第104話 セビオの『自滅』✿とファランクス
セビオが、青ざめた 顔でポツリと言う。
「モ……モンスタートレイン!? 『今』じゃないだろ……。」
「え? 『今』?」
ローズヒップが、驚いたように聞き返す。
「ローズ君。ここは逃げ――『 ”先輩” あの迷宮探索家助けますよ!』
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逃げると言い出すセビオを、ローズヒップが言葉を被せてその言葉を無効化する。
そして、一度、”心を殺した” ような目となり、『今ね』と、セビオに甘えだす。
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「流石ですぅ~、セビオさんの慈悲深い判断が~あの迷宮探索家のピンチに間に合わせたのですね~。私~『ほれ・ちゃい・そ♡』です!」
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加えて、下目使いでセビオに色目を使い、耳元で囁きながら、「妖艶な香り」と共にセビオの頬を優しく撫ではじめるローズヒップ。
そして、彼の首元に軽くキスをして、耳をペロリと舐める。
「え? はぅん……聡明な僕に任せれば万事、OK、ん……。」
彼女の柔らかい体を胸元で、滑らかなぬるりとした感覚を首筋と耳元で感じ、感応の声を漏らしながら、興奮が隠せないセビオは、彼女にキスを迫る。
「せ・ん・ぱ・い、それ~は、帰ってから……ゆっくりとね。」
ローズヒップは、指でそれを塞ぎ、頬を再び、ひと撫でする。
「あぁ、そうだね……それじゃあ、君は盾で彼を。うん、大丈夫、大丈夫なんだ。だって、これは……。」
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ブツブツと話しが止まらなくなった彼の『証言』を聞きながら、ローズヒップは、舌なめずりをして、無邪気に笑みを浮かべる。
「(何となく全部)分かりました~。身も命も「お預け」くださいねぇ♡」
「うん……。君も身も心も……僕に……。」(ブツブツブツ)
トロリとした顔で言う彼の言葉を聞いて、彼女はニヤリと笑い、
数十体は居るであろうモンスターの大群に、大盾を構えて突進していく。
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『ハァアアッ!!!』
大盾で突進をして、ローズヒップは、逃げてくるE級ランク1位『シドニー・スカルゴン』の横を通り過ぎる。
「――感謝します」
「引き付けるから、体制を立て直したら直ぐに――」
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すれ違い様に言葉を交わし、パーティ申請を済ますローズヒップ。
少しだけ進み、足を止め、回復薬を飲みモンスターの方に振り向くシドニー。
大盾の突進が、先頭の『ジャイアントレッドスコーピオン』にぶつかり、赤蠍が吹き飛ぶ。
同時に、彼女が大盾を地面に差し込むと、盾の上部が撥ね出し、更に大きな盾へと変形をする。
その体制のまま、盾に頭を付け『気』を練り込みスキル名を叫ぶローズヒップ!
「スキル盾受拘束、スキル絶対認識、重ねスキル……、」
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『―――絶対拘束盾受』
赤いオーラが盾に宿り、そのオーラに目が釘付けになるモンスター達。
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『シーシィイイイ、ジャアアアア――――』
『ギュウウウー』
モンスター達は目が赤くなり、明らかにその盾に対して怒りを募らせている。
そして、一斉にローズヒップの『盾』に襲い掛かる!!!
そこには、モンスター同士の秩序などない。
「軽いわね。」
不敵に笑いながら『全モンスター』の攻撃を一手に受けるローズヒップ。
この大盾の形状は、女性の腰のくびれのように、真ん中よりやや下あたりが窪んでいて、その窪みから彼女は狂ったように剣を突き刺しまくる。
―――シュン
その時、彼女が突き刺した『砂リザ』とは別の『砂リザ』が泡と化す。
「おまたせしました。」
「早い! やるじゃん。」
その一閃。黒ずくめの装備を身にまとったシドニーが、大剣で『砂リザ』を一刀両断にしていた。
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「『砂リザ』からッ 攻めるなんてッ 分かってるぅ!」
「いえ、 あなたのッ 誘導がそう見えたッ からですよ。」
流石、E級と言えどランキング1位の孤高の戦士。
実力の差は歴然な『三つ葉』の絶対拘束盾受ローズヒップに、しっかりと合わせてくる。
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「あんた、本当にE級なの!?」
「いろいろありまして『都落ち』した口です。」
ズカ、ズカズカズカ―――。
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「あぁ……成程ね。怪我?」
「はい。でも幸いにも『賢者様』にお会いできて、E級からですが復活です!」
「ふーん。面白いわね、シドニー・スカルゴン。担当は?」
「えーと……そこの、セビオさん?」
ズカズカ―――。
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「あぁ……あれもう『詰んでる』から、明日私のところいらっしゃい。」
「え?」
「いずればれるしいっかー。このモンスタートレイン、あれの仕業よ?」
「え? えええええ!?」
「『幻惑貝の魔香水』で幻惑なうよ。
彼、何故か持っていたのよね……。だからクスねて、こっそりとゆっくりと~」
彼女は、今までのうっぷんを晴らすように、思いを「間」に込める。
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「―――それを、使ってあげたの。そしたら、無意識に全部ゲロッたわ♪」
「あなた、悪い人ですか?」
ズカ、ズカズカズカ―――。
「うふふ。そうかもね~♪」
「あ……後ろから一体。」
この数のモンスター達を会話を交え一蹴していた彼女達であったが、後方から現れた『ジャイアントレッドスコーピオン』が、幻惑中のセビオの背後に迫っていることに気が付く。
「あ、ヤバ。生ける証人が……でも動けないし、まぁいいか!」
「いや、だめっすよ。僕が行きます。」
呆れながらも、シドニーが助けに向かう。
(しかし『幻惑貝の魔香水』は恐ろしいなぁ。だって、セビオさんむっちゃ『空気』と戦ってるもん。 あ……。)
シドニーがセビオの『素振り』に辿り着く前に、赤蠍の毒尾が……セビオの背中を捕らえているのを彼は見て、間抜けな声を出す。
◇
『ひぎゃあああああーーーー!!! 溶ける~溶ける~~。』
『幻惑貝の魔香水』が見せる幻惑が、受けた痛みと毒の効果を、数倍誇張したイメージとなり、セビオの脳裏に猛威を振るう。
「やめろーやめろー。」
剣をぶんぶん振り回すセビオが、彼の足元にあった素材袋に手をかける。
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中にあったのは、『爆弾ワームの破裂殻』を『硬ゴムの実』でコーティングした爆弾が……いっぱい。
それを思いっきり遠くに投げ、火の魔法『火の粉』を放つ。
―――ドゴォォォォン、響き渡る爆音と爆炎!!!
「あ、やばぁ……。」
「まじか……。」
慌てて後ろに飛び、身を屈めるシドニー。
『絶対拘束盾受』を解き、シドニーの元に大盾スキル『カバーリング』で飛ぶローズヒップ。
拘束が解け、爆音に慄き、逃げていく残り数体の赤蠍達。
そして―――。
悪運強く、自分を刺している赤蠍が盾となり、吹き飛ばされるも致命傷を免れ、泡を吹いて気絶しているセビオ。
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『何処から』であろうか、彼の計画にズレが生じて、ボロを出し。
それを利用され、幻想の中で全てを語った後、自ら用意した爆弾で、自分に止めを刺す……。
そんな彼の『誤算』から生まれた「第2の爆発」。
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それは、ローズヒップも、フィオレすらも気が付かない中で、エヴァ達を砂の底へ誘う引き金となったのであった……。




