これは呪詛だ
夕食のあと、ヨハンがキラキラした目で見てきて
「お嬢様が僕を救って下さったのですね!ああ、僕は貴女に会うためにここに来ました、貴女は僕の運命の人です。
僕を救ってくれて、ありがとうございます。」
と、跪いて俺の手をとり、おでこにつけた。そんな大袈裟に感謝しないでくれ。
たまたまなだけで他の人にも出来るかと聞かれたら無理だろう。
「気にしないでよくてよ、ヨハンが元気で良かったわ。あの痣に心当たりがありまして?」
おばあちゃまに本を作るようにお願いされてるからな。みんなには痣に見えても、俺には人の顔の枯枝だったけどな。
「その、ここでは、ちょっと話にくいです・・・」
と言うので俺の部屋に案内した。
サイモンとアンナもついてきたが、それでもヨハンが躊躇ったのでアンナにはゆっくりお茶の準備をサイモンにはアトリエから紙と絵の具セットを頼んだ。
「言いにくいなら無理に聞かないわよ?」
と断りをいれたら、ヨハンはいきなり抱きしめてきて頭を撫でてきた。
「本当にありがとうございます
僕の顔を見ても気味悪がらなくて、優しくしてくれたのは貴女だけだったんです。
最初に開拓区で声をかけていただいて、素敵な絵までくれて本当に感謝しています。
僕に生きる気力をくれたのは貴女です。公爵領にいた頃も僕をみんなが避けていて・・・
僕に声をかけてくれてありがとう」
涙を流しながら、震える声で一生懸命言葉を伝えている。
ヨシヨシと抱きしめられたまま、背中をさすって落ち着くのを待つ。そうか、痣のせいで相当苦労してきたんだな・・・。軽々しく取っちゃったけど良かったんだな。
「大丈夫? 落ち着いたかしら?」
「はい、ありがとうございます
マリーウェザー様はお優しいですね。
母の乳母が亡くなる前に教えてくれたんです。僕の祖母は元王女様です――――」
と語り始めた話は強烈だった。
元王女様、マージョリーだったかな?
多分、前に城であった黄金のイボイボゾウガエルの化け物だな。
公爵夫人に臣籍降嫁して隠居せずに、いまだに社交界にいるんだったかな?
俺を王太子妃に押してるんだっけ、まあ孫があのバカ娘じゃあ仕方ないかもな。
その元王女様が公爵夫人として子どもたくさん産んでるんだけど、産まれた子の髪の毛が気に入らないとかで、処分してたんだと。
最初に産まれた娘と跡取り息子と気に入った娘だけ残してあとはポイだそうだ。
怖っ!子どもをなんだと思ってんのかね!化け物足りうる化け物だな。
乳母が処分から救った子が、ヨハンの母で乳母の息子の1人と結婚してできたのが自分だと
公爵家の乳母って、子爵とか男爵家の子女じゃないの?
ヨハン王族の血筋なの?良いところのお坊ちゃんじゃん!ほえ〜
何で貧民になってるの?
「元王女様が、母が生きてることに気がついて、今更処分・・・しようと・・・」
ヨハンの目が暗くなりカタカタ震えだした。
見ると、後から枯枝がいくつも伸びてきてヨハンに絡みつくようにしてソワソワ動いてる。
何なんだこれは!1つ1つに顔みたいなのがあって何か言ってる
ひえええ、怖くてチビリそう、足がすくんで動かない
『おい、何だこれ!大丈夫か?』
マリアンヌがグイッと俺を後に引き寄せてくれて動けるようになった。
「これは、こんなのどうしたらいいんだよ!」
枝が俺にも迫ってくる
イヤー!ムリムリ、近寄るな!
