ヨハンとの出会い
ピッピは館の人達に受け入れられて、初めて見るお父様はこんな鳥飼ってたの?と驚いていたが、スコットに会いたくて屋敷から逃げてきちゃったし、仕方ないねと許可がでた。
庭で放し飼いしてる。スコットが呼んだら腕にのるオウム格好いい!羨ましい!キィィ!
とか思ってたら、時々俺の頭にも乗ってくれる。爪でかいし最初は怖かったけどあんま痛くなかったから許す。帽子かぶろうかなぁ
スコットがピッピとじゃれてると、じーさんがやって来て「今度鷹狩に連れて行ってやろう、お前はこんな事も出来るのだな」とじーさんの趣味部屋に連れてった。
この日からスコットは楽しそうにじーさんと出かけるようになった。
どこか遠慮してたスコットが年相応の子どもらしい顔で楽しそうにしていて、なんか良かったなと思った。
ここのところ、午前中はツァネフ叔父さんが来てみんなと勉強なんだが、俺だけアルバイトの絵を描いている。
文字表は、類似品が出てきたらしくてもう描かなくてよくなった。ぶっちゃけ助かった、文字表は地味に疲れるんだよ。
温泉姫の絵を欲しがる人いっぱいいるんだって。これも、類似品が出てきたんだけど微妙に俺の絵と違ってて
まあ、オリジナルと言うか、公式?が欲しいと思う人は、多少高くてもこっちにくるそうだ。
類似品の絵を見せてもらったけども、どれもきらびやかなドレス姿なのだ、多少派手なこのドレス姿の方が一国の姫らしく見えるけどな。
知らない王子様と恋愛してる絵なんかもあって、巷で安値で流れ始めてるらしい。
こんな感じでスピンオフシリーズが広がって行くのかと俺は感慨深くなった。
俺は、あの流されやすい精霊が変な影響を受けて変な方向へ向かうかもしれないとかはすっかり考えてなかった。
昼からスチュワート商会が来てて、挨拶そこそこに狸の商人が
「マリーウェザー様!粘土がご入用なら私におっしゃってくだされば何処よりも早く探しましたのに!」
と、なんか必死だった。
なんのこと?粘土?ああ、フィギュアの粘土ね
あったの?
「スチュワート商会も開拓区で忙しそうにしていたし? あ、粘土ありましたの?
細かい部分を削るためのカッターやヤスリやヘラみたいなのや骨組み用の針金が欲しいわ
色をつけるなら、乾いた後水に溶けない絵の具が欲しいわ油絵具よりアクリル絵の具があれば助かるのだけど?」
「は、ちょっとお待ち下さい書きます。
えーっと、カッター、ヤスリ、へらと」
「私が書いていくわ、こんな感じよ、ヘラは大小様々なかたちがあれば・・・」
いつぞや、サイモンの料理の時にさらした無様、道具が無いから作れません、はやらないぜ!
絵付きで道具を書き出す
粘土もたくさん種類があって、スチュワート商会でも、どれがどれかよくわからなかった。
焼くタイプと焼かないタイプと乾燥しにくいのとか色々だ。
今回は焼き釜もないので焼かないタイプの粘土で試しに作ることに。
食用のテーブルナイフだが、代用させてもらい糸切りバサミも借りて、全部の粘土で簡単にお座りした犬を作っていく。
作ったそばから割れていくやつや
柔らかすぎて形成に向かないものは却下だ。
久しぶりの粘土は面白かった。やってるうちに慣れてきて犬もどんどんリアルによせていく
「なるほど、大したものです!
粘土など求めてどうするのかと思えば・・・この犬など毛並みが素晴らしい!
ああ、この細かい作業に先程の道具がいるのですね!
