#7.換えられた転轍機 part2
ラ・メール亭は、ベルガモで最も小さい酒場である。店に入るとまず広間がある。そこには七人用のテーブルが五つ規則的に設置され、椅子は人数分以外に十脚ほど隅に置いてある。左手にドメニコがいるカウンター。ここは八人ほど座れる空間がある。そしてカウンターの奥はアドリアンの厨房だ。ラ・メール亭の間取りはさして珍しくも無い普通の間取りをとっている。
しかし他の二件の酒場は、ここよりも多く人を招くことができるし、店の中は空気の出入りもいい快適な空間だ。シド・バティは宿を経営しているし、もう一軒のアリゼ・ドンは二階建ての酒場という珍しい形態を取っている。二件とも雇っている人間がラ・メールより多いのも魅力的だ。頼んだものがすぐ来るというのは、客にとって重要な要素の一つだからだ。
しかし周りがそんな好条件にも拘らず、このベルガモで最も集客率が良い酒場はラ・メール亭なのだ。最大でも五十人程度しか収容できないというのに、今日のような祭りやめでたいことがあると、七、八十人くらい押し寄せることがある。それほどの魅力がこの酒場にはあるのだ。
それはなにか。答えは至って簡単である。
店には看板というものがある。用は人を寄せ付けるためのエサだ。看板は物であったり噂であったり人であったり店によって形態が変わる。
そして酒場での看板というのは、大抵主人か雇っている人物の事を指す。その看板が優れていればいるほど人がよく来るのだ。
ラ・メールがベルガモ一の酒場として君臨しているのは、偏にこの看板がベルガモ一の看板だからである。彼女のお陰でラ・メールは今日も安心してご飯が食べられるのだ。
――しかし、
「なぁジェリコ、ダニエラはどうしたんだ?」
テーブルと人の間を足早に歩くジェリコに、ブドウ酒を手に持った三十代後半くらいの男が話しかけてきた。
彼はまだ知らないのか。この手の質問はもういい加減飽きたのだが。
ジェリコは彼に振り向くと、早口に答えた。
「ダニエラは朝から大事な用事があると出て行って、まだ帰ってきていないんです。今日中には帰ってくると思うんですが」
ダニエラがどこへ行ったのかジェリコは知らない。ドメニコやアンナに尋ねようかと思ったが、やめたのだった。なんとなく気がひけたのである。ダニエラほどの人間なら大抵のことはできるし、危険は回避できる。だから野暮な心配はしなくてもいいのだ。……と、心の中では思っていたが、いまいち本心とは違う気がした。その理由がよく分からないのだが、仕事が忙しくてなかなか頭をそちらに割くことができなかった。
「なるほどだからアンナが出ているんだな」
酒場という名の戦場の最前線にはジェリコの他にアンナがいた。今日のような祭りの日はジェリコとダニエラの二人でようやっと対応できるというのにダニエラは席を外しているため、アンナが緊急参戦してくれたのだ。
「にしても珍しいな、ダニエラが仕事を休むなんて」
先ほどの客の隣にいる髭を蓄えた男が話しに加わる。
「何かあったのかな?それともこれか?」
髭の男は小指を立てると嫌らしい笑いを浮かべた。
「あいつにもようやく春が来たってか?いやぁめでたいねぇ。祭りの日に駆け落ちたぁなぁ」
がははは、と豪快に笑う客二人。ジェリコは呆れてものが言えなかった。
「あの子に春なんてまだ来やしないさ。ベルガモはあんたらのような男ばかりだからね」
力強い声と強気な発言とともに現れたのはアンナだ。両手にスープを持っている。アンナは彼らの前にスープを置くと腰に手を付いた。
「ははっ。そりゃごもっともだ。だがつまらない男に惚れる女がいるのも事実だ。ダニエラは世話焼きだからな。そっちの方が可能性は高いんじゃないのかい?」
客はアンナからスープを受け取ると、早速食べ始める。
