フィギュアの粘土
昨晩あんな事があったのに、ピッピは朝になると普通に飛んできて窓をコツコツして「開けてー」とやり、スコットが嬉しそうに窓を開けて「おはようピッピ」と手を出すとその腕に乗り、スコットに頬ずりしながら
「スコットおはよークワ」とかやってる。
あれー?昨日のプリプリ怒ってた姿は夢だったのかな?
すると俺の頭に乗ってきて、おでこに立派な嘴を擦り付ける。
「わっ、ちょっと!なに?」
嘴デカくて怖いです!ヒイ!昨日の仕返しか?すみませんでした!
「ピッピ、マリーは枝じゃないよ?
嘴についたゴミを取る時の仕草に似てるけど、鳥の愛情表現なのかな?」
これ愛情表現違うよな!ヤメてよね!
ひとしきりやって、気がすんだとばかりに飛んでいった。
ちなみに、マリアンヌ本体はヨハンを泉に捨てた罰として、バカ娘がちゃんと生きてるか王都に確認に行かせている。
『バカ娘は僕が捨てたんじゃないのに』とか言ってたけど、ピッピに聞いても嘴で突かれそうだから聞けないのだ。
本体の留守にしてるマリアンヌ人形が、ちょんとテーブルに座ってる。
今日も午前中は、ツァネフ叔父さんのお勉強の時間です。
サイモンとヨハンがお互いを意識しながら勉強に励み、失点の数を競ってる。
ヨハンは
「サイモン様は字があまり美しくありませんね、曲がりなりにも貴族ならもっとね?」
とか言って自分の奇麗な字を自慢して
サイモンが悔しがり、少しだけ計算が早いのを自慢してた。
字が奇麗なほうが得点が高いと叔父さんに言われて凹まされてて、スコットがフォローしてる。
アンナがそれをみて笑っていて楽しそうだ。
俺は、おばあちゃまの無茶振り(依頼)で、昨日のエピソードをどうにか良い話にしようと奮闘するが温泉姫のエピソードではなかったのでどうしようか考えあぐねていた。
もう、いっそ全然違う話にして適当なパッピーエンドストーリーでも作っちゃおうかな。
元王女様のエグい話とか色々アウトだろ!
【温泉姫と奇跡の髪】
髪の毛がギシギシのボサボサで何をしても絡まってほどけなかった姿を笑われていた可哀想な女の子が温泉に来たらサラサラになって、見違えるように痩せて美しくなったお話だ。
髪を整えてもらったあとは、良いところのお嬢様風に描いておいた。
今度はヨハンにかすりもしなくなったが、おばあちゃまからOKが出たからよしとする。
昼から、スコットはじーさんと出かけるようで、嬉しそうに準備をしていた。
今日は領地視察と称して街にでも遊びに行くみたいだ。楽しそうにしてるじーさん顔が、男の子の孫を連れ歩く祖父の顔だった。
女の子の扱い馴れてなさそうだったしな。おばあちゃまが俺を構うとじーさん寄ってこないし。
でも、俺も街に行きたいんだよ!いいなぁ~、スコットいいなぁ!俺も鷹狩に行きたかった!
連れ歩きポケモ○のようにピッピがついて行ったし!キィー!
俺も馬に乗ってパカラッパカラッってやりたいのに!
でも幼児と一緒に馬に乗るの怖いだろうな、俺なら幼児と乗りたくない。落としそうで怖いわ。だから諦めるけどな!くぅ〜
俺たちはアトリエで絵の制作作業だ。
粘土が乾いて、ひび割れを確認する。まともにフィギュアに出来そうなのは2種類だけだった。
作ってる時は気にならなかったけど乾いたら表面がザラザラとしててヤスリがけしないと色塗れないやつと
乾燥しても柔らかいというか、しなやかな弾力があって乾燥が足りてないのかな?って感じの2つだ。
どっちも微妙。
地球の粘土は凄かったんだな。叡智の塊を400円くらいで買ってこねてたと思うとなんとも懐かしくなる。
そして
「お嬢様素晴らしいです!
乾いてヒビがなかったこの2つですね。
僕にフィギュア?を教えて下さる約束ですよね!
ああ、お嬢様に手取り足取り教えていただけるなんて、幸せ過ぎて震えてきます。
この感動をぜひ絵にしてお伝えしたいです。お嬢様は何が好きですか?
