閉話 地上の楽園
元騎士隊長アブドゥル・アルラフマーン視点
アルラシード王国特别親善大使の任命を新たに得た。
元王国騎士隊第三隊隊長のアブドゥル・アルラフマーン (20)
偉大なる聖女の力で奇跡をたまわり
そして、コルチーノ伯爵家とスチュワート商会を訪れよとの御神託に従い
遠い旅路の果てにやっとだ、やっと辿り着いた。
信用できる部下を2人連れてはるばるやってきた。
(※仲良くてる部下が2人しかいなかった)
今日は何か催しがあるようで、広大な伯爵家の屋敷の敷地内にたくさんの馬車が入っていく。
屋敷に入るときにゴツい門番が鋭い目をして来客をチェックしていた。
流石は伯爵家だ、警備が厳重だ!
我々は、招待状は持っていなく門の所で待たされた。
ゴツい門番が来て
「どちらのお客で、どなたの知り合いでしょうか?
その馬車の荷物は?お嬢様のお誕生祝いでしょうか?」
「これは失礼いたしました。
今日はこちらのお嬢様のお誕生パーティでございましたか、知らずに不躾にもアポイント無しで来てしまいました。
白銀の聖女さまのお導きでございます。こちらの赤い実を以前賜りました。
私は、隣国よりの使者です
アルラシード王国特别親善大使アブドゥル・アルラフマーンです
どうか屋敷のご主人にお目通り下さいませんか?
それとも、日を改めた方がよろしいでしょうか?
荷物は泡の実と香油と植物性バターを積んでおります。ご覧になりますか?」
「念の為拝見する」
中を改めている、しっかりした門番だ
「主人を呼んでくる、しばし待たれよ」
門を通る馬車をながめながら待つ。
貴族の馬車が多いが商人の馬車らしきものもある。
来る途中の他の領地には寒村もあったが、こちらの領地はエネルギーに満ちていると思われる
街の人達はみな賑わっていて活気があり、農地では収穫を前にした小麦や野菜や果物が実り豊かだった。
ハッサム「隊長!・・・じゃなかった、大使!
白銀の聖女さまの御神託でも、伯爵家の御方にお目通りは、やっぱり事前連絡がいりましたね」
カヤック「領主の娘の誕生日でこんなにも人が集まるんスね!跡取り娘でしょうか?
腹減ったっス、何かたべさせて貰えないかなぁ」
門番が戻ってきて
「主人が参ります」とだけ伝えて仕事に戻った。
寡黙なやつだ嫌いじゃない。
しばらくすると、キリッとした貴婦人が来て
「隣国の大使だと伺いましたわ。
何用で来られたのだしょうか?今日は孫娘の誕生パーティですの・・・
あら、そうなのね、この方たちがそうなのね。
とりあえず、馬車を中に入れてくださる?
歓迎いたしますわ、どうぞパーティに参加なさって。わたくしはまた戻らなければなりませんの
パーティが終わってから詳しくお聞かせくださるかしら?」
門番が何かを貴婦人に渡すと、話が通っていたのかすぐに案内され、香油のついた手拭きをメイドから渡され、他の皆と同じように歓迎された。
カヤック
「この手ぬぐい顔もふけて気持ちいいですね、あ、酒の香りがする!
伯爵家のサービス素晴らしいです、プハー」
ハッサム
「たいちょ、じゃなかった大使!
あれ!あそこ見て下さい!あの主役の子どもって白銀の聖女に似てませんか?
え、妹?まさか、聖女様の娘?
でも横にいる金髪の女性は母親か?
まさか本人が縮むわけないよな?って大使?」
白銀の聖女様の生き写しのような幼女は、5歳の誕生祝いだそうだ
まさか、いや、まさかそんな事・・・
母親と親子なのはわかる、面影が似てるから
でもあの幼女はまるで本人のようだ・・・そんなことあるはずがないのに!
「ご挨拶に行って確かめねばなるまい」
私がそう言って、行こうとしたら
ハッサム
「大使!あっち見て!
あそこにいるのは、邪教の教祖ではないですか?
なぜここに?商会の馬車に紛れ込んで来たのか?
それに、あの隣の上流階級の貴婦人は?」
「我が国で指名手配されている、この国に逃げ込んでいたのか!
