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白魔導師と龍の獣道 ~二匹の魔物が形見をお届けします~  作者: 世見人 白図
第1部 死神の白魔法
11/73

10 きみを連れてゆく

17


聞きたいことが山程ある、しかし龍の一件もあり、あまり立ち止まる事も出来ない。

今は”トリル・サンダラ”を抜け、近くの街に避難が先。


「とにかく、さっき説明した通りここ一帯は危険だからこの砂漠から出る。あなたに聞きたい事もあるし、一緒に来て」

「やだね」


予想だにしていなかった答えに驚きを隠せなかった。その様子を見て楽しげに笑う彼女はゆっくりともう一度「やだね」繰り返し答えた。


「どうして?ここは本当に危険なんだよ?私達と共に行動していた方がまだ安全だと思うよ?」

「お前達が相当怪しいからな、さっき説明にあった龍や町のことは兎も角としてそれで何故お前達を信用しなければいけないんだ?」


彼女の言う通りだった。この状況に困惑しているのは自分達だけでは無い中、藁にも縋りたいはずだがこの状況でも疑心暗鬼でいるというのはとてもしっかりとしている、芯のあるしっかりな子だと関心すらあった。

しかし彼女を信用させることの出来る、証明する物を落としてしまったので説得力はおそらく皆無だろう。

・・・いや、ある。

服の襟口から首に下げている青い星が掘られたペンダントを取り出し彼女に見せる。


「これはギルド[スターキャリアー]の証、国営機関カラット本部所属。これで信用してもらえた?」


彼女は首を傾げながら「なんだそれ?」と一蹴。国営機関の中でもあまり目立った活動はしないにしても、地質調査員の親を持つこの子が知らない事に驚いてしまった。


「あ、え?お父さん地質調査員だよね?」

「・・・ああ、そうだがなんで知ってる?」

「あなたの家でお父さんの日誌を見つけて読んでしまったの・・・、あの町の状況について何かの手がかりがあると思ったんだけど」

「勝手に上がり込んだのか?」

「・・・ごめんなさい」

「まあいい、その首飾りが何を意味してるのかは知らん。父についても俺は基本的に干渉する事は無いから知らん」

「そっか・・・。困ったな・・・」


服の下に戻そうとしたペンダントをマジマジと眺める彼女は何か腫れ物が取れた様な顔で私に言う。


「思い出したぞ。その印が刺繍された大きなリュックを見た」


その言葉で一瞬驚きはしたが、ある意味予想通りではあった。


「どこで見たの?」

「前に出会った男が持っていた」


やっぱりあの日誌に書かれていたのは"リオラ"だ。

彼女とも接触していた。


「私達はその人の持っていたリュックを探してるの、何か知らない?」

「そいつのリュックに何かあるのか?」

「その人はこの土地で亡くなっていて、その人の遺品であるリュックをその人が大切にしていた人に届けるのが私の仕事なの」

「成程、そいつがなんで死んだ事を知っているんだ?死体は?」

「亡くなった事については今回は特例なんだけど。ギルドが保有する特別な探知魔道具を付与していて、子途切れた際にその魔道具が発動して、特定の機関やギルドに発信がいく。それでその人が亡くなったって分かるようになってるの、だから死体に関してはまだ回収はしてないし誰も見ていない。

発信から時間も経っていてそこの土地の魔獣が食い荒らしたりするケースが多いから持ち帰りたいのは山々なんだけど・・・そこも事情があって持ち帰れないんだ」

「なら、死体は見てないんだな?」


つい時間をかけ説明してしまったが、そもそもギルドや自身の父親の所属にも無関心なこの子に話す内容でも無い。

信用を得る為には情報を素直に渡すのが一番良いと判断したからだった。

だけどなんでそんなに"リオラ"その人の所在やその人の事を知りたがるのか少し気がかりではある。

何か知っていると見て間違いは無さそう、あまり直接的に聞くのは避けた方が良いのだろうか?


「遺体は見てない、恐らくもう無いと思うし万が一私達が見つけられてもどうこう出来ない・・・。せめて遺体を見つけられたのなら、その人の持ち物も付近にあるはずなんだけど」

「成程、あんな頼りないガキ使う程お前のいるスターキャリアーっていうのは小さい組織なのか?」

「1から説明したいんだけど、さっきも話したみたいに今はここは危険なの。私もあなたに聞きたいことはいっぱいあるけど、とにかく私達とこの"トリル・サンダラ"から離れよ」

「やだね」


埒が明かない、無理矢理にでも連れて行く他無いのか?話している時間も惜しい。放っても置けない。


「こんな短時間に信用しろなんて無理な話だと私も思う。だけど今はとにかくこの"トリル・サンダラ"から一刻も早く離れないと、あなたもさっき話した龍に襲われる。だからお願いついてきて」


