温泉姫
朝方、寒くて目が覚めたらスコットがいなかった。
そして、マリアンヌ人形もいなかった。
昨日の寝しなに、何かヤバいもんが付いてきたとか何とか言ってたけど、あれは夢だったのか?
それとも、何かあったのか・・・。
「マリアンヌ、短い付き合いだったな、迷わず成仏しろよ」
両手をあわせ合掌すると
『勝手に殺すなおっさん!』
と上から声がした。見ると天井から人形がぶら下がってた
「ひぃっ・・・!」
自分で口をふさいで声を殺す。
人形が天井からぶら下がってたらみんな叫ぶよ。朝でも怖いのだ!仕方ない
「何してんだよ?隠れんぼか?
本当にやめてください。クローゼットやチェストから出てきても叫びそうだから! なぁ、何してんの?」
『まあ、僕もいろいろあったんだよ!
あ、お前の兄が戻ってきた、後で詳しく説明するよ』
さっぱりわからんが、ガチャっと扉が開いてスコットが帰ってきた。トイレに行ってたらしい。
「マリー起きてたの?
あれ、人形が天井に?自分でやったの?」
「おにいさま、イタチですわ!
イタチが天井に咥えていきましたのよ、きっと
取れますか?私では机に乗っても届きませんわ」
と話してたら、人形が自らボトっと落ちてきた。
ひぃっ!と思うのは俺だけか?
スコットがキャッチしてくれてどこも破損せずに済んだ。
何だったんだいったい?後で聞いとこう。
アンナが迎えに来るまで椅子に座りボーっとして、スコットが着替えるのを眺めてた。
スコットが着替えながらチラチラこっちを気にしてるから、何だ?と思ったが俺が今は幼女なのを思い出した。
なるほど、着替えを妹に見られたくなかったのか、悪いな気が利かなくて
くるりと後ろを向こうとしたところで、スコットの背中に古キズや痣がみえた。
ギョッとして、慌てて見ないようにした。
なるほど、いつも早めに着替えてたりしてたけど・・・これを見られたく無かったわけか。
亡くなったアンジェリカ様の御指導の賜物だったりするのかな? そんな幼少期ならスコットが不憫すぎるだろ。
来月あたりに14歳になるけど、まだまだ子どもでヤンチャな中防だよな・・・。
着替え終ったお兄ちゃんの頭をナデナデしといた。
「ど、どうしたのマリー?」
と嬉しそうに戸惑ったスコットが、今後は楽しく暮らせることを願う。
朝食の後でお父様が
「今日から、ツァネフ叔父さんが勉強を教えに来るからしっかり学びなさい。
叔父さんが失礼な事をしてたら私に言うんだよ?」
と言って、お父様とじーさんばーさんは温泉街の開発事業の話し合いにどこかへ行くそうだ。当然だが、女や子どもの出る幕ではない。
ぜひ頑張って欲しいな!
温泉が出来たら俺は女湯に入る!合法だ!へへっ!
「お母様、ツァネフ叔父さんとはどんな方ですか?厳しい方でしょうか?」
「ツァネフ様ねぇ、陽気で優しい方よ」
ホホホと笑ってるから、厳しい系の人ではないな良かった。
程なくしてツァネフ叔父さんがやってきた。
俺には、ツァネフ叔父さんは優しそうな犬っぽい獣人に見えた。
黒地のシルバーオオカミ系の犬顔だ!ハスキー犬とかが近いかな
「お久しぶりですマルリーンお義姉様
相変わらずお美しゅうお姿ですね、お変わりありませんか? 雪こそ溶けましたが、この地は寒いでしょう?
私とお茶でも飲んで暖まりましょうか」
と、お母様に握手を求めに行ったと思ったら腰を落として屈むとお母様の手をとり甲をむちゅっとなめたように見えた。
多分手にキスをしたんだろうけど犬に見えるせいか、きゅぅ〜んって鳴き声が聞えてきそうだ。
なるほど、陽気で優しそうで、なかなか馴れ馴れしそうだ。
「おや、こちらのお嬢ちゃんはマリーウェザーちゃんかな? はじめまして
ツァネフ叔父さんだよー、マルリーン様に似て可愛いねぇ15年後が楽しみだ
勉強が得意なんだって?お手並み拝見させてもらおうかなレディ?」
「ごきげんようツァネフ叔父様」
ペコっとカテーシーをして挨拶する
こんなのが賢いのか?お手並み拝見させてもらうぞ、チャラ犬め!
