第一章 五.枯れ地の華
*あらすじにも記載していますが、この小説は【エンドラン】をリメイクした小説となります。
*同じ登場人物、似たような話となっていますが、作者は同一人物です。
*誤字脱字等見つけましたら、教えていただけると嬉しいです。
その力を得たものは、神の加護に護られる。
けれど、犯したものは神に見放され、加護も消滅する。
それは、共存という均衡を崩すことであり、よき結果は何一つ生まれない。
それが、大きな憎悪となり、裏切りとなり【彼ら】の誕生に繋がったのだ。
「や、やっと…、やっとエンドランに……」
「その言い方だとすでに死亡フラグ立ってるからもう少し言い方考えなよ」
とある喫茶店でマスターの男と、とある交渉を行い成立したのが三週間前。
その翌日から昨日まで休みなしのスパルタ教育により、俺は無事銃の使い方を習得することに成功した。
腕と手、指の筋力がとにかくいるからとリンゴの握り潰しに始まり、銃の構え方、打ち方、狙い方をみっちり三週間。しゅうの筋トレ並みに地獄のハードさだった。
「これは堪えるか…と思ったら、しっかりついてくるから、つい、な。調子に乗ったことも多々あった。今だから言う、悪かった」
「お前もか、お前もなのか!」
男が笑いながらカミングアウトした言葉にデジャブを感じる。どこかの友人も同じ理由で俺に筋トレさせてた。
「でも、訑灸兄ぃ。鍛えたはずなのにそんなに変わってないよね」
「そうなんだよなー」
友人の時といい、この男の時といい、多少の筋肉はついていいはずなのに俺の体に変化が全くない。筋トレ前と後に劇的なビフォーアフターが存在してない。なんでだよ。
「まぁ、ちゃんと使えるようになってるからいいんじゃないかな」
しゅうの適当なフォローに睨みを入れて、纏めた荷物を肩にかける。
それは二人も同様で、俺たちはこれから地図にない目的地〝エンドラン〟へと出発する。
「マスター、今日までお世話になりましたー。大きくなったら会いに来るね!」
「ガキが大きくなる頃ってどんだけ先なんだよ、気ぃ付けて行ってこい!」
すばるが男に頭を下げると、彼は旅立つ少年の頭をぐしゃぐしゃと豪快に撫でる。当の本人は嫌がる素振りも見せず楽しそうに笑っている。
「マスター、長い間お世話になりました。何かありましたら、いつでも声をかけてください」
「銃の使い方、書庫の本、色々ありがとうございました。わからないことだらけだったから、情報収集ができて助かった」
昼間は銃の使い方を男に習い、夜はすばると遊んだり、書庫の本を読ませてもらったりとだいぶ自由にさせてもらった。店の手伝いは終日、しゅうが担当していたから俺は何一つしていない。
ここにきたことで、特殊能力の誕生や経緯、種類や内容など調べることができた。
「自分が何者かわかったときは、また来いよ。ほれ、これは持っていけ」
男から渡されたのは、俺が訓練の時に使っていた銃と銃弾。
「銃がなければ習った意味がないだろ。それを使え。そいつは鍛冶屋の能力者が造った特別な銃だ。ちょっとやそっとのことじゃ壊れねぇし、多少の無茶も効く」
「めっちゃ、よさそうなんですけど、俺が貰ってもいいんですか」
「お前にやるためにずっと使わせてたんだろうが、遠慮するなよ。貰っとけ」
「ありがとうございます!」
銃と一緒に銃フォルダーも受け取り(これも特訓中に身に着けていたもので、フォルダーへ収納すると外から銃が認識できない便利すぎるアイテムなのだ)、左足に装着する。
約三週間身に着けたそれはすぐに馴染み、違和感もない。
「〝エンドラン〟に行けば、その中にある鍛冶屋にいけ。そこでこの銃を見せれば銃弾は貰える」
「〝エンドラン〟の鍛冶屋ですね、わかりました」
「木更、そろそろ行かないと飛行機に間に合わなくなりそう」
しゅうが時計を見ながらそう告げる。空港までそう遠くはないけど、余裕を持つに越したことはない。
「ん。それじゃあ、また来る」
「気をつけろよ」
「マスター、行ってきます!」
男に見送られ、三週間前に通った道を俺たちは改めて歩く。今度は、小さな能力者も一緒だ。
「ところで、場所はわかるんだよな?」
地図にも載っていない、能力者だけが分かる場所。それが目的地〝エンドラン〟だ。俺は能力に目覚めていないから当然わかるわけもなく、能力者の二人が頼みである。
「なんとなくは感じてるからね」
行けばなんとかなるよ、とは友人談。それでいいのか。
空港で来た時と同じように手続きを行う。今度の目的地はここから三時間ほどの飛行で着くらしい。
つまり、俺のお昼寝時間も三時間というわけだ。
「寝るのは構わないけど、今度はすぐに起きてよ」
「訑灸兄ぃ、寝ちゃうの!?」
呆れた友人に、つまらなさそうな少年。
正直、飛行機の中って寝る以外のことないよな?
