隣国のダンジョン聖杯偏
カヤック視点
俺はカヤック、今は特別親善大使のお付きをやってる。
マリーウェザー様の伝言をちゃんと大使に伝えたら、大使が燃えだして、ヤル気になっていた。あの聖女の絵が大使の初恋を思い出にさせてくれないらしい。
ハッサムは風呂で酔った時の粗相を未だに気にしてる。マリーウェザー様本人はアッサリしてそうだけど。
ほとんど野宿の長い旅路の末にやっと帰ってきたら、第2王子と王太子の第1王子の派閥で争いがおきていた。
第2王子にはあの派手な服の眷属がついていて、民からの支持もあつい。
王太子の第1王子には、なぜか賢者の弟子を名乗るイカサマ野郎がついていた。
ロバートさんがマリーウェザー様に押し付けられて賢者になったはずなんだけど弟子なんてこの国にいるわけないよな。
王都の広場では、あの聖杯を飾って祭壇が出来ていた。
そして、聖杯に生贄の血を捧げよと恐ろしい事を言っていて、選ばれた娘が静かに泣きながら笑っていた。
ロバートさんもマリーウェザー様もこんなこと、望んでない、間違いだらけだ。そう叫んだけど、民衆の声に掻き消されて俺の声は届かなかった。
止めてくれって言われたのに、何も出来ない悔しい思いをしてたら
大使が祭壇を破壊して生贄の娘を開放した。
賢者の弟子
「何をするか愚か者め!偉大なる賢者様の御業の前にお前を罰してやる!」
大使
「私は聖女様の正式な使徒だ!聖女様の御言葉だ、よく聞け!
祭壇を勝手に作っていたら壊せ!聖女は生贄など望んでない。祀られることも望んでいない。自分の未来は自分たちで切り開いて作るものだ!
神でも精霊でもない自分たちの力で進むべきだ。
そんなに暇なら畑でも耕せ川を掘れと聖女様のおおせだ!お前達は間違ってる。今すぐやめろ」
賢者の弟子
「ぐぬぬぬ!ひっとらえろぉー。
こやつは聖女信仰者だ!第2王子の手下だ!捉えろ。
おのれ!よくも邪魔したな!我は偉大なる賢者様弟子だ!賢者の聖杯を盗みにきたんだ!そうに違いない!大罪人め!
あの大神殿の奥のコロッセオの祭壇にこやつを捧げようではないか。
第2王子の犬め!貴様が本当に聖女様の使徒だというなら、その慈悲深い聖女様の救いを求めるがいい
ワハハハ」
大変な事になった。
大使が自分は一人で来たと言って俺を逃してくれた。
ハッサムは第2王子の元へ助けを求めに行って、俺はカインの所へ行った。マリーウェザー様があの洞窟に届けてくれていたら、とっくに家についてるはずだ。
俺は走った、ラバに乗って走って、ラバが疲れて動かなくなると自分で走った。
カインがどうやるのかわからないけどマリーウェザー様達と連絡がとれるような事を言っていた。
もう、マリーウェザー様に頼るしかないのか?
友達って言ってくれたのに、こんなこと頼んでいいのか?
でも俺じゃ大使を助けられない
マリーウェザー様は友達って言ってくれたのに、友達にこんな事頼むなんて、俺は最低だ
けどマリーウェザー様、助けて
「カイン!」
「あ、にーちゃんお帰り。ハシムさんから帰って来てるって聞いたから魔ウン・・・ロバートさんとマリーウェザー様にメッセージ送っといたよ。
あの金貨を使って買い物しようとすると盗品扱いされて全然使えなかったんだ!にーちゃん代わりに買い物してきてよ!