2人で1枚の絵を共に仕上げて、僕らの愛の結晶を後世に残しませんか?
僕らの愛は未来永劫なのです!
ああ、素晴らしい!想像しただけでいきそうです」
ヨハンのキャラが変わってしまった。
あのボソボソ喋る初々しい小僧はどこいったんだ?
こっちが本来のヨハンなの?今まで猫被ってたの?
サイモンが悔しそうに見ていて
「お嬢様の考え事の邪魔だ!静かにしろ!」
とヨハンにくらべるとかなり控えめに吠えている。
そして、ヨハンは距離が近い。
見た目は良いところのお坊ちゃんでも、下町育ちなのか距離感が気安いのだ。
下町の幼児のような扱いだ。すぐ頭を撫でてくるし、膝に座らせたがるし、抱っこしたがる。
俺の知る幼児の扱いだけど、兄弟とかそんな距離感だ。世話焼きのお兄ちゃんな感じだな。
俺がオヤツで口でもよごそうものなら、アンナより先に口を拭かれそうだ。
サイモンがヤキモキしながら、ずいっと間に入って悔しそうな顔をして
「お嬢様の邪魔だ!近い!」と言ってはヨハンを離したが、ヨハンは秒で寄ってくる。
サイモンが俺を後ろ手に庇う姿は、フシャーっと猫の威嚇のように見えてしまう。
サイモンもどこか遠慮してる所があったけど、ヨハンが来てからは、ちょっと生き生きして見える。なんだかんだ、ヨハンに振り回されてるが楽しそうにしていて良かった。
「粘土も、もう少し良いのないかしら?この粘土でも悪くないけど、良いものをつくるには質が足りないわ。
アンナ、スチュワート商会がいつ来るのか知っていて?」
「お嬢様の無茶振りで道具を探してるんじゃないですか?それに、もし無かったら、工房に発注して完成出来たら持って来ますよ!
難しい道具を頼んだんでしょ?」
「そうね、探すより作った方が早いかもしれないわ。いっぱい頼んじゃったし・・・。
でも粘土の質も上げたいのよ。これじゃあ売り物にならないわ。時間がたったり、持ったりして割れそうじゃない?」
「木彫りにしたらいいじゃないですか?」
「量産するなら粘土の方が加工が楽なのよ。
こう型を作って、粘土を押し込むと一瞬で型通りになるでしょ?失敗してもまたやり直せるから、ロスが無いしコストもこっちのほうがかからないのよ。
固まってしまった後でも、砕いてもとの粘土に戻せるの」
「描くのと作るのじゃ天と地ほど差がありますね。本当に作れるんですか?」
まったくだ、粘土ないと進まないよ。
スチュワート商会は来なかったが、マックイーン子爵の叔父さんがやって来た。
お母様がちゃんとしたカッコしてて侍女がお茶を準備してるからアポ有りの訪問だったのね。
お母様がアトリエに案内して
「どうしてもとおっしゃるの」と困ったように言う
「やあ、これはお嬢様!
おお、素晴らしいですな。この粘土は新しい作品ですかな?
お嬢様は、造形にも秀でていらっしゃるのですね?」
「紳士ごきげんよう
汚れるといけないので寝室でお留守番しておりますが、素敵な人形をありがとうございます。」
とペコっとカテーシーして挨拶すると
「おお、これはこれは失礼 ご挨拶が遅れました。
私は前マックイーン子爵の息子で、今の当主の叔父でもあり
人形を取り扱っているグスコーブ商会をしております。
ジョルジュ・マックイーンでございます。」
ジョルジュおじさんって呼んでねってウインクした。
ジョルジュおじさんだって。なかなか面白そうなおじさんじゃないか!
それからジョルジュおじさんは、書きかけの温泉姫の物語を見て面白がり
粘土は割れるし大変だねと言われて、アンナにもした、量産するならこっちのほうがコストがかからないと話すと驚いていた。
型を作ってしまえば、100体だろうが200体だろうが同じ物が作れるからな。
絵付けの色を変えるだけで、服のバリエーションが増えるし。
リ○ちゃん人形みたいに着せ替えも悪くないけど、俺の温泉姫が裸にむかれるのは何か嫌なのでしない。棒立ちは作るのも楽だけどな。
あくまでフィギュアなのだ。
フィギュアだから際どいポーズも作る予定だ!