ゆるせぬ!ひっとらえて連れて帰るぞ!」
私が腰に帯剣していた護身用の剣に手を当てて近づくと、教祖がこちらに気が付いたが
逃げるどころか、ドヤ顔で隣にいた高貴な雰囲気の貴婦人の後に隠れた。
女を盾にするなどこすいやつだ!
「あら、そちらは、どなたなのかしら?
わたくしはこの国の前王の姉であり、今は公爵夫人のマージョリーですわ。
どういった御用向きかしら?」
「マージョリー殿下
こやつはアルラシード王国のただの平民あがりの騎士に過ぎませんぞ、あなた様が名乗るほどの者でもありませぬ。
下賤な輩め!とっとと失せよ!
ここは貴様らの来る所ではないわ!消えよ見苦しい!」
「獅子の威をかる狐が!
貴様のせいで我が国の民がどれほどの「アブドゥル騎士隊長さん!今日は私の為にお越し下さりありがとう存じます。
マージョリー殿下、お騒がせ致して大変申し訳ございません
こちらは、私の客人でございます
そちらの隣国の王弟殿下と何やらございますでしょうが、今日の所は私に免じて、どうぞ矛をおさめては下さいませんか?
殿下、御膳を失礼いたします。
隊長さん、とりあえず行きますよ!
皆さん、パーティを続けて下さいませ。まだまだ料理も出て参りますし、ギャラリーに絵を飾っております。どうぞご覧下さい」
私が抜刀しようと前に出たところで、あの幼女が出てきて、この場をおさめた。
年齢よりも大人びた口調と胆力、それに私を庇って小さな体で前に出た。
今だって、小さな手で私の手を握りグイグイ引き歩いている。
それに、この幼女は私を"騎士隊長"と呼んだ。
間違いない、この幼女こそが白銀の聖女様そのものに違いない!でもまさかそんな、信じられない。
そして、あの邪教の教祖は隣国の王弟だったとは・・・切りつけなくて良かった、幼女が飛び出さなかったら国際問題だった
「マリー!大丈夫だった?
あ、あの時の・・・すごいタイミングで来たね」
あの時見た人ならざる御使様!今日は立派な貴族の仕立てだ!
やはりこの幼女が聖女で間違いない!
なんて事だ!私の青春が散ってしまった。
今5歳なら、あの美しいお姿まで成長するのに13年もかかるではないか!
その頃、私は33歳だ・・・ギリギリいけるか?イヤイヤ
こんなことなら、あの時に抱きしめて口づけて将来を誓い合っておけばよかった。ぐぅ、無念だ!
ハッサム「貴方様は聖鳥の御「違います、違います!僕はこの家の次男でスコット・コルチーノです。
聖なるとかではないです!ホントに!大きな声で御使様とか聖鳥とか言わないで下さい!」
ハッサムの口元を抑えてスコット少年が早口で捲し立てる、本当にただの人間なのか?
私達が軽くパニックになっている中
「おにーさま!それよりも大変なのです
隊長さん、これってカカオバターではないですか?」
「え、あ、ハイ
よくご存知ですね」
「泡の実より価値がありますわ!
実は?カカオの実は?あれはチョコレートの材料になりますの!
泡の実は、いずれ類似品が出てきて売上が均等になりますが
チョコレートは、カカオだけです!
わたくしが知る限り、チョコレートの祭典や専属の料理人など、商品価値がとにかくヤバいです!ヨシュアに相談しないと!
これは私の手に余ります!」
何を言ってるのか全然わからないが、このプニっとした顔でも表情が同じなんだなぁと感慨深くなった。
キラキラした瞳がこれが運命の出合いと言わんばかりに輝いてる。
なんと言うかとても疲れた。
教祖の糞野郎と顔を合わせずに済ませるために、幼女の部屋に案内された。
幼女部屋とわかったのは、聖女様が抱えていた高そうな一級品の人形が飾ってあったからだ。
食べ物もこっちに運んで来てくれるらしい。至れり尽くせりだ。
パーティが終わるまで待ってろと言うことだろう。部下たちも飯が食えたらいいと、なかばやけになってる。
色々と衝撃的だったから考えがまとまらない。
ふと、絵が立て掛けてあった。
素晴らしい絵だ、大きな額縁の大作だがそこには私が求めていた聖女様の姿があった。
涙が溢れ出た。
探し求めて遥か遠くの隣国まで来て、儚い現実を知ったが、確かにあの幼子は聖女様のようだ。
絵の中には聖女様がいる、私が跪いて絵を眺めていると部下が私の涙に気がついた。
ハッサム「大使、元気出して下さい。あの方は貴族の娘ですから
15歳の娘と30歳のおっさんの年の差なんて気にならないですよ。
もっと歳が離れてる所に嫁がされたりしますから」
「15歳?」
カヤック「あのムチムチの太ももは15歳だそうですよ、部屋に案内されるまでにスコット様がおっしゃってたじゃないっスか!