あ、マリーウェザー様からお帰りってメッセージ届いてるよ」
「え、マリーウェザー様?メッセージ?凄い奇跡だ!ありがとうございます」
「そこにいるのか?って言ってるよ。マリーウェザー様って、にーちゃんが帰って来てるって聞いたからちゃんとメッセージ返してるんだよ。
普段はこの人ビックリするほどおざなりな返事しか返さないから!なんなの本当に!僕の扱い雑すぎない?」
「そうなの?相変わらずマリーウェザー様って好き嫌いがはっきりしててわかりやすい。
俺けっこう気に入られてる?へへ
にーちゃんには何も見えないけど、カインはそこで何かしてるの?」
「あ、にーちゃんが頼んだら多分来てくれるんじゃないかな。レベル上げしたいけど、僕が頼んでもあの人絶対来ないんだよ
平気でブッチしそうだし!ホント見た目詐欺だよねー。にーちゃんマリーウェザー様が来てくれそうな話し何かない?」
「カイン、そうだよ!大変なんだよ!」
「うんうん、何?」
「あの聖杯が大変なんだよ!大使が捕まっちゃって!」
「うん、聖杯が大変なんだね!うんうん」
俺は大使の事を説明してそして、なぜかカカオが大量にいると言われた。何かに使うみたいだけど俺は「ナマチョコ」が何かわからなかった。
カインが使えなかった金貨を持ってカカオを集めるのに2日はかかる。
あの洞窟まで1日だから3日で何とかするからと頼んだらマリーウェザー様はあっさり来てくれると言う。
ロバートさんは自領に帰ってしまってもう会えないらしい。
本当に来るのか?
だって、ここまで来るのに2週間以上はかかるのに?洞窟までなら一瞬で来てくれるなんて、まだ夢を見てるようだ。
洞窟に来たのも風呂に入ったのも夢だったんじゃないかって思った時もあったけど、そう思うたびにハッサムのもらった剣がちゃんと現実だって言ってる。
けどマリーウェザー様は本当に来てくれるのか?俺なんかのために。
最後に挨拶した小さな体を思い出した。
それからカカオを集めに行った。市場を回って買い漁って、変なやからに絡まれて、俺が持ってても金貨を盗品と怪しまれた。
すると、ハッサムがやってきて
「こんな時に何をやってるんだお前は!」
「ハッサム!マリーウェザー様の指示だ!カカオがいるんだよ!大使のために大量にカカオがいるんだ!手伝ってくれ!」
「どういう事だ詳しく話せ!」
俺はカインのことも全部話した。
するとハッサムが母親の実家の商会に掛け合ってくれて、俺の持ってた金貨でカカオを買い漁ってくれた。ついでに、俺の母親のことも見てくれるらしい。
ハッサムはとても頼りになるいいヤツだった。俺なんかよりよほど頼りになるやつだ。
剣をもらえただけはある、押し付けられたようにも見えたけど。
第2王子のほうでも力になると言っていたけど議会に正式に掛け合うまでに大使が間に合わないだろう。
そして、約束の日
俺の胸の鼓動がとてもうるさかった。
ラバに乗ってカインとあの洞窟へ向かっている。マリーウェザー様は本当に来てくれるのか?
本当にいるのか?カインの間違いじゃないのか?
月明かりの暗い夜の道を駆ける。
洞窟のある山脈の道を走ってると、岩陰の隙間から小さな白銀の妖精がチラチラ見えた。
こんな所に光る妖精がいる、妖精なんて初めてみた。なんて幻想的なんだ。
妖精は妖精じゃなかった。うっすら月明かりに光る姿の
「マリーウェザー様じゃないですか!こんな所で何してんスか!!え!小さいままだ!」
「カヤック遅いよー!
暇だったから洞窟から出たんだ。これでダンジョン経由しなくても、こっちにこれる。いちいちトラップが発動しちゃうんだよ!
俺がダンジョンに入っちゃったからゾンビが出てきちゃって、入口付近にいた人がみんな逃げちゃったよ!
とりあえずダンジョンから出たんだけど、初アルラシード王国だぜぇ!
まあ時間ある時にカヤックの家に連れてってよ!そしたら次はカヤックんちに直接行けるからさ」
わけわかんない事言ってるけど、別れた時と何も変わってない人懐っこい可愛いマリーウェザー様の笑顔だ。
ぴょんぴょん楽しそうにしてる姿が本物の妖精のようだ。分厚い服の妖精だけどな。
俺は嬉しさと喜びで胸が締め付けられる。
色々と込み上げて泣きそうになった。
会えた。
マリーウェザー様がカインに向かって手を出して
「カカオは?忘れる前にもらっとく」
「ちょっと!僕にあからさますぎるでしょ!あんたはその見た目で鬼か?ああん?」
「マリーウェザー様、カカオはハッサムが馬車で運んでます。凄い量なので時間がかかるかもしれません」
「おお!マジか、ありがとう。めっちゃ嬉しいよ。チョコできたらカヤックにもあげるよ」
「僕には?ねぇ!」
「時間が惜しい、ダンジョン入って周回ボス倒すぞ!