彫師の所にあるかもしれません」
「針金が欲しいです。躍動感がでます
こう、ポーズがとれます」
片足で立ってバレリーナのポーズをする。
粘土を一日乾かして割れたりしないか確かめることにした。スチュワート商会の狸は俺が渡した道具リストやフィギュアの下書きなど全部持って行った。
ヨシュアは王都でお留守番かな?スコットのお誕生会にも来てなかったな。元気にしてるといいな
スチュワート商会が帰った後に、侍女が困った顔で「あの、お嬢様にお目通りしたいと・・・貧民層の子供が昨日から来ておりまして」
と言うのだ。
侍女はジジババに報告したけど、最初に開拓区で貧民の子どもたちに俺が適当に絵を書いて配ってからシンパシーを受けた子どもが俺に会いたいとか言って、ついに家まで来ちゃったのね
と相手にしてなかったようだ
「温泉姫のご紹介だそうです。本人はその貧民の子どもですがお嬢様が描いた絵を持ってます」
と以前に千切って渡した子どもの絵を侍女に見せられた。
どうしましょう?と侍女も困り顔だ。
温泉姫の紹介?えー、なんか忘れてる?ん〜
すると手元のマリアンヌが
『後輩が絵師いるって言ってじゃないか?忘れてるなお前!』
と教えてくれた。ナイスアシストです。
「昨日から来てるなんて、野宿したの?とりあえず会うわ!お母様を呼んできてくれる?
サイモン、アンナ行くわよ!」
「え、お嬢様会うんですか?貧民ですよ?」
と元孤児のアンナが訝しげに聞いてくる。すっかり貴族の館のメイドさんになっちゃって。
「間違いじゃ無かったら、温泉姫のご紹介で合ってるわ。元芸術関係の工房で働いてたようなのよ。絵師を探してると私からお願いしていたの」
「会ってどうなさるおつもりでしょうか」
と、サイモンが聞いてくるので
「素質があれば助手にします」と答えた。
フィギュア量産とかやるなら、型を作っていきたい。細かい削りは、人手がいるからな。
そして
結論から言おう、彼は助手になりました。
ボロを纏っていたし、泥や垢にまみれていたけど、良いところの子なのかな?髪で顔を半分隠していたけど奇麗なお顔をしていました。
大所帯で会いに行ったので、最初はオドオドしてたけど俺が絵を大切にしてくれてありがとう嬉しいわとか言ったら緊張して真っ赤になった。
なかなか憂いやつじゃの気に入った
とかなわけでなく、絵付けの仕事を少しだけしてたのと絵の具の扱いに慣れていたからだ。
まあ、中世あるある黄色の絵の具はヒ素入ってますとか。取扱注意な絵の具を知ってるっぽいので採用しました。
最終的にはお母様がアンナをみて、俺を見て「これも人を育てたりする練習かしらね」と了承してくれた。
サイモンが心配そうにしてたから、2人になれる場所に行き真剣な顔でお願いがあるのと言って、雰囲気をつくる。
「サイモンが生活とか、貴族の館のルールなどの面倒を見てあげてくれないかしら?年も近いし同姓でしょ?アンナでは見本にならないわ。
部屋もサイモンは今は1人部屋でしょ?同室にしたら貴方は嫌かしら?
来年カレッジだから私たちは嫌でも王都に帰るでしょ?それまでの我慢なのだけど。
温泉街が出来たら、そちらの方に工房か社員寮でも建てて住んでもらう予定だし。
それに、とても大事なことだけど、王都に帰るまでの短い期間に立派な絵師に育てあげて温泉街のあれこれを出来るようにしておかないと、絵が破損したり修復のたびに私が呼び出されては困るわ!
私の代わりに、この地で絵師の仕事をまかせられるようにしなければいけないのよ!
スパルタよ!サイモンが思ってる以上にスパルタなのよ!」
フィギュアの絵付けもさせるからな、量産体制が整ったら地獄のハードモードだ。
型を作っても、細い部分は削りがいるし、どうしても人手がいるのだ。
本当はもう2〜3人、なんなら10人でもいいよ。フィギュア儲かると思うし。
型を変えて売れば信者は欲しがるだろう。
なんとなくだが、勝手にスピンオフキャラとか出てきそうだ。俺なら欲しいです。
そうやって、土着の神にでもなってくれ。
温泉姫は、俺の趣味から始まってはいるが、みんなに愛されるカタチの方がいいに決まってる。
その方が儲かるのだ。
サイモンがとても引いていて、スパルタとつぶやき
「なんだか気の毒に見えてきました。
そうですよね、彼は元々公爵領で働いてた普通の子どもだったのに今は家もないですし・・・
お嬢様はいつだって慈悲深いのに、僕はお嬢様に変なのを近づけまいと。お嬢様には一流がいいなどと勝手に思い上がった事を考えていました。恥ずかしいです。」
サイモンの基準だと俺は慈悲深いの?実家の男爵家ってよほどなんだな・・・。実家から連れ出した時の衝撃で色眼鏡で美化して俺を見てない?