暖炉のある部屋に行き、大きめのテーブルを出してもらいスコット、俺、サイモン、ついでにアンナも並んで勉強を始める。
「侍女のアンナちゃん以外は、しっかり計算問題から始めようか?」
カレッジの入試に出た筈だからと計算問題を出してきた。
なるほど、領地から上がってくる税収の収支計算を模したものだな
しっかりした問題を出しやがる、賢いのは伊達じゃないってことか。
ちなみにアンナも読み書きくらいはと、小さい子がやりそうな表を見ながら文字を書いてる。
「ゆっくりでいいから丁寧にね、一文字を5回ずつ書いて。そうそう、上手だねアンナちゃんは字が綺麗に書ける手をしてるよ」
とにかく褒める教育か?アンナも照れながら嬉しそうに書いてる。
いつも俺達が勉強してる時、見てるだけだったりお茶を入れたりしてたけど、本当は一緒にやりたかったんだな。
ニコニコして文句も言わずやってるアンナを見て、気づかずにいて悪かったなゴメンよと思う。
「マリーウェザーちゃん、集中出来ない? よそ見して、出来たのかい?」
俺と目があって、ツァネフ叔父さんが話しかけてきた。4歳の集中力だと普通はそうだよな
「出来ましてよ先生!見てくださいな」
どれどれ〜とか言いながら確認する
フン、間違わずにやっただろう!
小数点第二位まで計算したし割り切れないやつは分数で書いといたわ!
赤ペンでカリカリ計算して合ってるか確認し始める。答えを用意してなかったんかい!
仕方ないからアンナの字を見ながら、書き順と向きが反対になってる字を指摘したりして時間を潰す。
異世界の文字も最初は分からなかったけど、スラスラ覚える事が出来た。異世界特典かな?
ズルした気分だから申し訳ない
そうだ、この、どシンプルな表を可愛いイラスト付きにしよう。
俺は、100均とかにもあるイラスト付きのアルファベット表を思い出し
わかりやすく、文字の下に頭文字のイラストを描いていく。
スープやクッキーなど食べ物を多くしておく、アンナのための表だ
物差しがないからフリーハンドでマス目も書くから、手作り感があるな。そこらへんはご愛嬌よな
「お嬢様すっごーい!わかりやすいわ!
これなんて、字がわからなくて読めなかったのよ!
でも、これなら絵があるからすぐわかるわ!これを覚えたらいいのね!」
アンナが、楽しそうに書き始めてくれて良かった。
「凄い絵だな!マリーウェザーちゃんが描いたのかい?わかりやすくていいなぁ・・・
この表をもっとちゃんと色付きで描いてくれないかい?
妻が赤ちゃんを産んだらプレゼントするよ、喜びそうだ」
ツァネフ叔父さん、答え合わせは?
まあ、描くのはいいけどね
「では、大き目の紙と物差しを下さい」
「明日までに用意しておくよ」
叔父さんは家を追い出されたから、しばらくここに泊まるそうだ。
初日は詰めずに勉強するみたいで、持ってきたのは収支計算の問題だけだった。
スコットは計算を間違えてて、サイモンは問題を読み間違えていたのか計算式から間違えていた。
サイモンには、農家の一人あたりの農地の面積の求め方の計算式を教えて、それでも分かっていないようなのでイラスト付きて書いて説明していく
「マリーウェザーちゃん凄いねぇ!合格だよ
こんな桁の積が出来るなんて驚いた。ちなみにこれらは本当の去年の収支だよ。
年が明けたからね、決算報告の計算なんだよ。私がこちらに来るからやっておくべき書類だったんだけどね。まとめ方も上手だしわかりやすくなったよ。
明日から街の役所で働かない?」
ハハハとツァネフ叔父さんは笑ってるが
そうか、これがこの領地の決算報告なのか!俺からしたら額が莫大すぎてわけわからん!
