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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第1部 死神の白魔法
3/77

2 モンスター



森から離れしばらく歩き"トリル・サンダラ"を目指し道なりに進む。



目的地までは徒歩でのペースだと、どれだけ早く歩みを進めようが1日はかかってしまう。

いまだ見えぬ広大な砂漠での探索をふまえた上で、まだ先の地への道のりはローライにとってとても辛いものに違いない。



「ちょっと休む?」



そう声をかけるも数メートル後ろに歩くローライは聞こえぬふり。



景観の良いなだらかな広々とした道を行き、彼はただ黙々と歩くばかりで前を歩く私の方を見向きもしてくれなかった。





森から離れかれこれ数時間は歩く、体力が有り余る程の年頃とはいえ一人の人間には違いない。


ペースの良い旅路、黙々と会話も無く只管に歩くとそれなりに余裕も出る。

多少の休憩を挟んでも問題は無い、そう判断し道を外れ近くの木陰へと移動しシートを引き座った。




後からやって来る彼はその様子を何か呆れるな物見で歩みを止める事をせずそのまま歩き続ける。


気を張っているのか意地になっているのか、呼びかければ休みやすいと私は思った。



「休憩しようよローライ君」


「1秒でもお前といる時間を短くしたいんだ、さっさと歩け」


「これは手厳しい」



折角の誘いも虚しくさっさと敷いたシートを畳み、追い抜いて行く彼の元へと走り先頭の方へと戻った。



静かな時間が流れ後方の方で歩く彼を度々気にしながら度々目線を送ると、目が合うたびに嫌そうな顔をする。



賑やかな旅だと期待はしていなかったまでも静かなその道中から聞き取れる風の音や草や葉、茂みが揺れ擦れる音が微かに響く中。



何者かの足音と風とは違う茂みの揺れ動く音を私の大きな耳は感じ取っていた。




「・・・何か居そうだね」と私はそっと彼の近くへと距離を詰めると、嫌々な様子で更に前へと進んでいくローライ。



「ローライ君待って!」



私が声を上げたその瞬間、颯爽と現れた岩に擬態していた大きな魔獣が数十本ある鉤爪の様な腕をローライの背後に周り振り下ろし襲いかかる。




「後ろ!」と私の咄嗟の声に反応したローライは素早く脇に挿した短剣を取り出し、何とか上手く防ぎ直様間合いをとった。



背に差した杖を取り出し、突然の事に驚いている彼の方へと歩み寄りすぐ様簡単な白魔法の応用で得た回復の擬似的な硬質魔法を準備し唱える。




「怪我はない?数分間だけ回復を自動で行う呪文唱えたからその間逃げて」



それを聞き鼻で笑い彼は答える。



「逃げる?俺はあの"支配の龍"を倒した男の弟子だぞ、余裕だよこんなやつ」




息を荒げ、口からは呼吸と共に荒い声が漏れる。彼の過度な緊張を感じまともな状況では無いことは見るからに明白。



無理矢理にでも止め連れ逃げるにも相手のあの素早さでは逃げるにも難しい、彼の護衛をしつつ速やかに倒す事の方が先決に違いない。




「無理はしないでね、傷の回復は出来ても痛みは取れないから痛みでショック死する場合もある事を考慮して立ち回って」



「俺に指図するな、役立たず」

「良く言われる」




前日のラックの発言通り恐らく彼にとって初めての戦闘経験になるはず、敵の攻撃の痛みを和らげる事を最優先し、傷への回復は感覚的に行われる自動回復に作戦をシフトした。




回復、擬似硬化魔法”シェルター”。


ヒーリング"シリウス"。


自動回復”ラピス”。


次々と魔法を使い重ねローライを主体に後方から唱えていると、彼は迷うこと無く素早く姿勢を低くし短剣を構えたまま魔獣の懐へと入っていく。



無謀にも近い彼の特攻、魔獣の腹を何度も斬り込みを行うも斬撃をものともせず鈍い鉄を叩く音だけが鳴り響く。

ものともしないその攻撃に魔獣は容赦無く彼に何本もの脚を使い鋭い鍵爪で斬りかかる。



四方からの攻撃に思わずローライも私の魔法をあてにしながら攻撃をギリギリに交わし、鋭く刺さるその爪の痛みに思わず身を引き、自ら前に先陣を切った彼は私の方へと戻ってきてしまう。