「サイモンに納得してもらえたなら良かったわ。館のルールもそうだけど、読み書きも一緒に勉強させましょうね!」
客からの注文用紙を読めないと話にならないからな。
それからは早かった。いつの間にか、信者の総括になっていたおばあちゃまが温泉姫のご紹介なら早く言いなさいと貧民の少年を風呂に入れて服を着せて食事を出して身の回りを整えた。
普段はサイモンに預けて、読み書き計算などの勉強も一緒にさせることに。
俺の要望だったのにいつの間にか温泉姫の要望になっていた絵師の仕事ができるように1室をアトリエに変えてしまった。
俺のアルバイトの時より本格的になっていて、おばあちゃまの信者ぶりが怖かった。
館の使用人たちも、温泉姫の連れてきた子どもの扱いに困って腫れ物を触るようだったので、俺らで好きにすることにした。
少年は公爵領出身以外の出自を明かしたがらなくて、名前も名乗らないので呼び方に困り適当に「なら、レオナルドダビンチはどう?」と言うと、却下されて、みんなが面白がっていろいろ出して最終的にヨハネスに決まりました。
「私はヨハンって呼ぶわね、ヨハンよろしくね
あなたをこの地の絵師にしてみせますわ!」
とか言ったけど、専門的な絵の技法とか知らなくて、1から絵を書いて色をつけていく独学を披露すると
ヨハンが技法を説明しながら絵を描いてくれた。丸みのあるいかにもな絵画を描いてくてれたのだ。思ってたより凄くて恐縮です!もう俺いらなくない? 本格的なの描けるじゃん!
神殿とかヨハンのがうまいんじゃないの?
「ヨハン先生!
凄いですわ! 温泉姫のご紹介なだけありますわ!」
「いえ・・・そんな・・・、お嬢様ほどの絵は、難しくて・・・こんなオリエンタルな絵を何も見ずに描くなんて僕には・・・」
自身がないのかポソポソ喋る。
「ヨハン先生は、ちゃんと描けてますわ!技法をしっかり学んで来られたのでしょう?
我流の自己流で適当な私とは違うじゃない!素晴らしいわ!貧民になっていなければ、さぞ名のある画家になれたのに、もったいないわ
でも、これも運命なのかしら、あなたがこの地にきて絵を描くことになるなんて。この素晴らしい出合いに感謝を」
スパルタしなくても良さそうだな。
「・・・お嬢様と出会えて・・・感謝いたします・・・」
赤面症なのか?どもるしすぐ赤くなるけど、絵師の先生なんて表に出るような仕事じゃないからいいけどな。
客との注文は間に商会なり、総括なりが間に入れば問題ない、ボーッとしてるとボラれそうだ薄利多売は嫌だからな。
目が合うと、すぐそらして恥ずかしそうにする。女子かお前は!
「あ・・・あちらの、作品も・・・お嬢様の?」
乾燥のために粘土細工を置いてたので、丁度いいと思い
「道具や粘土が安定供給できれば、色々と作ろうと思ったのよ。
あなたにも、いずれしてもらおうと思っているのよ?こちらの方は初めてかしら?
しっかり、教えるわ、出来るようになってね」
と粘土細工を手渡しする。
粘土を壊さないようにとヨハンの手が強張ったようだ。
フィギュア制作もお前に丸投げにするからな!とニコリと笑っておいた。
人の髪型をとやかく言うつもりはないのだが、前髪で半分顔をかくしてるから、前が見えてんの?そういうヘアファッションなんだろうけどさ、絵を描くときは上げとかないと髪に付くぞ?
と思っていたらヨハンの髪に絵の具が付いた。
「あ、ホラ、髪に付いたわよ。早く拭かないとカピカピになるわ」
と前髪を手に取った布で拭いたら隠れていた顔が見えた。
ギョッとした!
隠れていた顔にゾワゾワと動く枯枝が引っ付いてるのだ。なんだなんだこれ!
こんなもん顔につけてよく平気だな、うぇ〜
そう思って、取ろうとしたら
「あ、あああ、す、すみません、すみません
ごめんなさい、醜いものを見せてしまって、触ってはいけません、お、お嬢様に移ると大変でございます」
と震えて泣き出した。ウゾウゾ枯枝が動いて気持ち悪い。
俺のうしろにいたアンナが「きゃっ!」と小さな悲鳴をあげている。
そりゃそうだ、俺も怖いんだけど? なんなんだこの気持ち悪いの?