「そうなんだよねぇ。あの子はちょっと人に気を遣いすぎなのよね。誰に似たのかしら」
アンナは腕を組みながらため息をついた。ダニエラの性格は完全に生活環境の影響だと思うが。
「さぁな。最近の乙女心は俺達にはわかんねぇよ。あ、ジェリコ、ブドウ酒一つ持ってきてくれよ」
「はい。かしこまりました」
ジェリコは機械的に返事をすると、早速厨房へ向かう。ジェリコの頭の中はダニエラが半分、客の顔と注文が半分を占めていた。精神的には十割がダニエラで埋め尽くされている。
(ダニエラの用事が駆け落ちだったらどんなに安心することか)
ジェリコはモンツァの事件とダニエラがどうしても繋がってしまい、あまり仕事に集中できないでいた。それでも失敗することなく作業をこなせるのだから経験というものはすごい。意識ではなく体が勝手に動くのである。これぐらいの高みに絵を描く技術を昇華させたいものだ。
その後、アンナと協力して注文という侵略者をことごとく粉砕し、戦利品であるお金をたんまりと稼いだ。やはり祭りの日は儲かる。客が調子に乗ってジェリコに絵を描かせたのがまたよかった。今のラ・メールという題で描いたのだが、騒ぎ散らしている客たちをよく表現している、と好評だった。誰ともなく、空になった木のコップに銅貨を入れ始めたのがきっかけで、描くのを観ていた客たちはジェリコに賛美の言葉と共に銅貨も与えてくれたのだった。
今までこれほど評価されたことは無かったので、ジェリコは努力が報われたと思った。やはり地道な努力が身を結ぶのだと肌で感じた瞬間だった。
ジェリコの絵描きが終わった後、丁度祭りも区切りがついた頃だった。いつの間にかもう次の日になっており、客も騒ぎ疲れたのかテーブルに突っ伏して眠る者や、代金を支払って帰る者がちらほらと現れ始めた。
そうして小一時間ほど経つと、店の中はがらんとした雰囲気になった。残っている客はカウンターの客と広間の十人くらいしかいない。大半が常連の客で、残りは旅人や行商人だろう。
ジェリコは窓から外を見た。深い藍色の空には昨日の様な真っ白い月がこれでもかと輝き、大人しくなった街を見下ろしていた。
街に人々はほとんどいなかった。祭りは終わったのだ。人々は明日(今日か)の英気を養うために遊び、そして甘い夢に抱かれているのである。
馬鹿騒ぎも好きだがこの祭りの後の静けさもジェリコは好きだった。祭りというのは人の生を表わしているように感じる。華やかな表の顔、そして穏やかで静かな裏の顔。人が生まれてその命を激しく燃え上がらせ、そして灯火が消えると共に訪れる死。非常に感慨深い行事だとジェリコは思っていた。
窓の外から盛者必衰を眺めていると、玄関が開く音がした。また誰か帰るのだろう。ジェリコは変わらず外を眺めていた。
結局、日が変わってもダニエラは帰ってこなかった。益々心配な気持ちが胸に広がっていく。まるで黒があらゆる色を飲み込んでいくように、じわり、じわりと。
――そんな折、
「ふぅ、ただいま」
雲雀のような声が酒場に響いた。
反射的に声の方を振り向くと、そこにはジェリコの頭の中にしかいなかった人物が立っていた。
「おかえりダニエラ。英気は養えたかよ」
ドメニコがダニエラを横目で見やる。
「ダニエラ、さっさと着替えて私と代わってちょうだい」
アンナが首をぐるぐる回しながらダニエラに言う。
「おおー、ようやく女神登場かよ。焦らすなぁダニエラは」
残っている客たちがダニエラを見るなり大げさな表現で迎えた。
ダニエラは彼らにもう一度「ただいま」というと、にんまりと笑った。
そしてその美しい顔をジェリコに向けると、
「ごめん。仕事辛かったでしょ」
申し訳なさそうな顔で、謝るのであった。
ジェリコは窓辺から離れると、腕を組んで精一杯背伸びして、
