第一章 四.神木と守り人
*あらすじにも記載していますが、この小説は【エンドラン】をリメイクした小説となります。
*同じ登場人物、似たような話となっていますが、作者は同一人物です。
*誤字脱字等見つけましたら、教えていただけると嬉しいです。
護られる存在は共存していて、互いが互いを護り続ける。
だからこそ、確かな均衡の中で世界は成立し、不自由なく生活しているのだ。
そして、その均衡を崩す者、反逆者や裏切り者には決して優しくはない。
神の加護は見放され、それらはそれ相応の対価を受けるのだ。
すばると書庫に向かった俺は、広がる世界に感嘆していた。
見渡す限りの本は数百冊くらいあるだろう。部屋一面の棚に所狭し並んでいる。
極度のめんどくさがりから意外に思われるが、本を読むことや知識を得ることはとても好きだ。だから、本も読むし、ニュースや新聞だってチェックする。一度得た知識は忘れることはほとんどない。
「訑灸兄ぃ、この中から本当に探せるの?」
案内人の少年が不安そうに見上げている。確かに、数百とある本の中から必要な知識を手当たり次第に読破するなら無謀な挑戦である。
「まぁなんとかなるだろ」
手を付ける前に、軽く背伸びをして一番近くにあった本棚に目を向ける。
本のタイトルがあるものとないものがあるんだな。んで、こっちは本だけど、あっち側は資料集や資料となる紙を束ねたファイルたち。
「すばるはどうする? 戻る? ここに残る?」
「うーん、訑灸兄ぃと一緒に読もうかなー」
「じゃあ、一時間経つごとに声かけて」
「わかった!」
彼にタイマー係のお願いをして、俺は早速読書モード、読破モードへと入る。
手当たり次第に本を取り、目次をざっと読む。必要と思うものだけ棚から取り出し、今は不要なものを本棚へ戻す。気になる内容があればそれは別に分けて置き、時間があれば読ませてもらうことにする。
一時間もあれば、全部の棚に一度は目を通すことはできるはずだ。俺の集中力をなめるなよ。
「訑灸兄ぃー、一時間ー」
「サンキュー」
黙々と開き続け、予定通り一時間でほぼすべての本をチェックした。〝春風〟のワードが入っていた本や資料は約二〇冊、関連しているだろうと思える本が約四〇冊。時間があれば読みたい本が約十五冊。
我ながらにして上々かな。
「仕分けるの早いね……」
「コツの問題だと思うけど。それに、すばるの手伝いもあったから。助かった」
俺が棚の前で読んでいる間、必要な本を中央へ運んでくれたのは他でもないすばるで、彼の助けがなかったら、ここまでスムーズにいかなかったのは確かだ。
「ところで、俺、なんとなくすばるに時間教えてねって言ったけど、時計持ってたんだ」
この部屋に時計はないし、彼が腕時計をしているのも見ていない。
無茶なことを言ったなと思ったけど、即答してくれたし現にそれくらいの時間で教えてくれたから、時間は計れているんだろうけど。
「そっか、訑灸兄ぃに言ってなかったね! 僕の能力は〝タイム〟なの。時間に関する能力だから、計ることは簡単だよー。ちなみに今は、一時間十分二十五秒経過ですー」
「俺、まさかのファインプレー?」
〝タイム〟という能力が本当にあることも衝撃だけど、それをこの少年が持っていたことが衝撃。
とりあえず、時間を作って読みたい本の中にある能力一覧集というのを先に読もう。
「僕の予想だけど、今までの感じだとあと四時間は確実に時間があると思う。時間のことは僕に任せて訑灸兄ぃは知りたいこと調べてね!」
「すばる、いい子! これが終わったら俺遊ぶから。一緒に遊ぼう」
「わーい!」
すばるの喜ぶ姿に微笑んで、いざ読書タイム。あと四時間もあれば十分だろ。
〝エンドラン〟
・そこは、特殊な能力に目覚めた者たちだけが集まる集落で、森の中に存在する。
・地図に記載はなく、能力者だけが見つけることのできる場所。
・中央には、神木が祀られており、その神木によって隠されているといわれている。
・一つの街のようになっており、学校なども存在する。
〝エンドランの神木〟
・エンドランの中央に存在する神木で、能力誕生のきっかけと呼ばれている。
・どんなことがあっても倒れることはない。
・この神木に能力者たちは守られ、加護を受けている。
・神木が認めた二人の使いが存在しており、彼らだけが唯一神木と意思疎通をはかることができる。
・能力を使い世界を脅かすようなことをした場合、神木からの加護は一切なくなる。
〝四つの守護者と一つの番人〟
・四季の風を名に持つ四つの家系が神木の守護者として存在する。
・彼らは神木に何かあれば、二人の使いのもとに神木を守ることが義務付けられている。
・また時の名を持つ家系が番人として存在する。
・彼らは新たに目覚めた能力者を正しきほうへ導き、番人として不審な動きがないか見守っている。
「訑灸兄ぃ、二時間経ったよー」
春風にまつわる本、関連されている本を読み終えたところで、すばるの声がかかる。
四季の風ってことは〝春風〟。つまりすばるのことだよな? 時の名を持つ番人、あの反応からして……〝時野〟はそういうことなのか。
すばるは守護者の子供で、しゅうは番人の一人ということ。だから、俺のことを必要以上に干渉している?