他の領地がどんなんか知らんが儲かってる感じなのか?こちらの世界の相場がわからない
「あんまり喜んでないね?問題が難しかったかい?初めてなのに上出来だよ!
カレッジで上級生がする問題なんだよ?」
リアクションが薄かった俺をみてツァネフ叔父さんが褒めるが
「本当の問題は、使途不明金ですよね?表にするとわかりやすいと思います
こう、これがこうで、こうなります
かなりの額ですが使われてますよね? なんの金額でしょうか?
雪の自然災害費の追加とかでしょうか?」
俺はグラフを書いていく
「えー、それも気が付いちゃうの?
あちゃー、ちょっと見せすぎちゃったかな・・・
まあ自然災害費ってよりは人災かなぁ。定期的に公爵領から貧民が流れて来ちゃうんだよねぇ
今年も寒波が酷くて、山向こうから貧民が来たでしょ?
凶作もあって税も年々上がって可哀想だけどねぇ・・・。雪が降る前に山の谷間から森を通って頑張ってこっちに来ちゃうとね?雪が積もってしまうと追い返せないでしょ?」
雪が溶けてくると、ボロ馬車に貧民を詰めて公爵派の領地に押し付けたり公爵領に送り返したりしてるそうだ。
ツァネフ叔父さんは「賢すぎてちょっとびっくりしちゃった」と言って頭を撫でてくれる。
俺にはツァネフ叔父さんは犬の獣人に見えるから、モフっとした暖かい手で頭を撫でてくれてるように感じてちょっと嬉しい
狸の商人には触れなかったからな、こっちの叔父さんはモフっておこうと思い、叔父さんの手をモニモニして触り、両手を上げて抱っこのポーズをしてみると
「おや、懐かれちゃったみたいだ。
マリーウェザーちゃんみたいな可愛い子のお世話なら悪くないね」
ハハハと耳が垂れて尻尾をフリフリして、抱き上げてくれた。お父様のようにガッシリしてて兄弟なんだなあと思った。
可愛いなこの犬め!
犬耳をモフモフ触ってるんだけど
はたからみたら叔父さんの頭を撫でてるようにしか見えないだろうが俺は気付かずにいた。
お母様が近くに来て微笑ましそうに、話しかけてきたら、尻尾が俺の時よりブンブンしてたからただの馴れ馴れしいエロ犬だったようだ
ばーさんからの遺伝かな、父も叔父さんも俺も黒っぽい髪の系統だな
金髪碧眼の母やスコットとは系統が違ってる感じ。
じーさんがシルバー系統だから、叔父さんはじーさんに少し似てるかもしれないと思った。
みんなで昼食をとり、お茶を飲んだら叔父さんはどこかへ出かけたようだ。
サイモンは叔父さんの置いていった計算問題の初歩をやっていて、スコットも勉強したいといい、お母様がかわりに2人を見ていて、アンナは館の侍女と買い物に行くと言い、一緒に行きたいと言ったがお母様が却下したので、この館の絵を書くと言って紙とペンとマリアンヌ人形を持って一人で外に出た。
「さあ、朝の話しの続きを聞かせてくれ。何があったんだよ?」
マリアンヌを切り株に置いて声をかけると
実体化して、どこから話そうかなと言って勿体ぶって話し始めた
『僕がお前を寝かせてやってから、しばらくしてこの館に前から住んでた屋守の妖精みたいなのが出てきて、僕に文句を言うわけだよ』
「屋守の妖精が?何で?」
『縄張りを荒らされたと思ったのか、えらく怒ってて、依り代の人形ごと屋敷の外に追い出された。この家の庭が広すぎて、結界の綻びがあるから庭まで追い出されずに済んだけどね。
そうしたら、昨日会った小汚いおっさんが出てきて、何故か僕を仲間だと勘違いして加勢すると言って館に忍び込もうとしたんだよ』
「は?小汚いおっさんは敵じゃなかったの? でも勘違いじゃなくて同類と思ったのかもよ?」
『僕は小汚いおっさんと全然違うじゃないか!
