第9話 ダンジョン1階(その2)
「他には何もないニャ」
奥に続いているらしい扉が1つ、部屋の奥にあるのだが、どうやっても開かなかった。
「かくニャる上は、ファイヤーボールで扉を攻撃・・・」
「やめろ!」
カートがファイヤーボールで攻撃しようとするのは、一喝したラムシュンドは、
「まだ行っていないところを回るぞ」
そう言ってカートを引っ張りながら部屋を出たのであった。
少し戻ってみると、道が3つに別れていた。つまり十字路だったのである。さっきは、まっすぐ行ってしまったので、左右の道はまだ未踏破だった。
(ダンジョンなんだから、虱潰しに回るのが鉄則だよな)
果たして波高の記憶なのか、タヌキの記憶なのか、ラムシュンドは、未踏破部分に乗り込むべく、右に曲がっていった。後をついていくカート。しばらくすると、道は左に曲がり行き止まりのように見えたとき、前方からゴブリンが5匹剣を持って襲い掛かってきた。
「こいつらは剣で倒すぞ」
そう言ってラムシュンドは、ショートソードを抜いてゴブリンに突撃していく・・・。慌ててカートがショートソードを抜いたときには、既に、ラムシュンドは、3匹倒していた。残りの2匹が、ラムシュンドの脇をすり抜けることに成功したが、そこには、ちょうど、ショートソードを抜いたカートがいたのである。2匹のゴブリンは避ける暇もなく、カートに切られ、魔石を残してダンジョンに消えていった。
「どうやら、このダンジョンは魔石以外の死体は吸収されるらしいな」
ラムシュンドは、自身が倒した3匹とカートが倒した2匹が魔石を残して消えていくのを眺めながらいった。
小石のような魔石を拾い、とりあえずアイテムボックスに回収してみる。もちろん、カートも自身が倒した魔石を回収していた。
「倒した魔物の数を確認するのにちょうどいい」
魔石を1個、アイテムボックスから取り出して眺めながらラムシュンドが呟いた。
・・・
その後、十字路に戻った後、反対側の未踏破部分に行ってみたが、同じようにゴブリンが現れたのみであった。他に繋がっている部分はなく、隠し扉もない。
「さっきの部屋にあった扉に戻ってみるのニャ」
カートの言葉に頷くラムシュンド。他に選択がなかったのである。
・・・
「ニャんで?」
どんなに押しても引いても全く動かなかった扉が、ラムシュンドがちょっと押しただけで開いたのである。
(やはり、2か所のゴブリンを倒すこと・・・扉が開く条件だったのだな)
ラムシュンドは状況を冷静に見ていたが、カートはひたすら驚いていた。
「先に行こう」
そう言いながら、ショートソードを持ち、周囲を警戒しながら歩き出すラムシュンド。2人が扉の中に入ると、突然、前方が光りだし、何かが現れた。
「まさか・・・」
「まさか・・・ニャ」
光が消えた時、2人の目の前には、神様(若者にしか見えない男)の像があった。そして、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ダンジョン地下1階クリアです。おめでとう!この先に地下2階への階段があるからね。次も頑張って・・・。お祝いに休憩施設を用意したから使ってね・・・・僕の用意したゴブリンはどうだったかな、デザインを工夫しようとしたんだけど・・・」
録音なのか、一方的喋る声を聞いていた2人・・・いや、聞かざるを得ない2人のなのであった。
・・・
5分ほど、どうでもいい情報(地下1階の魔物の話など)を一方的に話した(聞かされた)後、神様(若者にしか見えない男)の像は、光に包まれて消えていった。そして、その跡には、下り階段が出現したのである。
「あいつ、絶対ふざけている(ニャ)」
2人の声が揃った。
・・・
地下2階に降りてみると、そこには、いきなり扉があった。カートが押してみると、それは簡単に開いた。
「本当に部屋があった(ニャ)」
そこには、先ほど、神様が言っていた休憩施設になっていたのである。部屋の先にも扉があるので、それが地下2階への入り口なのだろうと思われた。
「ベッドと台所があるニャ」
休憩施設には、2つのベッド。食事を作るための台所。そして、なんだかよく解らない扉のついた箱のようなものがあり、その脇には
“フードカードリッジ”
と書かれた箱が積み上げられていた。
「何か書いてあるぞ」
ラムシュンドは、扉のついた箱に張ってあったメモを見た
=休憩施設へようこそ=
君たちは料理が出来なさそうだから、他の世界から自動調理器とそれに使うフードカードリッジを用意しました。食事をしたいときは、フードカードリッジを1つ、この自動調理器に入れてスタートボタンを押すと、ボタンを押した人の状態を見て、最適と思われる食事を自動で作ってくれます。出来上がると“チーン”と鳴るのでしばし待つこと。フードカーリッジ1個で一人1回分の食事が出てきます。
神様より
「なんだこりゃ?」
ラムシュンドは首を傾げながら、とりあえず、フードカードリッジを1つ自動調理器の中に入れ、“スタート”と書いてあるボタンを押してみた。すると、箱が突然音を立てながら、細かい振動をし始める。呆然を様子を見るラムシュンド。
「危なくニャいのか?」
カートはいつでも攻撃出来るように、ショートソードを構えて自動調理器を見つめている・・・いや、睨んでいた。
待つこと約2分、メモの通り、“チーン”という電子音が鳴り、自動調理器はおとなしくなった。と同時に扉が開いたのである。ラムシュンドが覗き込むと、何やらシチューのようなものが出来ていた。どこから入れ物の皿が現れたのかは謎である。ラムシュンドが警戒しながらシチューのようなものを取り出し、テーブルに運ぶ。よく見ると、テーブルには、ナイフ、フォーク、スプーンとして、箸がご自由にと言わんばかりに積み上げられていた。
(これを使って食えということらしい・・・)
ラムシュンドは、スプーンを1本手に取ると、シチューのようなものを置いたテーブルにあった椅子に座り、食べてみた。茶色の液体の中に肉のような何かがスプーンに乗っている・・・。覚悟を決めて口に入れてみると・・・
(美味い!)
その後は、傍にカートがいることも忘れ、夢中で食べているラムシュンドがいた。
意外とカートは脳筋?