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2 チュートリアル

 オープニング曲が流れる中、ホールの中央に虹色の光が灯る。光はどんどん大きくなって、それから数人のシルエットが浮かび上がってきた。

 どのシルエットが誰だかなんて、わたしには完璧にわかってしまう。キメポーズは飽きるほど見たものね。パッケージまんまだからね。


 キャラクターは華やかで音楽も良くてフルボイスイベントも豊富。人気が出て当たり前の乙女ゲーだったのに、惜しまれるのはメリバシナリオ。


 メリーバッドエンドと呼ばれる、ハッピーエンドとは言いきれない無念な方向に微妙なエンディングで、評価が分かれてしまった残念なゲームだったけど、わたしはこのゲームをとても愛していた。まあメリバは人を選ぶ。制作会社も絵師も音楽も声優もとても豪華なのに、エンディングがニッチになったせいでゲームの二次創作界隈での盛り上がりはイマイチだったのだ。


 わたしはメリバもあまり気にしない。ビジュアル重視派で、乙女ゲーだというのにせっせと……びーえる……同人誌を作り続けていたのだから。

 シナリオの残念具合はどうでもいい。わたしはラブの捏造に忙しい。


 乙女ゲーをプレイするのはヒロイン願望の女子たちだけではない。わたしは登場キャラクター同士で、いわゆるカップリングを作って妄想するプレイヤー。あの方とこの方のアレでソレなむにゃむにゃをシナリオの端々から摘み取り、汲み取り、良きに受け止めて。

 公式以外のカップルを成立させる。おもに男性同士の。わたしの推しちゃんはルシェール様ともうお一方。今シルエットでキメポーズで頑張って静止している方だ。


 いちおう、二次創作界隈では王道カップルと呼ばれていたんですけどね!


『ようこそ。聖なる乙女』


 ぼんやりしていたら、音楽が終わってナレーションが始まっていた。メイン攻略対象の、ルシェール様ボイスのナレーションは何回聴いても尊いわぁ。


 うっとりと聞き惚れていたら、ルシェール様に手をとられて、シルエットの聖使徒様方の前にあらわれた鏡の前に連れて行かれた。

 こんなオープニングあったっけ? いや、覚えがないけど。隠しモード?


 この世界はなんちゃらかんちゃらとか説明しているナレーションをBGMに、誘われるまま鏡を覗いてみると。


 わたしがいた。


 お葬式じゃない。死んでない。

 えっなにこれわたし死んだんじゃなかったの?

 病院のベッドみたいなところで、沢山の管が取り付けられて、わたしが眠っていた。後ろにある計器が多分心拍とか呼吸とかをモニターしてるっぼいけど、規則正しく動いている。


「生きてる……?」


 ルシェール様はゆっくりと頷いた。


「いまのあなたは生きているとも死んでいるとも言えない状態です。これは現在のあなたであり、不確定な未来のあなたの姿でもあります」


「あの、このゲームそんな難しい概念とかなかった気がしますが…」

「そうですね。言うなればシュレーディンガーのスコンブうまま様、とでも」

「スコンブもういいから」


 これは、生きていると言われて喜ぶべきところなのか正直よくわからん。

 一人暮らしの自宅でエナジードリンクと酢昆布にまみれてえっちな原稿描いてたあたりで意識が飛んだと思われるけど、誰が助けてくれてんだろう。というか、これは助かってるんだろうか。


「あなたのことはお友達のおぱんつ☆チラ子様が通報して救急車を呼んでくれたようですね」


「チラ子先生が」


 また変な名前で呼ばれているけど、おぱんつ☆チラ子先生はわたしの仲良しの同人作家さん。即売会のスペースを隣接で取ったり、アフターやオフ会に一緒に参加したり、旅行にも一緒に行ったり。

 ただ本名も年齢も知らん。

 同人作家友達あるあるなのでそこは気にしてなかった。


 そんな状態なのにどうやって救急車呼んでくれたのかしら。そういえばSNSでボイスチャットしながら作業していたかもしれない。死ぬーとか言いながら。正直、死にそうになってからのことはあんまりよく覚えていないすまない。


「このゲームのクリア状況で、あなたの今後が変わります」

「それは、戻る可能性もアリってことで?」


 また頷くルシェール様に、わたしはおいおいおいってツッコミたい気持ちをちょっと我慢した。これ残念シナリオの乙女ゲーじゃなかったの?


 このステージを試しの場とはよく言ったものよね。


 もう死んだと思って気持ち切り替えたあとなんだけど、さすが残念シナリオだね!

 今更生き返ったところで、あの治療代払うの? 払えるの? 

 チラ子先生には感謝してるけど、できればもう一度会ってお礼も言いたいくらいだけど。だって人工呼吸器つけてるわたし、どう見ても棺桶に片足突っ込んでるし。これ生き返っても余命何日よ?


「ルシェール様」


 医療機械の動き以外動画なのか静止画なのかわからんような、鏡のなかのわたしから目をそらして、わたしはルシェール様に向き直った。


「なんかよくわかんないですが、チュートリアルやっぱりスキップしましょう。わたしのことは理沙でリネームしてください」


「リサ。良い名前ですね」


 名前を入力した時のボイスでルシェール様が答えた。スコンブよりは本名の方がマシでしょ。ヘンな名前で呼ばれるのもそれはそれでイイとは思うけど、わたしはあくまでプレイヤー。夢属性はあんまりないの。


 あと、やっぱりちょっとあの状況の自分の姿はどうかと思った。


 生き返るにしてもこのまま死ぬにしてもはやいとこクリアして決めないと、このままじゃ入院代ばかりが嵩んでしまう。田舎の両親に申し訳ない。


 両親の事を思い出して、わたしはひっと声をあげた。


 部屋の中。まさか見られてないでしょうね?

 もしのもときは積荷を燃やす約束、チラ子先生は守ってくれてるよね?

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