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結末は分岐しだい  作者: きと
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第一章 一.幻想から現実へ

*あらすじにも記載していますが、この小説は【エンドラン】をリメイクした小説となります。

*同じ登場人物、似たような話となっていますが、作者は同一人物です。


*誤字脱字等見つけましたら、教えていただけると嬉しいです。



 世界には、知らないことが幾多に存在する。

 例えば、全世界の経済状況だったり、近隣の人が食べた夕飯の献立だったり。

 くだらないことから重要事項まで。まぁ、知らなくても今日まで生きてきたわけだし、何とかなると言えばなんとかなるわけだけど、たまに物凄く不思議に思うんだ。

 悩んでも、考えても答えは見つからないことが多くて。最近、俺の頭を悩ませたのは〝宇宙はどこまで広がっているのか〟〝歴史は本当に存在したのか〟の二つ。

 宇宙探索をしたわけでもその時代を生きたわけでもない俺に、未知の問題だからこそ答えは見つかるわけもなく。イライラしてきた。

「木更」

「あ?」

 考え続け、泥沼にはまっていた時に掛けられた、一つの声。

 聞き慣れたそれは、今の俺を不愉快にさせるには十分だった。怒気を交えた返事に相手は怯むこともなく、さらに爆弾を落としてきた。

「珍しく深刻そうに悩んでるな」

「どういう意味だよ」

 俺は、いつだって悩んでる。ただそれが、表に見えないだけだ。適当なことを言われても困る。

「まんまだよ。僕の知る限り、木更は適当に生きてるイメージがあったからね」

「はぁ? お前、付き合い長いくせになんだと思ってんだよ」

 高校に入学してから今日までの約三年間、俺のどこを見てきたんだ。すごく悩んでた日々ばっかりだったっての。

「見てたから、そう言ったんだって」

 苦笑して言葉を発した友人に対し拗ねた俺は、睨みながら不快感を露にした表情を向ける。気に食わない。

 そういえば、自己紹介してなかったっけ?

 私立高校三年、木更(きさら)訑灸(たく)。好きなものは、寝ることと食べること。嫌いなものは、面倒なこと。

 で、今話しかけてきた友人が、時野(ときの)しゅう。高校で知り合った友人であり、唯一、適度に孤立していた俺に話しかけてきた変わった奴。

 俺には、十歳以前の記憶が存在しない。気付いた時には警察に保護され、いくつかの施設へ預けられていた。いろいろ事情があって、最後は高校入学と同時に一人暮らしを始めたが、今では心から良かったと思っている。

 そんなこともあり、俺と関わろうとしない奴らばかりだったが、なぜかこいつだけはやたら俺に話しかけていた。そのおかげで、高校生活を一人で謳歌するということも無かったけど、特に感謝することでもないと思う。

 まぁ、こいつ自身も訳有りみたいだし。

「で、何に悩んでるんだよ?」

「別に。ちょっと気になったくらいだ」

 実はとても気になっていたが、彼に話したところでまともな答えがあるとは思えない。というより、俺が納得できる答えを持ってる人間なんていないと思うから、あやふやに答えて、

「これからどうする?」

 話を逸らしておくことにした。

 現在、休暇を利用してしゅうと街へ遊びに来ていたが、ゲームセンターで時間を潰し、それから行く当ても無くふらふらとしていたのだ。

「そうだな……、気になることもあるし、公園に行くってのは?」

 どうやら、始めから興味は無かったらしい。深く追求することをしなかった友人は、少し考え込んだ後、閃いた様に目的地を口にした。

 だけど、なぜ公園? 気になることって……?

