表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

悪魔の探偵事務所

 俺が連れて行かれた先は雑居ビルの一室で、そこにはセーレの他に三体の悪魔がいた。


 セーレは「やっと見つけたよ」って興奮気味に俺のことを紹介したんだけど、他の悪魔達は「ふーん」みたいな感じで反応が薄い。


 俺としてはあんまり興味を持たれない方が助かるから、別にいいんだけどさ。


 セーレと他の三体との温度差を見て、俺の魂は全ての悪魔を魅了するわけじゃないんだなって思った。


 彼らは探偵事務所を営みながら、人間から魂を奪うチャンスを窺っているんだってさ。


 最近は悪魔を召喚する人間がめっきり減っていて、自分達から行動を起こさないと魂は手に入れ難いみたいだ。


 探偵事務所といっても、謎が謎を呼ぶ難事件のエピソードとかは全くない。


 彼らの目的は、事件の解決や謎解きじゃなくて、魂を奪うための獲物探しだからね。


 各々の得意分野の依頼しか請け負わないし、悪魔のチート能力で任務はすぐに遂行されるから、本格推理ミステリーを期待されては困る。


 まぁそういうわけで、これからの話は四体の悪魔と俺の日常について語るわけなんだけど、誰がどんな能力を持っているのか簡単に説明しておくね。


 この探偵事務所のメンバーは、美男子のセーレ、爺さんの姿をしたウァサゴ、分厚い本を手にしたダンタリオン、そして大蛇をソファのようにして寛いでいるアンドロマリウスの四体で構成されている。


 前に、セーレには人や物をテレポートさせる能力があるって話をしたけれど、彼は入手困難なものを手元に引き寄せることも出来るんだってさ。


 大人気で品薄のお取り寄せ品とか、即時完売するコンサートのチケットなんかも手に入るなら、転売ヤーになって大儲け出来そうだよね。

 トラブルに巻き込まれそうだから、俺はやらないけど。


 一番ヤバそうなのは、巨大なヘビと戯れているアンドロマリウスなんだけど、この中では一番まともで正義感が強い。


 泥棒を捕まえて、取り戻した盗品を持ち主に返してやったり、悪事や不正を見つけたら、容赦なく罰してくれたりする。


 さらには、失くしたものや隠された財宝まで見つけ出す能力があるんだってさ。


 ここまで聞くと、疑問が浮かんでくるよね。

 アンドロマリウスって、悪魔なの?

 むしろヒーローじゃない?

 だって、優秀な刑事とか警察犬みたいなことしてるじゃん。


 でもさ、やっぱり悪魔なんだって。

 なぜなら人間の魂を奪うから。


 アンドロマリウスは、大蛇を溺愛していること以外は結構いい奴なんだよ。

 見た目も普通の青年って感じで親しみやすいし。

 まぁ、正義感が強過ぎて融通がきかないところもあるけどね。


 しわしわ爺さんのウァサゴは、過去・現在・未来の出来事にめちゃくちゃ詳しくて、聞けば何でも教えてくれる。


 盲目でありながら、隠されたものや失われたものについては何でもお見通しなんだとか。


 ただ、女性が隠している秘密を暴くのが大好きっていう悪趣味な一面がある。

 女の人からしたら、まさに悪魔だよね。


 こういう奴、人間にもいるよなぁ。

 噂話が大好きな近所のおばちゃんとか、「内緒にしておいてね」って頼まれたことを言い触らしちゃうクラスメイトとかさ。


 最後に紹介するのがダンタリオン。

 いつも難しそうな本を読んでいて、知識が豊富。

 だけど、こいつはなかなかのクセ者で、俺の一番苦手とする相手だ。


 何が嫌って、人の心を読むんだよ。

 それから、相手を意のままに操ることも出来る。


 さらには老若男女どんな姿にもなれるから、誰もダンタリオンの本当の姿を知らないんだ。


 初対面のダンタリオンは、メガネをかけたクソ真面目な銀行員って感じの風貌だった。


 セーレが仲間の悪魔を紹介してくれた時、俺は「爺さんと銀行員と蛇使いしかいないじゃん」って内心ガッカリしていたんだよね。

 それから「可愛い小悪魔とかいないのかよ」って心の中で毒づいていたんだ。


 そうしたら、目の前でダンタリオンが悪魔のコスプレをしたギャルに変身したんだよ。


 俺は、あれ? 声に出てた? って焦りながらも、ギャルより清純そうな子が好みなんだよなって考えていた。

 もちろん、口には出さずにね。


 それなのに、ダンタリオンは「チッ」って舌打ちして、こいつ注文多くない? みたいな感じでセーレに文句を言い出した。


 心を読まれていることを確信した俺は、それ以来なるべくダンタリオンには近寄らないようにしている。


 子供の頃、人の心を読む超能力に憧れたことがあるけれど、あんなのロクなもんじゃないね。友達なくすよ。

 まぁ、今の俺には友達と呼べる相手なんか一人もいないんだけどさ。


 友達といえば、思い出す奴が一人いる。

 小松っていう男で、そいつとは中学校で同じクラスになったんだけど、やたらと俺にまとわりついてくる、ちょっと鬱陶しい奴だった。


 中学生の頃の俺は成績優秀でさ、学校の定期テストでも塾の模試でも、いつも必ず上位にいたんだ。


 ただ、運動神経はゼロだし、背が低くて顔も平凡だったから、女の子には全くモテなかった。


 小松はそんな俺に、モテない同士で仲良くしようぜっていうノリで近付いてきて、しょっちゅう話しかけてくるようになった。


 プライドが高くて意地っ張りな俺は、他に友達がいなかったから、表面上は小松と仲良くふるまっていた。

 でも、勉強が出来ない彼のことを、心の内ではバカにしてたんだ。


 小松は底抜けに明るくて、何にも考えていないような奴だったから、最後まで俺の本心には気付いてなかったと思う。

 というか、そうであって欲しい。

 今は、あの頃の自分をグーで殴りたいくらいに反省しているから。


 中学を卒業後、小松はランクの低い公立高校に入り、俺は県内のトップ校に進学した。


 入学当初の俺は自信満々で、このままエリートコースを歩んでいくんだろうなって思ってた。


 その自信は、最初の定期テストで粉々に打ち砕かれたよ。

 中学時代、常に十位以内にあった俺の名前は、高校では下から数えた方が早かった。


 さらに、定期テストの後からは教室の席が成績順になって、俺は後ろの席に座らなくちゃいけなくなった。

 あれは本当に惨めだったな。


 どんどん学校から足が遠のいて、学年末には出席日数が足りなくなり、留年するくらいならと退学した。

 そこからは、引きこもりニートへの道をまっしぐらに突き進むことになる。


 小松は卒業後も連絡をくれたけど、俺は合わせる顔がなかった。

 落ちぶれた自分を見られたくなかったし、小松を見下していた自分が恥ずかしくてさ。


 きっと小松は、今の俺を見てもバカにしないと思う。

 むしろ、励ましたり応援したり、力になろうとしてくれるんじゃないかな。

 そういう奴なんだよ。


 だからこそ、会えない。

 クズみたいな俺が小松の友達でいるのは、何だか許されないような気がしてさ。


 ちょっと話が横道にそれちゃったね。


 今度は、悪魔達がどんな人間をターゲットにして魂を奪おうとするのかについて話そうかな。


 それじゃあまた、時間のあるときにでも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