「そんなことないさ。これくらい慣れてる。それに謝るなら僕じゃなくてアンナさんだろ」
ジェリコの言葉にダニエラはうふ、と嬉しそうに笑うと、
「そうね。じゃあさっさと着替えてくることにするわ」
ダニエラはそう言うとそそくさと二階へ上がっていった。
その懐かしいような後姿を眺めていると、ジェリコは胸につっかえていた物がようやく取れた。ダニエラは誘拐されたわけじゃなかったようである。
一体どこへ行ってきたのか。遠くへ行ってきたのだろうか。それとも遊び過ぎて遅くなったのだろうか。しかしまぁ、なんにせよ無事でよかった。
ダニエラの姿を見届けた後、ジェリコは厨房へと足を伸ばした。少し喉が渇いたのである。水を飲みたかった。
「ジェリコ・パブールォ」
すぐ近くのテーブルから、ジェリコを呼ぶ声が聞こえた。それは小さな声だが、妙に刺々しく、ジェリコの耳に滑り込んでくる。耳を閉じていても聞こえてきそうな、異様な気配のこもった声だった。ジェリコはその怪しい雰囲気を警戒しつつ、眉間に皺を寄せて声の主の方を向く。
視線の先には旅人が二人座っていた。若い男と女。二人とも黒い髪、黒い瞳をしており、変な形をした石の首飾りをしていた。見たこともない茶色い毛皮の外套を纏い、その顔立ちはこの辺りの者ではなかった。年に数度見かける遠い東の国からやってくる行商と雰囲気が似ている。
なんとなく、不吉な感じがした。全体的に黒っぽい彼らを、失礼だと思うが死神のようだと感じてしまった。男の方は多少表情があるのだが、女の方は精巧に作られた人形のように動かずただ一点、ジェリコのことを見つめているのである。その不気味さにジェリコは知らずたじろいでいた。
ジェリコが無言で二人を見つめていると、切れ長の目をした男が口をゆっくりと開いた。
「突然呼んですまない。だが、大切な話がある」
男は言葉を選ぶように一度目を閉じ、話を切る。そして宝石のような一点の曇りの無い両眼をジェリコに合わせて言った。
「君、命を狙われているよ」
「は?」
時が、止まった。……気がした。
アドリアンが持ってきた名画家ティッツアの件以上に、ジェリコの思考は真っ白になっていた。初めて会った見ず知らずの旅人に、あろうことか死の宣告をされたのだ。まともな反応なんてできるはず無かった。
男は固まったジェリコの姿を鼻で笑うと、
「驚くのも無理は無い。だが事実だ。君は知らぬだろうが、君の血を求めて欲望にかられている人間がこの街に潜んでいる。今はまだ少ないだろうが、いずれ大勢の者が君の命を狙ってくるだろう」
何を言っているんだこの男は。
だんだんと男の言っている事に腹が立ってきたジェリコは、腕を組んでいる男を睨みつけた。
「あの、言っていることがよく分からないのですが。あなたは一対何者ですか?それになぜ僕の名前を知っているのです」
「すまない、申し遅れたな。俺の名前はアヤジ。こっちは妹のエメだ」
女の方を目で追いながら説明する。エメという女はジェリコに軽く頭を下げた。
「俺達が何者かという話だが、少なくとも君の敵ではない。俺達は君の命を守るためにここへ来た」
「どういうことです?」
ジェリコはいまいちアヤジの言う話が理解できない。そもそもなぜ自分が命を狙われる羽目に陥っているのか。誓ってもいいが、今までジェリコは人に恨まれるようなことをしてきた覚えは無い。
「まず君が命を狙われているところから話そう。簡単に言うとだな、あらゆる願いを叶える秘法を発現させるために、君の命が消えるくらいの血が必要なのだ。だから命を狙われている」
アヤジが説明していることは現実味がないし納得いかないが、とりあえず今は反論をしないことにした。そしてなぜか得意の直感がうまく働かない。動揺し過ぎてまともな判断が下せないのかもしれない。
アヤジは話を続ける。
