アイザックの焦りとバナナ軟膏の波紋
アイザック時点
それは午後のひとときの事だ
アイザックは祖母マージョリーと隣国の前王の王弟アルフレッド(※元教祖のこと)とお茶会をしていた。
教育の一環であり、他国のマナーを学ぶ貴重な時間である
アイザックはこの王弟を密かに応援していた
祖母と一時、婚約をしていて心通わせていたのに、当時の情勢などで解消されてしまって、悲恋に終わった。
引き裂かれても想い合い、長い年月を得て再び巡り会えた運命の奇跡の恋だと思っているからだ
なんとなく自分と重ねて見ていた
アルフレッド「アイザック殿下におかれてはご献奏あらせられる。春の宴ぶりですかな
アイザック殿下は赤い実がお好きだとか」
目の前には赤い実のジャムが乗った小さなクッキーがある。花の形に絞り出して真ん中をジャムの赤が彩る
「以前、白銀の妖精に貰った実はとても甘くて美味しかったのです。今でも忘れられません…」
(※マリーウェザーのこと)
マリーウェザーは今頃どうしてるでしょうか
カレッジなんてまだ早いのに…きっと勉強ばかりさせられて苦労してるに違いない
可哀想なマリーウェザー…兄上の婚約者でなければ、まだ数年は家で過ごせたのに
お茶に誘って僕と城で勉強しても良かったのではないか
アルフレッド「白銀の妖精ですか、それは幼子の姿でしたか?」
「ご存知なのですか?!もしかしてマリ…」
アイザックがマリーウェザーではないかと言いかけた時に窓辺に美しい赤い鳥がとまった
護衛騎士も侍女も驚きのあまりすぐに動けなかった
なぜなら美しい赤い鳥の背には赤い妖精が乗っていたからだ
ふわふわとヒラリヒラリと優美に飛んできた赤い妖精がアイザックの前にきてテーブルに降り立った
赤い鳥はパタパタと羽ばたいて飛んで行ってしまったけど、妖精は手に持った手紙をテーブルに置いて
『主の命により手紙を届けにまいりました
アイザック殿下とやらは貴方でしょうか?』
「あ、ハイ僕、私がアイザックです…妖精よ、主とは?」
『手紙を届けたらすぐに帰るように仰せつかっております…が少しならお喋りに付き合いますわ』
妖精がチロリとクッキーを見た
アイザックはクッキーを一枚差し出した
赤の美しい妖精がアイザックの手からクッキーを受け取り食べる
アルフレッド「まさか…美しい赤の妖精よ、そなたには姉妹はいまいか?その姿、趣が似ている!」(※花魁の御神体のこと)
『あら、お姉様をご存知かしら、どこかでお会いしたのね』(※クリオネのこと)
「アルフレッド様はご存知なのですか?」
アルフレッド「いや、あぁそのコルチーノ伯爵領にいた時に少し…オホン」
マージョリー「あら、もしかしてコンスタンツェ関係かしら?」
アルフレッド「いえ、その…どちらかと言えばあの領地です」
マージョリー「あら、それってアイザックのいい人ね…ふふふっあの子は本当に面白いわ」
「マリーウェザーの事ですか!
あ、前にマリーウェザーの肩に透き通るような白い肌の美しい妖精がいました!」
アイザックは、先日のダビルド公爵のお披露目にマリーウェザーに会った時の事を思い出した
マリーウェザーはあの時も妖精に好かれていた
きっと妖精のような可愛いマリーウェザーは妖精に愛されてるに違いない、会いたいなぁ
『あら、あの時の子どもでしたの?
人の子の顔は見分けが付きませんわ
このクッキーは酸っぱい実なのね、魔素が感じられないわ』
そうだ、マリーウェザーの今の様子を聞けるかもしれない!
「あの、それでマリーは…」
その時、手紙を検閲していた侍女と護衛騎士が驚いて声を上げた
侍女「まさか、そんな!?レイナルド殿下が!」
護衛騎士「落ち着け!騒ぐな!ここで見たものは口外してはならん!!
