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悪魔と悪人 後編

 前回話したように、悪魔達は依頼人の男性ではなく、ユウコの魂に狙いを定めた。


 でも、悪魔が人間の魂を奪うには、何か依頼を受けて契約を結ばなくちゃいけない。


 だから、ユウコの魂を奪うためには、彼女から何かお願い事をされなきゃいけないわけだ。


 そこで悪魔達はどうしたかというと、ユウコに嘘の情報を吹き込んで、おびき出すことにしたんだ。


 複数の人間があなたの調査を依頼しに来ました。

 どの依頼人も、あなたに恨みがあるようです。

 事件に発展してはいけないと思い、警察に相談しましたが、今の段階では何も出来ないと言われました。

 もしご希望でしたら、依頼人についての情報を提供しますので、うちの探偵事務所までお越し下さい。


 こんな感じのことを、ウァサゴが電話で伝えた。

 ユウコは初めこそ警戒していたが、ウァサゴが数人の名前を挙げると急に怯えた口調になり、翌日には探偵事務所にやってきた。


 一人では不安だったのか、ユウコはサチという名前の友人を連れて現れた。


 ユウコは依頼人が言っていた通り、人目を引く美人でスタイルもいい。

 こんな人に迫られたら、男はコロッと騙されちゃうよなぁと見惚れていたら、アンドロマリウスも彼女達の方を見てうっとりしている。


 えっ、ユウコみたいのがタイプなの?

 とんでもない詐欺師だよ?

 アンドロマリウスって趣味悪くない?


 俺は自分のことは棚に上げて、そんなことを考えていた。


 でもよく見ると、アンドロマリウスが目で追っているのは、ユウコではなくサチの方だったんだ。


 サチはユウコとは対照的な容姿で、顔も髪型も服装も地味だし、ちっとも人と目を合わせようとしない。

 失礼な言い方だけど、うっとりするような要素なんかどこにもないんだよ。


 アンドロマリウスの行動は積極的で、素早くサチに近づくと「ユウコさんの件はデリケートな内容なので、お友達はこちらでお茶でも」とかなんとか言って、サチを少し離れた場所にあるソファへ案内し、緊張をほぐすように雑談を始めたんだ。


 一方のユウコは、強張った表情でダンタリオンと向かい合っている。


 後からダンタリオンに聞いたんだけど、ユウコは自分の調査を依頼した人間を教えてもらったら、背後にいる組織に頼んで、酷い目に遭わせるつもりだったみたいだ。


 ダンタリオンは神妙な顔をすると、サチには聞こえないくらいの声で「依頼人の情報を提供するための手続きです」と言って、契約書にサインを求めた。


 彼女との契約が成立すると、ダンタリオンは、ユウコに騙された人間が全て載っている名簿を手渡したんだ。


 冷静に考えたら、その名簿に載っている全員が探偵に依頼するなんてこと、あるわけないんだけどね。


 でも、悪魔の力なのか何なのか、ユウコはダンタリオンの話を信じたみたいで、真っ青になっちゃってさ。


 どうしよう、どうしよう、って繰り返し呟き出した。


 想定以上の人数だったから、組織に頼んでも対応してくれるとは思えない。むしろ、切り捨てられるだろう。

 でも、このままじゃ自分の身が危ない。


 ユウコの心を読んだダンタリオンが言うには、そんなことを考えていたらしい。


 その時、ダンタリオンがユウコの耳元で何か囁いた。

 ユウコは頷くと、名簿をテーブルの上に置いたまま、おぼつかない足取りで部屋を出て行こうとする。


 それに気付いたサチが、慌ててユウコに駆け寄ったんだけど、ユウコはサチを突き飛ばすとそのまま走り去ってしまったんだ。


 サチは俺達に頭を下げると、急いでユウコの後を追いかけて行った。


 サチが帰ってしまったので、アンドロマリウスはとても残念そうにしていたよ。


 俺はサチも詐欺グループの一員なのかと思っていたら、全然関係なくてさ。学生時代からの友人なんだって。


 ウァサゴによると、学生の頃のユウコはサチを引き立て役にしていたそうだ。それからレポートを代筆させたり、パシリにしたりと、彼女をさんざん利用していたらしい。


 だけどサチは、自分みたいな地味で暗い人間と仲良くしてくれるユウコを、大切な友人だと思っていたみたいだ。


 その話を聞いた俺は、小松を見下していた中学時代の自分を思い出して、複雑な気持ちになってしまった。


 数日後、悪魔達は人間の魂が手に入ったと言って大騒ぎをしていた。

 たぶん、ユウコの魂だと思う。


 彼女はあれから行方不明となり、未だに発見されていない。

 悪魔が魂を手に入れたということは、どこかで命を落としているはずだ。


 見つからないのは、事件や事故に巻き込まれて、山の中に埋められたり、海の底に沈んでいたりするからなのかもしれない。


 最初にユウコの捜索を依頼してきた男性には、彼女が消息不明であることを告げて、調査を打ち切ることにした。


 彼は、何か事情があって詐欺に手を染めているなら、ユウコを助けてやりたいと思って探していたようだ。


 お人好しにも程があるよね。


 ダンタリオンは、あいつ絶対また誰かに騙されるぞって言ってた。

 俺もそう思う。


 でもさ、セーレはこう言ったんだ。

 彼には幸せになって欲しいなって。


 人間の幸せを願う悪魔なんて聞いたことがないよね。


 最近「悪魔」って何だろうってよく考える。


 セーレ達に出会う前は「悪い魔物」っていうイメージだったんだよね。


 だけど今は「悪人を懲らしめる魔法使い」なんじゃないかって思っている。


 少なくとも、俺が一緒に暮らしている悪魔達は、悪人の魂しか奪わないからさ。

 それに、彼らは人間よりもよっぽど優しいんじゃないかって思う時があるんだ。

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