第3話 世界樹の迷宮ギルド
「エヴァちゃん起きなさい!珍しいね。あんたがこんな寝坊なんて!」
女将さんのルイゼが、エヴァの肩を揺すって起こす。
「え……女将さん?おはふぉうごじゃいます。」
「え?じゃないよ!今日は迷宮探索家試験の日だろ?うちの店総動員で一緒に付いて行ってやるんだ!シャキッとしな!」
昨晩、眠れずに寝床から飛び出し、世界樹に向かって叫びまくって帰宅したエヴァは、部屋に入ると急に眠気に襲われ、そのまま布団もかけずベットにもたれ掛かるように深い眠りについた。
普段は寝坊をすることのない彼女であるが、この日は、目を覚ますことなく今を迎えている。夜に叫び続けた疲れが緊張を和らげ熟睡が出来た為、体調は万全である。
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そうだった……今日は、大事な私の試験の日。
お店の姐さん達と一緒に試験に……え?
「え?店総動員って?」
「あんたは迷宮探索家になるんだよ? 最初に舐められちゃいけない! うちの奴らは、それなりに顔が利く奴らばかりだしね!一家総出で行くよ!」
「お……女将さん~ありがとおお。」
「皆お前が好きなんだよ。と、言っても起きている奴なんかいやしないから、叩き起こしておいで!」
「はい!」
エヴァは嬉しくて溜まらない表情を隠すことなく、彼女の姐さんである娼婦達を叩き起こしに回り、起こした姐さん達に「活」を入れてもらう。
◇
「さて、みんな集まったね!フィオレ、カイト、フローラ!私と一緒に『迷宮ギルド』に行くよ! 他の奴らは、試験会場入口で待ってな!いいね!」
女将さんの号令に、総勢15名の娼婦一同は声を上げる。
そして、ルイゼの娼館『華の蝶』の面々は、エヴァの晴れ舞台「末っ子の宴」に向かうのであった。
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『迷宮ギルド』のギルド会館は、世界樹の迷宮1層にある。
1層は俗にいうセーフティーゾーンであり、ひとつの観光スポットでもあり、そして、フローター達の集う場所。
―――そのフローターの原点にして聖地に
15名の娼婦と2名、総勢17名の夜華の蝶が舞い降りる。
野郎どもは口笛を鳴らし、女性陣はその美しさにに歓声を上げる。
彼女たちは、迷宮探索家であり娼婦なのではなく、娼婦であって迷宮探索家なのである。皆生い立ちは歪んでおり、底を見ている。
そこから、這い上がり迷宮探索家として名を馳せた面々。迷宮探索家チーム『華の蝶』のメンバー。
威風堂々と、中央通りを列をなして歩く。
その頂点に、先頭を歩くエヴァは顔が真っ赤にしながら歩いている。
でも、エヴァは、その心の真髄に、この姐さん達を、自慢に誇らしく思っている自分がいることをわかっている。
だからこそ、まだ、蕾と兪やされる若い胸を堂々と張りながら、ギルド会館にゆっくりと、愛する家族を自慢するように、向かっていく。
◇
女将さん、フィオレ姐さん、カイト姐さん、フローラ姐さんと共に、エヴァはギルド会館のドアを開ける。
他の姐さん達は、試験会場と呼ばれる闘技場のような場所へ向かっていく。
―――さぁ行くぞ! 姐さん達に勇気を貰ったんだ!ここからは私が魅せる番!
エヴァは、ギルドの受付まで進み、事前に手にしている神殿の証明を、受付の係に手渡す。
「エヴァ・グリーンウェルさんですね。お待ちしておりました。神殿からの証明の確認を個室で行いますので、こちらにお願いします。ルイゼ様達は、あちらでお寛ぎながらお待ち下さい。」
「おう。サーシャー悪いがうちの娘を『宜しく』査定してやってくれ!」
「もちろんです。」
女将さんたちは、テーブル席に座り、酒を頼みながらエヴァに手を振る。
そして、目と目で無言のエールを送り、彼女を送り出す。
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「改めまして、エヴァ・グリーンウェルさん。私は迷宮ギルドの迷宮探索家担当官サーシャと申します。今回のあなたを試験するものです。また、合格した場合のケア等も、私が担当させて頂きますので、頑張って合格を目指して下さいね。」
「はい!サーシャさん。よろしくお願いします!」
サーシャは、無邪気な笑顔で答えるエヴァを微笑ましく思うが、ここは仕事だと表情を崩さずに、険しい顔を保ちながら、ステータス確認準備を始める。