皆解っておるな?
裏を取らずに誰かにもらしてみよ!不敬罪で首を跳ねるぞ、良いな?」
侍女が驚愕してから首を跳ねると脅されて顔を青くして下がった
マージョリー「アナタ達がそんなに驚くなんて、その手紙はアイザックが読んでも大丈夫なのかしら?」
「早く見せて下さい、僕に宛てたマリーウェザーからの手紙なのでしょう?あ、手紙の裏側に絵が!」
護衛騎士が手紙を裏返すと、宮廷画家も舌を巻く程の絵があった
「なんと、まるで英雄物語の挿絵のようだ」
「マリーは絵が上手なのです!以前、僕の目の前で描いてくれました!」
アルフレッド「うむ、まさしく令嬢の絵だな。私も以前見た絵に似ている」
マージョリー「領地の伯爵家のパーティに飾ってた絵ね?
まぁ、その絵もあの子が描いたのね…多彩な才能があること、フフフ」
アイザックは受け取ると手紙を読んで震えた
「そんな!まさか!マリーウェザーが害されたなんて!?お祖母様、カレッジとはそんなにも危険な場所なのですか?」
アイザックが手紙をマージョリーに渡して怒りに震えた
マージョリーとアルフレッドが一緒に覗き込む
そんな、マリーウェザーが兄上に横恋慕したどこぞの令嬢に嫌がらせされていたなんて
手紙にはお礼も言えないほど兄上の側近達がマリーウェザーを妨害してるとある
兄上に近づけないのは構わないけど、マリーが嫌がらせされてるのは我慢出来ない!!
マージョリー「あら、レイナルドもいざと言う時は動けるのね」
アルフレッド「これが本当の事なら勇ましいものですな」
2人が兄上の勇姿を称える
アイザックは兄を誇らしく思うと同時に、自身の腹の底から湧き上がる熱いものが何かわからなかった
『本当よ、ご主人様はなぜあの女をほっとくのか理解出来ないわぁ
消すことなど簡単なのに、ねぇ?
甘い甘い、花の蜜より甘くて尊くて偉大なお方の慈悲で生かされた
わたくしからすると、生かす価値もない醜い蛆よ』
「あの、妖精よ
マリーウェザーの様子をご存知だろうか?
聞かせてくれぬか?」
『……ふぅ~ん(ニヤニヤ)
お友達がたくさん出来て、毎日楽しそうにしてますわぁ』
「その、兄上とは仲良くしてるのだろうか?
ダンスの授業があるのだろう?」
『アナタの兄など眼中にないわよ
だって蠅が周りにいるもの、悍ましいわぁ
近づくわけ無いじゃないアハハッ
人間は愚かよねぇ、どうして蠅をまとわりつけてるのかしら?理解に苦しむわ』
「蠅ですか?」
『でもね、蠅だったものも
ご主人様と言う美しい花に引き寄せられて蝶に変わったの、解るかしら?ご主人は人を育てる才能がおありなのよ』
マージョリー「蠅が蝶に変わるように、蛆にも使い道があるのよ、お嬢さん」
『それ、ご主人様も似たような事を言っていたわ』
アルフレッド「聡い子どもだと思っていたが、しっかりと解っているようだ」
マージョリー「ええ、賢く聡明で場を読むし畏れも知ってる子どもよ、欲しいわねぇ
そう思うでしょアイザック」
「もっと勉強して体も鍛えれば良いのでしょうか?」
マージョリー「味方を増やして貴方の意見を無視できないようにすれば良いのよ」
「カレッジの様子がもっと知りたいです。
お祖母様、僕はいつになったら通えるのでしょうか?
母上も父上も14歳になったらと言うのです
その頃にはマリーウェザーは卒業してて、兄上と正式に婚約してしまいます
僕はカレッジで一緒に学びたいです」
マージョリー「家庭教師の合格を得なさい
たくさんの優秀な学生達の中で1番にならなくては恥をかくのですよ?
