとは"リオラ"の受けていた依頼はローライを帰還させた後にまたこの”トリル・サンダラ”に戻ればいい。そう考えていた。
「そうだ!!私ね前にね、ここから遠い"トワ"っていう国で面白いもの買ったんだ」
持ってきた鞄を漁り奥底にあった、くるくると長細く中に何か包まれた紙撚りの束をローライに見せ一つ手渡した。
「何だよこれ、煙草か?魔除けならもっと良いもんあるだろ。あんまり吸うと中毒性もあるし俺は好きじゃない」
「詳しいねローライ君。でも違うよ、これその国で親しまれてるおもちゃなんだって」
「そんなもん旅に持ってくんなよ。遊びに来たのか?」
「露店で見かけて面白そうだからつい買っちゃったんだよね・・・一人で遊ぶのもつまんないから一緒にやろ?」
「遊ぶっておまえ・・・」
彼は手渡したそれをポイと捨て立ち上がり、呆れた様子で言う。
「お前にはウンザリだよ、呆れた。こんなことする為に来たんじゃねえぞ」
「そっか・・・、じゃあ見てて」
「お前な!」
私は露店で見せて貰ったように、細長く巻かれた紙撚りの先端に焚き火の火を近づける。
火は紙の先端に移り瞬く間に火は徐々に燃え上がり、紙から火花を散らし始める。
両手程の大きさをした火花は色とりどりに光り多く広がるように弾け、それは魔法では到底表現出来ないほどに色鮮やかで綺麗なものだった。
誰かを傷付ける火花、生活の一つとして見る火花、それらとは違う優しく美しい、人の心を豊かにする火花。
その紙撚りが手元まで燃え上がる直前に静かに消えた。消える一瞬まで二人してその火花に目が離せなかった。
「"手持ち花火"って言うんだって。その国ではもっと大きくて綺麗な火花が見れるんだけど、私他の仕事もあったから見れなくて・・・。これがその"花火"をいつでも見られる携帯型だって教えて貰って買ったんだ」
彼の捨てたその手持ち花火と呼ばれる紙撚りを拾いもう一度彼に向け差し出す。
「一緒にやろ、楽しいよ」
彼は静かに受け取り、焚き火の前に座ってさっきと同じように軽く火を近づけると、その手持ち花火は火花を散らした。さっきとは違う色や光り、綺麗な音もした。
ローライは自然と笑みを溢す。初めて見る彼の笑顔に嬉しくなった。
そんな様子を横目に私ももう一本火を灯す。一つ一つが違う輝きを見せ、違う色や形を見せた。二人それぞれ火を灯し続け、持っていた花火も数が僅かになってきた時、ローライは静かに呟く。
「師匠にも見せたかったな・・・」
次々に私達はそれに火を灯し続け、灯す度に消えては散ってゆく火花を目に焼き付ける様に釘付けになっていた。
気が付けば十程あった手持ち花火も残り一本となり、最後の一本をローライに手渡した。
「今度はラックも一緒にみんなでやろうね」
手渡した花火を彼は受け取り、ニヤリと笑い私の目を見た。
「俺と師匠だけだ」
「仲間外れか〜」
最後の花火が消えるその時まで二人して眼を奪われていた。静かな夜、消えかかる焚き火と、鮮やかに火花を散らす花火。火花が消え燃え尽きる花火を見届け、夜食の片付けをしようと立ち上がるとローライも立ち上がった。
「食器は俺が洗うからお前は鍋を洗え」
「え?じゃあ・・・、お願いしようかな・・・」
彼は食器を持ちオアシスの方へと向かい、続くように鍋を持ちその後を追うように近づくと「お前はあっちいけ」と少し離れた場所を指差し、指定された離れた場所へ場所を移す。
未だ関係は良く無いが、少しずつ彼の心を開いていると、そう思いたい。
鍋を洗い終え、焚き火の方へ戻るとローライは薪を焚べ食器を拭いていた。
「食料や荷物はあとは1日分ってところだね、明日は海へ行ったら"トリル・サンダラ"の町で買い出ししよっか」
食器を拭き終えたローライは持っていた鍋を奪うように取り上げ、渇いた布を取り出し拭き始めた。
「ありがと」
「なぁ、俺お前のこと殴ったんだぞ」
「ん?気にして無いよ」
「なんでだよ」
「まあ不甲斐ないのも事実だし、いつもの事だもん」
「・・・俺がお前のこと嫌いでもか?」
「うん、気にしないよ。それに私はどう足掻いても魔獣には違いない。嫌われるのは仕方ない、けど嫌われているからってローライ君の事を嫌いにはならないよ」
そう答えるもローライは黙ったまま返事を貰えず。私は続けて答える事にした。
「嫌いになるのって難しいんだよね・・・、ローライ君はなんで私のこと嫌いなの?」
「弱い所、師匠の足手纏い、魔獣、あと人に嫌いな理由をずけずけ聞く無神経な所」
「結構的確にあったみたい」
「まるで自分が嫌いな奴いないみたいな言い方するけど、そんなにお前人によく思われたいのかよ」
彼のその質問に私は少し考えながら今まであった人の顔を思い浮かべる。
「別にそんなつもりはないけど、そうだな〜・・・。苦手な人はいるけど別に嫌いではないし凄いところもあるから・・・。うーん、いない・・・のかな?」
「追加だ、そういうところも嫌いだよ」
「あえぇ!?なんで!?」
必死に今まで出会った人や魔獣等心当たりある物をもう一度思い出すが明確に嫌いになった人物像がハッキリと出てはこない。そんな事を見透かされていたのか、彼は怪訝な顔で質問した。
「お前まさか、”支配の龍”とか”厄災の龍”達にも嫌いじゃないっていうんじゃないだろうな?」
「え・・・?それはだって、あんな酷い事してたら・・・」
一瞬、私の中でその質問に対する回答を即答出来ず考えてしまう。
”支配の龍”、並び”厄災の龍”は何故あんな酷い事を平然と出来たのか、それには何か彼等なりの理由があったのかもしれない・・・。そんなふうにも考えられるからだった。
そして私にとって彼等という存在が嫌いかどうかなんて深く考えた事が無い。
戸惑い答えを即答出来ずいる私に対し、彼は何かを見透かしたかの様に私を睨みつけ持っていた鍋を私に向け勢い良く放り投げる。
目掛けて投げられた鍋をとっさにキャッチし、彼の方を見ると握り拳を固く結んでいたががそれはすぐ解かれた。
「やっぱりお前は心無い魔獣だよ、お前のこと大嫌いだ・・・」
その言葉を聞き私はやっと彼の前で示すべき反応では無かったと、その時やっと気がついた。
「俺、師匠以外でこんなに話したのお前位だったよ」
「あ・・・ご・・・ごめんなさい」
彼は静かに背中を向け自身のテントへと戻っていく。私は悲しげなその後ろ姿を見て呼び止める事も弁解も出来なかった。
とんでもない事をしてしまった。咄嗟の嘘さえつけず人を傷付けてしまった事へ深く後悔した。
嫌いなものを思い出した、成長しない自分自身だと。同時に今、気がついた。
読了ありがとうございました。
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-世見人 白図- Yomihito Shirazu