神殿の脇道通れないか調べてよ?直接墓行った方が早いでしょ?
あの地下のボスって前に俺一人で倒せたから多分今回も倒せるよ
墓場でカカオ代金払うからさ、3往復くらいしたいね。こうグルグル回って」
カインが持ってた金貨でカカオ代金は払い終わってるけど、まだ稼いでくれるらしい。
ありがたいから黙っとこう。
「にーちゃん待って、この破魔のネックレスと精霊の声が聞こえるイヤリングして。
あの黒い影の声が聞こえるかもしれないよ
ずっとにーちゃんの悪口言ってるけど、ヤキモチだと思うから気にしなくていいからね」
イヤリングをつけると、精霊の声が聞こえてきた。
『僕はあいつ嫌いだ、ロバートの次に嫌いだ
お前も楽しそうにするなよ!僕のこと大事にするって言ったのに』
「1番大事だよ?今回も頼りにしてるからいい加減機嫌なおして下さい。可愛いお顔が台無しだよ?お前は笑ってた方が可愛いからね、俺の前では笑ってろよ」
『もう勝手なことばっかり!知らない・・・へへ』
マリーウェザー様がちゃんと彼氏してた事がわかってしまった。見た目詐欺がすぎるでしょ!
マリーウェザー様が洞窟に入ると、元々少し光ってたけど一瞬強く輝いて目を瞑って開いたら、あのムチムチの聖女様の姿になっていた。
すぐに2体の翼の生えた眷属を召喚して、黒い精霊が異国の剣を持った
そして、神殿の脇道をカインが調べて通っていき、出てきた死人をマリーウェザー様が光の粒に変えた。
俺はトモエと呼ばれる眷属に守られてただその姿を見ていた。
マリーウェザー様が黒い精霊に抱えられて、あの輝く尊い御業を使い墓場をグルグル何周もして、死人が光の粒になる異様な光景をただ見ていた。
その後をカインが何かを拾いながら通っていた。
マリーウェザー様が俺と目が合うと恥ずかしそうに顔を手で隠した。
何が恥ずかしいかわからないけど、2人が大使の事をそんなに心配してないことはわかった。
大使が憐れすぎる。
「だいぶ稼げたよ、にーちゃん!ハッサム銀行に預けて現物取引しよう!」
ハッサムは銀行じゃないけど、言いたいことはわかる。貧乏人に金貨は扱えないんだ。
「さあボス戦だ!
俺がハシゴ先に降りるから、カヤックはトモエと降りて来なさい。
あそこ降りてる途中から攻撃されるからきをつけろよ!ムラマサ降りたら渡して」
『僕が抱えて降りてあげようか?』
「お願いします」
礼拝堂の後ろに道があるけど、下行くんだな。
黒い精霊に抱えられて一気に下に下りるとき、後ろ姿のなびく髪に光の残光が見えた。
マリーウェザー様は、どこか人離れした輝きに満ちている。
でも俺たちは同じ物を食べて笑い合って一緒に風呂に入ってたんだ。凄い事だ。
『カヤック殿ゆっくり降りて下さい。攻撃がきます ミラーフォース』
トモエの技が敵の攻撃を弾く。
下を見ると、マリーウェザー様があの異国の剣を構えていた。
見たこともない美しい剣に隙のない構えだ。前から飛んでくる触手をいとも簡単に切り伏せて、鞘に戻す
光る御業で一気に近づき、ハッサムが油断して腹に穴をあけていた時とは違い、首と胴を一瞬ではねた。
剣についたゴミを払い鞘に戻す所作が歴戦の勇士のように美しかった。
この人強い!
俺なんかよりものすごく強いじゃないか!
本当に一人で倒した。
「宝箱の中身は?」
「剣と盾だ、重いから装備出来ないちぇっ、残念。にーちゃん使う?」
「カヤックの装備にピッタリじゃない?持てる?重くない?」
そんなに簡単にくれるなよ
「持てます。重くないです」
「それでハシゴ登れるの?さすが元騎士だね
さあ上に行こう!また歌ったら宝箱出るよ!礼拝堂ボロに戻ってたでしょ?」
またあの素晴らしい歌を聞かせてもらった。
何度聞いても震えるほどの歌声だった。
出てきた宝箱の中身は聖杯ではなかった。