現にレイナルドはマリーウェザーに1番を取られてしまったのですもの
それどころか5番目の成績だったなんて…
王族として恥ずかしいと言われてしまうのよ?」
兄上のような優秀な人でも5番目なのか?
それなら今のままでは14歳まで通えないではないか!
「お祖母様、優秀な先生を僕につけて下さい!
兄上を超えるくらいに頑張らなくてはマリーウェザーに追いつけない!」
マージョリー「まあ!アイザックはやる気があるのね、素晴らしいわ」
アルフレッド「若いですなぁ、私にはもう眩しく見えてしまいますよ」
『もう失礼するわ』
「あっ、またいつでも来て下さい」
気まぐれな妖精なのかな
ヒラリヒラリと妖精が風もないのに服を揺らして、霞のように窓に消えて行った
窓辺には小さな小瓶が置いてあった。
護衛騎士「殿下、不用意に触らないように!…これは?」
マージョリー「手紙に書いてあった軟膏ではなくて?置き土産のようね」
ドルトンが蓋を開けて匂いを嗅ぐ
少量とり自分の手のひらにある豆に塗り込んでみる
皮がボロボロめくれて新しい皮膚が生えてきた
ガサガサで石のように固くなり、分厚くなった手のひらがぷるんとして丈夫な皮膚に変わった
ドルトン「これは!!素晴らしい!」
ドルトンの様子を見ていたマージョリーは春の宴の時に、マリーウェザーからコンスタンツェの高級宿にシワ取りクリームがあると話していたのを思い出した。
マージョリー「アイザック、そのクリームをわたくしにも見せてくれるかしら?」
侍女と護衛騎士が驚いた。
なぜなら美容に妥協しない、使う化粧品は最高級のもので
それ以外を使わないことで知られてるマージョリーがどこぞの軟膏を手に取ったのだ。
マージョリーが手に軟膏を塗り込むと
手のシワとシミが薄くなり、10歳は若返ったのだ
マージョリーは信じられなかった
こんな化粧品は今まで見たことが無かったのだ
最高級の化粧品ですら、シミやシワを隠すだけで薄く出来ないからだ
マージョリー「アイザック
この素晴らしい軟膏をわたくしに譲ってくれないかしら?」
「え?」
マージョリー「マリーウェザーから貰ったものですもの、あなたの事だから使わずに大事に取っておくつもりだったのでしょう?
ふふふっ物には期限があるのよ?
使ってこそ価値があるの」
確かに、取っておくつもりだった
マリーウェザーが僕にくれたものだから、とても嬉しかったし
怪我をした時は少し試してみたい気持ちもあったのだ
ただ、お祖母様がこんなに欲しがるなんて、とても珍しい事でもある
アイザックがどうするべきか悩んでいると
アルフレッド「アイザック殿下、貸1つと申して譲られよ
マージョリー様に貸しが作れる貴族は数える程ですぞ?1つ兄君に勝てましたな」
お祖母様に貸しが出来ることよりも
兄上に勝てたと言われた事がとてもしっくり来た
そうか、勉強や鍛錬の他にも勝てる部分があったのか
アイザックは快く笑って
「お祖母様、貸1つですよ」
マージョリー「ふふふっ感謝するわアイザック
貸しとは別にお礼として
来月のレイナルドの誕生パーティは
マリーウェザーをエスコートに誘ってアイザックが行きなさい
王妃には私から言っておくわ」
「え!兄上のパーティですか?来月あるなんて知りませんでした」
マージョリー「アカデミーで学生同士で行われるもの、アイザックが知らないのも当然だわ
レイナルドは母親の命令で違う婚約者候補のご令嬢をエスコートすることになってるのよ」
そんな!!ならマリーウェザーは1人で会場に行くのか?
なんて可哀想なことをするのだ兄上は!
