表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

悪魔達の週末

 今のところ、悪魔との暮らしは可もなく不可もなくといった感じだ。


 セーレと一緒に住むことにしたのは、贅沢な暮らしが出来ると思ったからなんだけど、そう上手くはいかなかった。


 俺の中では、セーレは広大な敷地に建つ洋館に住んでいて、執事やメイドに身の回りの世話をしてもらいながら、専属料理人の作るフルコースを毎晩食べているっていうイメージがあったんだよね。


 美男子だし、ペガサスに乗って登場したから、なんか王子様っぽいなと思って。


 ところが実際は、郊外の薄汚れた雑居ビルに仲間の悪魔と住んでいて、執事やメイドの代わりに大蛇とペガサスがいた。

 もちろん専属料理人なんかいないから、コンビニのカップ麺をすする日々だ。


 カップ麺はスーパーの方が安いんだけどさ、俺は引きこもりニート歴が長いから、人が多い時間帯にはあまり出歩きたくないんだよ。


 おにぎりや菓子パンを買うこともあるけれど、弁当を買うことは滅多にない。高いからね。


 セーレは約束通り、最低限は金に困らない生活をさせてくれている。そう、最低限は。


 初日に、飯を買いに行くから金をくれってセーレに頼んだら、いくら必要なのか聞かれたんだ。


 とりあえず千円って言ったら、その日からコンビニに行くって言うとキッカリ千円渡されるようになった。


 値上げ交渉をしてもいいんだけど、俺は居候の身だからさ。

 あんまり贅沢を言っちゃ悪いし、毎日のように食事代をせびるのも気が引けるから、千円もらったらそれで数日しのぐようにしている。


 ただし、週末だけは別だ。

 悪魔達は、金曜の夜になると繁華街へ繰り出す。

 そこで人々の悪意を吸収しながら、獲物を物色するんだ。


 魂を奪えることは滅多にないみたいなんだけど、週末の夜は普段より悪意のエネルギーが充満していて最高なんだってさ。


 週末に上機嫌で出かける支度をする彼らを見ながら、俺は思い切って、週末だけはちょっと良いものが食べたいから、もっと金をくれと言ってみた。


 そうしたら、三千円くれたんだよ!


 え? 安くない?

 って思うかもしれないけど、今の俺にとっては大金だからね。


 もう俺はワクワクしちゃってさ。

 三千円あれば、好きなものを腹一杯食べられるもん。

 それに、悪魔達は朝まで帰ってこないから、テレビも見放題だし、ネットもやり放題。


 普段はウァサゴがテレビを独占しているし、パソコンは一台しかないから、居候の俺がずっと使うわけにもいかなくてさ、遠慮していたんだよね。


 悪魔達を見送った後、俺は取っておいたデリバリーのチラシをテーブルの上に並べた。


 寿司もいいけど、久しぶりにピザも食べたい。迷っちゃうなぁ。って頭を悩ませていたら、ガチャって音がしてセーレが帰ってきた。


 別に悪いことは何もしていないし、見られたって構わないんだけど、俺はやたらと焦ってしまって、思わずチラシをソファの下に隠した。


 セーレは、一人じゃ寂しいかなと思って帰ってきたよって言いながら、買ってきた焼き鳥をテーブルに並べた。


 いやいやいやいや、毎日一緒にいるから全然寂しくないし、たまには一人になりたいくらいだよ。

 って思ったけど、口には出さなかった。


 今までの週末は、俺のことなんか気にせずにみんなと出かけていたのに、急にどうしたんだろうと思ったら、ダンタリオンの仕業だった。


 あいつ、また俺の心を読んだんだよ。

 それで、みんなの留守中に俺が自由を謳歌しようとしているのを知って、邪魔しようとしたんだ。


 セーレが言うには、俺が寂しがっているから今夜はそばにいてやれよ、みたいなことをダンタリオンに吹き込まれたらしい。


 あの野郎。しょうもない意地悪しやがって。


 仕方がないから、その日の夜はセーレと二人で、焼き鳥をつまみにして缶ビールを飲んだ。


 俺はそんなにアルコールが好きな方じゃないんだけど、セーレと飲みながら話すのは意外に楽しくて、その日はやけにビールが美味しく感じられた。


 飲みすぎた俺は、翌日の昼過ぎになってようやく目を覚ました。

 慌てて事務所の応接室に行ったら、そこにはダンタリオンしかいなくてさ。

 他のみんなはまだ寝ているみたいだ。


 ダンタリオンと二人は気まずいから、自分の部屋に戻ろうとしたところで、来客を知らせるチャイムが鳴った。


 入口の扉を開けると、ピザの箱を抱えた配達員が立っている。


 ダンタリオンにピザを注文したのか聞くと、知らないと答える。

 もちろん俺だって頼んでいない。

 間違いだから持って帰ってくれと言うと、配達員は、確かにここの住所だからと言って引き下がらない。


 結局、見かねたダンタリオンが料金を支払ってピザを受け取ることになった。


 ダンタリオンは、誰かのイタズラだろうと言って、ピザの箱を俺に押し付けた。


 箱を開けると、俺が昨日の夜チラシに印を付けておいたピザが入っている。


 俺は急いでソファの下を見た。すると、チラシはどこかに片付けられていた。


 もしかして……。

 俺は、こっそりダンタリオンの方を盗み見る。


 今日も彼は堅物の銀行員みたいな姿で本を読んでいる。

 どんな姿にも変身出来るのに、事務所にいる時は大体この銀行マンみたいな姿をしていることが多い。


 ダンタリオンの表情からは何も読み取れなかったけれど、俺は何となく彼がピザを注文してくれたんじゃないかなって思った。


 いわゆる、ツンデレってやつだ。


 ここで終われば良い話なんだけどさ、俺はアホだから、ピザを口に運びながら「まぁ、今日は寿司の気分だったんだけどね」などと余計なことを考えてしまったんだよ。


 ダンタリオンが「チッ」と舌打ちする音が聞こえて、俺は急いでピザの箱を抱えて自分の部屋へ逃げ込んだ。


 引きこもりを始めてからの俺は、ふとした瞬間に、この世から消えてしまいたいって考えることがあった。


 死ぬのは怖いから、痛みも苦しみもない方法で、煙みたいに跡形もなく消えられたらいいのにって思っていたんだ。


 だけど、悪魔達に出会ってからは、生きていることがそんなに辛くなくなった。


 不思議だよね。人間と一緒にいると生き辛くて仕方ないのに、悪魔といる方が気楽だなんて。


 残りのピザを食べながら、俺はダンタリオンのことがそんなに苦手じゃなくなっていることに気が付いたんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