「しかし、その術の発現方法というのは明確に解明されていないのだよ。今回君の命が狙われたのも、今まで調査してきた結果、君の血を使った方法が術を発現させる確率が最も高いからだ」
「ま、まさかそれだけの理由で――」
「命が狙われている。連中にとって人の命なんざ虫に等しいからな」
ジェリコの言葉を遮りながら、アヤジは冷徹に言い放った。
そんな成功するかも分からないおかしな儀式のために、命を捧げなければならないなんて絶対に納得がいかない。あまりにも理不尽すぎる。ふざけるなとジェリコは叫びたかった。
「そこで俺達の出番だ。連中からの襲撃は、すべて俺とエメが対処する。君の命は、必ず俺達が守って見せよう」
アヤジはジェリコを真っ直ぐに見つめ、力強い声で言った。確かに、必ずジェリコを守り通すという意思が込められていた言葉だと思う。しかし、
「それは、なぜ?」
そう。なぜ彼らはジェリコを守るのか。その理由が謎だった。
「あなたたちの目的は何ですか」
「分からないか?秘法を発現させるのが目的だよ」
瞬間、ジェリコは彼らに対する警戒を強めた。ならば、彼らの目的はジェリコの命ではないのか。
しかし彼らはジェリコの命を守るという。それはつまりジェリコの命を取らないということではないのか。アヤジは矛盾した話をしている。
「なぜ自分の命を取らないのか分からない、と言いたそうな顔をしているな。なるほど、随分荒んだ人生を歩んできているようだ」
ジェリコはアヤジの云わんとしていることが分からない。
アヤジはジェリコの態度が気に入らないのか、不機嫌そうな顔をした。
「簡単だよ。俺達は殺生を好まない。それが自分の願望を達成するために必要かもしれないとしてもだ。俺達は君を死なせない方法で秘法を発現させようと考えているのだよ」
ジェリコは驚いた。彼らはわざわざ面倒な方法を執るのである。ジェリコの命という容易く摘める秘法への鍵を拒否しているのだ。
「一番可能性が高い方法を選ばないなんて変ですよ。お二人が叶えたい願望というのはその程度のものなのですか?」
ジェリコの問いに、アヤジはさらに不機嫌そうに顔をしかめた。
「いや、必ず叶えたいと思っている。そのために世界中を旅しているからな」
「だったら今ここで僕を殺すのが普通でしょう」
「先ほども言ったが、俺は人殺しが好きじゃない。これはもって生まれた信念のようなものだ。君にもあるだろう?譲れないものの一つや二つは」
確かにそれはある。ジェリコは必ず画家になり、人々を幸せにするのだ。その目標だけは誰にも否定させないし、邪魔もさせない。ジェリコにとって存在観念そのものともいえるものだからだ。
「君の命は必ず守る。約束を守るのも俺の信条の一つだ。もし君を裏切るのならば、そのときは自分の腹を切るさ」
その言葉は『嘘』ではなかった。アヤジの言葉に『嘘』という妙な突起物は感じられない。ようやくいつもの判断力を取り戻したようである。
「だから君も俺達を信じてほしい。何が起きようとも君は俺達を裏切らないと」
「……もし裏切ると?」
ジェリコは興味本位で尋ねてみた。するとアヤジは恐ろしく無機質で冷たい目をして答えた。
「助けを求められても、君を守らない。君の血を手に入れた連中から血を横取りするだけだ」
なるほど、それならば己の信条を汚さずに目的を達成できる。ジェリコは納得した。
「事情は分かったかな?ならば旅立つ準備を始めてくれ。早く行動するに越したことは無い」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。僕はまだあなたが言ったことを完全に信じたわけじゃありません。それに僕が旅立つ必要があるんですか?あなた達に付いて行っても何もできませんよ」
アヤジはいい加減めんどくさそうに眉間に皺を寄せてジェリコを睨んだ。