「訑灸兄ぃー、たーくーにーぃー!!」
「んぅ…」
肩を揺すられ、声がかかる。
「すばる? 着いた?」
アイマスクは装着したまま、肩を揺らした声の主に問いかける。
「もうすぐ着くよー」
「サンキュ」
アイマスクを外して、数回瞬きをする。今回の座席は、窓際に俺、その隣にすばる。通路を挟んでしゅうが座っている。しゅうの隣は誰もいない。
「意外としっかりしてる国だな」
窓から覗く街並みは、俺が住んでいた国とそう変わりないほどに栄えている。
無事、飛行機は着陸し、空港のロビーへと向かう。
「ここは中心地だから発展しているけど、これから通る街は見るに堪えないからね」
ここから郊外へ向かうため駅で列車を待っていた俺たちに、しゅうが小さく呟いた。
「治安が悪いってことか?」
「見ればわかる。それなりに覚悟していてほしい」
それ以上しゅうの口からこの街について語られることはなかったが、彼が事前に言うくらいだ。知らずに行ったら、相当ショッキングってことだよな。もしくは、内部争いが凄いのか。
「列車来たー!!」
ホームに入った列車の中はとても空いており、乗客も数人だけだ。
「言い忘れてたけど、ここから結構な旅になるから」
「まじで?」
ドアが閉まると同時に落とされた爆弾に、俺とすばるは顔を見合わせた。
「列車で約半日、そこから野宿も含めて歩いて一日半。約二日かけてその街に行くから。それから森まではあっという間だけど、無事に着く保証はない」
「みんなでキャンプ?」
「サバイバルにならなければそれでいい」
野宿という言葉に各々の感想を漏らし、列車は進んでいく。半日も揺られるなら、途中で絶対に仮眠取ろう、そうしよう。
――数年前。
その街は、多くの人間たちで賑わっていた。裕福な生活があるわけでもなく、自給自足、助け合いのもとで成り立っていたそこは、各地の難民が集まる世界から外れた街だった。
政府もいない、世界政府からの認定もない難民による難民のための難民たちがつくったそこは当然地図にも存在しない。
教養のある者は小さな学校を開き、力のある者は街の護衛を、各々の得意分野で互いに協力し合いつくられる街は、彼らにとってどんな世界より幸福な場所だった。
しかし、彼らに大きな悲劇が訪れた。
彼らでは到底敵わない力を駆使し、襲撃され、そこは一夜にして焼け野原と化した。
許しを請う者、訳も分からず泣き叫ぶ子供たち、抗戦しようと立ち向かう大人たち。敵は情け容赦なく彼らを襲い、悪意に満ちた笑いを響かせる。
「てめぇらに、罪はねぇ!! ねぇからこその見せしめってやつよー?」
「俺たちに歯向かう奴らは全員こうなるんだよ!!」
「すべてはあの御方が思うままだ!!」
地図に存在しない街は世界政府からも近隣の国々からも見放され助けもないままに終わりを告げた。
それは残虐極まりない反逆者たちによる犯行だった。
「しゅう兄ぃー、あとどれくらいかかるのー」
「道は間違ってないと思うんだけどなぁ」
現在地、一面砂地。砂漠と呼びたくなるくらいの砂地。
空港のあった国を抜けた俺たちは〝エンドラン〟への通過点となる街に向け足を進めていた。
国を抜けた頃はまだまだあった草花も徐々に減っていき、気付けば一面砂地へと様変わり。
「この砂地の中もう一泊とかは俺は嫌だ」
国を抜け、少し歩いたところで一晩過ごした俺たちは現在二日目である。正直、この砂地の中で野宿は絶対にできない。砂まみれだけは避けたい。
「ねぇ、あそこに何か見えるよ」
「どれだ? ――家? 壊れてるけど」
何かを見つけたすばるの方を見れば、半壊した家のようなものが何軒も並んでいる。
「ここ、だね」
列車の中で聞いた街は、ここのようだ。本人が言うんだから間違いない。
人の気配もない、崩壊した建物が並び衰退した街並みは確かに見るに堪えない。
「なにが、あったのかな……」
街の入り口ですばるがかすかな声で呟いた。
これだけ崩壊しているんだ。内部抗争というより、外からの襲撃を受けたんじゃないだろうか。
「お主たち、ここで何をしておる」
「わんっ」
三人で立ち止まっていると、声がかけられた。少し腰が曲がり杖を持った爺さんに、一匹の子犬が立っている。
「旅をしているもので」
「歩いてたらここに着いたから、びっくりしちゃった」
しゅうとすばるがうまく答えている。二人の答え、実際にその通りだからそれでいいんだけど。
「じぃさんは?」
必要以上に踏み込まれないように、俺は爺さん自身へ話題を変える。
俺たちがここにいる理由は話した。このなにもない廃れた街で彼はなにをしているのか。
「ふんっ、よそ者め。わしゃ、ここにずっと前から住んでるんだ」