温泉の岩に座る後姿とか作ったらおばあちゃまに怒られるかな?
「質の良い粘土がなくて、スチュワート商会に道具を頼んでいますの。
道具が届いたらこの粘土でも作って見ますが、思ったようには出来ないでしょうね」
「てっきり、陶器の焼き物のようにするのかと思っていたよ。焼く前に絵付けしてそれで焼いた時に割れたら大変だなぁと思ってたんだけど
乾燥させるだけなら、大して割れないし
型を作って大量生産か・・・規模が桁違いだ!」
一点物の丈夫な木彫りのアンティーク人形と違って、そこまで高く設定しないし大量生産できるからそこそこ安価に買えるのだ。
貴族だけじゃなくて、平民の富豪層にも買える値段にする。
その分、次から次に欲しがるようにデザインを変えて売りまくる。
金に余裕のある信者なら買うだろう。
「どんな粘土が欲しいの?
おじさんも探しておくよ。
道具があっても粘土がこれじゃ、確かに良いものは作れないね。温泉姫の人形だもんね、妥協したくない気持ちもわかるよ」
俺は割れなかった粘土のあまりを渡して、これのもっと細かくて手触りのよいもので乾いてもザラザラしない乾燥も早い物があればと説明した。
インクもアクリル絵の具のように乾くと水を弾いてサラッとツルっとしてるようなのがフィギュアには向いてると話した。
ついでに、フィギュアのコレクションケースも描いて説明して、苦労してたくさん集めてそれを閉まっておくのではなく飾って自慢するコレクター愛を語って楽しい時間をすごした。
可愛い小瓶に入ったハンドクリームをお母様と俺の2つ分お土産にくれて、ジョルジュおじさんは帰って行った。
お母様はハンドクリームの蓋をさっそく開けて、バラの香りねと満足そうに嬉しそうに侍女と話していた。
俺の手を見ると、インクや絵の具が付いて汚れてたけどプルプル瑞々しい幼児のお手てだったので、ハンドクリームはアンナにあげた。
「お嬢様・・・これを私が使ってもいいんですか?嬉しい! ありがとうお嬢様!
わぁ〜、素敵ね!バラの香りだわ!
ここ最近で1番の宝物です!フフ」
えー、文字表描いてあげたじゃん?
バラのハンドクリームって、女子にはこんなに受けが良くて凄かったの?マジか〜
俺は、地味にショックを受けて驚愕していた。
ピッピが1人で飛んできて
「スコット おじいちゃん 帰ってくる 帰ってくるよ 湯浴み用意 クワー」
とか鳴いて先触れしてる。なんなのあの鳥!
侍女がパタパタ動き出す。湯浴みの用意をして程なくスコットとじーさんが帰ってきた。
侍女にピッピを褒められてじーさんもスコットもドヤ顔してる。
なんなのあの鳥!すごすぎない!
夕食は、みんなでとる。
ヨハンは、ゲストなのでもちろんいるけど、サイモンとアンナは使用人たちと済ませる。
おばあちゃまとお父様は開拓区の話をして盛り上がり。
じーさんとスコットは街に出た話をして盛り上がっていた。ピッピを操る金髪碧眼のイケメンは街ではアイドルのようだろうな。
お母様が屋敷の話をして、グスコーブ商会のハンドクリームは良い香りでしたわとお父様におねだりしていた。
夕食後もヨハンを連れてアトリエに行き、絵の制作をしていて
サイモンとアンナは勉強の続きをしつつ、雑談だ。
たまにスコットが見に来て、絵の進み具合を見に来たりして寝る時間になった。
今日もスコットと寝る。
その日の気分でどっちかの部屋で寝る事を知ったヨハンがサイモンの時のようにショックを受けていたが、兄妹だしそんなものかと下町の気安さですぐに納得していた。
揉まれて育ったヨハンはたくましいな。
今日はスコットの部屋で寝たのだが、しばらくすると
『なんで部屋にいないんだよ!』とマリアンヌの声が聞こえた。
「あ、帰ってきたの?バカ娘生きてた?」
『僕が働いてるのに寝てたの?依代に戻ったら、部屋には誰もいないし?寂しいじゃないか!』
フン!と怒ってたのでとりあえずなだめてやって話を聞く
『なんか、王都で大変なことになってた。
あの赤い鳥がバカ娘をわざわざ人目に付く王城の庭に捨てたんだ。大騒ぎだぞ』
話を聞くと
王城の庭にバカ娘達をすてて、すぐに飛び去ったらしい。
怪鳥が公爵令嬢を攫ってきたと大騒ぎになり、城で討伐隊が結成されそうになったが、教会の偉い人があれは聖なる鳥だと言って敬いだして
公爵家がここぞとばかりに、うちの娘が聖なる鳥の御使いとか聖女とか持ち上げて
いくら金を積んだのか、教会のボンクラにバカ娘が新しい聖女だと証言させて、言われたバカ娘は超絶天狗になっていると言う。
王都では、バカ娘が新生聖女だとお祭り騒ぎらしい。
『僕がバカ娘に現実を教えてやろうか?お前の事を引き合いにだして、なんかムカつくし腹立つ!』
とマリアンヌは言うが、とんでもない!