可憐で可愛いマリーウェザーが1人ぽつんとしてるなんて許せない
「お祖母様、僕がエスコートしても良いのでしょうか?」
アルフレッド「アイザック殿下、女性のエスコートをする時のマナーはご存知かな?」
「え?馬車で迎えに行くのですよね?」
マージョリー「ふふふっエスコートのマナーを勉強する時間よ。
レイナルドはネックレスを贈ったのだけれど
マリーウェザーのドレスと同じ色で、しかも長すぎたため映えなかったそうよ」
アルフレッド「それはマナーがなってませんな」
兄上がマリーウェザーにネックレスを贈っていたなんて!!
アイザックはまた腹の底から熱い何かが上がってきた
その熱いものに名をつけるなら嫉妬の炎だ
腹で渦巻く嫉妬をどうにか抑えて
「どうすればよろしいですか?
マリーウェザーが恥をかかずにすむには」
マージョリー「王都にあるスチュワート商会がコルチーノのお抱えでしょう?
ドレスのサイズと靴のサイズを知ってるはずよ」
アルフレッド「ドレスと靴とアクセサリー
最低その3つは抑えておきましょう
招待状に花を添えて
あのご令嬢なら、アクセサリーは髪飾りかレースのリボンの方が映えますな
さりげなく自分と同じ趣きの物を揃えたりされてはいかがか?」
マリーウェザーとお揃い?
そんなこと、考えてもいなかった
マリーウェザーとおそろいで過ごすパーティを想像すると僕の胸が暖かくなった
数日後
お祖母様が手配してくれて、コルチーノの使ってる商会が来た
マリーウェザーのドレスと靴と髪飾りのリボンを注文する
商人「参考までにアイザック殿下の当日の衣装を伺ってもよろしいでしょうか?」
「執事僕の当日の衣装は何ですか?」
カーライル「お持ちします、殿下の衣装を」
侍女「かしこまりました」
商人「マリーウェザー様のエスコートをされるのですか…はて、レイナルド殿下との婚約話しが上がっていらしたのではなかったでしょうか?」
「兄上は別の候補の令嬢を誘ったのだ、代わりに私が当日エスコートする」
商人「そうでしたか、いやはや知りませんでした
マリーウェザー様には大変よくして頂いております
精一杯の物をお届けすると約束いたしましょう」
侍女が当日の衣装を持って来た
緑の生地に金の縁取りがしてあるものだ
商人「殿下の衣装が緑なので、マリーウェザー様には黄色のドレスになさいますか?」
商人が生地を出してきて僕の衣装の横に広げる
薄い色合いの黄色でピンクや赤のリボンを置いていく
商人「マリーウェザー様の御髪はドレスの色を選びません、何色でも似合いますからな
プレゼントしやすいご令嬢です
緑の衣装とあわせると若葉に咲く春の花の妖精のようではないですか?」
確かに黄色い花がぱっと咲いたようだ
だけど女性の衣装なんて僕にはわからない
「ドルトン、どう思いますか?」
ドルトン「あのご令嬢は何でも合いそうです、黄色い衣装でもお似合いになるでしょう
その、私に聞かないで下さい。私もドレスの事はわかりません」
「侍女はどうですか?」
マリサ「え?わたくしですか?
