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似てる?

暇なら呼んでみて下さい。


どうぞ。


( ^-^)_旦~

 暦の上では季節も秋へと移り変わり、風も涼しさを感じる日も多くなったというのに、今日はまるで夏が戻ってきたかのように暑い。

 暑さに弱いレンは、別に戻ってこなくていいのにと、口に出してもしょうがない気持ちを心の底に押し込んで、アヤカの家まで歩を進めている。今日もアヤカと2人で妖怪探しに行くのだが、いつも通り目的地がどこなのかレンは知らない。


 レンは出不精のきらいがあるので、目的地を聞いて遠かった場合、ほぼ間違いなくテンションが下がり、なかなか心が平常運転に戻らない。

 それなら、目的地はまだかまだか?とヤキモキしているほうがマシだと思っている。


 予定時刻よりほんのちょっと早くアヤカの家に到着したレンは、また飯でも食べていけと言われたらキツいなと、玄関前で到着したとスマホで送信。

 すると、30秒と経たないうちに家の中から微かに聞こえるアヤカの『行ってきまーす』の声。それに続いて、勢いよくガチャッと玄関のドアが開く。



 玄関を出たアヤカは、レンを見るなりハイテンションで、


「レン、今日は『油すまし』を探しに行くよ!」


 と楽しそうに言ってくる。



「珍しい。今回は最初からネタバレしてるんだな」




※油すまし※



 油瓶を持って峠道に現れては、通行人を驚かせる。昔、油を盗んで死んだ者の霊らしい。

 見た目は蓑を被ったお地蔵さんのようで、すました表情をしている。驚かせる以外、特に害はない妖怪。

 実は、ある有名な森の村長さんでもある。



  ★  ★



「今までの私は、目当ての妖怪に『逢えたら良いな♪』くらいの気持ちでちょっと弱気だったわけよ。だから、今回は『絶対こいつに逢ってやる!』って強い気持ちで行くと決めた!」


「なるほど。気合いは必要かもな」


 と相槌を打つ。…実際は逢えているのだが。



「だからレンもモチベーション上げてね」


「別に俺は逢えなくても全然かまわな…」



「もし逢えたら、久々にレンの好きな猫タワーを見せてあげるよ」


「逢えるように全力を尽くさせてもらおうか」



 猫タワーとは、アヤカの得意技?の1つで、立ったまま、天辺からつま先までびっしりと猫を身体中に引っ付けて、さながら猫で出来たタワーに見える状態になる全猫好きの夢。

 実際は、猫が飛びついて、しがみついている状態なので爪が当たったり、食い込んで痛いらしいがそんなの知らん。

 レンはすごく、いや、すーっごく羨ましいのだが、レンが近づくとタワーは崩れてしまうので、遠くから見守っている。

 その光景は、猫神降臨!みたいで、見ているだけで超癒やされるのだ。モフモフ最高!



「ところで、油すましは九州の妖怪だったと思うけど、……今日、行くんだよな?」



「行くね! 行かない理由がないね☆」



 アヤカ、100点満点の笑顔炸裂!




 …なんてこった。夏休みでもないのにまた九州まで行くことになるとは。確かに今日は土日祝日の3連休初日だけど。この間、テスト期間終わったばかりで、ちょっとゆっくりできると思ってたのに…



 レンは、この間の九州の離島旅を思い出してみる。

 ……。 …なんか、もう疲れてきたな…

 ふぅ…。 まぁいいか。



「とりあえず、泊まりの準備が必要なのと親に許可貰うから、一旦家に帰らせてくれるか?」


「フッフッフッ、必要ないよ!おじさんとおばさんには話は通してある!荷物も、ほら♪」


 アヤカはくるりと回転して背中を見せた。なるほど、いつもよりデカいバッグを背負っている。


 中身は俺の着替えやらか…入手経路は…考えないようにしよう。

 外堀を埋められるってこんな感覚なのかな。逃がさないぞー、という圧迫感。


 念のため、レンがバッグの中身を確認したところ、全く問題なかったのでそのまま空港へ向かった。

 テンションが下がるのは、褒美の猫タワーで何とか阻止できたことが救いだ。

 それにしても、用意周到なアヤカ恐るべし…



  ★  ★  ★  ★



 飛行機が空港に到着し、レンとアヤカは再び九州の地に降り立った。前回経験済みだからなのか、今回は意外にも元気な2人。

 時間も、午後2時を少し回ったばかりだが、ここからすぐ目的地に行けるわけでもないので、とりあえず早めにホテルまで移動して、晩飯までちょっと観光でもしてみようという流れに。