「いいけど、あの公園には、鳩が大量にいるくらいで特に変わったことは無いだろ?」

 なぜか鳩が大量繁殖している、街の外れにある自然豊かな公園。遊具場と森林があり、敷地面積も無駄に広い。

「なんだか、胸騒ぎがするんだ。僕の勘でしかないけどね」

「ふ~ん。ま、いいや。行くんだろ?」

 別に、暇が潰せれば場所は問わない。俺は、次の目的地に向けて返事も聞かず歩き出した。

「何だかんだ言って、勝手だよなぁ」

 そう呟いて口元に笑みを浮かべた友人に、気付くことはなかった。


 ……人生の転機は、いつも唐突にやってくる。それも、望んでいない瞬間ときばかりに。

 過去に経験していたはずなのに、今の平和に慣れすっかり忘れていた俺は、この選択を後悔するなんて想像できるわけも無かった。


 十五分後。公園に着いた俺たちは、遊具で遊ぶわけでもなくベンチに座り大量にいる鳩を眺めていた。

 休日の公園にも拘らず、そこに子供の姿も無ければ、デートを楽しんでいる恋人たちの姿も、休憩をする人たちの姿も無い。

 平日でもありえないこの状況は、誰がどう見ても気味が悪かった。

 聞こえるのは、鳩の鳴き声と木々の葉が風で揺れる音。明らかに、俺たちだけが取り残され、孤立している異空間。

「なぁ、ここに何があるんだよ? 気味悪いんだけど」

「僕に聞かれても……、勘だって言っただろう?」

 言い出した友人に文句を言えば、苦笑しながら返ってきた答え。

 特に何も無いのなら、こんな……隔離された空間にいる必要は無い。これこそ時間の無駄遣いだ。

 俺は、勢い良くベンチから立ち上がった。勿論、目的は一つしかない。

「時間の無駄だから、俺帰る」

「え、何か急すぎな……」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「!!」

 しゅうが、驚きながら俺を止めようとしたときに、響いた一つの叫び声。

 遊具場には誰もいない。つまり、場所は森林の中というわけで。

「予感的中ってことかな」

「洒落になんねぇよ! 行くんだろ!?」

「当然。見て見ぬ振りも犯罪だからね」

 意味わかんねぇし、なんて突っ込みながら、俺たちは全速力で声の聞こえた方へ走り出した。

 この時は気付かなかったが、そこにいたはずの鳩たちは姿を消し、平和の象徴は公園から無くなっていたのだ。


「い、嫌よ……、私の娘を返して……」

「ああ? この餓鬼が悪いんだぜ?」

 叫び声が上がった現場、森林もだいぶ奥へ入り込んだところでそれは起きていた。

 五歳くらいの少女の首を掴みナイフをチラつかせている男と、少女の母親と思わしき女性の姿があり、辺りは緊迫した空気が流れている。

 この三人以外人の姿は無く、女性とその少女を助けることは不可能に近い状況だ。

「うわーん、ママァ、ママァ」

 泣きじゃくる少女に男は苛立ちを隠せず、ナイフを首元に突きつけた。

「うぜぇよ、餓鬼がぁぁあ。今すぐ殺されてぇのか? あぁ?」

「あああ、それだけは止めて! 私はどうなってもいいからぁっ」

 母親が懸命に叫ぶが、男はそれに不敵な笑みを浮かべただけで少女を解放する様子は全く無い。

 男が母親に向かって満面の笑みを浮かべ、少女にナイフを突き刺そうとした刹那、

「そこのお兄さん、その子、解放してもらおうか?」

 遊具場から走ってきたしゅうが木々の間から姿を現し、冷めた表情といつもより低い怒りの篭った声で男を睨みつけた。

「なんだよ、これっ」

 しゅうの後に続いて姿を現した俺は、状況が全く呑み込めなかった。

 ナイフを持った男、捕われている少女、それを泣きながら見つめる女性。

 今、何が起きて、何が起ころうとしている?

