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俺の異世界冒険記!  作者: ワシュウ
聖王国編
372/372

聖王国オリンピア大祭3

アベル視点

「それではアベル王子ごきげんよう、また明日」


私が馬車から降りるとヘンドリックが馬車に乗ったまま軽く挨拶をしてパタンと扉を閉めた。私の側近だが、ヘンドリックは自分の家族が待つ屋敷に帰っていく。

私は王妃様からこの館を頂いた。毎朝ヘンドリックが迎えに来て学校へ通っている。


私の乳母や専属執事や馬丁は田舎に残され、彼らと離れて私は一人で王都に来て見知らぬ者たちと暮らす事になった。


出迎えた屋敷の執事が私の留守の間の手紙や用事を報告してくれる


「王子お帰りなさいませ。昼頃に王子のご友人を名乗る者が来られましたが、約束がなかったのでお帰りいただきました」


「は?誰だ?」

昼間は私は学校に通っている、それを知らない友人などいるのか?


「無礼な平民で、名乗りもしなかったので誰だか存じません。身分を確認できるものもお持ちでないため我々には判断がつきませんでした」


友人と言われて思い当たるのは田舎の平民たちだ


「私の確認が取れるまで客間に留め置いておくべきではないのか?」

「…本物のご友人ならまた来るでしょう、次からはそのように致します」


僻地の田舎屋敷カントリーハウスの近くの村の子供たちだろう。よく一緒に遊んでやったサムとヘラだろうか?サムは屋敷に通っていた料理人の子で、ヘラは私の乳兄妹だ。

2人は村に住んでいて、たまに屋敷の庭に忍び込んで来たり、私を村まで連れ出したりしていた…数ヶ月前くらいなのに、もう何年も会ってないように懐かしい。


春の洗礼式の時に聖王陛下ちちうえにお会いして、洗礼の祝に何が欲しいか尋ねられた私は「田舎邸宅カントリーハウスの私の使用人達を王都邸宅タウンハウスに呼んで欲しい」とお願いした。


後で知ったが、私が専属執事だと思っていた者が実は代官で、あそこは直轄地だからと何か理由を言われた気がする。父親に初めて会ったのが洗礼式で、父上は私の頭をそっとなでて、了承してくれたのだ。


別の使用人から説明があり、引っ越し準備などですぐには無理だが早ければ今年の冬までには呼び寄せられるだろうと言われていた


マリーウェザーが留学してきてから目が離せなくて、毎日が楽しくて忙しくて夢中になれたから、彼らを思い出さなくなって忘れていた。久しぶりだし、次の休みに王都の観光でもして、もてなしてやろう。田舎と大違いできっと驚くはずだ――…



翌朝、早朝にメイドに起こされた

「王子のご友人を名乗る者が門で騒いでおります…王子から貰ったと言う手紙を手にしておりました」


「…手紙?は?誰だ」


「あのまま追い返してもよろしいのでしょうか?」


「待て!…そうだ、昔に手紙を書いたかもしれぬ」


寝ぼけて追い返すなど、平民とは言えさすがに悪い気がする

ササッと着替えさせてもらい、メイドに品の良いカーディガンを着せてもらい裏口からこっそり出て門の方へ見に行く


「アベルに会わせてよ!」

「アベルー!出てこいよ!」


「いくら叫んでも王子は出て来ぬ、早く帰れ迷惑だ」


「アベルに会わないと!」

「お前じゃ話にならないアベルを呼べよ!」


「ハイハイ早く帰れーはぁー面倒だな」


「勝手に呼んでおいて、お前らはいらないって何よ!」

「そうだぞ!王都なんて本当は来たくなかったのにアベルが呼んだんだろ!アベルー!おーい!」


「ハイハイご苦労さん、田舎に帰れー」


サムとヘラが門番に向かって吠えていた、久しぶりに見た平民のなんて野蛮な事か…。

これだから平民はと言われても仕方ない。それに、彼らは本当は王都に来たくなかったのか…確かに彼らに意思確認もなく呼び寄せたのは私だ。


物陰から飛び出そうとした所で、執事に見つかり止められた

「軽々しく平民と会ってはいけませんアベル王子」


そして執事はシワのある目を細めてアベルと隣のメイドを冷たく見下ろした


「メイドの分際で王子を連れ出したのか?そなたは自分のしたことが分かっておるのか?あれが子供を餌にした刺客だった場合、一体そなたはどう責任を取るつもりだ?この屋敷で働く全員の首が飛ぶことになるのだ」


