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結末は分岐しだい  作者: きと
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第一章 二.存在しない存在

*あらすじにも記載していますが、この小説は【エンドラン】をリメイクした小説となります。

*同じ登場人物、似たような話となっていますが、作者は同一人物です。


*誤字脱字等見つけましたら、教えていただけると嬉しいです。



 どこかの哲学者は、〝存在〟についていろいろと唱えている。

 だけど俺の求めていた答えはそこになく、結局〝存在〟も〝無〟も酷く曖昧な〝モノ〟でしかない。

 何が〝存在〟して、何が〝無い〟のかなんて、誰にもわかるはずがないのだ。

 〝無い〟という〝事実〟が〝存在〟しているんだから、その中に当てはまるものを形として〝あらわす〟なんて不可能なことなんだと思う。

 つまり、ありえない話は、ありえることになって、存在しない〝はず〟であるなら、それは存在することになるのだ。

 だから、俺が〝存在〟してもなんら不思議は無かったってことだろう?



 雲一つ無い青空、空から射し込む光が眩しい。

 公園での一件から、丁度一週間が経った。

 動く度に悲鳴を上げていた身体も今では以前通りに動かせるようになり、三日前には学校へ通うようになっていた。

 そしてまた、休日がきたのだ。しゅうから〝特殊能力〟について話があると言われ、やっと本題に入ることができるらしい。

 集合場所は、しゅうの家。昼ご飯を食べた俺は、財布と携帯電話を手にして目的地へ向かっていた。

「あれ以来、特に変化は無いんだよなぁ」

 男に殴られそうになった瞬間。俺の中から出てきた〝何か〟は姿を見せていない。

 目覚める前に見た夢もあれ以来見ることは無く、友人の存在が無ければ夢物語に終わっていただろう。

 俺の知らないところで、勝手に動いてる〝何か〟へ、無性に腹が立つのも事実。かと言ってどうしようもないけど。

「しゅう~」

 考え事をすれば、あっという間に目的地へ到着。呼び鈴を鳴らした後、友人の名前を呼んでみる。

「思っていたより早かったな」

 玄関を開け、俺を確認した友人の第一声。この時間に訪ねたことが予想外だったらしい。

 って、酷くね?

「俺、時間厳守しようとすればできる子よ?」

「毎回遅刻するし、寝坊魔だから。今回もてっきり夕方頃来るかと思ってたのに、期待を裏切ったな」

 そういって苦笑する友人に、取り敢えず一発入れて、許可も取らずに部屋へ上がる。俺のこと、馬鹿にしすぎ。

 前回来たときも思ったけど、意外と片付いている友人の部屋。俺ほどじゃないけど、ある程度片付けられていて衣類なども脱ぎ捨てられているものは無い。まぁ、俺が覗いた部屋に限るけど。

