第31話 イジロー開放作戦(その2)
イジローまで進撃!
護衛騎士たちは、翌朝、フヤシティに帰っていった。
南門から彼らの馬車がどんどん小さくなっていくのを見届けたのち、
「さて。お仕事と行きますかニャ」
カートが北門に向かって歩き出した。といっても歩いて北門まで行くわけではない。アレックス=ヴァーツラフの用意した別の馬車に半ば強制的に乗せられての移動である。
「カート。お前は壁を作るのに専念してくれ。俺が、浄化しながら魔物は倒す」
ラムシェンドはそういってカートを見たが、
「状況次第だニャ。危なくなったら、自分の身は守るから大丈夫ニャ」
そう言って口髭を手で触る。
(これって猫の本能なのかね・・・)
ラムシェンドはカードが口髭を触るの眺めながら思っていた。
・・・
「開門~!」
アレックス=ヴァーツラフの声が北門に響く。すると、門はゆっくりと開けられた。半円状の壁に囲まれている範囲は瘴気もないらしい。アレックス=ヴァーツラフたちフヤ王国軍たちも何事もないようである。
壁の外では犬が巡回していた即席で作られた監視台から見ると犬たちも異常はなく、巡回するように外壁と内壁の間を歩き回っている。
「大丈夫そうですね」
ラムシェンドはほっと溜息をついた。実は、カートの作った壁がどれくらい持つのか不安だったのである。
「街道は特に損傷もないようだ」
アレックス=ヴァーツラフは監視台から街道を、そしてイジローの街を見ていた。イジローの方が、少し高さ的に低いこともあって、監視台からやっと街の上部が見えるだけだが、特に廃墟のような感じには見えない・・・。
(この先は、瘴気にやられてから時間が経った人達しかいない・・・プリフィケーションで回復できるとは限らないだろう・・・)
ラムシュンドは覚悟を決めるのだった。
・・・
ラムシェンドが、カートを抱えて外壁の外・・・すなわち瘴気の充満する箇所に進入すると、早速、近くの魔物が襲ってきた。
「オークとコボルトだニャ」
その様子を眺めるカート。
「早く壁を作ってくれ!」
「ではここは気張って・・・」
カートはそう言うと、出来るだけの魔力を込めて
「アースウォール!」
街道の両側に高さ1.5mの壁が出来ていく。全幅100mの壁は、半円の壁(外壁)
に繋がるように始まり、かなり先まで続いていた。
「とりあえず、1km先くらいまで出来たかニャ」
ウォレスの剣で斬撃をはなちながら近寄ってくる魔物を倒していたラムシュンドが
「エリア プリフィケーション!」
を壁の両側を範囲にして発動した。エリア プリフィケーションは範囲を細かく指定できるということに昨日、ラムシェンドは気が付いたのだった。壁の内壁から瘴気が見る間に消えていく、と同時に、壁を乗り越えて入ってこようとする魔物がいなくなった。
(瘴気が満たされていない部分には入ってこない・・・いや入ってこれないのかもしれない・・・)
ラムシェンドは魔物の様子について考察していると、目の前を水の塊が飛んで行った。
「ぼーとしてないで魔物を倒すのニャ」
どうやら、ラムシェンドの目の前までコボルトが迫っていたらしい。カートの怒声に
「すまん」
と言って、再びウォレスの剣で魔物を倒し始めるラムシェンド。魔物を倒しながら、街道を進んでいく。
やがて、カートが作った壁の終わりが見えてきた。特に塞いでないので、瘴気が再び入り込んでいるが、思ったほどではない
「ではもう一回ニャ」
そう言ってから、出来るだけの魔力を込めて
「アースウォール!」
を発動する。1.5mの壁か街道に沿って出来ていき、何かに当たるようにして止まった。
「ありゃ、街壁に当たってしまったニャ」
そう言って右手を額に宛てているカートであった。
(街壁の様子は後で確認するとして・・・)
ラムシェンドは
「エリア プリフィケーション!」
を壁の両側を範囲にして発動した。カートの作った壁の内側が浄化されていく。
(後は壁の中の魔物退治だな)
・・・
「あっけニャく着いたニャ」
魔物を倒しながら進んでいった結果、イジローの南門に到着したのだった。
「しかし・・・門は開いたままか」
カートの作った壁が当たったイジローの街壁に被害はなく、見える範囲では壁として機能しそうであったが、南門は開いた状態であった。
(少しでも瘴気を防ごうと閉めると思ったのだが・・・)
途中の街道には、人らしいものは一切なかったので、イジローの人は、脱出するのでなく、街に立て籠もろうとしたのだろうと思ったからだったのだが・・・。
「ニャあ・・・あれ」
カートが指さした先。そこには門番らしきものが見張り小屋に隠れるように立っていた。当然、硬直して動かない。
「カート、門を壁で覆ってくれ」
とりあえず、門は開けたまま、カートの作った壁で瘴気の侵入を防ぐことにしたのだった。
カートが壁を作るために街の中に目を向けると、そこには、魔物に食いちぎられた人の残骸が転がっていたのである。
呆然とその様子を見ているカートを見て
「カート!」
ラムシェンドは叫んだ。
(いかんニャ思わず我を忘れてしまったニャ)
「アースウォール!」
カートは南門を完全に多い隠す壁を作った。
「こいつどうするニャ」
見張り小屋に立っている人を指さしてカートが言った。
「とりあえず、プリフィケーションを掛けてみようと思う」
ラムシェンドはそう言うと
「プリフィケーション」
すると、硬直していた体は元に戻ったのである。
「もとに戻った!」
硬直していた男はいきなり叫んだ。
「体調はいかがかニャ」
カートが男に問いかける。男は驚きながらもカートに対して頷くと
「腹が減った」
と言って倒れてしまったのである。
ラムシェンドは、アイテムボックスに入れていた水筒を取り出し、男に少し飲ませる。と、男は電気が体内に走ったかのような反応をして目を覚ます。
「何か食い物をくれ」
男は細い声で言った。
カートはアイテムボックスに入れていたパン(ダンジョンの地下3階にあった小屋にあったパンを持ってきていた)を与えると、男は、瞬く間に食べてしまった。
「もっとくれ!」
男は言うが、ラムシェンドは首をよこに振る。
「いきなり沢山食べると死ぬぞ」
飢餓状態の人にいきなり大量の食事を与えると、体がその付加に耐え切れず死んでしまうのである。日本でも、戦国時代に兵糧攻めにあった兵士達が解放されたのち、空腹から無理して食事をして死んだという例があったらしい。ラムシュンドの記憶にある波高は、全国を旅していたときにそのような話を聞いたことがあったのである。
少し残念そうな男にラムシェンドは、尋ねる。
「一体、この街でなにかあったのですか?」
ラムシュンドの問いに男の表情が曇る。
「変な黒い霧が湧いてきたかと思ったら、触れたやつから動かなくなった。怖くなって小屋の奥に逃げたのだが・・・」
どうやら、見張り小屋の奥で瘴気に囲まれてしまったらしい。
「体が硬直していったのはわかったんだが、その直後に意識が無くなったんだ。門が開いていたのは、閉めることすら出来なかったからだ・・・」
「では硬直していたときの記憶はないのですね。」
ラムシュンドの言葉に頷く男。
「俺らは一休みしたらセベビカイに戻るのニャ」
カートの発した言葉を聞いて男は驚愕の顔をする。
「フヤ王国は無事なのか?」
ラムシュンドとカートはその言葉に頷いた。
瘴気で硬直した人は仮死状態になる・・・らしいです。