「ヒッ…申し訳ございません」

「そんな大事にしなくとも良いではないか」


震えて泣きそうなメイドを庇うと執事はハァーとため息を吐いた


「王子、貴方様に何かあれば我々は知らなかったでは済まないのです」


執事の真剣な目とその忠告は、マリーウェザーが私の為に言ってくれた言葉を思い出させた。この執事はマナーや礼儀にうるさくてうんざりしていたが、今になって私の為に色々と忠告してくれてるのだと分かった。


「あの子供達は、本当は自分の親に会いに来たのです。

王子が呼び寄せる事が出来たのは料理人と乳母だけです。代官を呼ぶわけにはまいりませんし庭師は、冬の王都では仕事にならない上に既に館を退職したそうです」


「何だと?」


「こちらが面倒を見るよう言われたのは料理人と乳母だけです。その家族を呼ぶようにと通達があったわけではございません。…王子も猊下に自分の使用人を呼んでほしいとだけお願いなさったのでしょう?

貴族の末子でもない平民の料理人と平民の乳母を家族ごと呼ぶなら、街に部屋を用意するなりしなければなりませんが、指示されましたか?」


「あ…」

確かにそうだ、呼ぶだけでその後の事を何も考えてなかった。僻地にいた頃も料理人は村から通っていた、乳母は夜中もいた気がするが。彼らの家族は村にいたのに…私は彼らの伴侶や他の家族を知らない、同い年の子供のサムとヘラしか知らなかった


「ではサムとヘラは今どこに住んでるのだ?それに料理人と乳母は?もう来てるのだろう?」


「平民の彼らは離れ(使用人区画)の調理室に2人とも入っております。ああ、平民を本館の厨房へ…と言う命令は衛生面や危機管理の点から聞き入れられません」


「何故だ?何のために呼んだと思ってる?」


「平民の使用人を呼ぶ理由など我々には理解いたしかねます。仮にもここは王子の住まう離宮です、そこで平民が働いているなどと噂が立てば困るのは王子ですよ?ここは田舎ではなく王都なのです」


「くっ…分かった、ならせめて滞在費用だけ用立ててくれ、街の宿に泊まってるのだろう?」


「…路銀をお渡し致します、彼らは田舎に帰られるのがよろしいかと」


用意して来るから館の中で待てとメイドに申し付けて執事は足早に消えた。いまだに私を「アベル!」と呼ぶ幼馴染の2人。頭はボサボサで服もボロボロで全体的に薄汚れていて汚い、野生動物のように門をガシャガシャ揺らす姿を遠くから眺める


「中に入りましょうか」

そう言ってメイドが動いたからだろうか、2人に見つかってしまった


「アベルいたー!!」

「おーい!アベルこっちだ!」


「お会いしてはいけません…そう執事に言われましたよね?」


「アベル聞いてくれよ!」

「アベルこっちに来て!」


「くっ駄目なのだ」


「はあ?俺たちを追い返すつもりか?!」

「アベルどうしたのよ!私たちが来てあげたのよ!」


「…ならぬのだ」  


「アベル!お母さんを返してよ!アベルの乳母になってから私のお母さんはアベルに取られたけど、それはお仕事だから仕方ないって諦めてた…だけど7歳の洗礼が終わって乳母はもう用済みって言われて帰って来たと思ったのに……アベルが寂しいからってまた呼び戻して、私のお母さんなのに!記念祭も収穫祭もお母さんは家に帰ってこなかったのよ!私のお母さんよ!お母さんがやっと私たち家族の所に帰って来たと思ったのに!…うぅグスッ」


「泣くなよ…俺の父ちゃんもお前が夜食を食べたいって我儘言うから、いつも帰りが遅かったんだぞ」


サムがヘラの肩を抱いて慰める


「あんたが一人で王都に行ってざまあみろって思ってたのに!何でまた私からお母さんを奪うの?