「ひゅ~、ヒーローごっこってやつかぁ? 餓鬼はお家に帰って昼寝でもしてなぁ!」

「いやぁぁぁぁぁぁ」

 男が叫ぶのと同時に、少女の首を一気にナイフで突き刺した。少女は、口から大量の血を吐き、直後白目を向いた。

 間違いなく、即死の状況だろう。

「ああ、返して……私の子…返して」

 うわ言の如く繰り返す母親に、男は大声で楽しそうに笑っている。

「もう、こんな餓鬼いらねぇよ、いくらでもくれてやる」

「あああああ」

 少女を母親に向かって投げた男は満足そうにナイフを舐めると、俺たちの方へ視線を向ける。

「見られちゃったなぁ、見られちゃったねぇ。君たちも消さないとなぁ」

「僕たちを消す? お前みたいな奴にできるわけ無いだろうが。今、最高潮にキれてるんだからさぁ」

 そう言って、しゅうは体に青い光を纏うと男に向かって一歩足を出した。

「ぐはぁっ」

 男の手からナイフは叩き落され、そこにはしゅうの姿ある。

「な、なんだよ、お前……」

 ガタガタと震えだす男に、友人はにっこり笑って一言。

「あんたには関係の無いことだ」

「うわぁぁあぁぁああ」

 先ほどとは打って変わり、顔面を蒼白にした男は逃げるため、俺の方へ一目散に走ってきた。

「やばっ……木更!」

「っ」

 しゅうの声に気付いて正面を向けばそこには男の姿があり、その距離は三メートルも無い。

 ……視界の端に見えるのは、既に死んでいる少女を抱え、ブツブツと唱えている母親の姿と焦った表情の友人。

 はは、本当に意味がわからない。俺、このまま、こいつにやられる? あの子と同じように?

 ――ドクン

 そもそも、何でこんなことになった? 俺はただ、ゲーセン行って、友人の気紛れに付き合っただけで、休日を楽しむだけだろ?

 ――ドクン ドクン

 早くなる鼓動、抑えきれない〝何か〟。息が、荒くなる……。

「はぁはぁ……」

「木更?」

「糞餓鬼ぃぃ、どけぇぇぇぇええええ」

 拳を振り上げ、今にも殴りかかってくる勢いで突っ込んできた男。そして、俺の異変に気付き、不思議そうな声を上げる友人。

 あ、熱い…身体が熱い……。何だよ、本当に。

「はぁ…はぁ…」

 男は目前、でも、息が上がり身体が熱くなっていくだけで、そこからは動けない。

 俺、このまま終わる? ……いやだっ! 恐いっ!!

 ――ドクンッ

 そう思った瞬間、一際大きく鳴った鼓動に、抑え切れなかった〝何か〟が、一気に押し寄せ……、

「うわぁぁぁぁぁぁ」

 ヒステリックに叫んだ俺と、拳を振り下ろした男が突っ込んできたのは同時だった。

「木更っ!!」

 しゅうが叫びながら駆け寄ってきたが、今の俺にはわからず、別の〝何か〟がそこにいて……。

「調子に乗るのも大概にしろよな?」

 男の腕を、普通ではありえない方向に捻り上げている俺の姿をした〝何か〟が、不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 しゅうの動きも一瞬で止まり、〝何か〟以外この状況を呑み込めているものはいない。

「うぎゃぁぁぁぁ、腕が…俺の腕がぁぁぁ」

「腕の一本や二本、命に比べたら安いもんだろう?」

 そう言って〝何か〟は、男の腕を放した。そのまま男は、地面に倒れ、腕を抱え込むように転がり、悲鳴を上げている。

 たぶんもう、攻撃を仕掛けてくることは無いだろう。

「君は……」

 いつの間にか傍まで来ていたしゅう。不思議そうに口を開くが、視線は明らかに警戒している。

「悪いけど、これ以上はコイツが持たない」

「え?」

 聞き返される頃には俺の身体は前へ倒れかけていて、慌てて支えてくれた友人に感謝しながら俺の意識は落ちていった。



 薄暗い空間。辺りを見回しても、広がるのは何も無い真っ暗な空間だけで、自分の姿さえきちんと確認できない。

 ――なんで、俺はこんなところにいるんだ? そもそもここはどこなんだよ。

『ここはどこでもない、存在しない想像の空間だな』

 ――お前は……?

 どこからか、急に聞こえてきた声。俺以外に誰かいるのだろうか?

『さっきは悪かったな。無理矢理過ぎた』

 ――さっき?

『目覚めたときには思い出せるだろ。今は、深く考えるな』

 ――どういうことだよ? お前は何だ?