彼女は黙ったままこちらの様子を話終えるまで静かに見ていた。ローライが仕掛けた泣け無しの一欠片の食料にも躊躇無く口に入れる程だ、疲弊しているはず。

恐らくこのまま"トリル・サンダラ"に居続けもしない、いずれここを抜けた近くの街へ避難する。

そうなった時、この"トリル・サンダラ"を抜ける際1人での行動はあまりにも危険過ぎる。


「条件がある」

「条件?」

「俺はオアシスに忘れ物をした。それを取りに行きたい」

「今からは無理だよ」

「大丈夫だ。龍が海の向こうへと行くのを見たからな」

「やっぱり、龍をあなたも見たんだね」

「お前達の会話に粗があるか探る為自分から口にはしなかったがな」

「随分冷静だね。だけど龍はまたここに戻ってくる可能性も高いからやっぱりその条件はのめない」

「俺はこの何日か逃れられたんだ。それをやれば大方見つからない」


確かにこの少女が龍を撃退出来るはずもない、この二週間上手く隠れ生き延びたのも事実。

しかしバレた時の事を考えると今度こそ全滅してしまう。この子一人を信用してとる行動にしてはあまりにもリスクが高い。

少し悩んだ、その様子を見て彼女は更に付け加え言う。


「さっきその印を見たと言ったよな?それはそいつが持っていたリュックに刺繍されていた。そしてそれと同じ物を隠れる時に見つけた。どこにあるのかも知っている」

「え、リュックの居場所知ってるの?」

「ああ、なんとも偶然な事にオアシスで見た」


オアシス?一度出向いている。しかしそこでは見つからなかった。

嘘をつく理由も分からない、誘き出されている様な気もするが考えすぎなのか?


「オアシスには私達行ったけど、荷物はなかったし、何か変わったものや道具もなかったよ。そんなとこに忘れ物があるの?」

「お前達何も知らないんだな」

「どういうこと?」


彼女は地面の砂を指差しそういった。しかしそれでも意味を理解出来ずしばらく黙っていると呆れた様子でため息をつかれた。


「この砂の中」

「それで逃げ切れたの?俄かに信じ難いけど・・・」

「まあ相当の余裕が無いと無理だが、咄嗟の時にはこれを使う」


そういうと彼女は服の内側から人が二人分程覆える大きな敷布を広げ自身をそれで包んだ。

見事なまでにその布は"トリル・サンダラ"の砂の色と酷似しており、一見するだけではまるで見分けがつかない程に視界一面に溶け込んでいたのだった。


「すごい」

「現地の人間なら皆知っている知識だ。大抵の魔獣やそれらには通用する。龍も同様にな」

「でも、探知が使えた場合は見つかるでしょ?」

「探知?魔力の力や魔法でって言う話なら別だな、その場合は砂の中に隠れた方が適切だ」

「砂の中?」

「今、この地帯一帯に強い魔力が働き、砂があれよあれよとその影響を受けて形をなす程にな」

「"砂上の夢"だよね」

「そうだ、その影響は地中の中の魔力も同様だ。簡潔に言えば、物であろうが人であろうが砂の中に潜れば基本的に見つからない。それは今の環境だからこそ余計にだ」


それが影響していて探知での物の捜索が出来なかったと言う事なのか。ローライの使用する探知能力や魔法の理屈は詳しくは分からないけど、恐らく彼女の説明通りなら見つからないのも納得がいく。

つまり目的のリュックも砂の中、当初想定していたリュックの行方は半分正解だったのだ。


「さあどうする?俺と一緒にオアシスに忘れてしまった物を取りにいくか、お前達だけで逃げ帰るか」


彼女はニヤつき言う。分かっている、私達が、又は私がこの子を放置しそのまま帰路へと進まない事を。


「分かった、けど二つお願いがある」

「言ってみろ」

「一つは、彼だけでも帰したい」


遠くで待つローライの方を指差し言うと彼女は笑う。


「一人で帰すのか?ここから出るまでにまだ距離があるだろうに、その間に龍の餌になっているかも知れんぞ?」

「あなたが龍が海の方へと飛んでいくのを見たんだよね?私はあなたを信じる。もしそれから龍がこちらの方向に来たのなら私が足止めをする。どれだけ出来るか分からないけど、私は彼が無事にここを抜け出せるまで時間を稼ぐ、もちろんあなたは隠れてくれて良い、それにローライ君には同じ事を教えるから大丈夫」

「ずいぶんあの人間を信用してるんだな」

「まだ幼いけどしっかりしてるよ」

「それで二つ目は?」

「二つ目は何を忘れてきたのか。形やどういった物なのかを教えてほしい、それは私が探す上でも大切だから」


少し悩んだ素振りを見せる彼女は少し間を明け答える。


「そうだな、お楽しみといったところだな。それに関しては隠してある」

「”砂上の夢”の影響で砂に乗って移動してる可能性はない?」

「ないな、かなり深いところに掘って入れたからな、リュックもまあ大丈夫だろ」

「じゃあ、大きく形を成した”砂上の夢”が崩れて地形や荷物が埋まっても分かる物なの?」

「ああ、たまにデカい魚やら生き物やら木やらに砂が化けて砂に戻って崩れるな、その場合は地道に探すしかないが、今回探す二つに関してはおおよそ大丈夫だろう」

「なにか確信があるって事だよね。分かった、少しだけ待ってて。ローライ君に話してくる」


彼女から一旦離れ、ローライのいる方へと行く。会話の内容と彼女がやり過ごし龍との接触の回避方法等を伝えた。

彼は静かに話を伝え終えるまで聞き、まっすぐと私の目を見て言うのだった。

読了ありがとうございました。

これからも続けて行きたいと思いますので、ブックマークや評価、感想等頂けますと励みになります。


続きを制作しておりますので今後とも楽しんで読んで頂けるよう尽力いたします。

宜しくお願い致します。


-世見人 白図- Yomihito Shirazu

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