その時、タイミング悪くサイモンが部屋の外からコンコンと扉をノックして入室許可の声をかけてきた。
今はまずい!入ってきちゃダメ! きゃあ!扉が空いちゃう
『穴に入るぞ!』
とマリアンヌが落とし穴を作ってくれて
俺とヨハンとヨハンについてる枯枝が一緒に穴に落ちた。
サイモン「お嬢様?あれ?いない・・・みんなどこに?」
俺達は穴に落ちたんだけど、光の矢で枯枝を焼いても焼いても次から次に湧いて出てくる。
「きりがない、これってなんなの?」
『これは、呪詛だ!
城で使われてる強力な闇魔法だ。前に言っただろ?あそこは、昔から闇の精霊がいるんだけど
城のは強力なんだよ』
「そんなぁ、じゃあどうしたらいいの?」
今は光の矢が次から次に出てきて、沸いて出る枯枝を焼いていくけどこの矢は無限なのか?
怖い!
『捨てろ!コイツごと捨てちまえ!
もう助からない!僕たちも巻き込まれる!お前ができないなら僕がやる!』
そう言って、マリアンヌが穴の出口を開いた。
いつぞやの仄暗い泉だ
ボチャンとヨハンごと捨てやがった!アカンやろ!
「ちょっと、何やってんだ!ヨハン目を覚ませ沈むぞ!起きろヨハン!ヨハン!」
慌てて俺も出口を開けて、体を半分乗り出す。
「ゴボ、ガボ、おじょーさま、ガボッ」
正気に戻ったヨハンが、パニックになって溺れる
。あ、コイツ泳げないんじゃ?
『おい、見ろ! 泉の底から泥が湧いて、黒い呪詛が引き寄せられるように沈んでる!』マリアンヌが驚愕して叫ぶ
見ろじゃないよ!ヨハンも沈んでるじゃねーか!
イヤー!ヨハンが死んじゃう!誰か助けて!
すると、赤く光る鳥が飛んできてバシャーンと水に突っ込んだ!
ピッピだ!今のピッピだ!あ、浮いてきたピッピがヨハンを咥えて浮いてきた。
「ヨハン捕まって!早く手を掴んで!ぐぅー、重い〜、ちょっと、お前も手伝えバカたれ!
俺が落ちるじゃねーか!早くぅー!」
マリアンヌと俺とピッピでヨハンを池から釣り上げて穴の中に入った。
ヨハンにはもう枝はついてなくて、穴の中で固まっていた。
「これ、ヨハン生きてる?大丈夫かな?」
『たぶん、大丈夫だ。
あの泉の方が城の呪詛より強かったんだろう・・・。うまく引き寄せられて助かったな』
ふぅ~とか言ってるけど、お前ヨハンを泉に捨てただけじゃねー?
「まったく無茶をする!わたしまで引き寄せられたじゃないか!」
鳥が喋った!
「ピッピさん?」
「ふん、あなたの魔力で孵化したら変なの(マリアンヌ)がいるじゃない?
わたしまで変なのの仲間入りなんてごめんよ!
せっかく産まれたのに残念極まりないわ!」
プリプリ怒って失礼なことを言うけど、近寄ると立派な嘴でつつかれそうで怖い。
『・・・・』
「・・・・」
「ちょっと力を使いすぎたわ!
そこの変なのに渡してる魔力分をよこしなさい!それかあの祝福がこもった赤い実をちょうだい!
わたし頑張ってたでしょ!」
早く!と催促されたので、ストックしてる赤い実をあげるとツクツク啄む。
「なあ、ピッピってお前のせいで俺に懐いてなかったの?」
『知らないよ、僕の方が先にお前と契約したんだし?文句を言うのもお門違いじゃない?』
「たまに頭に乗るのって、なんか俺からエネルギー的なやつ奪ってたのかな?」
『そうなんじゃないの?知らないけど、僕もこいつ嫌いだから。お前も構うなよ!コイツお前の兄のペットだろ?奪ったら可哀想だと思わないのか?兄に押し付けとけって』
「いや、まあ、そうなんだけどね」
なんか釈然としない。
食べ終わったピッピが
「帰るわ!ここから出しなさいよ!」
突かれそうで怖かったから、領地の屋敷の庭に出してあげました。
羽ばたいて飛んでいく。最後までプリプリ怒ってました。
ヨハンも一緒に出して、生死を確認する。
ゆすり起こすと目が覚めて、とりあえず安心した。
「ここは、お、お嬢様?僕はいったい・・・」
「ヨハン、あなたは悪い夢を見たのよ。忘れなさい。」
「またお嬢様に助けていただいたのですね?