お母さんは、私が熱を出した時もあんたが呼ぶから休めなかったのよ!私のお母さんなのに、あんたがいつも最優先だったのよ!」


そんな事を言われても全く知らなかった。私は優しかった乳母を母のように慕っていた…乳兄妹のヘラはずっと一緒に育ってきたから、本当の兄妹のように思っていたのに。そう思ってたのは私だけだったのだな


「我儘で偉そうに指図して自分勝手で自己中で皆に嫌われてたから、私たちか仕方なく遊んであげてたのに!あんた、ありがとうとごめんなさいを最後まで私たちに言わなかったわね…平民は見下して当然だと思ってるんでしょ!私たちだって感情はあるわ!何でも言うこと聞くあんたの奴隷じゃないのよ!」


「なあ、父ちゃんに会わせてくれよ少しだけでいいから、頼むよ。家族で呼ばれたと思ったから母ちゃん体弱いのに無理して来たんだ…頼む」


「王子いけません!」

止めるメイドを無視して、フラフラと門のところへ歩くアベル


「こんな事になるとは思ってもなかったのだ…すまない」


「ねえ、少しでも悪いと思ってるなら私たちを雇ってよ、アベルのお屋敷は大っきいしさ、今度こそお母さんと一緒に暮らしたいし」

「ああ、俺も父ちゃんの料理の手伝いするぜ?芋の皮むきくらいならいつもやってるから大丈夫だ!」


2人の願いを叶えてやりたい、何より親子を離してしまった事への罪悪感がある。私の母は聖王に見初められて私を身ごもった後に、聖王から秘密裏に離宮を与えられた。そこで私を産んですぐに亡くなったと聞いている


「なあアベル、俺たち友達だろ?」

「私たちずっと一緒だって言ったじゃない!呼んだんだから責任取ってよ」



――私は彼らを屋敷へ招き入れた


執事や使用人には反対されたが「彼らを呼んだのは私だから責任を取らねばならぬのだ!」と無理矢理黙らせた。

家族ごと引っ越してきて、最初は大人しく離れの使用人棟にいたが、翌日には本館へ来て田舎でしていたからと私の世話をするようになった。世話と言っても話し相手くらいで部屋を整えたり掃除したりする訳ではなかった。むしろ課題をしていて邪魔になるくらいだった


「ねえアベル、またあの美味しいお菓子貰ってきてよ」

「留学生が配ってるお菓子は異国の味がしてうまいな」

「いつも配ってるわけじゃないし、それに余分にもらえないのだ。そなたらが食べたのは私の分だったのだぞ」


マリーウェザーにもらった菓子を食べずに持ち帰ったのだ。そなたらにあげたから私の食べる分はなかったのだ!と言おうとしたら


「アベルはケチだな」

「そうよ、王子なんだから留学生からもっともらえばいいじゃない。私たちだって食べたいのに」

「無茶を言うな、王子だからと何でも特別扱いされてるわけじゃない」


だんだん要求がエスカレートしてくる。日に日に図々しく厚かましくなってきて食事内容やオヤツだけでなく、服や金を要求するようになってきた

「せっかく王都に来たのになあ、もっと見て回りたいわ」

「成長して服が着られないんだ用立ててくれよアベル」

「…うむ」


そして1週間と経たずに事件は起きた。私の留守の間に王族の紋章入りのブローチが盗まれたのだ。質屋からの通報が王宮へ行き、ブローチが誰のものか調べられ私のものだと判明した。


王宮から役人が来て大事件になった。質屋に売りに来たのは親子で、犯人像のモンタージュ絵を持って私の元へ確認に来た


サムとヘラにブローチを自慢したことがあったが、まさか?


