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百億の眠れぬ夜と千億の眠りたい昼

作者: jima

 寄せてはかえし 眠気の波。 寄せてはかえし 眠気の波。

 かえしては寄せるこの眠気の波は俺をほとんど永劫ちかい昔からどよもしていた。



 俺は今、会社の定例会議でいつもの五十六億七千万倍の眠気と格闘中である。


 プラトンの顔をした事業部長が言う。

「アトランタ商会の社屋移転について、我々も入札に参加したいと考える」

 俺は何も考えられない。頭にゲーム画面が浮かぶ。トーキョーシティは荒廃している…


阿須等(あすら)くん」

 イエスそっくりの顔をした企画部長が俺に突然声をかけた。

「どうかね。ここは思い切ってダンピングしてでも食い込むべきと考えるが」

 俺は新しいゲーム「惑星開発委員会」を徹夜でやっていたため頭が回らない。口は勝手にゲームの内容を口走ってしまった。


天上界(てんじょうかい)は兜率天(とそつてん)でない。ムニャムニャ」

「ん?」


 そこでプラトン顔の折尾(おりお)事業部長が驚きの口調で言う。

「驚いたな。確かに『天井が統率できない』と都の開発事業部でも言われている。危険だな」

「価格の上限を制限できる存在がないと確かに危険ですね。慎重になるべきでしょう。確かに」

 部員達が眼をつむったまま、考え事をしている(ように見える)俺に賛同した。



 イエスの美加江(みかえ)企画部長が疑わしそうにもう一度確認した。

「阿須等くん、君どこからその情報を?」

 すでに俺の意識は帝釈天との戦争を4億年続けている。

「大天使ミカエルのお告げで(せん)…ムウッ、グーッグーッ」


 美加江部長が顔を顰める。

「君、もうちょっとはっきりものを言い給え。まるで寝ぼけて…」

 折尾部長は驚愕の表情で美加江部長を遮った。

代理店(だいてんし)民間(ミカエル)で、と柘植(つげ)専務が…だと!」


「…折尾部長、彼は何を言ってるのですか」

「わかりませんか。阿須等くんは広報を都の担当から民間の広告代理店に替えるよう、あの切れ者の柘植専務から助言されたと」

 会議室の全員が黙った。


「しかし、そんな重要情報を何で阿須等くんに?」

「だよな。柘植専務と阿須等が何かつながりがあるなんて聞いたことないぞ」

「阿須等くん、君は柘植専務とどこでつながっているのかね」

「グーッ、グーッ」


「答えたまえ!阿須等くん!」

 はっ、何か聞かれたのか?完全に意識を失っていた。

「あ、あの今は何とも言えませんね」

 こんな答えで誤魔化せる筈ないか…?

 だが折尾部長は難しい顔ながら納得する。

「むう。そうだな。情報源やつながりをそう簡単には言えないな。柘植専務への信義もあるだろうしな」

 何かいい感じに誤魔化されてくれた…のか…な?ウグググ、眠い。アトランティスが…永遠の海に…




「だが、我が社としても指をくわえて見ているだけでは」

「うむ。ここは価格の設定を独自に行いながらも、阿須等くんの言うとおり民間の広告屋とタッグを組んで討って出るべきだろう」

 イエス美加江部長は未だ懐疑的な姿勢を崩さない。

「勇ましいことだが、失敗すれば莫大な損失を出すぞ。社長を納得させるだけの根拠があるのか」

「それもそうだ。勢いで突っ走るには、大きなプロジェクトだからな」

 主に営業の担当達から声があがり、視線はうつらうつらと舟を漕ぐ俺に集中した。



「阿須等くん、このプロジェクトの入札見積もりをどう読む?」

 うーん、ムニュムニュ…

「カーッ、弥勒菩薩…五十六億七千万…コーッ救済(くぅさい)は無駄で…クーッ」

 はっ、また夢遊状態で何か口走ってしまった。


 折尾部長が腕を組んで、ため息をついた。

「に・ろく・ご・さん・バツで五十六億七千万円か。確かに国債を買うよりは無駄がないかもしれない」

 営業部の若手が首を傾げる。

「何ですか?にろくごさんバツって?」

 プラトン折尾部長が叱責する。

「知らないのか。2653のX(エックス)はアトランタ商会の証券コードじゃないか」

「…行くしかないか。よし、覚悟を決めよう。国債を買うのは止めだ!我が社の入札は阿須等くんの計算通り五十六億七千万円で勝負する。これでライバルの帝釈工務店に挑む!」

 


 …?何だ。何か決まったのか?いやいやこの歳になって徹夜でゲームはやっぱりまずいよなあ。

 何でみんな、俺の方を熱っぽい眼で見てるの?




 それからが大変だった。俺はよくわからないプロジェクトのリーダーとなって、見たこともない数字の入札に向けて見積もりを作らされ、会ったこともない専務の腹心ということにされ、馬車馬のように働く日々を送る。ゲームどころではなくなった。





 入札終了後、営業部員が驚嘆してパソコンから顔をあげる。

「最新の裏情報です。競合の帝釈工務店の入札価格が手に入りました。五十六億七千…とんで二十万円です」 

 オーーーッと部内のあちこちからどよめきが起こる。五十億を越えるプロジェクトで、我が社がたった二十万円差の勝利だ。

 帝釈工務店からは入札価格の機密漏れを疑う声も出たらしい。だがいくら調べても不正はない。なにしろ俺が夢の中で天上界に行って、転輪王から教えてもらったことだからな。


 祝勝と分析の会議だ。

 だが俺はここしばらくの激務と、ようやくそれを逃れた安堵感、さらにうっかり昨夜もゲーム『惑星開発委員会』を再開させ、国王アトラス7世、先王ポセイドニス5世から、王国のアトランタ地方への移動を強く求められて完全に寝不足なのだ。


 ううっ、眠い。限界が近い。美加江部長が何か言ってる。

「しかし、阿須等くん、本当に素晴らしい働きだった。神がかりといってもいい。何か特別ボーナスを出さなくてはな」

 うん?俺は何か訊かれた?駄目だ。意識は遠い西北の地へ…ムニャムニャ。

「…ミカエルは…イラン高原(こうけん)(にゃん)て…」

「阿須等くん!?」

 おう、何だ?何だ?

「あの、すべては会社のためです」


「えっ」と折尾部長が眼を剥く。

「なんと。阿須等くんはみかえりはいらんと。貢献なんて、すべては会社のためだと言うのか」


 何でこの会社は俺の寝言をことごとく誤読して解釈するのか。でもしてなかったら今頃クビだよな。

 はっ、何だ。見返り?俺もしかして今、臨時ボーナスを断ったの?えええええ。


 会議は俺への賞賛の拍手で締めくくられた。





 寄せてはかえし 後悔の波  もらえたらよかったのに ボーナスと昇進


 かえしては寄せるこの眠気と後悔の波は 

 俺をほとんど永劫ちかい昔からどよもしていた。(意味不明)





 ああ、やってしまいました。よく理解できなかった名作を雰囲気だけパクる…いいえ、オマージュするという原作ファンからすると、噴飯物でしょう。すみませんでした。反省しています。 

 作者、実は萩尾版チャンピオン連載漫画の方しか読破していません。(泣)

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