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悪魔が恋に落ちるとき

 悪魔のアンドロマリウスが恋に落ちた。


 彼の片想い相手はサチという名前で、ぽっちゃり体型の地味な女性だ。

 おまけに人見知りらしく、伏目がちでオドオドしている。


 引きこもりニートの俺としては、親近感が湧きまくりなんだけど、恋愛対象になるかと聞かれたら、首をかしげてしまう。

 まぁ、向こうも俺のことなんか対象外だろうけどさ。


 一方のアンドロマリウスがどんな奴かっていうと、彼は正義感に溢れる悪魔で、悪事や不正を許すことが出来ない性格なんだ。


 彼の性格がよく分かるエピソードを一つ話しておくね。


 この前コンビニで買い物したら、お釣りがちょっと多くてさ。

 俺はラッキーって思いながら鼻歌まじりで事務所に戻ったんだ。


 そうしたら、ダンタリオンが俺の心を読んで、アンドロマリウスに告げ口しやがったんだよ。


 俺は子供みたいにアンドロマリウスに叱られて、コンビニまでお金を返しに行かされた。


 そんな感じで、彼は些細な悪事であっても見逃さないんだ。

 普段は穏やかで話しやすいし、思いやりのある良い奴なんだけどね。


 アンドロマリウスとサチの出会いは、この探偵事務所だった。


 サチは、ユウコという女の付き添いでここにやってきて、アンドロマリウスに一目惚れされたわけだ。


 アンドロマリウスが言うには、サチの魂は目が眩むほど光り輝いているんだとか。


 俺には全然分からないし、他の悪魔達もサチには全然興味が無さそうだから、好きなタイプは悪魔によってそれぞれ違うみたいだ。


 その日は詐欺師のユウコから魂を奪うのが目的だったし、サチもすぐに帰ってしまったので、特に進展はなかった。


 だけど、ユウコが行方不明になって一ヶ月くらい経った頃、サチが再び探偵事務所にやってきたんだ。


 ユウコは自宅に「探さないで欲しい」という書き置きを残していたそうで、事件性が無いと判断した警察は、真剣に捜査してくれなかったみたいだ。


 それで、ユウコのことを心配したサチは、悪魔の探偵事務所まで調査を依頼しにきたわけだ。


 俺は、もちろん断るんだろうなと思っていた。

 魂を奪われた人間が、生きて見つかることはないからね。


 ところが、普段は来客にお茶出しくらいしかしないアンドロマリウスが、サチの依頼を請け負ってしまった。


 これにはダンタリオンも渋い顔をしていたよ。


 アンドロマリウスは、経過報告と言って数日おきにサチを呼び出し、適当な目撃情報をでっちあげながら、少しずつサチとの距離を縮めていった。


 ユウコは一向に見つからなかったけれど、「どうやら不倫相手と駆け落ちしたらしい」というアンドロマリウスの嘘を信じたサチは、調査を打ち切ることにした。


 そして、すっかり親しくなっていた二人は、友人になったんだ。


 告白して付き合っちゃえば良いのにって思ったら、サチの魂とは生涯添い遂げたいから、慎重に進めたいんだってさ。


「一度断られたら、二度とチャンスは無いからね」

 ってアンドロマリウスが言うのを聞いて、俺は衝撃を受けたよ。


 え? 悪魔からの告白って断れるの?

 ロックオンされちゃったら逃げられないんじゃないの?

 知ってたら、セーレの求愛を断ったんですけど?

 って思ってさ。


 まぁ、あの時の俺には他に行くあても無かったし、今となってはこれで良かったのかもしれないけど。


 その後、二人がどうなったかというと、お互いの部屋を行き来する仲になり、アンドロマリウスはついに正体を明かして告白する決意を固めたんだ。


 自分の部屋を薔薇の花で飾り、サチの生まれ年のワインを用意して、胸を高鳴らせながら彼女を招き入れた。


 そして、いざ告白をしようとした時、クローゼットの中に隠しておいた相棒の大蛇が出てきちゃったんだって。


 タイミング最悪だよね。

 今? って感じだよ。


 まぁ、正体が悪魔だって分かった時点で断られていたかもしれないけどさ。

 でも、サチもアンドロマリウスを好きになっているように見えたし、大蛇が出てこなければ告白は成功していたような気がするんだ。


 告白が受け入れられた後なら、大蛇が出ようが何だろうが、サチは逃げられなかったからね。


 そう考えると、サチにとっては最高のタイミングで大蛇が出てきてくれたことになるのかもしれない。


 そういうわけでサチは悲鳴を上げて逃げ出し、それ以降は連絡が取れなくなってしまったんだ。


 さぞかしショックだろうなと思っていたら、アンドロマリウスは切り替えの早い男でさ。


 次は弁当屋の看板娘に恋をしているんだって。


 ちなみに、俺はこの恋をめちゃくちゃ応援している。

 何故かというと、アンドロマリウスが毎日にようにその弁当屋へ足を運び、買ってきた弁当を俺にくれるからだ。


 俺の胃袋のためにも、二人には是非うまくいって欲しい。


 今回の件で分かったのは、悪魔はみんな悪人の魂が大好物だけれど、好きになる相手は悪人とは限らないし、好みもバラバラだってことだ。


 このことを知って、俺はちょっとホッとしたよ。

 だって悪魔達が魂を奪うのは、詐欺師とかストーカーとかDV野郎とか、どうしようもない悪人ばかりだったからさ。

 セーレに生涯を共にしたいと言われた俺は、実はとんでもない悪人なんじゃないかって悩んでいたんだ。


 でもここで疑問が浮かんでくる。

 それじゃあ、セーレは一体俺のどこに惚れ込んだんだろう。

 そう思った俺は、セーレがいない時を見計らって、何でもお見通しのウァサゴに聞いてみた。


 そうしたら、ウァサゴが答えるより先に、ダンタリオンから「お前、何度も同じ質問するよね。バカなの?」みたいなことを言われた。


 悔しかった俺は、

 は? この質問するの生まれて初めてなんですけど。

 バカって言う方がバカなんですけど。

 って、思わず心の中で口答えしちゃってさ。


 ダンタリオンは人の心が読めるから、睨まれながら「チッ」って舌打ちされちゃったよ。


 その後テレビでワイドショーが始まって、ウァサゴはそっちに夢中で俺の質問なんか忘れてしまったみたいだ。


 何度もウァサゴに同じ質問をするのは恥ずかしいし、セーレ本人に聞くのはもっと恥ずかしいから、未だに俺のどこが好きなのかは分からない。


 もしかしたら、理由なんか無いのかもしれないしね。

 人間だって、ダメンズばっかり好きになっちゃう女の人とかいるしさ。

「何でこんな人を好きになっちゃったんだろう」って本人も思っているわけだよ。


 悪魔にとっても人間にとっても、恋愛っていうのは思い通りにいかないものなんだろうな。


 恋愛経験ゼロの俺に、こんなこと言われても説得力ないと思うけどさ。

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