サムとヘラは街へ出かけていて不在だった

2人の家族を呼び出そうとしたがメイドが走ってきた

「部屋に彼らの荷物はありませんでした!」


愕然とした。執事が指示を出して調べると私の部屋から他にも金目のものが盗まれていた…マリーウェザーからもらった手触りの良い上質なハンカチもなくなっていた


「グロステーレからの留学生にもらったのだ」

「ふーん、言ってた金持ちの留学生からもらったの?」

「見せてくれよ」

「駄目だ!これは私の大切なものだからな、そなたらに触らせてなくなると困る」


その時は大して興味も無さそうにしていたのに…私の大切な物だと知ってて盗んだのか?

時々、寝る前にハンカチを見てマリーウェザーを思い浮かべて、胸が締め付けられて腹の底が熱くなっていたのに…


執事が眉間にシワを寄せて冷たい目で見下ろしてくる

「平民を屋敷に入れてはいけない理由が分かりましたか?平民など信用してはなりません、我々とは何もかもが違うのです。以後はこちらの言葉に耳を傾けて下さい、よろしいですね?」


翌日、部屋の外を掃除するメイド達の話す声が聞こえてきた

「あの盗っ人たち捕まったんですって」

「ああ、平民なのに王子が我儘を許していた無礼者達ね」

「本当に迷惑だったから消えてくれて安心してたのに、また戻って来るのかしら?」

「戻って来るわけないじゃない、罪人は絞首刑よ。王子の離宮で紋章入りの盗みをやらかしたら終わりよね」

「パンまでにしておけば、お優しい王子が庇うのに愚かよねえ」

「アハハいい気味ねえ」

「本当にいい気味。メイドの私達の事を下に見てたけど、王子の離宮で働く私達が平民であるはずがないと分からないのかしら」

「僻地の館で働く使用人には平民もいるのですって」

「嫌だわ、ここは王都よ一緒にしないで欲しいわ」


アハハと笑うメイド達の声に言葉にならない声を叫びたくなった


彼らを呼んだ私のせいなのか?屋敷に住まわせなければ良かったのか?宝を自慢しなければ?不自由させてる代わりに我儘を聞いてやったから付け上がってしまったのか?

どうすれば良かったのだ?


まだ間に合うなら処刑を止めなければ!執事に言ってなんとかしてもらおうとしたが冷たくあしらわれた。


屋敷を飛び出して駆け回り、ようやく処刑場の広場へ着く頃には日も傾いていた。暗い夕日に照らされたそこには、2つの家族が吊るされていた


「あああああ!!」


罪状はありもしない凶悪なものまで付け加えられていた。金の横領や金庫の中身にまで手を付けたとあったが、彼らが金庫に近寄れるはずもない

手っ取り早く処刑するためにでっち上げられたのか、他人の罪まで被せられたのか…どちらにせよ間に合わなかった


アベルは絶望に打ちひしがれた、地面が崩れていくように暗い穴の底に落ちていく。孤独と絶望の中でアベルは願った


助けて、誰かこの闇から救い出だしてよ、一人は嫌だ寂しい…誰か助けてよ



『汝、何を欲す?』



え?暗闇の中で何かの声が聞こえた気がした。質問の意図も分からないのに不思議と私の頭には既に答えが浮かんでいた。


私は―――マリーウェザーが欲しい



「アベル王子のターンが終わったのに、まだ次が来ない。そろそろ私のターンだと思うのだけどまだかしら?」


場違いに呑気な声がして、振り向いたら暗闇の中に淡く光るマリーウェザーがいた


「マリーウェザー…」

何故ここに?私を助けに来たのか?疑問はたくさん浮かんだけど、言うより先に駆け寄って抱きしめた。マリーウェザーに触れたところから優しい体温が伝わってくる。冷えた心が暖かくなって、ドキドキして胸の奥が熱くなった