「これだけ説明してもまだ分からないのか?……いや、まだ説明しきってはいないから分からないのかもしれないが。君は自分が必要無いと言っているが、君が死ぬほどの血が必要ではないだけで君は必要だ。イセ暦一四五二年、草原を瞳に宿し青い地平線の大地から生まれし者。それが秘法を発現させるために必要な存在の名であり、君自身のことだ。秘法の発現に必要な存在が共にその場所に来ないなんておかしいだろう」
大真面目に理解不能な言葉を口にしているアヤジが正直滑稽でたまらなかったが、不吉なことに彼は嘘を言ってはいなかった。つまりそれはジェリコが命を狙われているということを裏付ける結果となっている。
……瞬間、愕然とした。落下していくような、鈍器で頭を殴られたような、おかしな衝撃に体が包まれた。ジェリコは生まれて初めて自分の直感を疑った。
しかし、ジェリコの揺るぎ無い『無意識の判断』は彼の言葉を肯定している。もちろんジェリコはジェリコであるので、行動を決定するのは『無意識の判断』ではなく『ジェリコの意思』だ。なので『無意識の判断』を無視した行動を取ることはもちろん可能である。
だが今までこの『無意識の判断』が違えたことはただの一度も無い。人の嘘か本当かに関して、『無意識の判断』は神懸かり的に絶対なのである。
「そう、ですか」
随分と遅くなったが、ジェリコはようやく現実を理解した。それもすこぶるとんでもなく受け入れ難い現実を。
同時にこの強制的に人の言うことの真偽が判ってしまう自分の能力を呪った。
間接的とはいえ、自分の命が狙われているなんて分かっても気持ちのいいものではない。人によっては知らない方がいいこともあるだろう。少なくともジェリコは知りたくなかった。
「大丈夫か?突然顔色が悪くなったが」
こんな話をされて顔色が悪くならない奴はいないだろう。しかしアヤジからすれば先ほどまで普通に異常(笑)な会話をしていたのに、今頃急に顔色が悪くなれば驚いてしまうのだろう。なんで今更驚くのか、と。
ジェリコはこの話を信じたくなかった。あまりにもありえない。例え神の意思とでも比喩できそうな『無意識の判断』が肯定していても、自分が殺されるなんて話、確たる証拠が無い限り信じたくなかった。だって考えても見ろ、
――あらゆる願いを叶える秘法?
――イセ暦一四五二年、草原を瞳に宿し青い地平線の大地から生まれた人間?
――絶対にジェリコを守ると言い張る初対面の怪しい二人組?
――なにより、自分の命が狙われている?
今日世界ではあらゆる国同士が連盟を組み、昔の戦で築き上げたいざこざを協定で封じ込め、暗澹で残虐な過去からの脱却を図り、平和な世界へと歩を進ませようとしている。アヤジが先ほど話したことは、様々な経済を開拓させ安定した豊かさを追求している現実的世界からあまりにもかけ離れていた。まるで子供が話す夢物語だ。くだらない。馬鹿馬鹿しい。こんなことが現実に起きるはずは無い。
『しかし、是である』
そんな意識が再びジェリコの胸に蘇った。思わず胸元を無造作に掴んでしまう。今までジェリコを様々な危機から救ってきたこの能力が、初めて恐ろしく、無駄なものだと感じた。
――僕、殺されるかもしれない。
「ジェリコどうしたの!?」
突然、何者かに肩を揺すられた。真っ白になった頭のまま、体はぐらりと揺れ、ジェリコは床に倒れ附した。倒れる最中、アヤジとエメが人形のように無表情な顔でジェリコを見つめているのが見えた。
「ちょっと、しっかりして!」
懐かしいような声は段々と遠くなり、景色は暗闇に落ちていく。
(このまま目覚めなければいいのに)
そんな言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、ジェリコは完全に意識を失った。