話の腰を折るなよ!
それで、館の屋守とおっさんの対決が始まったわけさ!』
あんまり見たくないし、結果も知りたくない対決だな・・・聞くのやめようかなぁ
『どうなったと思う?』
「別にあんまり知りたくないかな?」
『自分から聞いといてそれはないだろ!
入ってきた小汚いおっさんと屋守が闘った結果、おっさんが勝った』
えー?それってあんまり良くない結果じゃない?一応その妖精って屋守なんでしょ?
侵入者に負けちゃっていいわけ?
『お前に挨拶したいって言ってたぞ』
「え! 何? 就任式とか開いて歓迎しなさいって要望? そんなのみんなに何て言えばいいの?」
無理ぃ!小汚いおっさんの歓迎会とか無理だわ。前の屋守がどんなんか知らんけどこの館ヤバくないか?
『あー歓迎会? 考えもしなかった。したら喜んでくれるんじゃないの? 僕なら人間に歓迎されたら嬉しいかな』
「油揚げお供えしたらいいの?」
『なんだよそれ?
普通に歓迎してやればよくない? 僕はお前なら受け入れてくれると思ってたけど!』
小汚いおっさんの歓迎会なんて、どう考えても無理だ
「幼女に引っ付いてきたストーカーで屋守を負かした小汚い人ならざるもののおっさんでしょ?キッツーとか思ったけど精霊目線だと違うの?」
『人間目線だとそうなるのか、僕は屋守妖精が嫌いだから助かったんだけどね!』
そうか、コイツからしたら仲間意識があって敵対しないで加勢してくれて、普通に館に入れてくれるいいヤツなのか・・・。
「じゃあ・・・歓迎しようかな?まあここ俺の家じゃないけどね」
ここはじーさんばーさんちだろ、その後は両親が継いでその次も長男が継ぐし?
あれ、俺関係なくね?ただの親戚じゃん
『おお、噂をすれば来たぞ』
ギクッっとして振り向くと、小汚いおっさんではなくボロをまとった細めのおばさんがそこにいた。
「あれ、見た目が変わってる?」
『お前には変わって見えるのか?俺にはよくわからない存在に見える。曇ったモヤモヤだ』
おばさん妖精『そういう貴殿は黒いモヤに見えまする、お嬢ちゃん昨日ぶりですね。
私は、ここの屋守に勝ちその力と契約を得ました。この地を守る精霊へと成り代わりました』
「マダム、貴女は土地神とか?その類でしょうか?祀ればよろしいですか?」
なんて呼べばいいかわからないから、マダムとよんどく
おばさん妖精『私が女に見えるのですね?念願叶って嬉しゅうございます
私は、大昔に公爵領で大罪を犯した罪人にございました・・・
そう、あれはまだわたくしが人間だった頃のこと―――――』
昔話がはじまり、要約するとだな
公爵領にお住まいの変態おっさんが女性に憧れて、女性のたおやかな体を切り取っては、自分の体につけようとして何人もやっちゃって切り裂きジャックと化していた。
ある日、捕まり絞首刑になり、殺された女の無念や恐怖と被害者家族の憎しみや恨みが溜まりにたまり、成仏せずに悪霊化した。
先日の寒波で無念を抱えた貧民と共に公爵領から降りてきてあそこの地にいました。
あの場所自体が霊的パワースポットで死んでからのあやふやな意識がはっきりしてきたためエネルギー溢れる俺に引き寄せられるようについて来たと。
そしたら、ここの屋守妖精が出てきて攻撃を仕掛けてきて、返り討ちにし、その妖精を取り込んで今に至る。
怖っ! 確かに俺は、貧民の子ども達よりエネルギーあるかもしんないけどさぁ、軽々しく幼女についてくんなよ!
おばさん妖精『そういう訳でして、お嬢ちゃんには大変感謝いたしております。私がこの地を守り私もこの姿に相応しい振る舞いをいたします。念願の女性になりますれば悪さはいたしませぬ』
「ソウデスカ」
顔がえらく引きつる!