「ちょっと!離れて下さる?急に女の子に抱きつくなんてマナー違反よ!いくら子供でもやってはいけません」


グイグイと無遠慮に顔や胸を押されるが本気ではないのだろう、マリーウェザーが本気になれば斬鉄が吹き飛ぶ程なのだから。

照れ隠しに恥ずかしがって嫌がるフリをしてじゃれつくマリーウェザーにお構い無しに抱きついた


「ブッ…鼻を押すでない、そろそろ本当に痛い!マリーウェザーは私を助けに来たのではないのか!?」


「え?別に、ただ(※王子のプライベートを)覗いてただけですけど。…ここは本の中ですわよ多分。精神干渉系のデバフかな?本当に、いい加減に離れて下さる?」


「はあ?!」


「お忘れですか?私たちは図書館の中の変な本に引き込まれたのは覚えていますか?おそらくここは現実世界ではありませんよ。本が見せる夢か幻だと思います」


「幻?ではサムとヘラや彼らの家族は生きてるのか?」


「王子の幼馴染達は、まだ田舎にいるのでしょう?それとも屋敷に来ていて、あんな振る舞いをしてるのですか?」


「あっ…まだ来ておらぬ、だがそのうち来るかもしれぬ。はっ!まさかこれは、近うちに起こり得る未来なのか?」


「どうでしょう?それにしても信じられないくらい無知で愚かな平民でしたね。どうしてアベル王子は見てるだけで何もしなかったのですか?」


「黙って見ていたわけじゃない処刑を回避しようとしたではないか!」


「確定した刑を撤回しようと走り回るより先に出来ることがあったでしょう?ウチの領地ではあり得ない程の愚行でしたわ。私の領地では領民に教育を施して生きる知恵を与えていますわ。

コルチーノの領地も雪が積もりますから厳しい土地なのです、それでも民は領主を信じて付いてきて地を耕し税を納めるのです。

そして、私達領主一族は領民を守り導く義務があるのです。領民達は領主一族に敬意を払い恩恵を享受するのです。

私の言ってる意味がわかりますか?民が無知で愚かなのは領主が無能だからです」


私はマリーウェザーが何を言いたいのか分かった…サムとヘラ達は徴税人が税を搾り取るのだと文句を垂れるだけで貴族を敬ってなどなかった


「私の屋敷の平民が無知で愚かなのは、私が無能で正しく導く義務を怠ったからだと言いたいのだな?……その通りかもしれぬ。この先に起こるであろう未来が分かっていても、私はどうしたら良かったのだ」


「とりあえず、王子が呼んだ平民達は商業組合にでも預けて王都の平民の常識とマナーと教養と手に職を身に着けさせて、貴族に舐めた態度を取ったら死ぬ!と言う事をその身に叩き込んでもらえばよろしいのではなくて?」


「商業組合か、なるほど」


「アベル王子に平民を教育するなんて無理だから、出来る人に頼めばいいのよ。商業組合の知り合いならお魚工場長のオーエンがいるでしょう?王都で仕事を用意しておいた!とでも言えば平民は喜ぶわよ。王子からの縁故採用だけど、彼らが路頭に迷わないようにしっかり指導して欲しいと頼んでおけば甘ったれた事にはならないわ」


「う、うむ」

私が手詰まりだと真剣に悩んでいたのに、こんなあっさり解決方法を考えて教えてくれるなんて…マリーウェザーはとても賢いのだな


「それと、あの冷たい目で見てくる執事じゃなくて、ちゃんとした教育係を探して下さい。王子を教育する気がない者を側においても不利益しか運んできませんよ」


「教育係?勉強なら学校の教師が教えてくれるだろう?」


「違います、一般教養や座学の勉強なんて教科書さえあれば一人でもできます。王族の責任や立ち回り等、学校では教えてくれない大切な事を教え導いてくれる教育係です」


学校では教えてくれない事があったのか…それすら知らなかった。それからマリーウェザーは少し言いにくそうにして言葉にしていく


「アベル王子は知っておかねばならないのです、権力者の無知は罪なのですよ。お父上に相談されるのが良いでしょう……はっきり言えば、貴方の養母様は自分の息子ですら失敗してるのです、全く頼りになりません!」


権力者の無知は罪…?


それは失脚したアーサー兄上の事を言ってるのだろうか?物言いが不敬極まりないが、マリーウェザーは純粋に私の行く先を心配して私を想って瞳が潤んでいた。

私の事をこんなに気にかけてくれた人はどれだけいただろうか?こんなにも心配してくれる人がこの先に現れるだろうか?


この先もマリーウェザーと共にありたい…


「うっ…王妃様を養母扱いは出来ぬ、父上に相談が出来ればな…ハァー頭がおかしくなりそうだ、本当にさっきの夢のような大惨事が起こるのか?