「なんなんだよこいつ!!いてえ!」

「不味い、思ってるより強いかも・・・」




彼が寸前に負った傷は、遅延して回復する私の魔法で塞がるも、その痛みに耐えかね足は怯み尻餅をついてしまった。


その様子を見逃すはずも無く、巨体でありながらも素早い身のこなしで直ぐに逃げ戻る彼に追いつき、大きく腕を振り上げとどめの攻撃を仕掛けようとする魔獣。




しかし、それもまたこちらも同じ。

大きく懐を見せた魔獣に、その隙だらけの腹をすかさず私は持っていた杖を大きく振りかぶり殴り叩いた。



「ガァ・・ァ・・」



魔獣は悶える様に倒れ込み、彼の手を握り足早にその場を去った。

逃げる隙を何とか作れたものの再び追いつかれる訳にも行かない。




私達はしばらく夢中になって走った。

手を握る方から「ゼェ・・ゼェ・・」と息切れしたの声が漏れている事に気がついた時には、あの戦いの場から既にかなり遠くまで走っていた事にようやく気がつく。


ふと我に帰り近くに大きい岩岩の間に身を細め身を隠すようローライを座らせながら周りを警戒したのち安全を確認したうえで続いて私もその場に座る。



「ごめん、大丈夫?」



彼はしばらく息を整え黙ったのち、震えた手で私のフードの胸ぐらを掴んできては顔を赤くし、憤怒の表情が顕にしていた。



「なんで逃げた!!勝てただろ!!逃げたらなんの意味もない!!勝たなきゃ学べない!!!」



冷静さをかいた必死の形相に私は彼を宥めた。



「あれにはまだ勝てない」

「倒れ込んでただろ!!」



「騙し討ちの可能性が高いうえにこれ以上無理な戦闘なんか続けたらあなたがどうなるかはあなたが一番分かってるでしょ?」



「お前が援護をサボってたからだろ!!

応戦もしないし大した魔法も使えない!!

攻撃出来る魔法の一つくらい使えろよ役立たず!!」



「ごめんなさい」



諭した様子が気に食わなかったのか食いしばる歯を見せ彼勢いのまま振り上げた拳で、私の頬を殴った。



「良いよな、どんなに痛くても自分で回復すれば癒えるんだろ?

戦闘に立たず後ろからずっと魔法唱えて痛い思いもしないしな」




彼の言葉に私は何も反論が出来ない。

それは、事実でしかないから。



「どうせいくら殴っても痛くないんだろ?