あの怪鳥に猛スピードで運ばれてったのに元気そうで良かった。
怪鳥に運ばれただけで、御使様?聖女?うへぇー、絶対になりたくないそんなの。
もし王都でスコットがピッピのデカいサイズに懐かれてたら、スコットが教会に祭り上げられてたのか?うわぁ
「確か教会に予言の聖女様とかいなかったか?
うろ覚えだけど、カールおじさんとヤン先生から聞いた気がする。
本家聖女とエセバカ聖女のバトルとか、キャットファイトならみるけどさぁ?
現実は 教会VS公爵家
嫌だわ怖くて見れないわ!ムリムリ」
『そんなものか?』
「何もしなくていいよ、むしろするなよ?
俺は、何を言われてもいいんだよほっとけ。運が良かったら、そのエセバカ聖女様が俺を王太子殿下の婚約者候補から勝手に引きずり落として自分が王太子妃におさまるだろ?
何もせずに俺は候補から開放されて、エセバカ聖女様が教会本家聖女様から睨まれるだけだろ?
ウィン・ウィンじゃん
いや、むしろ俺に利しかないだろ?
頑張ってくれエセバカ聖女様!俺は全力で応援してるぞ!ガンバレェー!」
『身も蓋もないなホントにお前は!
そうか、そんな考え方もあるのか。僕はお前がバカにされてイライラしてたのに。』
「俺のために怒ってくれてありがとうな。俺はそれで十分だよ。」
『まあ、お前がそう言うならいいか。へへ
でもあの赤い鳥もいないのに、これからあのバカ娘どーするんだろうね?』
「公爵家の力でなんとかするだろ?
その辺の適当な鳥捕まえて赤く染めるんじゃないか?」
『本物よこせって、こっちにこないか?
お前の兄はあの鳥を街で見せびらかしていただろう?公爵家の力で盗みに来たりしてな』
アハハと笑ってるが、ホントに来そうだな。
そうなったら、どうしよう!
せっかくスコットがじーさんと楽しそうにしてるのに・・・。バカ娘ならやりそう。
その時は、それこそフィギュアで鳥を作って持って帰ってもらおうかな
朝起きた時にスコットにその話をした。
どうして、知ってるのとか聞かれたけど
「商人の噂話で昨日、知りましたの。
言い忘れていたので夢に見ましたわ。ピッピに城の庭に運ばれただけで、あの公爵令嬢が教会に御使様とか聖女に祭り上げられている恐ろしい夢ですの。
公爵家なら噂なんてどうにでもできますが中立派のうちの家では色んな所からの板挟みですわ。
上からも下からも突かれて大変ですわね」
スコットが、ぞーっとしてて
「そんな事になってるなんて・・・」
と冷や汗をかいていた。そして
「公爵令嬢がピッピの事を知ったら、奪いにくるかもしれませんわ・・・
あのときの大きな鳥の姿じゃなくても国中から赤い鳥を集めて、傍らにはべらしそうですわね」
「ピッピが、そうなったらどうしよう」
と悲しそうに困ったように言う
「私がピッピの格好いいバージョンのフィギュアを作ります。ピッピより格好良く作ればフィギュアを持って帰るでしょ?