大使凹んでて話聞いてませんでしたね?
しっかりしてくださいよ!我々の国の未来がかかってますからね!」
「後10年待てば、あのお姿になるのか!」
ハッサム「大使、そうですよ!たった10年です。元気になりましたか?
カカオの実は少しは積んで来てますがバターにしたものではなく実のままの方が良かったみたいですね
凄い勢で喜んでおられましたね」
カヤック「大使その見た目でまだ20だったんスか!俺のが年上じゃないっすか俺25ですよ?」
「カヤックは20歳も離れてるのか、流石にそこまで年の差があると聖女様に申し訳ないな」
カヤック「聖女様のことは一旦置いておきましょうよ?どーしたんスか?
普段の冷静沈着なアブドゥル・アルラフマーンがここにきてからポンコツっスね?」
ハッサム「カヤック言ってやるなよ、大使の遅すぎる春なんだ。
大使の青春は今だ、今日この屋敷につく前までは胸を膨らませて楽しそうにしておられただろ?
隊にいたころは訓練に明け暮れて、女性とまともに喋った事も無かったのだ
聖女様のあの気安さの意味がわかった気がする。
5歳ならあの距離感でもおかしくないな・・・」
カヤック「大使の遅すぎる春っスか・・・なんて言うか、もうあきらめて次にいけばいいのに?」
ハッサム「初恋を拗らせておられるのだ、10年たてば、しょっぱい思い出に変わるだろう。そっとしておけ、面倒になってきたし。
我々の役目は商品の販路の確保と、ぼったくられないようにする事だ。胡椒の二の舞いは御免だ。
この国は我らを下に見ているからな、現王妃さまのご実家ではあるが・・・王妃様の態度でわかるだろう?」
カヤック「その王妃様も焦ってるんじゃないですか?第1王子で王太子になったばかりの息子よりも、側妃の第2王子の人気が上がって来てますね?
まあ、隣国から姫が嫁いで来なければ、正妻でしたもんね、国内の派閥が元々大きいですし。
あの眷属神様のご加護にあやかりたい平民も取り込んで第2王子を王太子に押してますもんね
第二騎士隊長の敵前逃亡が無かったかのように第二隊のやつらも、祝福を使ってるじゃないッスか!
あいつら隊長の事をずっとコケにしてたのに掌返しやがって!
親善大使の役目を持ち上げて、あの時は自分たちは勇敢に闘ったって言いふらしてる!
実際は腰抜かしてただけなのに!」
ハッサム「まあ敵に回られるよりかは、やりやすくなった。全く信用出来ないけどな」
日も暮れてきてずいぶんと待たされた。その間、高価なお茶やお菓子が出てきて腹は満たせた。
部下達がごちゃごちゃ言ってると、コンコンとノックがなって、ドアが開いた。
あの幼女と最初に会ったキリッとした祖母の貴婦人だ。
「ずいぶんとお待たせいたしました。
お客人をこのようなところに留め置いて申し訳ありませんわ
ですが、あなた方を守るための措置だとご理解いただきたく思いますわ
敵に回してはいけない御方でしたので、私もハラハラいたしましたの。
マリーウェザーちゃん、よく丸く収めたわね!
大した物よ!本当に貴女が男の子なら領主に押したのに残念だわ」
「いえ、おばあちゃま
他人事ではございませんでしたので・・・なんと言いますか身から出た錆?
あの元教祖はおばあちゃまでも手が出せなくなりましたね、もう本当に来ないで欲しいです」
「ええ、本当に。なんて、いまいましいのかしら!今度見たら斬り殺してやろうと思っていたのに!