そうですね…ドレスのリボンは白にして清楚にして
御髪のリボンに赤や青の色をつけるのはいかがでしょうか?」
「清楚ですか?」
マリサ「主役はあくまでレイナルド殿下ですもの豪華である必要はないですわ」
そうだった兄上のお誕生パーティだった
商人「なら靴も白い物をご用意しましょう
リボンが映えますぞ
どの色になさいます?こちらの赤のリボンに白のレースはこれから流行ると思いますが」
妖精が赤だったのを思い出して、マリーウェザーの輝く髪に赤いリボンはとても似合うと思った。
黄色いドレスとも喧嘩しないとい言うし、縁取りの白のレースが流行りなのだとか
手紙を商人に預けてておくとドレスと一緒に届けてくれるらしい
マリサが一緒に添える花はヒマワリのような花が良いと注文をつけていた。
花言葉の"あなただけを見つめてる"と言うのが良かった。
当日の朝に商会の顔見知りのスタッフを向かわせてリボンに合うよう髪を結ってくれるそうだ。
カレッジには従者を1人しか連れていけないからドレスの着替えが追いつかないかもしれないって
城から連れて行った兄上の従者は3人いた気がするけど
ドルトン「王族の従者が1人な訳がないですよ
影をあわせると5人はいますから
殿下の時もご安心召されよ」
ハァー
来月会えるのか…僕のマリーウェザー
胸が暖かくなってドキドキする
それから数日後
久しぶりに両親から晩餐に招待された
2人とも忙しいからそれぞれ別に食べている
王妃「聞いたわ、レイナルドの誕生パーティにマリーウェザーをエスコートするのですって?」
「はい、もうドレスも注文しました
私は、エスコートのマナーの勉強をしました。
ドレスと靴とアクセサリーを自分で選びました!
兄上はネックレス選びに失敗して、ドレスと被った上に大人用でマリーウェザーが恥をかいたようです!
僕は大丈夫です!」
王妃は少しだけ眉を寄せてから話題を変えた
本当はやめるように諭そうと思ったけど、ドレスを注文してマナーの勉強だと言われて諦めたのだ
王妃「アイザック、勉強は進んでいるのですって?
先生を増やして欲しいのだとか?」
先生を増やしてほしいと願いしたのは先週なのに…
「ハイ、兄上に少しでも追いつきたくて
いけませんでしたか?」
王「そんな事はない、素晴らしいよ
レイナルドも勉強嫌いでは無かったが好きなわけでもなったのだ。アイザックが勉強好きで嬉しいぞ」
勉強が好きなわけではない
マリーウェザーに追いつきたいだけだ
父上の側近が紙の束を持って来た
難しい言葉が並んでいて何だろうと父を見ると
王「それは、あのご令嬢が入学式の時に読んだ祝辞だそうだよ
何も見ずにつまらずスラスラ言えたらしい
本当に5歳なのか?」
王妃「ええ、しかもレイナルドが急遽呼び出して壇上に立たせたのよ?レイナルドも酷なことをするわね」
マリーウェザーがこれを?!
こんな難しい言葉がスラスラ出てくるなんて!
いったいどれほど勉強すれば良いのだろうか?
マリーウェザーは兄上より賢かったのか
「兄上が酷なこと?
壇上に立って挨拶をするなど名誉ではないのですか?」
王「代表の挨拶は名誉ある事だ
だが前もって練習出来ないのが酷なことだ
失敗してもレイナルドのせいに出来ないだろう?
その長台詞は前もって渡されても覚えるのは大変だろう?」
王妃「ええ、涼しい顔でスラスラ読んでいたわ
確かに賢く聡い子なのでしょう、将来が楽しみね
年齢的に第二夫人か側室がいいわ」
父と母がマリーウェザーを褒める…
どうしよう、このままではマリーウェザーが兄上の妻になってしまう
「父上、母上
僕はマリーウェザーと結婚したいです!」
王妃「まあ、何を言い出すの?
マリーウェザーはレイナルドの婚約者になるのよ?」
「まだ候補ですよね?
それにカレッジでマリーウェザーは兄上の取り巻き達に嫌がらせされてるそうです
兄上との婚約がなければ入学はまだ先だったのに
僕との方が年齢も近いですし
それにマリーウェザーも僕といるほうが楽しそうでした」
王妃「まあ、レイナルドの事件を既に知ってるのね?」
王「アイザックのところにまで噂が来てるのか…
それは真実なのか?」
「マリーウェザーが乗った馬を兄上の馬が庇った事ですよね?