夢うつつに覚えています。暗い水の底に沈みそうになった時に飛び込んで助けてくれましたよね・・・。あれは一体?」
あの泉の話をすると、放り捨てたことも説明しなきゃいけないな・・・無理だ!
「ヨハンは、城からの呪詛につきまとわれていたのよ。城の呪いは強力だったの・・・。
あなた呪詛で死ぬところだったのよ、体は大丈夫?どこも怪我してない?」
「城の・・・!」
ヨハンは、みるみる真っ青になり泣きそうになる。
元王女様関連なんだろうけど、怖すぎる!
俺、そんな化け物に押されてるの?めっちゃ嫌なんだけど!
顔色が悪いヨハンに暖かくなる魔法をかけて「多分もう大丈夫よ、ごめんなさいね。怖い思いをさせてしまったわ」
と頭を撫でると
ヨハンは膝立ちで抱きついてきて、俺の胸で泣き出した。
俺のツルペタくらい、いつでも貸してやるよ。めちゃくちゃ怖かっただろう、今のうちにたくさん泣いとけ。
ヨハンの頭をヨシヨシしながら
「もう、大丈夫よ。大丈夫。あなたは助かったのよ」と落ち着かせようとしてると
屋敷の方からサイモンの声がして
「お嬢様!
こんなところにいたのですか!心配しました」
と駆け寄ってきて、俺とヨハンを引き剥がした。
「男のくせにメソメソと女々しい!泣くな!
お嬢様、夜は冷えます。こんな薄着で出歩いては風邪をひきますよ!僕の服をどうぞ」
サイモンの上着を羽織ると暖かくて、自分で思ってたより体が冷えていたことに気がついた。
「本当ね、外は冷えるみたいね
帰って暖かいお茶をみんなで飲みましょうか」
アンナも俺たちを探してくれてたみたいで、お湯を温めて直してくれた。
みんなでホゥっとお茶を飲んで解散した。
このエピソードを温泉姫の本にするの大変だなぁ・・・。今回も温泉姫かすってもいない。
あいつもまだ俺と契約してんのに、何してんだ?
温泉限定なのか?くっそー
あいつヨハンを紹介しただけじゃねーか。
スコットが俺の部屋に来て今日はこっちで一緒に寝る?と声をかけてきた。
正直、とても怖かったので一緒に寝て欲しいとか思ってしまいました。
幼児ボディが人肌恋しいようだ。
「僕の知らない間に、あのヨハンって子と仲良くなったの?ちょっと妬けるね」
なんて余裕たっぷりに言う。
スコットは、じーさんに認められてから心に余裕が出来たようだ。情緒が育ってきてるようで安心した。
スコットは、この領地に来て良かったんだな。
「おばあちゃまのお気に入りの絵師ですわ、今から鍛えておかないと来年カレッジに行けませんの」
「そっか、絵描きも大変だね。僕に手伝えることはある?」
「午前中の勉強を見てあげてください。サイモンが同じレベルで張り合っていますから。ライバルがいたほうが勉強は伸びますね」
「マリーはよく見てるね。ホントに4歳児とはおもえないなぁ」
ハハハと笑って頭を撫でてくれる。
布団の中でくっついて寝るとスコットは暖かくて、人肌に安心した4歳児の体はすぐに寝てしまった。
「マリー、おやすみ。
君は、いつまで一緒に寝てくれるかな?嫌がって1人で寝たいって言うまで一緒に寝てくれる?
フフ、暖かくていい匂いがして柔らかい。
僕は君なしじゃ寝られないのに困ったな」