『俺は―…』

 声が答えようとした瞬間、目を眩ませるほどの光が辺りを包み、俺の意識はそのまま遠のいていく。

 ――うわっ。


『俺の正体を知るには、まだ早すぎるぜ。――訑灸』



「ん……、ここは?」

 暖かな温もりに包まれていることに気付き目を開ければ、俺はベッドの上で寝ている状態だった。

「あれは…夢?」

 真っ暗な空間で交わした声。何か意味が含まれていた内容。

 あれは、なんだった? そもそも、

「何で俺、寝てるんだっけ?」

 思い出す前に、とりあえず身体を起こそうとゆっくりと動けば、体中に走る激痛。

「ぁあっ、いってぇー」

 ベッドへ戻った俺は、記憶に無い激痛に溜息を吐き、瞳を閉じた。

《泣き叫ぶ女性の姿》

《首にナイフを突き刺され白目を向いている少女》

《楽しそうに笑う狂気に満ちた男》

 そうだ……、俺は………。

「うぁあっ」

 ガタガタと震えだす身体。脳裏に焼き付いた映像は簡単に消えるものではなく、フラッシュバックしていく。

 ――ガタンッ

「木更、起き――!!」

 水の入ったコップを片手に部屋へ入ってきたここの主――しゅうは、俺の様子を見ると慌ててコップを近くの机に置き、傍までやってきた。

「落ち着け木更、もういいから」

「い、いやだっ……はぁっ…はぁっ……」

 俺の手を握り落ち着かせようとするしゅうの言葉にも気付けないくらい、俺は公園での出来事に追い込まれていた。少女のことよりも、俺に向けていた男の表情や叫び声が無限にリピートされて。

 ――ビシャッ

「っうー、冷た……」

 急に顔にかかった液体に、一瞬で目が覚める。

 視線を移せばそこにいたのはコップを逆さに持った友人の姿で、安堵した表情をしている。

「しゅう……?」

「バカ木更。本当に焦ったんだから」

「うっ、ごめん」

 今更だが、身体は必要以上の汗で濡れていて、俺が思っていた以上に現実は酷かったらしい。

 しゅうに、だいぶ――かなり心配かけたよな。

「ほんと、ごめん」

「いいよ、別に。今は、落ち着いたみたいだし」

 しゅうは立ち上がりタンスに向かうと、そこから一枚タオルを取り出して投げてきた。

 つまり、濡れた顔をこれで拭けということか?

 タオルを左手に取り、なぜか激痛が走る身体をゆっくりと起こしにかかった。

「っう」

 痛みをこらえ何とか起き上がり、壁に背を向け寄り掛かる体勢をとった。こうでもしないと間違いなく、またベッドに戻ることになる。

「身体、無理することは無いからな?」

 身体が悲鳴を上げていることを見透かしたように話すしゅうに、適当に返事をしておく。さすがに、これ以上格好悪い姿を見せるのは屈辱的だ。

「なぁ、木更」

「ん?」

「お前、人間の特殊能力って信じる?」

 あまりにも真面目な顔で訊ねてくる友人に適当な返事ができるはずもなく、脳内で鳴り響く危険を知らせる音も無視して、肯定を示すため頭を上下に動かした。

 きっとあの夢も、見るべくした見た夢のような気がするから、立ち止まるわけにはいかないだろ?

「そう答えると思ってたよ。本当は巻き込むつもりはなかったんだ。ただ、状況が変わった」

「しゅう?」

「詳しいことは、木更の体調が良くなったら話すから、まずはその辛うじて動ける身体を治せよ?」

「知ってて……!」

 苦笑する友人に、杞憂ではなかったと驚きを隠せない俺。なんか、すげぇむかつく。

「まぁ、今は休め。話はその後からでも問題ない」

 そう言って、両目を覆うように差し出されたしゅうの手は何故か心地よく、大した時間も掛けずに、俺は意識を手放した。





最初から大幅にリメイクしました。いかがでしたか?

どちらも読んだ方は、キャラクターの差にだいぶ驚くと思いますが、読み進めれば納得していただけるんじゃないかなぁと思います。

【エンドラン】の最初の二人はテンション全開過ぎたんだよなぁ……


最後までお付き合いありがとうございました! また次回もよろしくお願いします。


2022.07.15.


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