オホン、あら失礼。なんでもありませんわ」
この幼女はマリーウェザーと言うのか、御使様が「アリー」とか「マリー」とか言っていたけど愛称だったのだな。あの親しい雰囲気は家族の、そして兄妹の抱擁だったのだな。
ついでにあの元教祖はここでも悪行を重ねていたのか。
「隊長さん、すみません。重罪人の指名手配犯になっていそうですが、ここはあなた方の国ではないのです。
マージョリー殿下に囲われてしまっては手が出せません。
国に帰ってから正式な手続きに基づいて、犯人の身柄確保をお願いするか、ここよりさらに北の国に被害請求されることをオススメします」
マリーウェザー様が小さく丸くなって私に謝罪される
もう、あの元教祖などどうでもいいのだ
「どうぞ立って下さい、謝罪など必要ありません。こちらこそ助かりました。
改めまして、ご挨拶申し上げます
アルラシード王国特别親善大使アブドゥル・アルラフマーンでございます。
発音しにくいと思うのでアブドルでも構いません。
どうかそう呼んで下さい・・・マリーウェザー様」
「これは重ね重ね失礼いたしました、特别親善大使様
早速ではありますが、持って来ていた荷物を拝見出来ますでしょうか?」
「アブドルです、アブドルとお呼びください。肩書などまた、すぐに変わると思いますので敬称も省いて構いません」
「アブドル・・・さま
流石に呼び捨てに出来ません
おばあちゃま、荷馬車はどちらですか?確認に行きましょうか?南国の香辛料なんかもあったら全て買い取りましょう!」
「マリーウェザーちゃん、落ち着いて。私も見たいわそのカカオというの?
それに国境で関税を取られたのではなくて?」
「いえ、こちらはとりあえず先日・・・いえ、先刻のお礼にお納め下さい。
泡の実以外は見本程度にしかお持ちしておりません。何が必要かは見てから取引き致しましょう」
「泡の実が大量に手に入るのね
アイザック殿下が大変喜んでおられたわ。
養殖場が軌道に乗るまでの民の食い扶持にちょうど良かったわね
そちらは正規の値段で買い取りましょう。いくらがいいかしら?」
「温泉にボディーソープボトルを設置すると考えたら・・・1キロで銀貨5枚とか?1キロあれば小瓶30〜50は作れるかな?」
「「銀貨5枚!」」
アッサムとカヤックが声を揃えて驚く
「マリーウェザーちゃん、ほら、安すぎたのではなくて?あちらもせめて銀貨30枚は欲しいのでは無くて?」
「「え!」」
「そうなのですがねぇ、グスコーブ商会のシャンプーは植物性オイルを原料にしてるんです
王都で手に入るものは動物由来のもので臭いのです。
バラじゃなくても、他の花やオレンジからオイルが大量に取れるようになれば、手間はかかりますがそちらからもシャンプーが作れない訳ではないのです。
みなさんはオリーブオイルや蜂蜜は食べ物だとの認識が強すぎて石鹸にしたがりませんけど。
50年後には類似品がたくさん出てきますからね。
独占的に最初の5〜10年は銀貨10枚程度で買い取って、後は時価に合わせましょう
カカオの方は独占出来ないでしょうね、価値が違いますから
可能なら、隣国に専用の工場を作って粉状にまで加工してから輸出したほうがコストカットになります
製品にするには、管理と品質が徹底しているので目が届く範囲でさせたほうがよろしいかと」
幼女ではなく商人のような顔をして祖母殿と話しながら歩いて馬車まで案内してくれた。
色々と考えて下さっておられるのだな、多分。
荷詰めの箱を開いていく
「あ、あった!香辛料だ!
カレーが作れるかな?カカオ同様にロバートさんに開発してもらおう!
おばあちゃま、前に地図で見ましたが川沿いにマックイーン子爵領と隣接してる開けた場所がありますよね?
あそこに工場を作って共同開発をされてはいかがですか?
多分、グスコーブ商会が利権に口を挟んでくると思いますから、最初から取り込んでおきましょう!
チョコレートとカレーの開発者の名前は歴史に残りそうですね」
「カレーをご存知ですか?我が国の庶民的な豆料理ですが・・・
そんなにこの国では受けると思いません。
こちらから嫁いで来られた王妃様の舌には合わなくて・・・その、すみません」
「本場の豆料理だとそうでしょうね
わたくしが知るカレーは貴族にも受けると思いますわ、なによりわたくしが食べたいですから。
チョコレートが貴族の専売特許ならカレーは確かに庶民向けですわね
おばあちゃま、温泉街にカレーの専門店ができたらダブル効果で客足が増えましてよ?
鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、魚と肉なら、なんでも合うので、それぞれ研究して専門店ができたら流行るでしょうね
足湯しながら屋台のカレーとか最高ですわ!
あの辺りは、温泉姫のご加護で冬も雪がつもらないそうですわ」
「まあ!それは本当なの?温泉姫さまのご加護で雪がつもらないの?それは凄いじゃない!冬の間も工事が進むわね!ホホホ
あの御方にひと泡吹かせられそうね!
何が田舎の工事が遅れるのは仕方ない事よ!見てなさい!来年の春には完成させるわよ!」
「資材を冬までに用意しておけば、材料の調達に雪で足止めをくうことはなくなりそうですね
あくまで開拓区に限定されるそうで、船着場までがギリギリ御慈悲の範囲だそうです」
「そう言えば、露天風呂が計画されてたわよね?そのせいかしら?」
「おばあちゃま!
今日はアブドルさま達をこちらの夕食に招待しませんか?
隣国の親善大使をもてなさずにお帰りいただくわけには行きませんもの
今日は近隣の街も、宿泊客が多いのではございませんか?殿下達もお帰りになりましたし?」
あれよあれよと言う間に夕食をごちそうになることに。
今日の宿など、いつものように野宿をしようと思っていたのに正直ありがたい。
別の部屋に案内されて、そこで湯浴みをさせてもらった。
泡の実から作ったと言う"シャンプー"を使って屋敷の使用人に何度も何度も頭を洗ってもらった。
なるほど、我が国では食うに困っているから開発に余裕がないのだな。
髪から爽やかな柑橘の香りがした。
そして驚くほどに頭がスッキリとして、絡まることなく手ぐしが通った。
頭が軽くなった。垢が消えた分軽くなったのか?
祖母殿からはバラの香りがしていた、なるほど、香りを変えて類似品がたくさん出ると言っていたがそうか。
食堂に伯爵家とその親戚貴族が集まっていて、紹介を受けた。特别親善大使の肩書はとても役に立ち皆が我々を快く歓迎してくれる。
この国の貴族は、こんなににこやかにに食事をしていたのだな。
国の警備をしているときに招いた国賓は、どれも我々を見下していたのに。
厨房から、スパイスの芳しいにおいがする。
マリーウェザー様が料理の説明をしていた。
「大使さまより珍しい香辛料をいただきました、皆さん付け合せはパンになさいますか?
ライスに合わせても美味しいですが
珍しい組み合わせなので、皆さんパンになさいますか?わたくしはライスを食べます。
辛口のワインがお好きな方はいけると思いますわ」
とても、幼女の提案とは思えない説明を受けて、珍しいもの食いたさにライスを欲しがる人が何人もいた。
部下の2人はパンを頼んでいた。
白いパンは高級品だ、めったに食べれるものじゃないと喜んでいた。
酒と前菜をつまみ、にこやかに話しかけられ、両サイドの部下2人が上手に相手をしている。
この2人がいて助かった。私だけでは確実に話が広がらずに終わる。
カヤック
「こう見えて、大使はまだ20の若者なんです!皆さんよりずっと小僧ですよ。
でも王国軍の元騎士隊長をしていて、色々あって多分、功績?才能を買われて?親善大使になりました。
熱い思いを胸にこんな遠くまで来ました。
冷めて見えても情熱的な男なのです」
「それはそれは、若いのに大したものだ。
隣国からここまで長い道のりでしたな。確かに南は熱い国と聞きますからね。情熱的な国なのですね」
皆がにこやかに笑う。
葬儀のような雰囲気を出すからお前は宴に来るなと、よく言われていたが楽しかった。
癒やしの湯がわく楽園のような場所は、開拓区と呼ばれていた。
地上の楽園とは、自らの手で作り上げる。聖女様のお言葉だったな。
そうか、普段から自分たちでしているからこそ、あの場で出てきた言葉であったか。
スパイスの良い香りがして皆が楽しみにしているなか、運ばれて来たものをみる。
私もライスにしたのだが
深皿に白いライスの山が見えて、真ん中をくり抜きそこにスパイスで味付けした挽肉を入れていた。
焼いた彩り野菜が飾ってあって、色目も見た目も素晴らしいが
カレーでは無かったのだ。
あのスープがカレーなのか??
