第10話 ダンジョン地下2階休憩室
休憩室・・・どっかで見たような仕様・・・
ラムシュンドが夢中で食べている姿を見て、カートは警戒を解いた。
(これは、俺も真似して食事をしようニャ)
カートは、自動調理器にフードカードリッジを1つ入れ、“スタート”ボタンを押してみると、ラムシュンドとの時と同様、自動調理器が動き出した。
2分後、“チーン”という電子音後、扉が開いたとき、カートが見たもの・・・。それは、ご飯とみそ汁、そして、焼き魚の定食であった。一体容器がどこから現れたのか、全く見当もつかない・・・。
(さっぱり訳が解らないニャ・・・。ラムシュンドと全然違うものが出てきたが・・・ニャんで?)
しばし考えてみたものの、さっぱり解らないので、出来上がった定食をテーブルに持っていき、箸を手に持って食べ始めた。カートは箸をいうものを初めて使ったはずなのだが、何故か使い方を知っていた。阿久津の記憶であるらしい・・。
(何か変な感じニャのだ)
焼き魚は、何か白身の魚らしく見える。口に入れてみると、溶けるような食感と、口いっぱいに広がる味にカートは我を忘れてしまった。夢中になって食べていたのである。
・・・
夢中になって食事をした2人は、食後のお茶を飲んでいた。これも自動調理器にフードカードリッジを入れてみた結果である。どうしてお茶だったのか・・・それも2つ出てきたのかは不明である。
「ここは安全地帯ニャ気がするのニャ」
「たぶんそうだろう・・・」
カートの言葉に同意するラムシュンド。2人がこの休憩施設と称する部屋に入ってから、魔物の気配は全くなかったからである。
壁には大きなデジタル式の時計があり、20:34 と表示していた。
「恐らくもう夜なのニャ」
「そうだな・・・」
この施設には、水道もあり、蛇口を捻ると水が出てきた。飲んでみたが問題ないらしい。他にも、トイレにシャワールーム・・・そして最初に見つけた2つのベッド。いたって快適である。
「今日はここに泊まろう」
「そうしようニャ」
「そういわれれば、お互いのことをちゃんと話したことがなかったな」
ラムシュンドが思い出したように言う。
「確かにそうニャ」
カートもラムシュンドに同意した。
「私は、箕島という島に住むタヌキだった」
「知らないニャ」
「日本という国の長崎にというところにある」
「ニャんと!俺も日本の熊本というところにいたのニャ」
(熊本・・・なんか聞いた覚えがある・・・)
ラムシュンドに波高の記憶が流れ込んだ。
「俺の中にある別の人の記憶では、飛行機で30分くらいのところにあるところだな」
ラムシュンドの言葉に驚くカート。彼にも阿久津の記憶が流れ込んでいた。
「俺の住んでいたところにも、飛行機というものが沢山あったニャ」
もっとも子猫であったカートには、カラスに襲われたくらいの記憶しかないのだが・・・。それでも、小型機総合基地というところに、色々な塗装をした飛行機がいたのである。それも、阿久津の記憶が補足していたのだが、そこまでカートは理解していなかった。
「私のいた島は、人間たちによって、山を削られ周辺の海を埋め立て、広い平地にしたかと思ったら、飛行機というものが飛んでくるようになったんだ。人間たちは、箕島のことを、長崎空港と呼んでいた」
「長崎空港は解るのニャ」
カートが理解しているのは、阿久津の記憶によるものなのだが・・・。
「私はある日、食料調達に人間たちにいるエリアに行ったとき、何かに体ごと跳ねられた。その結果、不覚にも人間に捕まり、何と、人間に海に放り込まれたところで記憶が終わっている・・・」
「それってつまり・・・」
「そこで死んだのだろうな」
ラムシュンドは寂し気であった。
「俺はニャ、熊本空港近くに住む猫だったのニャ」
「ほう・・・」
「ある日、母猫とはぐれてしまったところでカラスに襲われたところで記憶が終わっているのニャ」
「母猫とはぐれて・・・ということは、子猫だったのか?」
「そうニャ」
しばらく、2人の沈黙が続いた・・・。お互いの話が暗いものだったからである。
「なあ・・・。私たちには、他の人間の記憶があるだろう」
「あの神様が仕込んだらしいニャ」
神様が、人物の記憶をコピーして新しい体のDATA領域に入れたものである。その人物の人名は消去したのだが、それ以外の記憶はそのままだったのである。但し、阿久津の記憶にはコピーできていない(らしい)部分があった。
「その人物の名前は解らないのだが、飛行機を操縦するのが趣味だったらしい・・・。そして、どうやら、飛行機ごと異世界に行ったことがあるらしい。神様が寄越したブイもその時の記憶のようなのだ」
「ニャんと!それは俺も似ているニャ。どうやら、どこかの空港で飛行機の整備士をしていたらしい。理由の部分は記憶が見えニャいのだが、異世界に行って、他の異世界から来た飛行機を整備していたらしいのニャ」
(む?何か記憶にあるものと同じような話だな)
ラムシュンドは、自分の記憶・・・正確には波高の記憶をコピーした記憶とカートの話が、一致する部分が多いことに気が付いた。
「ひょっとして、セスナ172という飛行機を操縦していなかったか?」
ラムシュンドの記憶にある波高の記憶には、阿久津という男の情報がある。そう、波高が関わった人達の名前は消されていなかったのだ。
「ニャ!そうニャ。セスナ172P型という飛行機の操縦を練習させられて、実際に操縦もしていたのニャ」
「その時、異世界の住人と一緒に瘴気を封印しようとしていたのでは?」
「そうニャ。セイン王子、ロック、シャールカ・・・」
カートの記憶にある当時の仲間名前をいうたびに、聞いていたラムシュンドの顔が驚愕を表現していった。
「中央基地に討伐基地・・・自動で出てくる食事・・・」
ラムシュンドが記憶の情報を話し出すと、今度はカートが驚きで顔を引き攣らせていた。
「ハイム村のウナギ・・・」
ラムシュンドとカートは同時に同じことは話していた。もはや疑いようもない。
「カート。お前が持っているのは阿久津の記憶だ!」
「ラムシュンド。お前が持っているのは波高の記憶だ!」
神様が消したはずの記憶のコピー元が判明した瞬間であった。
(ということは、カートの記憶には、アンクス王の記憶もあるのか・・・)
ラムシュンドは、波高の記憶にある情報を呼び出していた。
「実はニャ。俺の持っている記憶には、更に別の人物の記憶があるらしいニャ・・・だが、その情報は何故か呼び出せニャいのだ」
カートはそういって頭を抱え込んだ。
(やっぱり、阿久津は何か別の人物・・・恐らく初代アンクス王だったのだろう・・・彼の記憶が呼び出せれば、この瘴気の解決に使える気がする)
ラムシュンドは、波高の記憶からカートの記憶の呼び出せない人物を推定していた。だが、それは、カートには言わない方がいいだろうと思うラムシュンドであった。
消去した部分をあっけなく2人に当てられてしまう神様・・・若いからですかねえ~。