「ありがとう。すばるはさ、自分が何者か知ってる?」
「うーん、守護者だよって言われてるけど、その力に目覚めてないからまだわかんなーい」
「力に目覚める?」
すばるの何気ない言葉に引っ掛かりを覚える。能力者に目覚めること=守護者ではないのだろうか。
「僕も詳しくはわからないけど、守護者になるときは神木様が認めた時で、その時初めて、使いの二人と連絡が取れるようになるんだって。しゅう兄ぃは知ってると思う! 〝時野〟だもん」
「やっぱり、しゅうはそういうことだよな。だから、俺のことを見定めてるんだ」
予想通りの言葉に俺は仮説がほぼ確信へと変わる。
「訑灸兄ぃは何の能力なの?」
「それがわからなくて。ただ、ちょっと事件があって、その時に違う俺が出てきてさ。極端に違ったから、あいつが一度調べたほうがいいって。それに俺、すばるくらいの歳から前の記憶がないんだよな。そのこともあるから」
「訑灸兄ぃも意外と大変な人生送ってた! 訑灸兄ぃも一人?」
彼に親がいないと聞いていたからだろうか、通常では決してあり得ない自分の身の上話をためらいもなく話している。
「気付いた時には一人だったなー」
「僕はお父さんもお母さんも知ってるけど、訑灸兄ぃは知らないんだ……。じゃあね、僕が一緒にいる間は訑灸兄ぃの弟になる! 家族ごっこだけど、家族だよ!!」
すばるの必死な表情に俺は目を見開いた。今までにこんなことを言われたことはない。
陰口でかわいそうだの、親がいないからなんだかんだ言われてきたことはあっても、家族になろうなんて一言は聞いたこともなかった。
うん、たぶんこれは、初めての経験で、だからこそ。
「ありがとう、すばる。凄く嬉しい」
心が温かくなったから、素直に喜べて笑えたんだと思う。
「えへへ、訑灸兄ぃよろしくね!」
「かわいい弟が出来て俺も幸せ者だな、こちらこそよろしく弟よ」
そういって二人で笑いあう。
時間はまだまだあるから、調べたいことはちゃちゃっと済ませてかわいい弟と遊んでやろうか。
「よし、これで終了だな」
「結構な人が来るんですね」
「まぁな。手伝わせて悪かったなしゅう。助かったぜ」
「お邪魔させてもらってますから、大丈夫ですよ。それよりも」
「あぁ、あいつらだな。すばるも結局帰ってこなかったし」
「一段落着きましたから見に行きましょうか」
「だな」
静かになった店内で二人の声が聞こえる。
居酒屋までの営業を終え、後片付けを終えたしゅうとマスターは地下にある書庫へと向かう。
――ガチャ
「おい、どうだてめぇら――!?」
「すばるちょっと待て! それはあんまりだ!!」
「へへーん、訑灸兄ぃが調子に乗って買い物するからー」
「マジかよ……って、どうも」
人の気配感じ、扉の方を見ればそこには呆気にとられた男と友人がいた。
「木更、何してんの?」
「リアル人生ゲーム?」
調べたいことも調べ終えた俺は、余った時間ですばると全力で遊んでいた。彼が準備したのはまさかのリアル人生ゲームという驚異の人生ゲーム。
「調べ物は?」
「当の昔に終わったからすばると遊んでた」
「訑灸兄ぃ、強いのか弱いのかわかんなーい」
「すばる、本当にこいつ調べたのか?」
「うん、あっという間だったよ?」
男が唯一俺と一緒にいたすばるに声をかけるも、事実だから当然彼もそう答える。
いや、疑いすぎだろ。ちゃんと調べるって俺言ったじゃん。
「一応確認までに、聞いてもいいかな?」
しゅうが男に代わり調べた内容を聞いてくる。
だから俺は読んだこと、すばるとの会話で知った、守護者に目覚める話としゅうの仮説の話も説明した。ややこしくなるから、彼と結んだ兄弟の話は省略して。
「――…ってとこ? 大体こんな感じだろ?」
「おいおい、マジかよ……」
「だから、木更を侮るなといったじゃないですか」
男の驚き方からするにして、俺の言ったことはおおよそ間違ってなかったようだ。
「よくこれだけの中から短時間で見つけたな」
「調べることは好きだから」
「一緒にいて楽しかったよー」
会話の間にもすばるとの人生ゲームは止めることなく進めている。
