第12話 ダンジョン地下2階(その2)
ラムシュンドが右手を壁に沿わせながら進んで行く。カートはその後をついていく・・・しばらくすると、開かずの扉との分岐についた。ラムシュンドとカートは元来た方向に戻っていく、結局、休憩室の前まで戻ってきた。
「続けるよ」
ラムシュンドはそう言うと右手を壁に沿わせたまま進んでいく。休憩室から見ると、直進した方向に進んで行く。カートは何かの気配を左右から感じていた。
(ニャんか居そうだニャ)
左右の別れ道を右に向かって2回ドックレッグ(90°変針)した先には、
「いましたね」
「いたのニャ」
明らかに大きなゴブリン・・・体長3mくらいだろうか・・・巨大ゴブリンである。但し、特に装備はなく、ラムシュンドとカートの存在を確認すると、その様子を凝視している。ラムシュンドが床の色が途中で変わっていることに気が付いた。ちょうど、ゴブリンのいる周り・・・といっても半径10mくらいだけ、床が赤くなっている。
「たぶん、あの色が変わっている床の範囲に入ると襲ってくるのだろうな」
「正直、面倒だニャ」
そして、ラムシュンドとカートが、床の色が違う・・・赤い床に入ると、
「グギャー!」
ゴブリンはラムシュンド目掛けて突進してきたのである。
突進してきたゴブリンを右に躱し、ショートソードで切りつける・・・が、体長3mもあるために、腹を切りつけたのみになってしまった。それでもかなりのダメージだったらしい。切りつけられた腹を左手で押さえながら、ゴブリンは、カートに突進した。
「お前ニャんか嫌いニャ」
そう言いながら、左脚にショートソードを切りつけると、見事にゴブリンの左脚は切断された。ゴブリンは左手で腹を押さえたまま、床に転んだ。
転んだところに、ラムシュンドがすかさず襲い掛かる。3mあっても、転んでしまえば、問題ない。ラムシュンドのショートソードがゴブリンの胴体と首を切断した。
・・・
ゴブリンの死体は、しばらくすると、魔石を残して消えていった。それを回収したカートは、
「少し大きいかニャ」
いくらか大きい魔石を、今まで倒してゴブリンの魔石を取り出して比較しながら言った。
「ボスみたいだったが、周囲になにも落ちてないな」
ラムシュンドが呟いた。ボスキャラを倒す=ドロップ品が出る というラムシュンドの予想は外れていた。
「もしかすると、こいつはボスじゃニャいのかも・・・」
カートも周囲を見渡しながら言った。
結局、ゴブリンのいた、赤い床のある部屋には何もなく、ラムシュンドとカートは再び、移動を始めた。今回もラムシュンドが右手を壁に沿わせて・・・。左右に別れた所まで戻り、そのまま進んでいく、左に2回ドックレッグ(90°変針)した先には、
「いましたね」
「いたのニャ」
ここにも、体長3mのゴブリンがいたのである。唯一違うのは、こちらは床の一部、ゴブリンの周辺、半径10mくらいの範囲が青い床であったことくらい。ゴブリンは2人を凝視している。
「ということは・・・」
ラムシュンドが青い床に足を置いたとたん、ゴブリンがラムシュンドに突進してきた。
「同じパターンだニャ」
そう言いながら、カートもショートソードを手に、青い床の上に立つ。
「今度は、もうちょっと・・・」
ラムシュンドは、突進してくるゴブリンを躱すと、右脚にショートソードを切りつけた。腹では致命傷を与えられなかったので、先ほどのカートのように、脚を切って転ばせる気であった。そして、その目論見通り、右脚を切断されたゴブリンが、床に転がったのだった。
「今度は俺がいただきニャ」
そう言うと、カートは転んだゴブリンの首と胴体を切断した。
こちらのゴブリンは、声を出さなかった。
「声を出す暇なく死んだニャ」
妙に納得のカートに、
「たまたまだろう・・・」
ラムシュンドは気にもしなかった。
・・・
しばらくすると、このゴブリンも魔石を残して消えていった。
「さっきとほぼ同じ大きさニャ」
カートは回収しながら言った。
「まあ・・・そんなものじゃないのか」
魔石には、それほど興味のないラムシュンドであった。
「こっちにも何もニャい」
「何もないな」
2人は、ここでもドロップ品を探したが、結局、何もなかった。