「で、あれはどういうことだったんだ?」

 今日の目的は、あくまでも話を聞くこと。適当に座ると、しゅうに問いかける。

「改めて聞くけど、本当に後悔しないか? きっと、取り返しのつかないことになる」

 二人分の飲み物を抱えて腰を下ろした友人が、真っ直ぐと俺に視線を合わせ問い重ねてくる。

 一週間で覚悟は決めていたんだ。だから、返事は一つだけ。

「今更だろ。あの瞬間から、戻れなくなってるんだろうし」

 二重人格として、得体の知れない〝何か〟を一生受け入れていくつもりは無い。それに、こいつはその可能性を知っているようだから。

 俺の考えを見透かしてるのか、そいつはふっと息を吐くと改めて口を開いた。

「その言葉、忘れるなよ?」

「ああ」

「結論から言うと、この世界に漫画の世界であるような特殊能力は存在するし、ありえない話なんて存在しない」

「というと?」

「例えば、漫画やゲームの世界には、魔法使いと呼ばれる存在がいるだろ?」

「ん」

 それが主人公になっていたり、サポートキャラになっていたり、敵だったりと形は様々だけど、確かに存在している。

 一度は誰もが憧れた存在であり、夢見た存在だろう。

 もし魔法が使えたら……、なんて、プロフィールでよく見かける項目の一つだ。

「彼らは別に、空想人物というわけじゃない。ただ、表立って生活していないだけで、同じようにこの世界にも存在しているし、気付かないだけでいくらでも、近くにいる」

「その例が、しゅう?」

 公園で光を纏った後のしゅうの動きは、人間が可能とする領域を遥かに超えていた。

「そういうこと。僕の能力は〝スピード〟と呼ばれていて、物の速さを自在に変えることができる」

 時間そのものは変更できないが、〝動いているもの〟は、大抵適用できるらしい。

「時間を動かしたいなら〝タイム〟の能力になる。僕たちが想像しているような能力は大抵誰かが持っているものなんだ」

「だけど、俺は…、ほとんどの人間は使えてない」

 誰もが使えたら、街中魔法で溢れているはずだ。何より、文明も違う道を辿っていたに違いない。

「いくつかの条件が重なったとき、初めて能力が目覚めることになる。要は、選ばれた人間だけが使えるってことだね」

 生まれながらにして持っている才能を開花させるには、それ相応の何かが必要になるのである。

「じゃあ、俺の場合は、殺されそうになったから……?」

「いや、その件なんだけど」

 急に罰の悪そうな声を発し、はっきりとした対応を返さない。。

「木更の場合は、能力と呼ぶには状況が曖昧すぎるんだよな」

「どういうこと?」

 この流れから、否定されたら俺はどうしようもない。しゅうの言うこと以外、情報は無いのだ。

「木更は、二重人格で片付けられるモノだってことさ。能力者としての、確かなものが無い」

「確かなもの?」

「術者としての気配が、木更からは感じないんだ。術者同士では必ず察知できる特殊な感覚なんだけど」

「……普通はわかるものなのか?」

 しゅうから何か感じるわけでもなく、今までと変わりなく接してきたがそれは違うというのだ。

 俺が感じていない何かを能力者は感じていて、お互いに察知しあっている。

「つまり、俺はただの二重人格で片付けるってわけだ」

「そこまでは言ってないだろう。ただ、能力者と断定できないという話であって、可能性が絶たれたわけじゃない。なんのために説明してると思ったのさ」

「でも、しゅうの言い方はそうだった。仮にこれがただの二重人格だったとして、俺はずっとこのまま?」

「その辺りは専門医に聞いてもらわないと、医者じゃないからなんとも言えないし、木更だってそれなりの答えは欲しいだろう?」

「だから、食いついてるんだろ」

 アレがどうでもよければここまで話し込んでないし、わざわざこの日のこの時間を作らない。

 夢のこともあるし、ただの二重人格で片付けてはいけない気がする。

「木更さえ良ければ、今を犠牲にして原因追及に出掛けないか?」

「ん……って、は?」

 危うく頷くところだったが(実際一度は返事した)、ごめん、しゅう。話が全く見えない。

「ここで立ち止まって悩むより、動いて、別の能力者に会えればまた何かが掴めるかもしれないだろう? 術者は僕だけじゃないんだ」

「原因追求……」

 確かにここで立ち止まるより、動いていたほうが何か掴めるだろう。ただその為には、今の環境、状況を全て捨てなければならない。

それが友人の言う犠牲となるわけで。

「因みに、術者に当てはあるんだろうな?」

「当然。知り合いくらい何人もいるさ。目覚めて長いんだから」

「そっか。で、俺はどうしたらいい?」

 しゅうに当てがあるのであれば、この先の行動で特に悩むことはない。

 今は、俺がどうしたらいいかということだけだろ?

「とりあえず、木更の退学手続きとかしっかり終わってからかな。曖昧なままで行くとそれこそ面倒ごとになる」

「それもそうだよな、わかった。適当に準備しておく」

「適切な方で頼むよ」

「あーい」

 大きな大きな落とし穴。気付かないといけなかったはずなのに、この時は完全に見落としていて。

 まさか、一週間前のあの日が、アレだけのことで終わるはずも無く、取り残されていることに気付くのはもっともっと先の話。




 一週間前。

「木更っ」

 倒れる木更を慌てて支えた僕は、目の前の状況に追いつかず半ば放心状態に近かった。

「もう離していいぜ?」

「え?」

 急に声を掛けられ我に返ると、声の主は先ほど倒れた木更自身で…、いや、先程登場したもう一人の木更だった。

「支えてくれてサンキューな。無駄な怪我が無くて良かった」

「君は……?」

「忘れたとは言わせないぜ、しゅう。お前に協力してもらいたいことがあって、一度訑灸を落としたんだ」

 彼が言うには、僕と顔見知りで木更には内緒の頼みごとがあるため、この状況を作ったらしい。勿論、偶然のこのタイミングになるらしいが(間違っても、彼がこの状況全てを作り出したわけではない)。

 でも、どこでどう知り合った? 木更の中にもう一つ人格があるなんて僕は聞いてない。

「俺がこうして出てきたのは、あいつにとっても誤算になるだろうからな。なぁ、訑灸を助けたいだろう?」

 せっかく抜け出したのに、元の場所へ帰すだなんてお前にはできないよな?

 そう全てを図ったように続けられ、

「ああ、そうか。君は……」

「そういうことだ。状況が変わったんだ。頼む、協力して欲しい」

 彼が何者であるか理解した僕は、今の状況を何となく想像することができた。

 間違いなく、木更が不利な状況なのだ。

「勿論。あの人の元へ帰すつもりなんかないからね」

「くく。お前ならそういうと思ってたぜ。内部にはあいつもいるから情報も集めやすい。奴が動き出した以上、訑灸にも動いてもらわないと展開はあっという間になるからな」

「上手く逃げつつ、力を思い出させるさ」

 木更は、木更のものであって、奴が好きにしていいはずが無い。

「時間は限られてる。頼んだぜ、しゅう。俺も早く、戻りたいからな」

「ああ、内部サポート頼んだ」

「じゃぁ、あとはよろ…」

「待て待て。さすがに僕一人にここを処理させようとするな。片して、せめて僕ん家までは歩いてくれると助かる」

 話すだけ話して、暗転しようとした彼に慌てて静止をかけると、大変嫌そうな表情が向けられた。

「マジで訑灸への負担でかいんだからな、これ。まぁ、数日はおとなしくしてもらいたいし、いっか」

「明日から元気に行動されても、僕が動けないからね」

「あいよー」

 その後、少女の母親と倒れている男を同じ術者の警察に引き渡し、僕たちは何食わぬ顔をしてその場を立ち去った。

 再演の鐘はここから。

 木更も知らない、知られてはならない裏の話。


『存在しない存在は、存在してもいいんだ。だから、お前は私の為に存在するんだよ』





第二話です。

前作で二号呼ばれていた存在としゅうが顔見知りでした。

あんなにサクサク進んでいた説明シーンが長尺となりました。……全体的に長くなってるんですけど。


三人称を一人称に変更したのも大きいのかもしれない。

今作の主人公は、とても考えるタイプなので(前回は楽観的だった)、そこの違いを楽しんでもらえたらなぁと思います。


ちなみに、この話の冒頭の語り部分。2017年に書いたものなので、とても深すぎて今の私には少々難しかったです。病んでるときに書いてたからさ、もう一回病まないと分からないと思う。



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