第58話 瘴気の沼(最終回)
最終回です。
「ブイを沼に入れに行こう」
ラムシェンドは思い出したように言った。
(何か誘導されたような感じがするな・・)
「そうだニャ」
洞窟には他に気に掛けるべきものはなかった・・・いや、ラムシェンドとカートには見つけることが出来なかった。この洞窟そのものが、異世界のコピーであるいうことの重大さに気が付いていなかった。
「あの死体はどうするニャ」
カートが死体を指さした。
(変だな・・・いつもなら、埋葬してやろうとか思うはずが、何もしたくない気持ちでいっぱいだ)
自分の感情がいつもと違うことに違和感を感じるラムシェンド・・・彼は黙って洞窟を出ていこうとしていた。
(ラムシュンドらしくニャいな?)
カートはそう思いつつ後に続く。
(何もニャいし、あいつはどう考えても、この世界の人間にしてはおかしいし・・・)
カートも死体を放置してラムシュンドのあとに続いた。
・・・
「エリア プリフィケーション」
湧いて出る魔物にラムシュンドの範囲魔法が炸裂する。森に入ってから急激に瘴気の濃度が上がり、魔物も次から次へと現れる。ラムシュンドの浄化によって、あたり一面の魔物は魔石を残して消え去った。
「エリア サンダーボルト」
カートも範囲魔法で攻撃したところ、魔物は倒せたが、森も燃え始めてしまった。
「しまったニャ」
慌てて、
「アースウォール」
火事を発動し、火事の周辺を壁で囲った。
・・・
「あった(ニャ)」
森の中に沼のような黒い塊が見つかった。
「多分間違いないだろう・・・確認するよ」
ラムシュンドはそう言うと
「エリア プリフィケーション」
を発動する。森を覆っていた黒い霧のようなものが晴れ、沼の面が見えた。
「ヘドロのような沼だニャ」
呟くカートを脇で見ながら、ラムシェンドンドはブイを沼に放り込んだ。
(ん?)
ブイは沼に浮いている。そして何故か、黒い霧・・・瘴気が発生しなくなった。
(ブイは瘴気を抑制する何かがあるのだろう・・・たぶん)
ラムシェンドンドはようやく終わりが来たと思いながら隣のカートを見ると、何か指さしている。カートの指さす先には男のようなものがいた。何故か沼に浮いている。
「何か嫌な気配がするのニャ」
よく見ると、若者にしか見えない神様とそっくりな服を着ている。沼の上にいるにも関わらず、瘴気の影響はないらしい・・・。
(神様と同じ服を着ているということは・・・)
「よくも、邪魔をしてくれたな」
沼の上から声が聞こえてきた・・・いや、直接、脳に語り掛けてきたらしい。カートにも同じように届いたらしく、
「あれが瘴気を作った犯人だニャ」
カートはラムシェンドに呟いた。
「そこの猫。お前の言う通り、この世界に瘴気を溢れさせたのは私だ!」
またもや、沼の上から脳に直接語り掛けてくる。
「ニャんで?」
思わずカートが呟くと
「他の世界で、後輩の世界を瘴気で潰そうとしたら邪魔が入って上手くいかなかった。この世界はその代わりに破滅させるはずだったのだ」
そこまで、脳に直接語り掛けた後、
沼に浮いている男の右腕がカートの方に向いた。咄嗟にカートが横に跳ねた直後、光のような何かがカート居た場所に炸裂したかと思うと、直径1mくらいのクレータを作った。熱でもあったのか、湯気が出ている。
((???))
飛び跳ねたカートは勿論、ラムシュンドもその意味が解らなかった。
「どうやら、神様に嫌われたらしいニャ」
カートが叫ぶ。
ラムシュンドは、ウォレスの剣を右手に持って斬撃を沼に浮いている男に放った。
「えっ?!」
ラムシュンドは、思わず声を上げてしまった。斬撃は間違いなく、沼に浮く男に当たったはずだったのだが・・・何故かすり抜けて行ってしまったのである。
「そんなものは効かぬわ!」
沼に浮く男からと思わるものが脳内に響く。咄嗟に横に跳び退いたラムシェンドのいた所に、先ほどカートに向けられたと同じ光の何かが炸裂した。
「サンダーボルト」
カートが沼に浮く男に向かって雷魔法を放ったが、これもすり抜けてしまう。
「だから、効かぬといっておろう」
沼に浮く男は、両手を横に広げた途端、巨大な白っぽい何かが膨らんだ。
(風船みたいだニャ)
次の瞬間、あたり一面光に包まれた。
・・・
(ここはどこだ!)
ラムシュンドは周囲を見渡した。周囲は一面真っ白でなにも無い。
(まさか・・・死んだ?)
ラムシュンドがそう思った瞬間、
「死んではないぞ」
ラムシェンドは声のした方を見ると、そこには、見知らぬ男がいた。見たこともない衣装に身を包んだ男は、右手を前に出し、手のひらを上に向ける・・・何かが光った。思わず身を屈めるラムシュンドに
「よく見よ」
見知らぬ男は言った。ラムシュンドは恐る恐る彼の右手にある光るものを見ると、それは、球形のボールのような形をしていた。そして、その中に先ほど沼の上に浮いていた男にそっくりな姿があった。
「こいつは、邪神になってしまったのでな。回収した」
見知らぬ男はそう言うと、左手を被せるようにボールのようなもの添えた途端、ボールのようなものが弾け・・・何もなくなった。
呆然とその光景をみるラムシュンド。その姿を見た見知らぬ男は
「最後の仕事だ」
そう言って、右手を左から右に振った。
・・・
「はっ?!」
一瞬で周囲の風景が変わった。目の前には見覚えのある大きな装置がある。
「どうして・・・」
ラムシュンドは呟いた。ダンジョン地下5階に移動していたのである。周囲を見渡しても誰もいない
「カート!」
ラムシュンドは叫んでみたが、応答はなかった。見渡しても誰もいない。
(カートとはぐれてしまった・・・)
「お前の仕事をせい!」
どこからともなく、ラムシュンドの脳内に声が響いた。
(そうだ。瘴気を消さなければ・・・)
ラムシュンドは、瘴気封印装置を稼働させるため、稼働SWを押した。モニタを見ると、何故か、ブイを投入した沼周辺が真っ白になっているが、しばらくすると、沼のあったところを中心に同心円状に濃度が下がっていく。大陸から瘴気が消えたのを確認したラムシュンドは床にへたり込む
「終わった・・・」
(カートがいないのが残念だ・・・最後まで一緒に・・・)
「ラムシュンド!」
背後から声がした。ラムシュンドが振り向くと、そこには、両手に串焼きを持ったカートがいたのである。
「カート!」
思わず叫んだラムシュンドに
「休憩所に食い物が沢山あったのニャ」
カートの指さした先には、山のようなご馳走がテーブルに並んでいた。
・・・
P.S.
ラムシュンドがカートに引っ張られて休憩所に入った直後、瘴気封印装置は忽然と姿を消した。装置が消えた後には、何か書かれた1枚の紙が落ちていた。
この世に人がいる限り、悪が滅びることはない
読んでいただいた皆様。ありがとうございました。
これで完結です。
瘴気封印装置は元の場所に帰ったのでしょう・・・誰がしたのかは不明ですが・・・。