  ★  ★


 宿泊するホテルは、海まで徒歩10分程度の場所に建っていた。ホテルに着いた2人は手早くチェックインを済ませ、準備でき次第ロビーに再集合することにした。今回も当然、ホテルのオーナーはアヤカ父だ。

 ただし、ちょっと良い部屋を準備してもらっているものの、宿泊料はきちんと払っているし、そうでなければ只の放蕩娘のわがまま旅になってしまうので、親子とはいえやるべきことちゃんとやっている。

 


 レンは先に準備を終えて、ロビーでゆっくりアヤカを待つ。ロビーの隅には、お土産コーナーらしきものがあり、この地方の名産品が棚に並べられている。今回は何か家に買って帰ろうかと思い品定めをしていると、アヤカがエレベーターから降りて近づいて来た。

 わざわざ着替えてきたようで、今日の暑さのせいもあってか季節にそぐわない薄着である。

 それを見たレンは予期せぬ露出の多さに、思わずドキッとしてしまう。


 アヤカは、誰もが振り返るような美少女ではないが、活発かつ、さっぱりした性格と、学校の中でも上位に入る可愛いらしい容姿で男子人気は高い。

 レンは、幼馴染みというだけで、ウザいくらいに羨ましがられたり妬まれたりした過去があり、それが嫌で学校ではアヤカと最小限しか話さないようにしている。

 こうやって見るとアヤカのスペックの高さに改めて気付かされる。


「どうしたの?考えごと?」


「いや、服、似合ってると思って」


「…ありがと。相変わらずだねレンは」


「何が?」


「こっちの話だよ」


 レンは普段、口数が少ないのに人を褒めるときは思ったことをすぐ口にする。あまり喋らない人が、いきなり褒めてくるので驚く人が多いが、下心なくあまりにも自然に褒めるので、男女問わず好感を持たれている。本人は全く気付いていないが。 

 ちなみにレンの容姿は中の上といったところだが、優しげな顔つきに細身かつ身長高めのスタイルの良さでバランスが良い。さらに、気遣いもできるので、一部の女子に陰で優良物件と言われている。


「何かよく分からんが、とりあえず観光行くか」


「うん。出発だ!」



 ★


 2人はホテルから出てスマホで調べながら、観光名所である教会や、アーチ型石橋を見て回る。一通り楽しんだあと、時間を確認したらもう夕食の時間が迫っていた。

 アヤカは『最後のスポットはこれに決めた!』とレンにスマホの画面を見せる。



「んん?、ほんとにそこでいいのか?」


「もち!」


「アヤカがいいなら、いいか」



 というわけで、移動!


  ★  ★



 本日最後のスポットは、おっ〇い岩といわれるスポット。女性の乳房のような形をした大きな岩である。触ると胸が大きくなるとか、母乳の出が良くなると言われている。

 海岸にあるのだが、干潮時だけ見ることができるようで、潮時表で調べたらギリギリ見れそうだったので急いで見に来た次第。



「でっかいねー!御利益ありそー!」



「ここは女子高生がはしゃぐようなスポットか?」



 それに…個人的な意見だが、もう充分大きいと思うぞ。…どこがとは言わないが…



 岩は、直径が1、5mあって見た目かなり重量感がある。


 

「レン!私と岩のツーショット撮って!」


「了解。どんどん潮満ちてるから早めに撮らなきゃ危ないぞ」


「オッケー!しばしお待ちを」



 少し濡れた足場を慎重に進んで、岩の横まで移動したアヤカが、岩の横に立ってポーズを取りレンがシャッターを切った、まさにその時、



 ー ザッバァ~ン!!



 波が勢いよく岩場から跳ね上がり、波しぶきが海に背を向けていたアヤカの後ろから直撃!