『これは、あれに似てるんじゃないか?泉の底の暗いやつ』とマリアンヌから声が聞こえた。
泉の底の枯枝ね! なるほど!確かに嫌な感じが似てるな。
俺は光の矢を出して、小さく細くして爪楊枝のように持ちヨハンに
「ヨハン、動かないで!怖かったら目を閉じていなさい」と言い顔をこっちに向かせた。
ギュッと目を閉じて「お嬢様?」と震えるヨハン。
爪楊枝でヨハンから枝を剥がそうとしたがウゾウゾ動いて取れない。
光る矢の爪楊枝を2本にしてお箸の用に持ちウゾウゾ動く枯枝を掴んでヨハンの顔から引き剥がした
ズルズルと出てきて、ギィキィーと鳴いてるように聞えて、よく見ると人の顔をした枯枝だった。
目があった気がした。
きゃあ!ムリィなんじゃこりゃ!
燃やしましたよ!
気持ち悪かった枯枝は光の矢で摘んだところからチリチリ燃えて手を離すとそのまま燃えて消えてなくなった。
「お嬢様!大丈夫ですか!
何をされたのですか? い、今ヨハンから黒い物がズルズルと、そしたら火がでて?いったい何が?」
とサイモンが後ろから抱き寄せて俺とヨハンを引き離した。
ヨハンはフラリと倒れ込みアンナが叫んだ
「きゃぁー!ヨハンさんからお化けがー!イヤー誰かー!」
その声に反応して、屋敷の侍女や執事が駆けつけてきて何だ何だと人が集まり
ヨハンを助け起こした執事が「顔にあった痣が消えてる!どういう事だ!」と騒ぎになった。
ヨハンを寝かしてやろうとサイモンの部屋ではなく客間に連れていかれた。
「みんなには痣に見えていたの?」
「お嬢様には違うのですか?お嬢様が何かしたからヨハンの痣が消えたのでしょう?僕には紫色のボコボコした痣が顔の半分にあったように見えました」
「それは・・・私が剥がしたのよ。とても気持ち悪いものだったから燃やしたわ」
サイモンはそうですかと言って、俺を抱きしめてくれた。サイモンは震えていて怖かったんだな。
俺も怖やったからね!目があったような気がして今更ぶるりと震えた。
お茶でも飲んで暖まりましょうかとアンナがお茶を出してくれて3人でほっと一息いれた。
おばあちゃまがヨハンの顔を見て、驚愕し俺に説明を求めた。
枝が貼っ付いてたので取りました。キモかったので燃やしましたと言っても通じないだろうから
「おばあちゃま、私にもよくわかりませんのよ。温泉姫の奇跡ではないかしら?
あれって、病気とか生まれつきではなくて呪の類だったのよ。お祓いされて燃えて消えてしまったわ。
悪いことじゃなかったし、あんまり騒がしくしないであげて?
ヨハンも落ち着かないわよ。せっかく屋敷に慣れようと頑張っているのに」
「まあ!マリーウェザーちゃん!温泉姫様の御業なのね!素晴らしいわ!
ああ、みんなに言いたいけど、私たちだけの秘密にしましょう!
温泉姫様の要望で絵師にお育てするのが我々の使命ですものね!
マーサ(屋敷の侍女)緘口令よ!」
おばあちゃまが、「話が漏れた所で温泉姫の御利益が上がるだけだけど」と楽しそうに話してる。
うん、まあ、そうなのかな?
笑って頷いておいた。
ヨハンも起きてきて、食堂でみんなで一緒に夕食を取り、おばあちゃまがヨハンを褒めまくる。
モサッていた前髪を綺麗に整えてもらったヨハンは、良いところのお坊ちゃんにしか見えなかった。
「マリーウェザーちゃん、この素敵なお話も本にならないかしら?
ヨハンだとバレなければ、逆にヨハンへの噂の矛先が減るのではなくて?」
おばあちゃま・・・。
みんな話を聞きたがるし同じ話を何度もするの面倒だもんな。書くよ適当に。
だいたい痣がどんなんだったか俺は知らないし。