「ライスのかたは、今からスープを配ります。
カレーが辛ければ、スープをかけて混ぜて食べて下さい。
そのまま山を崩して食べても美味しいですよ。
挽肉は牛と豚の合い挽きです。」
カヤック
「なっ?この挽肉が?これがカレー?俺の知ってるカレーじゃない!」
ハッサム
「カヤック落ち着けって、すみません。
故郷の料理を想像してましたが、見た目が違いましたので驚きました。
使われてるスパイスは同じで香りが似ています」
「改造・・・と言うよりも、全くの別物ですね。
ドライキーマカレーですけど、スパイスのきいた挽肉料理ですね。
今日はお客が多いので時短で大量に作るには、これが1番でした。
香り豊かなスパイスがないと挽肉は臭くて食べられませんが、これなら食べやすいと思いますわ。
南国の一般的なカレーとは違いますよね?
あちらは豆のスープカレーですよね?
添えてあるスープをかけて食べると近くなると思いますが、その挽肉の状態で一度食べて下さいな。
ふふふ、わたくしは子ども舌なのでスープをかけます。そのために深皿にしました」
そう言って最初の一口だけ白い山を崩して食べて、ハフハフしたあとスープをかけた。
同じように真似をして最初の一口はそのまま食べた。
カレーではないけど、美味かった。
持ってきたスパイスはたくさんあったが、この料理に使われている種類は少なめで、挽肉の旨さがよくわかる。
私の知ってるカレーではなかった。
スープをかけると、山が崩れてスープの柔らかく煮た野菜と元々あった焼いた彩り野菜の食感が違っていて、焼いた方は香ばしく歯ごたえがしっかりあった。
カヤック
「もう、カレーと思わず食べたほうがおいしい。
これ、カレーじゃないけど美味しい。
挽肉料理だ。ドライキーマだっけ?
俺もライスにすれば良かった、ライスがスープを吸って美味そうだ。
このパンも白くて柔らかくてすごく美味い。
この丸いカトラリーですくって食べるんだな
オレ達はパンだから手で食べるけど、なるほど文化の違いだ」
ここの貴族はみなカトラリーで食べている。
流石にパンは手でちぎっているが、カレーやスープにつけて食べていない。
あくまでカトラリーで食べている、食事の作法が我々とは違っていた。
王妃様の態度が悪かったのも納得だ。
この国から押し付けられたように輿入れしてきたとはいえ、我々の勉強不足だ。
巨大な山脈の向こう側の寒い国は、実り豊かで文化も考え方も何もかもが違っていた。
今こうして、皆で楽しく食事をしているなど奇跡だ。
「マリーのだけ蜂蜜が入ってるんでしょ?」
兄上殿のスコット様がマリーウェザー様の横で話していた。
「子ども舌ですから
蜂蜜が焦げるので別に作りました。蜂蜜を入れると甘さの他にも味に奥行きがでますわ。
より、まろやかにとろみがでました。
おにーさまも食べますか?
まだ鍋に残っているかもしれませんわ」
と言って、蜂蜜入の豪華な挽肉料理を持ってこさせた。新しく熱したのか、スパイスの他に甘い香りも混じって複雑な匂いがする。
「あれ、思ったほど甘くないね?
こっちの方が僕も食べやすい、マリーはよく考えつくね!凄いよ」
「私の知ってるカレーは、スープではなくシチューのようにドロっとしていますの。
これは、さらに水気がない料理です。
水分が少ないので、パンに挟んで持ち歩けますわ」
そう言って、白くて柔らかそうなパンを1つ持ってこさせて、切れ込みに挟んで半分ずつにして兄妹で仲良く食べていた。
面白そうだと、他の人も真似をしだしてみんなパンに挟んで手で食べていた。
皆が手で食べていたから、カトラリーになれていない私達は違和感がなくなった。
甘い香りの白くて柔らかいパンが聖女様のようで、このスパイスのきいた挽肉料理が私のようだ。
2つの相性は抜群によかった。
私たちも、このくらい相性がよくなるだろうか
異文化でも何でも慣れなければ!
10年もあれば可能だ私はやる!