このリアル人生ゲーム、何がリアルかって、マスにある内容がやたら現実的なんだよ。誰がこんなの作ったんだ。需要は絶対にない。
「夜も遅い、だいぶ腹も減っただろ? 上がって飯にするぞ。話はそれからだ」
「訑灸兄ぃ、この続きはまたあとでね!」
「おー。逆転してやるから見てろよ」
互いにマス目と所持金などを確認して、ゲームはいったんお片付け。
書庫に忘れ物がないか一通り見渡して、俺たちは部屋を後にした。
「しゅう。俺たちってどこで寝るんだ?」
ご飯の準備も済み、各自席に着いたところでふとした疑問。それも大きな疑問。
野宿とかは絶対に嫌だ。かといって、どこか宿泊先を取っているわけでもない。
「言ってなかった? ここにいる間は、ここにお世話になるから」
「まじか」
「やたー! 訑灸兄ぃといっしょー!!」
しゅうの発言に驚く俺、喜ぶすばる。変な所に泊まるよりはよっぽどマシだけどこれでいいのか。
「頭の悪ぃ餓鬼なら願下げしてたが、訑灸なら構わねぇよ俺は。すばるも懐いてるみてぇだしな」
男がすばるを見ながらしゅうを肯定する。書庫での一件がなかなかに高評価を得たらしい。すばるにも感謝といったところだ。
「訑灸兄ぃたちはいつまでいるの?」
すばるの何気ない疑問。俺もどのくらいここに滞在するか知らないから当然答えようもなく、しゅうが発言するのを待つ。
「用が終わるまでかな。マスターに木更のことでお願いしたいこともあるんです」
「なんだよ」
そうだった。俺、この人から銃の使い方を習わないといけないんだった。
「俺に、銃の使い方を教えてくれませんか」
「銃だと?」
「俺はまだ自分の能力がなにかわかりません。けれど、なにかあるから番人であるしゅうがいるんだと思う。だから今、そのなにかを探すために自分探しの旅に出てるんです。その時に、俺は自分を護衛できる術を持たない。それを得るために銃の使い方を教えてほしいんです」
人に物事を頼むときは、丁寧に。なぜ必要としているのかきちんと話す。初対面に近い人間なら尚更だ。
「ほーう、なんで銃なんだ? 他にもあるだろう?」
「俺には今、もう一人の人格が存在しています。所詮二重人格と呼ばれるものです。そいつから、銃の使い方を覚えろと、それが俺たちの為になるからと言われたんです」
二重人格のいうことを真に受けていいものか賛否はあるけれど、俺は彼を信用できる気がするからそのまま伝える。断られたらそれまでだ。独学するしかない。
「くくっ、二重人格の言うことに従うのかよ。まぁ、別に俺は構わないぜ。その代わり、条件がある」
男は楽しそうに笑う。
「すばるのことについてだ。テメェのことが知りたけりゃ、変に探らず〝エンドラン〟へ行くのが一番手っ取り早い。だから、テメェらが次の目的地に〝エンドラン〟を選ぶならすばるを一緒に連れていけ。それがこいつの為になる。ただ、それだけだ」
なにが来るのか息を飲んでいたのに、思いの外単純なことで、この答えは決まっている。
「それなら喜んで。二人の足手まといになるつもりは全くない。手厳しくよろしくお願いします」
能力者である二人と隠された地〝エンドラン〟へ向かうなら、足手まといになるのは間違いなく俺だ。だから、どんな厳しいことだって乗り切る。
「交渉成立だな。早速明日から教えてやる。その代わり、俺が認めるまでしっかり受けてもらうから覚悟しとけ」
「了解」
「木更、マスターは僕以上にスパルタだから頑張って」
「なんとかなるだろ」
しゅうの冷ややかな応援も軽く流して、だいぶ冷めた晩ご飯に手を付ける。
次の目的地は決まったんだ。あとはそこに向かうだけ。
動きだした歯車は、吉となるか凶となるかは彼ら次第。
『時間は限られてる。どうか、彼らが間に合いますように……』
今回は、能力についてのお話。
スペアという能力な名前が無くなり、新たに神木や守護者の存在が出来ました。
成長云々の話ももちろんカットです。
そして、すばるととても仲良しになった訑灸。
この小説の登場人物は、わりと自由に動いてくれるので、そっかー、そういうタイプの個体かーと親心ながら思いました。
生い立ちが違う子たちなので、考えることも行動も違って楽しい。
それでは、次回、五話でお会いしましょう!