ご令嬢が針で馬を刺したとか、私はそう…うかがいました」
王「詳しいな?」
「僕に教えてくれた者がいるのです」
王「アイザックは知らないうちに成長したのだな…優秀な耳がいるようだ叔母上の差金か?」
(※マージョリーのこと)
王妃「お母様も困ったこと…そう言えばあの時、一緒にお茶をしていたわ
部屋付きの侍女に聞いても妖精が来たとはぐらかされてしまったのよ。彼女はミシェランド派の伯爵家の末娘ですけど、アイザックに忠誠を誓ってるのかしら?」
王「筆頭護衛騎士に聞いても似たような事を言っていた。
アイザックは人心を掴む才能があるのかもしれないな
、ドルトンの爵位を上げて仕事をしやすくしてやろう」
妖精が来たのは本当のことなのだけど
実際に見ていない母上も父上も妖精の存在を信じていないようだった
お祖母様とアルフレッド様は落ち着いて妖精と語らっていたのに…
そう言えば、あの2人は妖精の存在を知っていた。
アルフレッド様は赤い妖精の姉を知ってるようだったし。
兄上は妖精を見たことがあるのだろうか?
「父上、僕が勉強を頑張って家庭教師の合格を得られたら入学を早めても良いでしょうか?」
王「アイザック、早く入学しても大変なだけだよ?」
「マリーウェザーは現に大変な目に合ってるではないですか、誰かが側で守ってやらねば
婚約者なのにどうして護衛がつかないのです?」
王「まだ候補の段階で護衛はつけられぬ
他の候補にもつけねばならぬだろ?
それにコルチーノ伯爵が断ったのだ
今年はマリーウェザーの兄が2人ともいるし、屋敷の護衛見習いを一緒に入学させてる
長男のコーネリアスくんはもう卒業だったのに
休学してまで妹の世話をしてるそうだよ?」
王妃「コルチーノ伯爵は本当に慧眼です事、まだマリーウェザーが婚約者候補になる前に長男を休学させたのよ?
マリーウェザーと3回生の選択授業を一緒に受けてるそうよ」
王「コンラートは昔から食えない男だったのだ!学生時代は本当に好き勝手していたように見えて…オホン
アイザックが家庭教師の合格を得られたら考える」
両親との久しぶりの夕食で自分の意見をちゃんと言えた
アイザックはその事が今までは兄に遮られて出来ていなかったことに気がついた。
自分が何かを発言しても、兄に最後は話を持っていかれて終わる
兄上がいないだけで、こんなにも自分を見てもらえて、話をきいてもらえるのか
兄上は自分中心すぎて他者の気持ちに疎い所がある。
僕が塔に閉じ込められていた時も、年に1度会いに来ただけなのに、弟思いの優しい兄だと周りに褒められていた
お祖母様の言う、自分の味方を増やして意見を無視できないようにする。考えてみよう
王「アイザック、そなたが思ったよりしっかりしてきて嬉しいぞ!
明日には隣国から親善大使が来るのだ
どうだ?出迎えてみるか?王子としての仕事だぞ?」
部屋にいた執事と侍女の顔が驚いていた(※急な明日の予定変更に焦った)
「はい、失礼のないように頑張ります」
王「わざわざコルチーノに寄ってから来たのだ、遠回りなのに交易のために向かったのだろう
前領主夫人は今もやり手なのだろうな」
王妃「貴方も人が悪いわ、アイザック
親善大使と一緒にあちらの王子も一緒に来ますのよ
王子としてあちらの国に舐められぬよう接するのよ?
出来るかしら?」
「王子ですか?」
王「アルラシードに嫁いだ私の姉の子が来たのだろう
コルチーノから先触れが来て驚いたぞ
姉上は昔から予定通りに動かない人だったのだ
来るなら前もって知らせてくれなければコチラが困るのに」
「では私の従兄弟殿でしょうか?」
王「そうだ、頼めるか?」
「はい、お会いするのが楽しみです」
隣国から来たのは従兄弟の方じゃない王子