「マリーウェザー、誰と話してるの?」
ギクッと肩が跳ねる
後ろから声をかけられて振り向けば、そこにはお母様を始めとしてスコットやサイモンの他にもじーさんばーさんも勢ぞろいしてた。
何でいんの?みんなには見えてないんだろ?独り言を言ってる不気味なガキじゃねーか
「絵を描いてると思ってたけど、何も無いところに向かってしゃべってて・・・人形もここだわ」
お母様が切り株に置いたマリアンヌを指差す
せめて人形を抱えとくんだった!くぅ~
すると、お祖母様もずいっとでてきて怖い顔でこっちを睨む。
俺は、もう駄目かな・・・気持ち悪いガキでゴメンナ
「マリーウェザー、貴女にはこちらにおいでの精霊様が見えてるのね?」
と話してきた、キョトンとしてお祖母様を見ると険しい顔のまま話す
「この屋敷には、昔から精霊様がいらっしゃるのよ。あれは私がまだ小さい頃――――」
小さい頃のばーさんが体験した不思議な話で、雪の降る日に山で迷子になり帰って来れないと思ったら、山で光る草原を歩いていて気がつくと庭で倒れてたんだと。
その時に、山にしか生えてない冬の赤い花が握られていて、たしかに山にいたのにどうして助かったのかわからなかったが、それから自分の家は、凶作でも豪雪でも無事に過ごしてこれたと話す。
ゴメンナサイ、その屋守の精霊らしきお方は、汚いおっさんに取って代わられました・・・。
ヒィィ!口が避けても言えないよぅ!
「私がマリーウェザーくらいの頃の話よ、小さい子って波長が合うのかしらね・・・この地はそういったお話がたまにあるのよ。精霊様のお導きよ!
きっと、開拓区の事を心配なさって出てこられたのね」
お祖母様の深い感謝をこめた喋りにみんなが引き込まれてる
おばさん妖精『どうしよう、大変な事になったわ』
そう言って不安そうに曇りだした。
ちょっとおばさん!この地を守る精霊になるんじゃなかったのか?
このままじゃ、こいつ悪霊化しないか?ヤバくね?
『おいっ、このモヤモヤ自身が不安定なんだ!
新しい依代はないのか?女の姿したものなら何でもいんじゃない?』
「マリーウェザーちゃん、おばあちゃまには、もう姿もはっきり見えないの。でも、なんとなくだけど存在は感じるわ!この人形の近くにいらっしゃるのではなくて?」
お祖母様が、この辺りと指差す方には、マリアンヌの実体がいる
それ違うやつ、おばあちゃん!コイツの方が存在感あんのね!
おばさん妖精がまた一段と不安そうにモヤモヤ曇りだす。
考えろ考えろ!考えるんだ!
俺は曇ったおばさん妖精をチロリと見ると不安そうにしてる目が暗いところに落ちていくように見えた。どうせ自分は嫌われ者だと、そういう目だな。
「おばあちゃま!
屋守の精霊様は代替わりなされたのですわ!
今日はその挨拶に顕現くださったのよ!わたくしが普段から見える訳じゃないわ!」
「まあ、そうだったのね?!やっぱり昔と雰囲気が違うと思ったわ!」
コソッとマリアンヌに
「人形ちょっと浮かせてくれ」と頼むと
切り株に横たわった人形がフワッと浮いた。
みんなが驚いて固唾を飲む、まあ!とか、うわ!とか聞こえる。
「みんなには見えていないのね?私には美人のおねーさんに見えるわ!
おばあちゃまの言うとおり、開拓区は霊場だったのよ!
この地をお守り下さる精霊様は代替わりすることで力を得たとおっしゃったのよ。」
「霊場ですって!」
おばさん妖精『え、私はどうしたらいいの?』
「開拓区を整地して、温泉街にするときに社を建てて祀りましょう、きっと温泉街の新しい売り・・・じゃなくて、守り神になってくださるわ
人々の期待と希望と願いと祈りを込めてお祀りしましょう」
『対価は?』マリアンヌが聞いてくる
え?対価?もとの屋守の精霊食ったんだろ?まだいるのか!油揚げか?