 さらわれるような勢いではなかったが、アヤカは上から下まで見事ずぶ濡れになっている。

レンのところまでは波しぶきは届かなかった。



「だぁー!しょっぱ!!なに?後ろでシャチでも跳ねた?おのれー!背後からとは卑怯な!」


「それは濡れ衣だ」



 レンはアヤカに近づいていき、夕方から涼しくなるという予報だったのでバッグに入れておいたパーカーをアヤカの肩に掛け、タオルを渡す。

そこで、アヤカは薄着だったことを思い出し、上半身が濡れスケ状態になっていることに気づいた。



「あ、ありがとう。助かったよ」



 アヤカは頬を赤く染めて言う。



「どういたしまして」



 長い付き合いのアヤカにしか分からないが、優しく、そして柔らかく微笑んだレンを見て、ちょっとカッコいいじゃないか、と思った。




 …その裏で



 ヤバい。動悸が止まらん…



 一見クールに見えたレンだが、実はアヤカの姿を見て内心かなり動揺していた。だって男子高生だもの。



 その後、しばらくして冷静さを取り戻した2人は、気温も下がり涼しくなってきたので急いでホテルに戻ろうと歩きだした。アヤカがずぶ濡れなのでタクシーやバスには乗れないが、ホテルまでそう遠くないのがせめてもの救い。

 その後、ホテルに着いた2人はまたそれぞれ部屋に戻り、シャワーを浴びて着替えたり、一緒に夕食をとったりして明日のプランを軽く話し合ったあと解散となった。



  ★  ★  ★  ★



 次の日の朝、



 うーん……。これは、ちょっとマズイかも。

 まあまあ、頭痛い。多分熱出ちゃってるよね、これ。



 アヤカは起床してすぐに体調の異変に気付いた。頭はズキズキ痛むし、鼻水が出て喉も痛い。典型的な風邪の症状だ。原因が昨日ずぶ濡れになったことなのは間違いない。

 寝るときまではちょっと寒いかなと思ったくらいだったのに、と思いながら横になったままスマホを見ればレンと約束した朝食の時間まであと15分ほど。

 九州まで来て、何もしないで帰るという選択肢はアヤカの中にはない。あとで、風邪薬を買って飲めば大丈夫と、ダルさ全開の体に鞭打って気合いで起き上がる。無理して動いたので頭痛で顔が歪む。

 

 何とか着替え終えて、食堂に向かおうとした時、コンコンとドアがノックされた。誰だろうと思い、ドアの覗き穴をのぞくとそこにはレンが立っていた。

 待ち合わせはレストランの入口だったはずだけど?と思いながら、体調不良がバレぬよう平静を装いドアを開ける。するとレンの口から意外な一言が放たれる。


「風邪引いてないか?受付で薬貰ってきたぞ」



 なんでわかったの?!という表情で固まるアヤカ。それを見て、レンは続ける。



「違ったらいいんだ。昨日の晩飯のときも寒そうにしてたから、もしかしてと思って」


「多分風邪引いてる… ありがと…」



 アヤカは素直に認める。何故だか分からないが、昔からレンには嘘が通じない。バレたのなら嘘をつくのは無意味だ。



「そっか。朝飯も近くのコンビニで買ってきたから、軽くでも食べて、今日は薬飲んで休め」


「けど、全然動けるんだけどね」


「駄目だ。まずはしっかり休む。今日は1日ステイだ。まだ明日がある」


「時間がもったいないかなって」


「ふぅ。……今日休まないなら、2度と一緒に妖怪探しには行かない」


「わかった。休む」


 そうしてレンは、アヤカの部屋で一緒に朝食をとり、薬を飲んだことを確認すると、部屋に戻って行った。

 何か異変があったり心細かったらすぐ連絡すること、ルームキーを預かること、昼ご飯も買ってくるから心配いらないこと、アヤカの両親にも連絡しておくことなどを伝えて。


 アヤカはベッドに入って、天井を見上げる。そして、ゆっくり瞼を閉じると一言呟いた。



「…優良物件か…」



 いつの間にかアヤカは眠っていた。



  ★  ★


 

 アヤカは目を覚ますと、枕元に置いてあったスマホを手に取り、時間を確認。すると、驚くことにもう夕方5時を過ぎていた。

 じっとりと汗をかいてベタベタするのが気持ち悪い。ただ、そのせいか熱は下がったようで、頭痛もかなり治まっていた。いつの間にか、おでこに冷却シートも貼ってある。

 部屋のテーブルにはレンが買ってきてくれたのだろう、中華粥や大豆バー、オレンジジュース、スポーツドリンクなどが置かれている。

 すぐさまレンに、かなり楽になったこととお礼を送信したのだが、なかなか既読がつかない。夕食を買いにいってるのかもしれなと思い、とりあえずシャワーを浴びることにした。