(やはり、こいつはボスではないらしい・・・)
ラムシュンドは周囲を見渡しながら思っていた。
青い床のある部屋にも何もないことを確認した2人は、元来た通路を戻っていく結果、また、休憩室の前に戻ってきたのである。
「行くぞ!」
ラムシュンドは、相変わらず右手を壁に沿わせたまま進んでいく。
「待ってニャ」
カートは、後を追うようについていった。
途中、ゴブリンの群れ(5匹)と2回遭遇するも、2人はショートソードで切り倒し、魔石を回収して進んでいく。右にドックレッグした先・・・かなり先には灯りが見えた。
「ニャにかあるニャ」
「たぶんな」
そう言いながら、警戒を解かずに近づくと、行き止まり通路には1冊の本が落ちていた。
2人は本を覗き込むように見ると
“タヌキのための風魔法”
と表紙に書いてあった。
「これはラムシュンド用だニャ」
そう言うと、興味をなくしたのか周囲を散策し始めた。一方、ラムシュンドは、本を手に取って開いてみる。
(やっぱり・・・何が書いてあるのかさっぱり解らない)
ライトの魔法を修得したときのカート様子から想像していたものの、やはり、本の中身は読めない文字が並んでいた。それでも、最後の頁までめくってみると、本は、忽然とラムシュンドの手から消えたのである。
(ということは・・・)
ラムシュンドがステータスを開いてみると
名前 ラムシュンド(Lv.4)
HP 3010/3510
MP 8700/11700
魔法 神聖 :プリフィケーション(Lv.1)
火属性 :ファイヤーボール(Lv.2)
風属性 :ウインドアロー(Lv.1)
スキル なし
称号 タヌキの英雄
(やっぱり・・・)
予想通り、風魔法を修得していたのである。
「上手くいったかニャ?」
カートは確認するように言った。
「ああ、予想通り風魔法を修得していた」
「早速、試し撃ちだニャ」
そういって、カートはやってきた通路を指さした。よく見ると、ゴブリンが5匹こちらに向かって走ってきている。
「丁度いい。ウインドアロー」
ゴブリンの方に右手をかざし、叫んでみたラムシュンドの右手から風の矢ともいうべき、空気の塊(何故かうっすらと矢の形をしているのが見える)がゴブリンめがけて飛んで行く。5匹の丁度真ん中を走っていたゴブリンを直撃した。
「グギャー」
一撃でゴブリンは消し飛んだ。残りの4匹はい立ち止まり、消えた仲間を探すように、顔を左右に振っていたが、その姿が確認できないと判ると、残りの4匹で再びラムシュンドとカートに向かって走ってきた。
ラムシュンドとカートは、ショートソードで2匹ずつゴブリンを倒したのち、
「そいつで、巨大スライムを倒したらいいのニャ」
「そうだな。ウインドアローなら、燃えているスライムに触らなくて済むしな」
2人は巨大スライムのところに移動することにした。
・・・
「よく燃えているニャ」
ラムシュンドとカートが巨大スライムのところに戻ってみると、スライムは先ほどとほとんど変わらずに燃えていた。
「では早速・・・ウインドアロー」
ラムシュンドは、巨大スライムにウインドアローを放った。矢の形をした風の塊は燃えているスライムに直撃する。と同時に火の勢いが一瞬増したかと思うと、巨大スライムがいくらか小さくなった。
(これは、ダメージ受けた分、小さくなったのかも・・・)
ラムシュンドは、ウインドアローを何回か巨大スライムに放った。その度に火の勢いが一瞬高まり、巨大スライムが小さくなっていった。
「巨大スライムが小さくなっていっているニャ」
カートが叫ぶ。よく見ると、ウインドアローを使っていないときでも、段々小さくなってきたのである。
(恐らく、火の力にスライムが対抗できなくなってきたのだろう・・・)
巨大スライムが持っていた回復力とファイヤーボールがもとになった火・・・この力のバランスが崩れたということらしい。
「ファイヤーボール」
カートが巨大スライムに打ち込んだ瞬間。徐々に小さくなっていたスライムの体がはじけ飛んだ。
「倒したニャ」
最後の一撃が効いたと思われるカートはご満悦である。
巨大スライムのいたところを探すと、魔石が落ちていた。
「さっきの大きなゴブリンよりこっちの方が大きいニャ」
風魔法はウインドアローにしました。