おばさん妖精『女の人のたおやかな肉がいい』
やいババア!ふざけんなよ!そのへんのデブの肉でもしゃぶらせるぞコラ!
『たおやかなって、余った肉でもいいのか?わき肉とか背中の肉とかでも?』マリアンヌが茶々を入れてくる
おばさん妖精『いいよ、太ももや二の腕でも嬉しい』
「え、あっそうなの?でも削ると痛いし血が出ちゃうでしょ?」
俺は声に出していた
おばさん妖精『仮にもこの地の守神なんだからそんなことしないわよ!すこーし細くするだけよ!ガリガリにはしないわよ。貧民子たち可哀想だったわ』
「マリーウェザーちゃん、精霊様は何とおっしゃるの? 御神託があるのね? 開拓区は触らないほうがいいの?」
「え?あ、えーっと・・・
背中の肉とか太ももの肉とか、あ、えーっと余った肉がすこーし細くなるみたいな」
苦しい、言い訳が苦しい、えー、もうどう言えばいいんだよ
「はっ?
温泉にお祀りすれば、細くなるのね!!
どうしたらいいの!湯に浸かればいいの?温泉の水を飲めばいいの?お布施がいるの?いかほど積めばよろしいかしら?
それとも供物がいるの?!どうしたらいいの?」
おばあちゃま食いつきが凄い!圧が!ってか、そんなに太ってないだろ?なんなんだ?
供物が贅肉なんだがな・・・。
なるほど、贅肉かぁ。貧民にくっついて来ただけはあるかもな。ひもじい思いをしてきた公爵領の領民たちの積年の恨みも入ってんだな。
これは鎮魂歌のつもりで、物語をでっち上げて美談にしよう。
流されやすいあのおばさん妖精も乗ってくるだろう
俺が適当に考えた昔話風の物語を絵付きで披露する。
「今は昔、心優しき姫がおりました。
凶作と疫病が流行り、自分の持てる力を全て使い民を助けようとしましたが力及ばず
見舞いに行った先で疫病に感染し死んでしまいました。
時の偉い高僧が、亡くなった民や姫の無念を憐れに思い、姫を模した鎮魂の像を心を込めて建てました。
すると像の目から暖かい涙が溢れて湯がたまり人々を癒やしたのです
美しい人の湯つまりは、【美人の湯】の始まりの物語ですわ」
「それと、痩せるのがどう関係するの?」
スコットが聞いてきた。
おばさん妖精『なかなか面白くてよ、それで? わたくしもききたいわ!どうやって肉を貰えばいいの?』
「この話にはつづきがありますの。
ひもじい民たちのための心優しき姫の癒やしの湯ですのに、当時のいけすかない領主のわがまま娘が癒やしの湯の噂を聞いて独占してしまい、姫の悲しみをかいますの
心優しき姫は、わがまま娘を追い出したりはしませんが、ひもじい民の気持ちをわかってもらいたくて、わがまま娘から肉を取ってしまいましたの・・・つまり、豊満な肥沃の体がペッタンコになり、溢れていた湯が止まってしまいますの」
「それは・・・呪い・・・」
スコットが顔を引きつらせる。
おばさん妖精『まあ!そういうことね!わがまま娘からは遠慮なく奪ってもいいってことね!』
「話はまだ終わりではありませんわお兄様!
(ババアお前もじゃ!よく聞けコラ)
心優しき母親が、わがまま娘の為に自分の身を捧げて代わりに助けて欲しいと願い、癒やしの湯にやってくるのです
母親はわがままでも豊満でもありませんでしたが、心優しき姫はその母が子を思う情に涙し、湯が再び溢れ出るのです。
姫は母からほんの少し贅肉をもらい、子どもを癒やしました。
心優しき母よ、そなたの心が娘を導くのです
それ以降は、わがまま娘が来ても肉を削ぐことはせずに
心優しき人からの願いに、少しだけ豊かな腕や背中の肉をもらい涙に変えて人々を癒やしたのです」
めでたしめでたし〜と締めくくると
「「偉大なる大精霊様よ」」
おばあちゃまとお母様が声を揃えて敬いだす
しかも大精霊にランクアップしてる!