いつの間にか、この挽肉料理がアルラシード王国の味と言うことになってしまった。
コルチーノ伯爵の一族の親戚貴族達が満足そうに「隣国の味を自慢できる」と帰っていった。
まあ、そんな些細なことはどうでもいい。
翌日は、前領主に開拓区に連れてきてもらった。
足湯を見てみたいと口走ったカヤックに応えるように、連れてきてもらったのだ。
領民達にとても慕われていて
珍しい異国の肌の我々は浮いていて見えたが、領主の声1つで歓迎の声にかわった
ここでも親善大使の肩書はとても役に立ったのだ領主様が民に
「皆、道を開けてくれぬか?
アルラシード王国より特别親善大使殿が人気の足湯を体験しに来られたのだ」
肩書はやはり大切だ。
混雑している足湯まで人が割れて花道が出来ると、流されるように足湯に案内されて、ズボンを捲り足をつけた。
不思議な現象がおきたのだ。
長旅で足に豆が出来ていたのが、じんわりと癒やされたのだ。まるで大聖女の御業のようだ。
ハッサムとカヤックが絶賛していた。
カヤック「足だけなのに、体が暖かい!足の豆が痛かったのに治った!凄い奇跡だ!
あ、え?全身つかっちゃ駄目なの?足だけの作法なの?
ああ、そのうち工事が終われば全身あびれるのか!そいつは凄い!
全身で体験したら、あの時のように気持ち良いだろうなぁ
いいなぁ、この土地は素晴らしいよ!」
この地の温泉姫様のお慈悲です、人々がそう口にする。
大精霊がおわすこの地はエネルギーに満ちていた。
この中には元は他領から流れてきた貧民がいるときいた。
そびえたつ雪山の向こう側は、まだこの国の領土で北の公爵領だと言う
いつの間にか、領主殿が買ってきた屋台の酒と串焼きをつまんで食べて、持ってきたハーブを肉にかけると美味いと話すと店主が欲しがって領主に交渉していた
ふと、視線を感じて顔を向けると
あの時消えた貧民の子どもがいたのだ!楽園へ来ていたのだ!
てっきり死んだとばかり思っていたのに、私を見ると走って逃げてしまったが、間違いない!あの時の顔に火傷をしていた子供だ。
服を新しくもらい、食べさせてもらっているのだろう細いながらも肉がついていた。
元気に走って行く姿に安堵した。
それは私の罪が許された瞬間だった。
心が軽くなり、祈らずにはいられなかった。
私が祈るといつの間にか横にいた黒髪の変わった衣装をきていた少女が
「あなたもあの御方に赦されたのですね?
ここは以前にも教会の司祭様が祈っておられました、あなたの祈りも届きます」
そう言って笑っていた
民衆に手を振られ馬車に戻った。
ふと振り返ると民衆の中に、あの時聖女の傍らにいた、あの翼の生えた天使様が民衆に混じって手を振っているのが見えた。
ここは地上の楽園なのだ天使も紛れていたのだ。
屋敷に戻ってきて、取引きする商品の選別やここまでの航路を話す。
昨日いたのかわからないが、商会が2つ用意されていた。
あのスチュワート商会だ、会長の息子だと紹介された子供とおつきの人がいて
もう一つは、グスコーブ商会だと挨拶された。
昨日、マリーウェザー様の話に出て来た。
マックイーン子爵領の領主もいて、カカオの取引きを望んでいた。
そういう詳しい話は、ハッサムがしていた。
貴族家の三男で、商家の出の母を持っている
こういう時の為に連れてきたのだが、上手くやってほしい。
私は普通に黙って座ってるだけでいいと、言われている。
ハッサムのナヨっとした見た目がなめられるせいだ。
難しい話だ、へーそうなんだと思っていただけなのに、渋られたと勘違いした相手が公爵領まで馬車を迎えに寄越すと言っていた。
ここの領主はとてもいい人だが、領地が北の端でめちゃくちゃ遠いのだ。
「玄関となっている公爵領で取引き成立できるのは、ありがたい」
私がそう言えば、ホッとしてあちらも納得してくれた。
私の顔が怖いせいだ、すまない
一段落して休憩にとお茶の準備がなされた。
マリーウェザー様を見ると、部屋の端で商人と込み合った話をしていた。
私は耳が良いから、少し寄るだけで話が聞こえた。
「このただよう香りは、スパイスですが?もしやカレー?」
「昨日キーマカレーを作ってみました。市販の味にならなくて、やっぱりムズいですね」
「あー、ハーブいっぱいありますもんね
電子レンジ使いますか?
