表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

悪魔に捧げる魂

 俺を好きになった理由を教えてくれた後、セーレは少し照れ臭くなったのか「ちょっと散歩してくるね」と言って、部屋を出て行ってしまった。


 一人になった俺は「生まれ変わるたびに再会している」

という話を思い返しながら首を傾げた。


 どうして俺は今まで、セーレに魂を奪われずに済んだんだろう。


 以前、ウァサゴが言っていたんだけれど、悪魔に奪われた魂は、無に還るらしい。

 魂は消滅してしまうから、二度と生まれ変わることがないはずなんだ。


 それなのに、俺は何度も生まれ変わっているって言うから不思議でさ。


 何か、魂を奪われない秘訣でもあるんだろうか。


 そんなことを考えつつ布団でゴロゴロしているうちに、いつの間にか俺は眠ってしまった。


 翌朝、早い時間に目が覚めた俺は、まだ寝ているみんなを起こさないように、大人しくガイドブックをめくっていた。

 すると、ある神社が目に留まったんだ。


 俺はセーレの話を聞いて、もう一度頑張ってみようかなと思っていたところだったから、決意表明も兼ねて神社へ願掛けをしに行こう! と思い立った。


 ガイドブックに載っていた神社は旅館のすぐ近くにあって、朝早いせいかまだ誰もいなかった。

 参拝を終えて境内をうろついていると、本殿の後ろから長い階段が伸びている。

 目を凝らすと、遥か遠くに鳥居らしきものが見えた。


 せっかくだから行ってみようと思って階段を昇り始めたんだけど、これが大失敗だった。

 階段は急だし、いくら昇ってもちっとも鳥居に辿り着かないんだよ。

 嫌になった俺は、諦めて引き返すことにしたんだ。


 だけど向きを変えようとしたその時、足がもつれて階段を踏み外してしまった俺は、なす(すべ)もなく下まで転がり落ちてしまった。


 どれくらい時間が経ったのだろう。

 誰かに抱きかかえられた気がして目を開けると、セーレの泣きそうな顔が見えた。

 周りには、他の悪魔達もいる。


 早く病院へテレポートしなきゃ! とアンドロマリウスが叫んだけれど、痛みの感覚すらないし、俺はもうダメだろうなと自分で思っていた。


 そこで俺は、死の間際に願いを叶えてくれるというセーレの約束を思い出して、頭に浮かんだ願いを口にしたんだ。


 俺、生まれ変わったら、またセーレ達と一緒に暮らしたい。

 だから、来世でも必ず俺を見つけて。


 俺の言葉を聞いたセーレは、泣きながら頷いた。


 遠のく意識の中で「こいつの願い事はいつも同じ内容だな」って呟くダンタリオンの声が、聞こえたような気がした。


 その後どうなったかというと、この話をしていることからも分かる通り、俺は一命を取り留めた。


 目が覚めると病院のベッドの上で、親父が号泣しながら俺の手を握りしめていた。


 俺は、二十歳の誕生日を迎えた翌日から行方不明になっていたそうで、親父はずっと探してくれていたみたいだ。


 親父が悪魔を召喚した件については、触れない方がいいのかなと思って、俺からは何も聞かないようにしている。

 親父の方も、そのことについては何も言わない。


 悪魔達は、あの日を最後に俺の前から姿を消した。

 彼らがいなくなったのは、俺の願いを聞き入れたからだと思う。


 俺は「生まれ変わったら、またセーレ達と一緒に暮らしたい」と口にした。だから、今の人生で悪魔達に再会することはないのだろう。


 けれども「来世でも必ず俺を見つけて」と頼んだから、きっと死んでも魂を奪われることはなく、来世でまた彼らに会えるはずだ。


 退院してから、住所を頼りに悪魔の探偵事務所があった場所へ行ってみたことがあるんだ。


 その場所には、記憶の中と同じ雑居ビルがあったけれど、中はもぬけの殻だった。


 俺が通っていたコンビニも覗いてみたけれど、店員は全員見たことの無い人達に入れ替わっていて、俺のことを知っている人はいなかった。


 悪魔達と過ごした日々を証明できるものは何もない。

 だけど、彼らがくれた温もりは、今も確かに俺の心に残っている。


 俺は今、高卒認定試験の勉強をしているんだ。

 合格すれば高卒の資格が取れるし、大学受験だって出来るようになる。


 大学に行くかどうかはまだ分からないけれど、いつでも動きだせるように、準備だけはしておこうと思ってね。


 それから、俺みたいな引きこもりの人間を支援してくれるセンターにも通い始めた。


 こういう支援センターってピンキリだから、ちょっと変だなとか、合わないなって思うところはやめて、他を探した方がいいんだ。


 俺はいくつか見て回って、今のところに落ち着いたんだけど、他の引きこもりの利用者とも交流することが出来るから、苦しんでいるのは俺だけじゃないんだなって思えて、行くと気が楽になる。


 もちろん、全てが順調ってわけじゃないよ。

 むしろ、上手くいかないことの方が多い。


 時々立ち止まったり後戻りしたりして、一つずつ、少しずつ前に進んでいる感じだ。


 たまに全部投げ出したくなることもあるけれど、そういう時はセーレの言葉を思い出すようにしている。


 彼は、きっと今もどこかで俺のことを見てくれているはずだから、不器用でもカッコ悪くても、残りの人生を俺なりに精一杯生きないとね。


 頑張れば魂がレベルアップするかもしれないし。

 セーレは俺の魂を上質だって言ってくれたけれど、どうせなら極上を目指そうかなと思って。


 いつかセーレに極上の魂を捧げる。


 この目標を達成するには、あと何回生まれ変わればいいんだろうな。


 気の遠くなるような話だけれど、とりあえず頑張ってみるよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