ピッピはしばらく、青とか白とかの羽で飾りでも作って首からぶら下げておけば赤い鳥(聖鳥)に見えませんわよ」
そう言ってると、窓をピッピがコツコツ叩いて
「スコット おはよー 開けて」
と言いスコットが、窓を開けると赤とかピンク以外の大小様々な鳥の羽を集めて持って来た。
ねえ、羽持ってくるの早くない?
もしかして、同じ事考えてたの?鳥と同レベルの発想なの俺は・・・。
今日は、ツァネフ叔父さんが用事でいないので勉強会は無しに。
かわりに、派手な羽を使って屋敷の侍女に派手な羽の首飾りを作ってもらい、ピッピの首にかけて見事に派手な鳥になった。
スコットにも余った羽でオシャレな3枚羽の首飾りを作っていた。
スコットの首飾りにはちゃっかり赤い羽が混ざっていた。
ねえ、俺にはないの?
と思っていたら
「わしも欲しい」とじーさんが言ったので俺とじーさんの2人も余った羽で3枚羽の首飾りを作ってもらった。
なんの鳥の羽か知らないけど、格好いいじゃないか。
アンナの言う、ここ最近で1番嬉しいとはこの事だ。
楽しくなって、俺が自分で作りたいと言ったら手先の器用なヨハンが羽のアクセサリーを作り初めた。
おばあちゃまとお母様には小さな羽のイヤリング
アンナは髪飾り
サイモンにも同じ羽の首飾りを渡してお揃いねとキャッキャしてすごした。
昼食後に
スチュワート商会が来たので
「道具が揃いましたの?」と聞いたら違ってた。
「マリーウェザー様!
粘土が気に入らないのなら、そうおっしゃって下さい!
我々の商会が探しましたのに!フィギュアの量産も我々にお任せいただければ損はさせませんよ。スチュワート商会に不満があれば教えて下さい、マリーウェザー様の利になるようにいたしましょう」
なんでスチュワート商会が知ってんの?商人ネットワークみたいなのあんの?
狸の商人が必死に見えるんだけど、これはあれか?
ジョルジュおじさん所とスチュワート商会で俺が天秤にかけてると思ってんのかな?
別にどっちを採用とかどっちを切るとか、俺に決定権はないんだけどな?
スチュワート商会は、お父様の専属商会でジョルジュおじさんは貴族の付き合いとかだろ?違うのか?
商会の沽券に関わると言いたげな狸の商人に、どういう訳か聞く
「私は、質のよい粘土が欲しいだけですわ。商売に関してはこの領地ではお祖母様が取り仕切っていませんこと?開拓区で話し合いは進んでますでしょう?」
「マリーウェザー様がフィギュア量産の内容をグスコーブ商会に伝授なされたのではないですか?
あちらも、量産に向けて準備を進めていますよ!コレクションケースなども作ると聞きました!」
あちゃー、なるほどね、世間話でペロッと喋ったら、あちらさんはのってきちゃったのね。
早いなジョルジュおじさん!商会やってるのも伊達じゃないな。貴族の草鞋で商人と両方に顔が聞くから有利なんだな。
狸の商人が必死になるわけがわかったわ。
「ヨシュアを連れてくるべきだったか、くっ、呼び戻さねば」とかブツブツ言ってる。
道具は全部そろってないけど、あるだけ持ってきてくれて、粘土もサラッとした手触りのよいのを用意していた。
かなり良いものだ!
最初に注文したときに粘土の説明をちゃんとしておけば良かったな。
「前に注文し忘れていたのだけど、土台がないとダメなのよね。土台にスチュワート商会のロゴでも入れたら宣伝になるのではなくて?
この辺りなら嫌味にならないわ。土台なら木でも石でもガラスでも何でもいいわよ。柔らかくなる魔法でガラスのコレクションケースでも作ったらいかが?金持ちは欲しがるかもしれないわ
フィギュアの試作品が出来たら1つ差し上げましてよ?」
俺は、クリスタル風のガラスの土台を描いて見せて、その横にそれに座ってる温泉姫のフィギュア絵を描いて渡した。
狸の商人が帰った後に、柔らかくなる魔法でフィギュア作れるんじゃないかと言うことに考え至る。
幼児の頭なのに固くなっていたようだ。固定概念に囚われていたようだ、俺もまだまだ浅慮だったな
ミネルヴァで、無機物にしか効果のない魔法だと実験結果が出ていたな。
ガラスや金属に使えるんだったかな、熱処理いらんじゃないか!