はっ!この夢は警告なのか?私に未来を見せて立ち回れるようになれと?ま・さ・か!これは神のお告げなのか!!」


「うん若いから想像力が豊かだね。だったら私たちが引き込まれた本は、さながら【予言の書】って事かしら?私にも何かお告げが欲しいわ!私のターンはまだ?早くカモン!」


暗闇だった所にマリーウェザーから光が広がってどこかの景色になった


「ここは?何だか暑いな…それに一面の緑の畑だ、凄いな」


「ここは……カカオ農園?おそらくアルラシードのどこかよ」(※カカオ農園いっぱい作ったからどこか分からない)


カラーン・カラーン――

ウエディングベルがなる


聖王国の教会とは趣の違うエキゾチックな宮殿から、エキゾチックな衣装を身に着けた男女がエキゾチックな模様のレッドカーペットを色とりどりのフラワーシャワーの中、腕を組んで歩いていた


「む?誰だ?知り合いか?」


厳つい褐色肌の大男が満足そうに笑顔で来客達に何かを言っていて、黒髪で白い肌の美しい花嫁の腰をしっかり抱いていた。隣の花嫁は控えめにどこか悲しげに笑いながら涙を流していた


ドサッと音がして振り向いたら、隣のマリーウェザーが涙を流しながら地面に倒れ込んだ


「マリーウェザー!!どうした?なぜ泣いてる?」


「そんなのイヤだぁ…予言の書だとすると、マリアはアブドゥルと結婚させられるの?イヤアー!ムリムリムリィー!」


「はあ?誰だ?アブドゥル?マリア?え?…あっ!もしかして彼があの英雄のアブドゥル・アルラフマーンか?実在したのか」


ほう、美女と英雄の結婚式か。何故それでマリーウェザーが泣くのだ?意味が分からぬ

嫌だ嫌だと駄々をこねるマリーウェザーは、先程のキリッとした諫言が嘘のようだ。


「そなたは英雄の信者だったのか?そなたと英雄では年回りも身分も釣り合わぬだろう?

それよりも、アルラシードはこんなにも緑豊かな大地だったのだな…しかし暑いな」


英雄の結婚式に集まった人達の身なりは良かった、見慣れぬ異国の衣装だが金の刺繍や宝石が付いていた。青々と茂る緑の葉がどこまでも続いている、想像と違って蛮族国家ではなかった


おおーっと、どよめきが聞こえて見ると、英雄が美女と深い口付けを交わしていた。どこの国も結婚式で交わす儀式は似たような事をするものだ…絵になる2人は思わず魅入ってしまうな


「マリア!今助けるから!」


マリーウェザーの背中に翼が生えて空に舞い上がった。そして眩しいくらいに光り輝くと姿が変わっていた。光るシルエットが大人の大きさになった。


白銀の髪は短くなり風にサラサラと揺れて、鍛えられた筋肉が服の胸元から見える、翼を広げた美しい青年天使になっていた。


その手には荘厳な槍が握られていて、空高くから急降下して英雄に突っ込んでいく


「マリアを返してもらう!死ねアブドゥル!」


「何だと!マリアは私の妻になったのだ、誰にも渡さぬ!」


遥か高みから舞い降りた天使がマリアを攫いに来たと現場は騒然となった。英雄は剣を抜刀して天使の槍と対峙する


ガキィン、バチバチと火花が飛び散り激しい撃ち合いになった

天使の槍は振るたびに風が巻き起こり、会場内がぐちゃぐちゃにひっくり返った。我先にと逃げ惑う人々


「はわっ?!英雄に何をしてるのだ?!私は何を見てるのだ?マリーウェザーが天使になって英雄の妻を奪うなど…何がどうなってるのだ?」


現実離れしていて理解が追いつかない。容赦なく槍を振る天使と英雄の戦いなど見たことがない



「マリアの幸せを願うなら身を引けアブドゥル!過ぎた願いは身を滅ぼす!」(※マリアの身を滅ぼす)