「ここに住んでるの?」
どれだけ見回しても生活できるような場所はない。
「わしだけじゃない、他にもおるだろう」
そう言って、爺さんが杖を地面に一回叩くと、周囲に突如として人の姿が現れ活気が溢れ出す。崩れた街並みもきっと元の姿に戻っている。
「幻…?」
「このお爺さん、もしかしたら……」
俺の呟きに、しゅうの声が続く。きっとそうだ。
この街に残っている爺さんや住んでいた人々の思いがこうやって表れているんだろう。それだけ、彼らにとって思いの深い大切な場所。
それはつまり、ここにいる彼らは、今はもう存在しない人たち。
「よそ者はさっさと立ち去れ。ここはなにもない」
爺さんが杖を使い俺たちをあしらうと、子犬を連れて街の中へ入っていく。
「なぁ、じぃさん」
「む、なんじゃ」
俺は、立ち去ろうとした爺さんを呼び止めた。
「俺たちは地図を見てきた。この街はどうして地図にないんだ?」
「けっ、地図を片手に旅なんざ、全くなっとらん奴らだ」
悪態をつきながらも、彼は足を止めこちらへ戻ってくる。
「この街は、居場所のなくなった者たちで造ったんじゃ。だから、わしら以外頼れる者もいなければ、よその国なんてもってのほかじゃ」
彼は続ける。
「現に数年前、わしたちは得体のしれん奴らに襲われた。街は壊滅状態、なんとか耐えてみんな生きておるがここまで復興するのに相当な時間を要したんじゃ。もうよそ者に邪魔はさせん」
「得体の知れない人たちって?」
魂で生きてる人たちの大切な思い出を壊すつもりは俺にない。だから、その中で気になるワードだけを問う。
「そのままじゃ。なにもないところから、火や水、雷を出したかと思えば、木々は勝手に動き出し、世にも奇妙な光景じゃった」
彼は小さく身震いするとさらに言葉を紡ぐ。
「奴らはずっと、これは見せしめだ! 邪魔するものは排除する! すべてはあの御方の思うまま! と訳の分からんことを叫び続けておった。わしらは何一つしておらんのだがな」
爺さんのいった得体のしれない奴らはきっと能力者のことだろう。能力者の中にもやはり力を悪用する者は存在し、彼らを統率する人間がいるということか。
「これ以上よそ者に話すことはない。今度こそ立ち去れ。わしらは忙しいんじゃ」
「じぃさん、話をありがとう。引き留めて悪かった」
俺は、爺さんに話してくれたお礼と引き留めたことに対する謝罪をする。
彼は、その言葉に満足したようで改めて街の中へと歩いていく。だから、彼らが少しでも救われるように俺は言葉を続けるんだ。
「この街はとても綺麗で、活気に溢れてる。楽しそうだ。今度来たときはゆっくり観光するから案内してよ」
「僕もー! みんなで遊ぼーう!」
「二人だけずるいなぁ。僕も楽しませてよ」
爺さんへ、この街に向けて三人で心からの敬愛と笑顔を送れば、嬉しそうな空気が肌に伝わる。
「ふんっ、次に来る時までに旅でのたれ死ぬなよ」
「わんわんっ」
爺さんの嬉しそうな声と共に、街につくられた幻が光の粒子となって消えていく。
「魂で生きる街、か……」
「すごいね」
あたりは元の状態に戻り、俺たちはここを通り抜けるため足を一歩踏み出した。
「ねぇ、訑灸兄ぃ」
「んー」
「さっきお爺さんが言ってたあの御方って誰なのかな」
すばるが不安そうな顔をしている。
「能力を悪用することだけでも悪いことなのに、それをまとめてる人がいるんでしょ? 神木様も気付かないわけがない。どうして、なにもないのかな」
すばるの言うことはもっともだ。〝神木〟は、悪用する人間の加護を無くすという。そして、使いや守り人を仲介して裁きを下すこともあるという。
数年前の話だから、すでに裁かれたあとかもしれない。けれど、全くそんな気はしない、寧ろ、嫌な胸騒ぎばかりが起きている。
「僕のお父さんやお母さんが殺されたことも関係するのかな……」
「すばる……」
彼の両親が殺されたのも数年前。これが同時期なのかわからないけれど、関係があることも可能性ではない。そいつらにとって〝神木〟や使い、守り人は邪魔であるはずだから。
俺は影を落とすすばるに、何か言えるわけもなく左手で優しく頭を撫でる。今の俺にできる精一杯。
――本当に、嫌な胸騒ぎがする。
声には出さない。けれど、この感覚をどうにかしたくて俺は唇を小さく嚙んだ。
今回はオリジナルストーリーです。
不思議な街の話があってもいいよね、楽しいよね。それだけで書きました。
でも、物語としては必要な話。予想。
ずっと、ざわざわしている主人公。彼は最後までざわざわしていると思います。
次回、いよいよ森へ突入です! そこでは、どんなことが待ち受けるのか。
それでは、次話もよろしくお願いします。