はっ!凄いことじゃないか!フィギュアの歴史が変わるぞ!
この世界では始まってもいないフィギュアの歴史だけどな!
狸が帰ったあと、さっそくアトリエで粘土にとりかかる、
骨格用の針金はあったので、約束した座ってる温泉姫いざ参る!
小さな指がこんなに便利だとは思わなかった。細い作業やりやすい!摘んだ粘土がすでに小さい
全体的に小さくならないように気をつけよう。鉛筆の太さですら太く感じるぜ!
ヨハンがマジマジみてるけど、俺は集中した。久しぶりのフィギュア制作だ!
正直楽しい!とっても楽しい!俺こういうの大好きなんだよ。
顔から作っていく、サイコロ状の木に丸めた粘土を盛っていく。道具の中にスパチュラがあって助かったな。無かったら光の矢で爪楊枝を作っていたかもしれない。
顔の輪郭を盛っておでこを盛って鼻を作ったら目と口をと・・・。
そして、ペンチが無くても、針金が柔らかく曲がる!天才か!
あの妖精との出会いはこの時為だったのか!ヒャッハー!
風呂上がりの浴衣姿だからな!体のラインを出したいからしっかりボディを形成する。おっぱいとお尻にくびれ!ここにフィギュアの生命がやどるのだ。
特に座った姿勢だから、お尻命だ。
ペタペタ粘土を盛っていく。座ってる形に整えて手や足にどんどん粘土を盛っていく。足は長めにして粘土が柔らかいうちに足を組んておく。手は両サイド斜め後に置いてバランスを保つ。土台に置いたときに倒れないようにする為だ。
ボディラインが終わったら乾燥だ。明日また服や髪を仕上げていく。
粘土が茶色っぽいけど、乾燥すると白っぽくなるだろう。
ふぅ~と顔を上げたら男性陣の圧が凄かった。わからなくもない裸体だからな。
みんな固唾を呑んで見守っていた。
「ヨハン、ここまでの作業で質問はあるかしら?」
ヨハンがビクッとしてどもる。
「え、はい、あ、いやその」
「まだ途中だけど、この状態で乾燥させて、一度固めるのよ。それから服と髪を仕上げていくの。髪は丁寧にしたいから、顔を一度固めたいの。乾燥に時間がかかるから、別バージョンを同時に作成よ!今度は膝立ちで指を組んで祈るポーズねそれから地面に足を斜め座りにして湯上がりの火照った体を冷ましてるポーズよ。こうパタパタしてる感じで片方の手は浴衣の胸元よ!」
完全に俺の趣味だ。
こういうのは、気分がノッてる時にやるもんだ。
夕食だと侍女に言われるまでやりつづけた。
「みんな乾くまで触っちゃ駄目よ?気をつけてね」
夕食後にまた作業をした。
ピッピを呼んで見本にする。頭や尻尾の派手な鳥を作っていく。
針金で弧を書くように尾羽根を作っていく。嘴に鼻の穴を空けて、目と、あらかた形成したらボディを作る。翼を広げると格好いいけど今日はもう時間ないし。
おおきさも15センチと小さめだ。ハトよりちょっと小さめだけど、頭と尾羽根が派手な格好いい鳥だ。こっちは完全に仕上げて明日色を塗ろう。
顔はクジャクっぽい感じだな。
本物のピッピより格好良くなった。
地球の粘土より質が悪くて使いにくく、粗は目立つが、まあ俺は満足だ!