「私はマリアを絶対に幸せにする!私達は結ばれるのだ!それが私の定められた運命だからだ!」


「ほざけ!何が定められた運命だ!そんなもんお前の妄想だバーカ!マリアが嫌がって泣いてるじゃねーか、この変態ストーカーゴリラ!おりゃぁファイアーボール」


火の玉が真直ぐにアブドゥルに直撃するが、聖剣でザザンッと十字に切った。切られた火の玉はアブドゥルを通り過ぎて地面にぶつかり爆炎をあげた


「そんなわけがない、マリアは自らの意思で私の元に来たのだ!嫌がるわけがない」


「自らを犠牲にしてアブドゥルに嫁いだの間違いだろ!俺に…マリーウェザーに迷惑がかからないようにしたんだよ!

ウォーターボールからのスタンで電気分解、そしてファイアーボール!水素爆発だ!」


「グッ、ホーリーバリア!」


ドッカーンと宮殿が爆散した。

天使がグルングルンと槍を振り回すと暴風が巻き起こり、瓦礫や緑の畑を巻き上げた。ごうごうと音を立てる暴風にバチバチと稲妻が走った


英雄アブドゥルは剣を地面に突き立てて耐える


「甘いわ!ウォーターボール、アイシクルスショットからの!凍結グレイシアス


「クッ、凍って動けない!これしき、ふん!」


バキンバキンと氷を砕いて進むが、凍てつく風が巻き起こると英雄がどんどん凍っていく


「もうやめてえーー!天使様お願いします、私を連れて行っていいからアブドゥル様にこれ以上攻撃しないでえー!」


美女がアブドゥルの前に出て英雄を庇った。


「良かろう、マリアよ」

「天使様」


天使の差し出す手にマリアがガシッと速攻で手を重ねた。そしてグイッとお姫様抱っこで空高く舞い上がる


「待て!行くなマリア!マリアー!」

霜焼けで体中を赤くし、涙を流しながら手を伸ばして空へ飛び去る天使に叫び続ける英雄



「ふんゴリラめ!スタン・マキシマ!」


「ぐあっ!」


「クソッしぶといな…スノーゴーレムよアブドゥルを押さえておけ、氷漬けにして構わん、上に氷の城でも建てておけ」


天使が手を振ると雪の結晶が集まり巨大な雪人形が現れた、そして叫ぶ英雄を氷漬けにした


「助けに来たよマリア」

「ありがとう…でも本当にこれで良かったの?」

「大丈夫だよこれ夢だから、それより早くしないと復活しそう、とどめ刺したほうがいい?」

「夢なら大丈夫じゃない?…私、助かったのね」

「ああ、間に合ってよかった。マリアを生贄になどさせるか!」



天使がマリアを抱えて飛んできた。英雄から花嫁を略奪するなど…なんと言う事だ!ハラハラドキドキした、凄かった!


目の前に舞い降りた天使と美女は、まるで聖画のように神秘的で美しい二人だった

(※中身がマリーウェザーなの忘れてる)



「しかし、天使の攻撃で畑がぐちゃぐちゃではないか」

「案ずるな」


天使が空に舞い上がり光る指先で何かを描いたら、空が光って雲がないのに温かくて優しい雨が降る。どこからともなく暖かい風がふくと、倒れて萎れた草木が蘇る。乾いた大地に緑の命が芽吹いていき、それはそれは幻想的で美しい光景だった


美女の元に再び舞い降りた天使が天に向かって祈った

「地上に豊穣の楽園を、願わくば生贄など必要ない世界に」


直後、天使とマリアが光り輝いて世界が眩しく目を開けていられなくなる――




「アベル王子!空が急に暗くなりました!」

「え?え?」


気がつくとヘンドリックに肩を叩かれて、空が暗くなった時の闘技場にいた。


「マリーウェザーが言っていたではないか、空が暗いのは皆既日食だからだ、月の満ち欠けと同じで太陽が」「はあ?何の話です?」


教養のないヘンドリックには皆既日食か理解できぬのだな…そう言えばマリーウェザーはどこだ?さっきまでのアルラシードのカカオ農園は?……あれ?頭がぼんやりしてよく思い出せない、不思議な本の夢でも見ていたのだろうか?