  ★


 シャワーを浴び終え、服を着て髪をタオルで拭いていると、スマホが光っているのが目に入った。どうやら返信があったようだ。

 ベッドに腰掛けて確認してみると、やはり夕食を買いに行っていたようで、安心したよ、欲しいものはないか、と書いてある。…もはや母親である。

 大丈夫だよと返信して、夕食に中華粥を食べようとレンチンして胃にゆっくり流し込む。体の隅々に染み渡るようで、すごく美味しい。

 お腹も落ち着いたアヤカは、もう1回寝たら明日は完全復活だ!と根拠のない自信を胸に、ベッドに入りまた眠るのだった。



  ★  ★  ★  ★



 次の日、


 結局、アヤカの風邪は治らなかった。


 熱は下がったものの、喉の痛みとダルさはとれず、レンはこの状態では良しとしてくれないだろう。

 今回ばかりは、黙って帰るしかないかとテンションが下がったアヤカであったが、一縷の望みにかけていつもの軽装に着替えレストランでレンが来るのを待つ。

 このまま帰りたくないなぁ、と嘆息するアヤカの前にレンが現れた。


「おはよう。調子はどうだ?」


「熱は下がって頭痛はないけど、喉が痛いのと、あとまだダルいね」


「そっか。じゃコレ」



 レンはそう言って、御守りを渡す。



「何コレ?御守り?」


「病気に効果があるらしいんだ。気休めだけど持ってて。とりあえず、朝飯食おう」


「…ありがと」


 アヤカは御守りをポケットにしまう。


  ★


 朝食を終えた2人は、レストランを出る。そこで、恐る恐るアヤカが聞く。


「レン、今日はもう帰っちゃう?」


 すると、レンはジッと観察するようにアヤカを見て聞いた。



「……アヤカ、体調はどうだ?」




 ん?それはさっき言ったよね…

 喉とダルさが…… ……って、痛くない?!

 ダルさもほぼなくなってる!


 なんで???



 アヤカが1人でマヌケ面をさらしていると



「その様子じゃ良くなったみたいだな。じゃ、飛行機の時間まで探しに行くぞ」



 そう言ってレンは歩き出す。


 狐につままれたような顔をして立ち尽くすアヤカを置いて。

 


  ★  ★  ★  ★



 時間は半日以上遡る。



 アヤカを寝かしつけたあと、必要な物を調達して部屋に置いてきたレンは、せっかく九州まできたんだからアヤカの体調を何とかしてやりたい、という気持ちで、ある場所を目指し移動していた。


 電車を乗り継いで、目的地を目指す。そして移動を終え、やっとその場所に辿り着いたレンは周りをじっくり見渡してみた。

 そこは、時期はずれで人気のない海。まだ陽も明るいし、今のところアヤカから連絡もないので、ぐっすり寝ているだろう。ということで、海岸をくまなく歩いたり、別の岩場に移動したりしてみる。


  ★


 どの位の時間歩いただろうか。足場が良くないことも災いして、足が棒のように重くなってきた。やっぱり無理だったか…帰ろう。と諦めかけたその時、目の前の海面がゆっくり盛り上がり、髪の長い人魚のようなモノが姿を現した。



 ソレはレンに話し掛けてきた。



「私に何か用か?不思議な気配を持つ人の子よ」


「あぁ。姿を現してくれて感謝する。アマビエ」




※アマビエ※

 

 予言めいたことを人間に伝え、疫病を防いだと言われる人魚のような姿をした妖怪。姿を書き写した絵を見た者は、病気を防げるらしい。




「私を知っているのか?最近では、大きな疫病もなく人に会うこともなかったが」


「貴方は有名だ。昔、人を救った者として。姿絵が残されている」



 そう言ってレンは、昔、瓦版に描かれたというアマビエの姿絵をスマホで見せる。



「なんだこれは!コレが私だと!?馬鹿な!」


「心中お察しします」



 そう、この姿絵、とんでもなくクオリティが低い。普通、子供でももっと上手く描くぞ。なんか、口が鳥みたいだし……

 実物は、長髪で男とも女ともとれる中性的で綺麗な容姿に、美しく輝く鱗の付いた下半身をしている。この絵とは似ても似つかない。



「むぅー!納得いかん!あの時の男に今度あったら許さんと言っておいてくれ。それと、今度はお前が私を描いて正しておいてくれ!」



「わかった。努力してみる」


 許さんつっても、もうとっくに亡くなってるが…



「ところで、何か私に頼みたいことでもあるのか?」


「それなんだが……」



 アヤカという、見えないが妖怪好きかつ妖怪に好かれる子がいること、アヤカが今病気にかかっていること、自分の不思議な気配はアヤカのものであることetc. をアマビエに伝える。

 