「明日色をつけます。赤くしてここらへんの尾羽根は黄色に塗れば格好良くなります。」
今日はつかれたからもう寝ると言って湯浴みしてすぐに布団に入った。
スコットが
「マリーって凄いね、どんどん顔が出来て体が出来ていくからこっちも夢中で見てしまうよ
明日が楽しみだ、完成したらお祖母様が喜ぶね」
とスコットから寝息が聞こえてきて
マリアンヌが
『お前がフィギュアにこだわってたの、なんかわかったわ。あっという間に作っていくな。凄かった。僕も作ってくれるんだろ?』
楽しみだと言って添い寝しはじめた。
「ポーズどんなのがいいか考えといて。パン食べてる姿もいいよね」
『そんなのも作れるのか!お前が作るなら僕は何でもいいよ』
翌朝、スコットが楽しみで目が覚めちゃったと起こしてくれて
アンナが来るより先に着替えさせてくれて、朝食より前にアトリエに行った。
朝は寒いとカーディガンを持ってアンナがやってきて3人でフィギュアを見る。
固くなってる。これなら出来るなと朝食を呼びに来るまで作業していた。
朝食の後、ツァネフ叔父さんが来て勉強なんだけど、鳥の絵付けだけ先にしてしまおうと勉強してる皆の机で色を塗っていく。
赤と言えど、何色か混ぜて塗っていく。細い筆で細い作業だ。
叔父さんがほぉ~凄いねとか言っていたが集中してて話を聞いてなかった。
午前中かけて鳥が完成した。色が乾けばニスを塗るか迷うな。ニス塗っとくと水に濡れても色落ちしないけど、ツヤっぽくなる。
このままのほうが、ザラザラ感が本物みたいにみえるからな。
色落ちを考えて、ニス塗っとこう。
屋敷にいた使用人やお母様やツァネフ叔父さんが褒めてくれた。
「マリーウェザー、素晴らしいわ!まるで生きてるみたいよ!こんな才能もあったのね
どこに飾ろうかしら、皆が驚くわよ、まだ乾いてないのね? フフ、触らないようにするわね」
人にあげようと思ってるから、勝手に売らないでねと言っておく。バカ娘やその関係者が来たとき用だ。
鳥よりも温泉姫の服と髪だ!
これはアトリエに籠もってやることに。
浴衣を着せていく。浴衣の醍醐味は胸元と組んだとき足が見える所だ。
ぶっちゃけ、昨日より集中した。
顔の後に後頭部を盛っていく。
祈ってるポーズは髪を散らすけど、後のはアップだ!
指が小さいっていいね。髪を丸める時に自分の指で事足りる。
ヨハンとサイモンが作業を真剣な眼差しで見てくるが、集中してたから気にしない。
アンナに昼食をアトリエに運んでもらい作業をする。
幼児って肩凝らないのな。
夕食前には完成出来た。乾かして明日色塗りだ。
3体で3日かかる。
おばあちゃまが見に来て
「まあ、マリーウェザーちゃん!凄いわ!まあ!まだ乾いてないのね!色も明日?
凄いわ!御神体にしましょう!
え?1つはスチュワート商会ですって?もう1つはマックイーン子爵のジョルジュ様?
え、じゃあおばあちゃまには?
このお祈りしてるのをくれるのね?
素敵だわ!マリーウェザーちゃんありがとう、嬉しいわ」
予想通り、フィギュアの行先が決まった。
古今東西祈りのポーズは年寄に受ける。神殿でも神棚でも飾ってくれ。
俺は、キラキラ顔でこちらを見てるヨハンに声をかける。
「ヨハン、貴方も出来そうではなくて?手先が器用ですもの。すぐに出来るわよね」
今後はお前の仕事だ!地獄のハードモードだ!
今回は座ってたりして大変だったけど、量産するなら棒立ちでいいよな。
今日はもういいけど、いずれは
型を作るためのパーツを作っていく。針金よりも短い棒がいい。
はめ込み穴も作って連結しやすくする。
髪は上げておく。加工がしやすいからだ。
浴衣を着て着崩さずにそのまま型を作ってしまう。
多分、量産型だとヤスリがいると思う
引きつった顔で笑ってるヨハンをサイモンが気の毒そうな顔で見ていた。
そして、しばらくはこのフィギュア制作地獄に俺がハマるのだった。
信者総括がフィギュアの仕事をどんどん取って来ちゃったからだ。
ヨハンに手取り足取り教えながら、スパルタだ。
ヨハンが作ると丸みをおびていかにもなフィギュアになる。好みの問題か?
こっちの温泉姫のが良いと思う人もいるかな?
日本人のおぼこい感じが、ヨハンだとどうしても肉付よく太くなる・・・。
感性の違いか?
制作会社が違えば、作品も違う。よくある事だよな。
お目汚し誤字脱字すみません。フィギュアは趣味です。