会場内が「世界の終わりだ」「不幸の前触れだ」などと騒然となった。


突如、王族席からカンカンカンと鐘の音が鳴り響いた。暗い中で淡く輝くスカーレット王女が闘技場の王族席から言葉を発した


「しずまりなさい!暗くなっただけです、取り乱してはなりません。これは終末でも世界の終わりでも何でもありません。月の満ち欠けと原理は同じ、じきに太陽は元に戻ります。皆既日食と言って太陽が――(以下説明)」


王女が話し始めると群衆は声に耳を傾けるように静かになっていく。不思議と威厳に満ちた声が心に刺さる



「難しくて王女が何を言ってるのかよくわかりません!」

「先ほど私が説明したであろう、皆既日食と言ってエジソン博士の本によると月の満ち欠けと同じなのだ」


ザワザワしていたが、王女の説明の後にすぐに太陽は明るさを取り戻していく。太陽から光が降り注ぐと、スカーレット王女がより輝いたように見えて注目される


「数十年、数百年に一度の奇跡のようなタイミングで皆と素晴らしい時間を過ごせました。

太陽が完全に隠れる前後に指輪が光るように見えたでしょう?ダイヤモンドリングと呼ばれるそうよ。とても神秘的で美しくてロマンチックではなくて?」


未だに信じられないとざわつく声が上がっていた。だが、セドリックがスカーレットの横に立ち叫んだら静かになった。


「恵み深い天の主がスカーレット王女に、婚約の祝にダイヤモンドリングを授けたようだ。

皆、主に祈ろう!数百年後も聖王国でこの皆既日食が見られるように繁栄して行くのだ!恵み深い主よ、我らに今日も糧をお与え、我らに進むべき道を示して下さり感謝します、ここに我らの祈りを捧げるイーテンターク」


観客席から「イーテンターク」と歓声がワァーワァー上がった。セドリック叔父上はやはり凄い、不安だった不気味な現象が今は興奮の熱気に包まれた


そこかしこで聞こえる「天におわす主がスカーレット王女とセドリック王太子にダイヤモンドリングを授けた」と祝の声になった


「マリーウェザーが言っていた通りだったな」

そのマリーウェザーは今はどこにいるのだろう


帰宅後、着替える時にメイドが気付いてポケットから光る結晶が出てきた

「あれは、夢ではなかったのか?本当にマリーウェザーが私を救ってくれたのだな」


光る結晶を握ると不思議と暖かくて、マリーウェザーに抱きついたときのように胸の奥まで熱くなった。どこからどこまでが夢なのだろう



翌日、学校へ行くとマリーウェザーは変わらずいつも通りだった。なかなか2人っきりになれないから夢の事を聞けぬではないか


昼食のデザートに見たこともないお菓子があった。献立に載ってないお菓子だった


「これは、あの皆既日食のダイヤモンドリングか?」

小さな絵画のお菓子にダイヤモンドリングが描いてあった


「近頃、お茶会で流行ってる白の恋人のお菓子の色違いですわ。知り合いから特別に譲ってもらいましたのよホホホ」(※アル◯ォートのパクリ)


給食のデザートに出せるほど貰えるのか?マリーウェザーのツテは凄いのだな


「白いキャンバスじゃなくて焦茶もいいな、暗闇っぽい演出などよく考えましたね」

「口に入れたらとろけた、ほぅ」

「体温で溶けるお菓子ですね、わっ!手についてしまった」

「マリーウェザー嬢の持ってくるお菓子はどれも美味しい」


児童会の面々が美味しいとマリーウェザーを称賛する。どこで売ってるのだとか何と言う商品なのか聞いて、マリーウェザーに群がっていた


「香りが独特ですね…どこかで嗅いだ香りだ、食べた事があるかもしれぬ、どこだったかな?以前のお菓子にあったか?」


ヘンドリックは覚えていないようだが、これはチョコと言うお菓子ではないか?あの不思議な図書館で食べたものだろう。

マリーウェザーのように白くないけど、この甘くとろける菓子はマリーウェザーのようだと思った


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