「なるほど、それでその娘の病気を早く直してやりたいというわけだな」


「その通りだ。その為に貴方の姿絵を写させてもらえないだろうか?」


「いいだろう。ただし、さっきの約束を守ってくれるならな」


「さっきの?俺が貴方の姿を広めるというやつか。…わかった。今から描くから貴方がそれでいいか判断してくれ」


「なんと、今すぐとは!お前は絵描きか?」


「そんな大層な者じゃないが。まぁ待っててくれ」


 わかった!とアマビエはビシィッ!とポーズを取ったままピクリともしない。…よほど嫌だったんだなあの絵…

 20分ほどで、姿絵は完成した。ソレをアマビエに見せてみる。



「おぉ、素晴らしい!お前、絵が上手いな!」


「ありがとう。コレで納得してくれるか?」


「うむ!それで構わない!よろしく頼むぞ」


「こちらこそ。この絵は大切に使わせてもらうよ」


「私を見ることができて、話せる者に会ったのも久しぶりだったから楽しかったぞ。では」


 そういうとアマビエは美しい波紋を残して、スッと海中に消えた。

 レンは姿絵を書いたノートを丁寧にバッグに入れると、来た道を戻って行く。重い足取りで帰り道を進みながらアヤカの凄さを再認識していた。


 今回、アマビエに逢えたのもアヤカのお陰だな。


 実は、昨日アヤカに貸したタオルを持ってきていた。過去の経験からアヤカからは何かしら動物や妖怪を惹きつけるフェロモンのようなモノが出ているとレンは推測している。

 だから、今回もアマビエを惹きつけることができるかもと半信半疑で持ってきてみたのだ。感じた不思議な気配というのは間違いなくソレのことだろう。

 なんとか大きな道まで戻り、スマホを見るとアヤカから大分楽になったと連絡が入っている。こちらは晩飯の買い出し中と返信して、レンは急いで駅に向かう。途中にあった神社で御守りを買うのも忘れずに。



  ★  ★  ★  ★



 とにもかくにも全快したアヤカとレンは、油すましの目撃例がある峠道に来ていた。あまり時間がないので、可能な限り全力で探してみたもののやはり見当たらない。


「うーん。残念だけど、帰ろっか」


「そうだな。残念だった…猫タワー」


「今回はめちゃお世話になったから、猫タワーはやるよ!帰ったら楽しみにしといて!」


「女神かよ…」 



 アヤカは満足げに笑って



「油すまし、やっぱもう現代にはいないのかなー?」


 とこぼした。すると



「いまも、でーるーぞー」



 とレンの横にいつの間にか、すました顔の油すましが。

 残念ながら、アヤカには見えていないためまだ頑張って探しているが、レンはチラリと油すましを見ると、目が合ってお互いに困ったように笑いあった。



  ★  ★  ★  ★



「うぉぉ…いつ見てもすごい。いや凄すぎる…」



 地元に帰ってくるなり、アヤカは猫タワーと化していた。ちょっと町の猫スポットに行って、帰ってくるだけでハイ出来上がり。


 レンはあれができるなら死んでもいいな、と思うほど羨ましい。けど、レンが妖怪を見れて、話せるのもアヤカにとっては同じだろうなと思う。



「レン、もういいかな? …息が …苦しい」


「あ、悪い。もう充分だ」



 レンが近づくとタワーは崩れ、猫はサーッといなくなって中の人が現れる。毛だらけ、傷だらけのアヤカに近づいてお礼を述べると、どういたしましてとの返答。


 ちなみにアマビエの御守りはアヤカがどうしても欲しい、大事にするからというのであげることに。


 その後、アヤカを家まで送っていくと『アヤカの看病ありがとう。お礼に飯を食っていけ』と言われてしまい、胃の破裂寸前まで飯を食べさせられ、家で朝まで寝込んだ。



  ★  ★  ★



 次の日、学校帰りにおっ〇い岩とのツーショットを見たいとアヤカに言われ、マズいと思いながらも渋々見せると、アヤカの後ろでシャチが着水した瞬間がバッチリ写っていて、犯人蔵匿罪に問われてしまった。

 すまん、シャチ! 被害者が今度会ったらシャチ折りを食らわせてやると憤慨しています。


 あと、アマビエ。約束通り、ネットにアップした貴方の絵が『上手い』『何かご利益ありそう』『病気、治りました』と何故か大々的にバズったので、約束は果たせたと思うよ。  



読んで頂きありがとうございます。


(´▽`)

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