師匠の仲間って言っても全く役に立たないお飾りだったのに偉そうに・・・。



この嘘つきの化け物」




慣れている。

この子の言う通りだと思いながら、何回も殴られた。



それで気が収まるのであれば、それで私の弱さを許して貰えるのであれば、そう思いながら。



殴り慣れていない彼の拳が赤く腫れていくと振り下ろした拳を止め、掴まれた胸ぐらの腕を解き立ち上がり歩き出した。


服に溢れた血を拭い、殴られる度、昔のことを思い出し、自分から流れる赤い血を見る度情けなくなる。

こんな思い何度もしているのに成長しない。




「痛い・・・」





胸が張り裂けそうになるほど痛かった。







あれから会話も無くただ日が落ちるまで只管歩いた。




頬の痛みはズキズキと主張する。

ラックならカッコ良く、あの子の手本となる様な良い所を見せられたんだろうな。と思うと余計に情けなくなる。


私は彼等の様になれない、カッコのつかない大人だ。




気がつけば時間は過ぎ行き日が落ち、脇道に生えた木々を使い簡単なテントを建て、夜を過ごす。

寝床となる場所は開けた土地で幸いにも魔獣や盗賊といった危険は無さそうだった。



離れた場所で同じくテントを建てるローライ。

食事も別で済ます程に彼との距離は遠くなってしまった。



日が暮れ始めてから眠るまでいつも以上に寝付ける事が出来ず、欠かさず書いている日記を書き終えてもしばらく眠りにつく事が出来なかった。





翌朝、支度を済ませ彼のいるテントの方へと行く。



「おはよう」と声をかけるも顔を見てそっと目を逸らし身支度を整えるローライ。



「先行くね、ゆっくりで良いからローライ君」




昨日よりはマシにはなった顔の腫れと痛み、保冷された小さな水袋を当てながら傷の痛みを癒していた。



自分自身への回復はとても苦手で微かに痛みと傷は残るが時間が経てば治るので問題は無い。

ここまで傷も引いていれば後はこんな簡単な治療で十分。


朝から歩き続け、度々後ろを歩く彼を気にかけながら声をかけるが返事が帰ることは無い。



「もうそろそろ着くから、近くの森に入って川辺で水汲もうか」



そう一言彼に告げ、行き道から少し逸れ森の方へと方向を変え走っていく。

突然走る私の姿に彼は戸惑う様子を見せつつも距離はあるもののしっかりとついてきて来る。




森へ入り、直ぐに見えるなだらかな少し深い大きな川。



"トリル・サンダラ"手前にあり名の無いこの森、

ラック率いるパーティはここで休息をとった事が何度もある思い出の地だった。



「ここ懐かしいなー、昔皆んなで来たんだ」とローライに語り掛けるも案の定知らんぷり。



靴を脱ぎ、川の方へと入り空の皮袋に水をこれでもかと言うほど入れてはローライの方へと投げる。


彼は素直に水の入った皮袋を受け取り、河岸の方へ座り込んだ。



「冷たくて気持ちいいよ」



彼に声をかけるも、いまだに会話をして貰えず一方的な掛け声になる。

しかしここで折れれば彼との関係はこれで終わってしまう。何としても心を開いて欲しい。




いくつか皮袋にたっぷりと水を入れ、岸の方へ戻りカバンに詰め込む。


ふと木陰の方に目をやると彼は場所を変え座りながら遠くを見つめていた。


これから”トリル・サンダラ”へ目的の荷物を探索する上で連携ややりとりは必須になる。このままでは不味い、荷物を整頓する振りをしながら思考を巡らす。



そこから考えついた回答。




「そういえば道中凄い汗かいちゃったし汚れも落としたいし川入っちゃお!」




コートを脱ぎ、川へと走り出し飛び込む。

わざと大袈裟な水飛沫をローライに向けながらあげ、全身ビショビショになりながら両手を大きく手を振る。

大きく水がかかる事も無かったローライはポカンとした表情のまま固まっていた。



「ローライ君も入ろうよ」

 