喋る機能だけじゃなくて、材料をいれたら完成するように進化しました。
皮とか骨が下部分のゴミ箱に落ちてるんですよ!」
「え!すごっ!
めっちゃいいじゃないですか!え?焼いたり煮たりどうなってんですか?」
「知らない。
でも焼いたり煮たり蒸したりの工程が丁寧にされてましたよ?
最新家電のレンジの妖精のおかげ?にしてます
シャンプーとかも開発してくれないかなぁ」
「流石に食べ物以外をレンジにいれるのって、どうなんですか?」
「天然素材だと、そんなに気にならないですよ!シスコンさん若いのに固定概念に縛られてますね、異世界ですよここは
鶏を一羽入れて油と塩と卵を置いて、唐揚げ頼んだら作ってくれました。
普通に美味しいってジョルジュが言ってましたよ?
鶏の羽根も骨と別にしてまとまってて感動しました」
「え!一羽を丸々?
いやぁ、まあ、そうですね、ちょっと恐怖を感じますけど?
じゃあ、チョコレートも出来そうですか?」
「出来るけど、工場をたてて量産するんでしょ?ジョルジュとマックイーン領主が楽しそうに話してましたよ、王都から貧民が流れてきてますよね?
開拓区まで遠いので、道半ばで力尽きて子爵領にウロウロしてる輩に困ってたみたいです
そういうの引き取るためのチョコレート工場ですよね?甘くもないし夢もありませんが」
「王都の貧民はマークフェルドのせいですよ。
工場見学のように最初と最後の工程だけよく見えるように建てた方がいいですかね?
王族とかの視察はもう面倒ですよ、全く」
「あ〜、よくあるツアーですね?
匂いで釣っといて、散々歩かせて最後に出来立ての熱いチョコ食べさせて気持ちよく帰ってもらう的な?」
「そうですそうです!そんな感じ!」
アハハとマリーウェザー様が商人と楽しそうに親しそうに笑っている。
私には、ライバルがたくさんいるようだ、私とあの商人は歳も変わらなそうなのに、あんなに引っ付いて羨ましい!
カヤック
「マリーウェザー様は年上が好きなのか?大使、俺は応援してますから!」
ハッサム
「めったなこと言うなよ、そっとしとけ!」
昼食に出てきたカレーはドロっとしていたけど、口当たりがまろやかで、大人はピリっとした辛口を食べていた。
昨日食べたのより肉の塊が歯ごたえよくて満足感があった。
「マリーのは今度はリンゴと蜂蜜入りなの?」
「おにーさま一口食べてみますか?
はい、口を開けてあーん」
本当に中の良い兄妹だな
「ムグムグ、味がまろやかになった?
りんごの味がしないけど、肉の臭みが減ったかな?これ鶏肉?柔かいんだけど!」
「そうなのです!わたくしのは肉も薄いです。
子ども舌ですからね、みなさんのように大きい肉の塊だと口に入りませんから。
女性や子供にはこちらの方が食べやすいかもしれませんわ。
カレーは十人十色、好き好きがあって良いのです」
「ああ、だから開拓区に色んな専門店があったらって言ったんだね。
同じ味なら、牛肉の一人勝ちだと思ってたんだけど。
確かに、食べやすさも大事かも」
「食べ比べしてお店を回るのも楽しいですよ
自分の好きになったものって、誰かに自慢したくなりますの。
王都で足湯を自慢してるマークフェルド司祭のように」
「うん、なんかわかった気がする」
その日の晩も泊まらせてもらい、翌朝の朝食までご馳走になった。
一度、国に帰る事にした。
色々と込み入った話もあるし、このコルチーノ伯爵領にアルラシード王国の大使館を作っていただけると言う話になった。
もう、私の手に負えなくなったけど大使館に常駐するアルラシードの人間になればこの地に永住できるかもしれない。
早く帰って法案をまとめなければならない。
お土産にシャンプーの小瓶をたくさんもらい
あの素晴らしい聖女の絵をもって帰って良いことになった。
伯爵家お抱えの絵師がいて、あの絵を描いた少年が快く譲ってくれたのだ。
こちらからお金をお支払いせねばならない素晴らしい絵を、無料でいただいたうえに、泡の実だけ買い取りになったはずなのに、金貨3枚という大金になった。
他のスパイスの値段も入っているのだろう、実直で律儀な人たちだ。