「我が地にお越し下さり感謝いたします。我らの領地は貧民がよく流れてきます
姫の民を思う心を大切に語り継ぎます、我らの地をお守り下さいませ!
どうぞ我が贅肉を引き取り給え!」
おばあちゃまとお母様が土下座して拝み始めた。
おばさん妖精『素晴らしいお話をありがとう、お嬢ちゃん!貴女の対価は確かに受け取りました。契約を果たしましょう。プニプニの幼女肉は大好きだから揉むだけにしておいてあげましてよ!成長期だものねー!』
ピカーっと光って、おばさん妖精が俺の描いた姫の絵に入って行くと、その姿を顕現した!
ふぁっ!
「な、なんだこの光は! おお! この姿は、ひ姫様ー!」
いつの間にか真後ろにいたお父様やじーさんが驚いて臣下の礼を取った。
え!みんなにも見えてるの?
俺の描いた、憂いを帯びた少し陰のある細身でも立派なリンゴが2つある黒髪の湯上がり美人なお姉さん系姫様が浴衣姿で現れる。
恥ずかしいから!俺の趣味だけど、なんか顕現されると凄く恥ずかしいからヤメて!ゴメンナサイ!
『この地に安寧を みなの幸せを祈ります』
それっぽい事を、雰囲気ありげにそう言うと、再びピカーっと光りフワッと消えた。マリアンヌも腰を抜かしてひっくり返っていたので、そっと回収しておく。
お母様とおばあちゃまが二の腕がちょっとだけ細くなったと大喜びしていた。
2人ともそんなに太ってないじゃん?と思ったけど神殿を建てそうな勢いで祀りましょうと言ってる2人をみると相当嬉しかったのね・・・。
それから、莫大な資金が注ぎ込まれて急ピッチで温泉計画が始まった。
王都に戻っていたはずのスチュワート商会が再び来て、温泉宿の計画に一枚噛んでいて商業組合の支部を作り他の商会も集めて話合い、どんどんお金が動いていき大金がとびかっていた!らしい。
子どもの俺達は、ツァネフ叔父さんと大人しく勉強をしていた。
叔父さんに描いた文字表のイラストが知れ渡り、同じ物が欲しいとたくさんの商会の人たちから言われて、絵の仕事を受けるハメになり
描いたそばから売られていく。いくらで取引してるかは実は知らない。お金の話はお父様がきっちりしてるからだ。
美人の湯の物語を描いて、今度は薄い本ではなく職人に仕上げしてもらい、しっかりした本になった。
それとは別に何枚も姫の絵を色付きで描かされて、額に飾られたり、高額で取り引きされてると聞いた。
こちらの絵は誰が描いたか内緒にしている。
勝手に時の高僧が描いた絵にされて、どうやってか古びたような技法を使ってアンティーク風な雰囲気が出て、年代物の立派な額に入れられ超高額で取り引きされてると知って、じーさんが慌てて規制してた。
彫師に石像まで彫らせる計画があるそうだが、おばあちゃまのお眼鏡に叶う腕の良い彫師が見つからないようだ。
腕の良い彫師って城や教会に取られちゃうから。
俺も、本を何冊も作らされ、印刷機がないならせめて文章だけでも誰かに書いて貰おうと交渉したら、スコットとサイモンが名乗り出て、せっせと写本している。
まあ、字を丁寧に書く練習だと思って頑張って下さい。
俺も下絵は描くが、色は他の人にしてもらおうと探してたら、温泉姫が『貧民に1人芸術関係の工房で働いてた絵好きな子がいるわ』と教えてくれたので見に行くことに。
ちなみにおばさん妖精だったけど、今は温泉姫と呼んでる。
元が何だったかは、早く忘れてしまいたい。どうせ俺にしか見えてなかったものだから
そしたらマリアンヌが
『僕も最初の小汚いおっさんは見えてたよ?』
わざわざ言わないで欲しい、早く忘れたい
お目汚しすみません