その一連の行動に驚いた様子の彼はしばらく固まった後に、視線は上から下へと動くローライ。そんな私の姿を見るや否や直ぐ様顔を隠し怒鳴った。




「お前女かよ!!」

「へ?」

「コート一枚で移動してんのかよ!このド変態!!」

「メスだけど・・・私魔獣だし問題無いよ?」

「あ、そうか・・・」



そう答えるも彼は納得しつつ直ぐ様目を逸らす。



「いや!お前服着ろ!なんかダメだ!!普通じゃ無い!!」


「人間と違って体毛が多いから着重ねしにくいし、予備の服無いんだよね」



「じゃあさっさと、川から上がってコート着ろ!!!」

「気持ち良いのに・・・」




川から上がり彼の近くへと行くも露骨に距離を取られる、しかし会話の取っ掛かりに成功は出来た。


勢いのままに行動したはいいものの体が乾くまではコートを着れない。

紳士にも顔を背けたままの彼に私は謝る。




「ごめんね、乾くまで待ってね」

「この・・・・」




ローライは握り拳を作るも直ぐ緩めため息をつく。


会話は途切れてしまったものの、せっかく話が出来るチャンス。

私は彼との会話を繋ごうと話題を考えているさなか、話を切り出したのは意外にも彼からだった。



「なあ、なんでお前顔の傷直さないんだよ、当て付けか?」



話しかけられた事に一瞬驚き、言葉を選びながら考えていると変な間を作ってしまい気不味い空気が続いてしまう。

せっかくのチャンス、しかし失望されたく無いそんな事を考えていると会話にどんどんと隙間が出来る。


正直に答えよう・・・。



「私、自分の傷治すの苦手なんだ・・・。やろうとするといつも中途半端で上手くいかなくて」


「自分の傷も治せない奴が、回復役なんて戦闘するやつは不安で仕方ないだろうな」


「アハハ・・・そうだよね・・・、ごめんね。でもしばらくしたら治るから大丈夫、体は丈夫だから」


「そんなの気にしてねえよ、話してないで早くなんかで体拭けよ。裸で目のやりどころ困るから」


「服着てる方が不思議がられるんだけど」


「服を常時きてた奴が急に裸を当たり前の様に語るな」


「”郷に入れば郷に従え”ってやつ?」


「なんだそれ?」



「ラックの親友のユージーっていう人の生まれた国の言葉らしい。その人の国に入りたければ、その国のルールに従えって、意味だったっけ?」



「変なの、生まれも育ちも言葉も違う人間が見知らぬ土地のルールを知らなきゃいけないなんてさ」


「難しいかもしれないけど、本当に必要なのは尊重や尊敬を持って相手と接する事なんだと思うよ」




彼はその言葉に「成程な」と小声で言葉を漏らし理解を示してくれた。

話していると丁度良い乾き具合になり荷物の入った鞄から適当な体を拭えるほど大きな布を取り出し体を拭く。


その様子をチラチラと見る彼は軽く咳払いをする。



「なあ、お前あの時あの岩で出来た虫みたいな魔獣、その杖で叩いて怯ませたよな?」

「うん、そうだよ」



そう答えるとカバンに刺さった私の杖をローライは指差した。



「その杖もしかして、凄い強いのか」



「全然」

「はあ?」


「私の住んでた栖にあった魔術師の死体の上から生ったって言われる木から作られた杖で、昔銅貨3枚で売っちゃって買い戻した物だから。その時でも銅貨6枚だったかな」



「そんな杖で戦ったのか」


「流石に”支配の龍”の時には使えなかったけどね、というか無かったんだけど。でもなんでそう思ったの?」



「・・・いや、あいつ一撃でのしたからてっきり武器が強いんだって」



「今までの戦いの経験値ってだけだよ。

初見の魔獣や妖虫でも大体見れば相手の弱点や、間合いとか力量とか分かるんだ。


あの魔獣は外殻が硬いけど、柔軟な関節部はあの身のこなしを見るに中は柔らかいから打撃には弱いかなと思って」



彼は鼻で笑い言う。



「お前みたいな戦えもしない、自分の回復もままならない直ぐ逃げる様な奴が経験?経験っていうのは敵を倒せば倒すほど体に染みつく直感と反射神経の事を言うんだ」




自慢げに答える彼、間違ってはいない。しかし私の考えは違う。




「それもそうかもね、でもね、逃げても良い。


大切なのは相手の動きを良く見て観察して、相手や地形や環境を見てどう適応して生きてきたのか、知る事で戦わなくても経験になるんだよ。


ただ只管に武器を振るい、力の押しつけで勝ててもいつか力だけが戦いの全てになっちゃってどこかでつまづくんだよ。そして何より死なない事」



「弱いくせに説教か、説得力のない中身の無い内容だな」



「ラックが教えてくれたんだ、その後に『お前は戦わなくて良い、だけど俺と相手を良く見ろ。怖くなったら逃げても良い、俺が守ってやるから』って、カッコつけてね」



「師匠が・・・」


「ラックには中身が無いって言ったこと黙っててあげる」


「あ!!お前」


「これでおあいこね」



そう言い傷のついた頬を指差しニコリと笑みを見せてやった。

初めてしっかりローライと話せてとても嬉しかった、少しは仲良くなれたと勝手に思う事にする。



これだけ話しが出来ることは良くも悪くも今後の連携に関わる。



何より少し彼の事が知れて嬉しかった。





7





森から離れしばらく歩くとすぐに視界は一面砂の世界。

乾燥した空気に朽ちた建物と思わしき瓦礫の岩々、舞い上がる砂埃、見渡す限り砂と岩だけ。


気が付けば、道の途中から草木は突然消えた様にまるで何かの境界線の様にすっぱりと見なくなる。




"トリル・サンダラ"は広大な砂漠地帯、北の方へとずっと進むと街があるがそれすら視界に現れるま

で途方もない。


目的の物は北東にあると言うが目印も無ければ、ただただ見渡す限り緩急のある砂の山々だけだった。




「久しぶりに来たけど、本当にどの方角でどの位置にいるのかさっぱり・・・」


「幸先悪そうだな」


「日差しも強いから帽子かぶってね、暑いけど目が灼かれちゃうよ。帽子ちゃんと持ってきた?」


「母親気分か?」



砂漠の砂を踏み入れ、しばらく歩いた後ローライはカバンにしまっていた鍔広帽子を被りながら目を閉じ集中した様子でくるりとその場で一周ゆっくりと回り途中方向を変え指を指した。




まるで儀式や魔術を扱うようなルーティーン。

彼から感じられる魔力の流れは師匠譲りでラックの面影を感じた。



「あっちに進むと町か遺跡かわからないけど、少なくともなにか建物がある。見た所辺り砂だらけで、山とか岩場は戻らない限りないからあっちだ」



彼の指差す方を注意深く目を凝らしてよく見るが建物やそれらしき大きな物は見当たらず、陽炎の影響でかなりの遠方に小さな影がぽつぽつとしか確認が出来ない。

これが彼の探知能力なのかと感心でしかなかった。



「山や岩場も無い事は見れば分かるけど・・・なんであっちの方向なの?」


「風の流れ、あと何でも良いんだけど適度に重みのある物貸せ」




カバンの中を無造作に探り、適当に手に取った勲章を取り出しローライに手渡すと直様空を見上げながらその勲章を空高くへ放り投げ、直ぐに落ちてくる勲章をその位置に留まったままキャッチし手に取ったじっと勲章を見つめていた。




「・・・ってお前これ師匠の持ってる勲章と同じヤツじゃねぇか!!”光輝の印”なんか渡すなよ!!馬鹿かお前!??」



「丁度カバンに手を突っ込んだら出てきたのそれだったから、投げやすかったでしょ?」


「もっと他にあっただろ!!!お前これ絶対人の手に渡しちゃダメだし、こんな物投げさせるな!!」


「いや・・・投げるとは思わなかったから・・・」


「だからって渡すな!これ授与されたやつ以外が持ってたら重罪なんだぞ!!」


「へ〜」



彼はゼェゼェと息を吐きながら怒鳴り続けその場に座り込み大きくため息をついた。内心要らないと思っていたけど、今それを言うとまた怒られるので静かに座り込む彼が立ち上がるのを待った。




"光輝の印"、それは世界を救った者達にのみ授与される勲章である。


諸々説明は受けていたはずなのだが、当初の自分が思っていた程の価値が無かった事もあり、それが如何に素晴らしい物なのかという世間的価値やその勲章の使い所等、言われるまですっかり忘れていた。




「あ〜もうお前のせいで探知出来ないじゃねえかよ」


「ごめんなさい、それであれはどういう動作なの?」



「あれはなんでも良いんだけど、特定の物や物体に自身の視点を追加する魔法。


さっき投げた勲章に視点を移して空に投げたそれ目線で上空から周辺の地形をある程度認識した後に、ここから更に視点の先の地形を予想するつもりだったんだよ。


もう集中力も切れて予想も出来ないけどな」



「じゃあ今の一瞬である程度のこの地の地形は把握出来たの?」


「まあな、あとは目標の物の探知だけど。軽く数メートル見た雰囲気では無さそうだな」



「お〜」と少しオーバーに拍手をするとローライは気にする様子もなく砂山に登って行き、辺りを見渡しながら勝手に先へと歩き始める。



その後を追うよう後ろに付きながら周辺を気にするが、なんとも言えぬ違和感を感じながらも確信が持てぬまま探索は続く。



しばらくは特に会話も無くただ黙々と何も無い砂山の傾斜を昇り降り、彼は周囲を見渡しては立ち止まり集中、立ち止まり集中と繰り返す。


何かしらの違和感が何に対しての物なのか考えながら周囲への警戒を続ける。




そして、気がかりだった違和感に逸早く気づいたのは、探索をこなしていたローライだった。



「なあ・・・あまりにも静か過ぎないか?ここらはこんな物なのか?」


「分からない、随分久し振りに来るから・・・」



それを聞き、不安な様子を見せた。



「基本的に俺は器用じゃない、探索範囲を広げたり集中してる時は敵の探知はこなせるけど咄嗟に戦闘が出来ない上に普段より労力も魔力も使うからな。

終始こんなのずっと使えないからタイミング見て解かないとダメなんだ」




ローライはカバンから簡単に紙で包まれた四角い物を取り出し、紙を捲り現れた緑色の固形をガリガリと食べ始め、腰に刺した地図を読み始める。



「ローライ君それなに?」


「なんだよ今、地図見てんだから話しかけんな」


「ごめんなさい」


「・・・・・、携帯保存食だよ。即効性もあるし消耗した体力や魔力の回復、栄養素もある。

携帯しやすい、何より作り方によっては環境や状況に合わせた配合出来る・・・・って、お前仮にも魔法使いなのに知ってないのかよ」



「へ〜・・・初めて見た。今って飲むタイプじゃないんだ」



「まあ経口補給水のやつ不味いからな、即効性はあるにしても腹も満たせないし、配合も限られてる」



「美味しさとか栄養素とか腹持ちとか考えるんだ、昔程急な戦闘も無いからかな」



「言ってもこれもあんまり美味しくないぞ、食べるか?」



カバンから同じ物をもうひとつ取り出し私に手渡してくれ、包み紙を開くと密かに薬草といくつかの魔力増強剤やら果汁等の匂いがした。



「甘酸っぱい匂いはカボン、後は薬草は良いもの使ってるね。魔力の補給はミテンとユーナミミかな?」



「マジかよ、配合当てやがった・・・流石獣」



歯触りは硬く、少しゴリゴリとしていて少し口の水分が奪われる。味は果実のおかげで薬草やいくつかの補給水の嫌な味や匂いを甘味料等でも誤魔化しているが、味がごちゃごちゃとしてて美味しくはなかった。




「うん、美味しくないね」



「まあこれで、魔力回復に魔力の補助効果や自然回復増進。あとは暑さの緩和する効果一遍に取れるから文句言うな。補給水だけだとここまで作るの大変だしな」



「え、これ作ったの!?ローライ君凄いね・・・、あ・・・美味しく無いなんて言ってごめん」


「美味しい物作るつもりで作ってないからな、魔獣には丁度良い餌だろうけどな」


「酷い」



大きく開いた地図をまじまじと彼は眺めながらあちらこちらと印を付ける。恐らくこの広大な地、自分たちが丁度どの辺りにいるのか計算しながら印をつけているのだろう。



その様子を携帯食をガリガリと食べながら眺めていると、激しい轟音と共に大きな影が突然2人を包んだ。




「なんだ!!?敵か!!」


「ローライ君、空」



ローライと共に上を見上げると、大きな魚の形をした砂が塊になり空を飛んでいた。

優雅に泳いで見せるその大きな砂の塊。晴天の空がまるで海にも見える。




「なんだあれ?!!」


「凄い・・・あんな大きいの初めて見た・・・」


「何呑気に眺めてんだよ!!逃げた方が良いだろ!!」


「大丈夫、あれは"砂上の夢"っていう自然現象なんだ。落ちてこない限りは心配ないよ」


「"砂上の夢"?」



大きな魚を象った砂の塊は遥か高く、跳ね上がるように空を舞っていた。その光景に目を奪われ、ローライも落ち着きを取り戻した様子で同じくゆっくりと頭上遥か上に舞う砂の魚を目で追っていた。



「空気中にある微量の魔力の元になる魔素が風で舞う砂1つ1つについて、集まってくっついた塊がああやって砂達の魔力を消費するまで、何かしらの形になって空に舞うんだよ」



「凄い・・・」


「凄いよね、いつもならもっと小さい塊で色んな物になって空に舞うんだけど。こんなに大きいの初めて見た」



「あれは・・・魚?」



「昔存在した大きな口を持つ、1つの町にも匹敵する巨大な魚の絵を見た事がある・・・多分それだね。名前は"オペラ"」



「オペラ・・・」



空を舞う大きな魚"オペラ"。その形をした砂の塊は空で少しづつ削れていき、巨大な塊は再び遠くの方で轟音と共に沈む様に、まるで海に帰り飛び込むように砂の山へと落ちていく。


何度見ても不思議な光景だった。



「なんで、砂が集まってあんな姿形になるんだ?」



「分からない、けどラックは砂たちの記憶って言ってた。削れた石や、かつてここが海だったのかもしれないって。その時に自然達が見ていた風景になぞってあんな形になったんだろって」



2人してその大きな砂の塊に見とれ、消えた砂の塊は遠くの方で少し大きな傾斜が出来ていた。

その様子を終始見ていた後に少し上擦った気持ちがあったのかしばらくその場を動けなかった。

ふとローライは砂が落ちた先を見たまま言う。




「あの大きな魚となんか関係あるのかな」





読了ありがとうございました。

これからも続けて行きたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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