選ばれし勇者〜選んだのは?〜
「勇者ジーン、貴様を勇者の称号を剥奪する!」
そう言われた勇者ジーンは「えっ?」と目を丸くしていた。
それはそうだ、勇者ジーンは同じパーティーを組んでいた自分こと『賢者クローム』に『聖女レーネ』、『女聖騎士シス』と一緒に魔王の討伐の旅をしていたが、突如パーティーを解散し、1人で旅をしていた所をいきなり呼び出され、王に会った瞬間、この台詞……。
誰だって耳を疑いますよ。
「ま、待って下さい!王よ!!何故いきなりそのような事を!!」
「ふん、とぼける気か!この詐欺師が!!」
王がツボを飛ばしながら怒鳴る中、勇者……いや、ジーンは狼狽えていた。
……魔王の幹部が相手でも狼狽えてなかったあの人があんな風に狼狽えるのは初めて見る
「貴様は『聖剣ヴァルカリバー』を使えないらしいでは無いか!」
「な、そ……それは……」
『聖剣ヴァルカリバー』が使えない?
確か、勇者を選定する時にあの人はあの聖剣に選ばれ、戦いの中でも聖剣を使いこなしてたはずなのに……?
「ならば聖剣をこの場で抜いてみよ」
あの人は唇を噛み、腰に携えていた『聖剣ヴァルカリバー』を鞘から抜こうと手を震わせながら聖剣を握る。
そして……
抜けなかった。
「やはりな」
聖剣が抜けなかった事を周囲がざわめくのを王の一言で静まり返った。
「……っ!王よ!私は確かに聖剣は抜けませんでしたが、何度も魔物を屠ってきました!ですかどうぞ私を……」
「くどいわ!!衛兵!奴から聖剣を取り上げろ!!」
王の命令に衛兵が近づき、聖剣を奪おうもするもあの人は取られまいと悪あがきし、抵抗をする。
「我が手に来い、『聖剣ヴァルカリバー』!!」
その時、男の声が響いたかと思えばあの人手にある『聖剣ヴァルカリバー』は輝き出して、思わず手を離してしまったあの人から飛び去り、ある人物の前に浮かび上がった。
「おぉ、やはりそうであったか」
王が歓喜の声を上げるとその人物は浮かぶ聖剣を手にし、高らかに揚げた。
その人物は、最近突如として現れた『ダイチ』と言う名前の黒髪黒目の青年だった。
なにより、彼の傍には『聖女レーネ』と『女聖騎士シス』が寄り添うように立っていた。
「見よ、彼こそ真なる勇者!ダイチ様じゃ!!」
そして、周りがまたもやざわめき始めた。
「か、返せ!それは私の聖剣だ!!」
あの人はダッとダイチの手にある聖剣を奪え返そうと駆け出したが、彼の前にレーネとシスが立ち塞がった。
「退いてくれ!レーネ!シス!あれは私の……」
「いえ、もう、あなたのじゃありません!」
そう叫びレーネは神聖魔法であの人を吹き飛ばし、あの人は床に這いつくばってしまった所をシスが問答無用に剣で切り裂いた。
「ぐっ、か、返せ……私の聖剣!」
「ふん、無様だな……こんな奴に私達は付き従っていたのか」
シスの目には復讐の炎がチラついてるのが見えた。
きっとあの人が勇者じゃなかったからじゃない……突如パーティーを解散させられた事を捨てられたと思っているんだ。
きっとレーネも同じ事を思ってるに違いない。
だって自分も同じだから……
心の底深くで「ざまぁみろ」と何かが囁くのを聞こえた気がした。
自分がそう思って居ると彼はあの人のそばにより、ボソッと何かを呟いていた。
自分は咄嗟に聴力強化の魔法を掛けて聞いた。
「悪いな、あんたの女も聖剣も奪っちゃった」
言葉を裏腹にニヤァと気味悪い笑みをしていた。
やっぱり、彼は彼女たちを手篭めにしてたか。
前々から城下街の女性たちに手を出していると聞いていが……。
こんなに早く行動するとは思わなかった。
流石にあの人も少なからず好意を抱いていた彼女達に裏切られた事に悔しく思っているだろう。
だが、あの人はそんな事はお構いなく聖剣をガッと掴みかかった
「聖剣、私は……まだ!!」
「鬱陶しいんだよ!!」
ガンと蹴られそのまま衛兵にあの人は押さえつけられた。
「王よ!お願いします!!何卒、何卒私に聖剣を!!」
「もうよい、今までの功績により死刑にはせぬ……が、封国外追放とする!」
そう言ってあの人は国から追い出された。
そんな中でもあの人はずっと叫んでいたという。
見苦しく勇者の座を固執した詐欺師として……。
そして、自分はレーネ、シスと共にダイチのパーティーに組むことになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの人が国を去ってから10年後……。
自分は大きな荷物を背負い森の奥を進んでいた。
たった一つの希望を託すように無我夢中で歩き続けた。
やがて、森が大きく開けた場所に探していた人を見つけた。
『元』勇者ジーン
あの人は、何故か開けた場所の中央に座っていた。
追放されたあの日からまったく変わらない姿で……
「……久しぶりだな、クローム」
あぁ、やっと会えた。
ずっと探し探し続けたあの人を……。
自分はすぐそばに駆け寄りそのまま土下座をした。
あの日、助けなかった事を。
そして、あれから何が起きたかを……
まず、ダイチは勇者という立場から好き勝手に振る舞い、色んな女性に手を出していた事。
王も擁護しており、誰も手が付けられなかった。
戦場に出ても全て兵士たちに任せ、自分たちは安全な所でレーネとシスを抱くなどし、功績は全て自分の物にし、失敗は兵士たちに押し付けるといった感じだったとの事。
しかし、ある日魔物の軍隊が国に攻め込んで来て、ダイチは臆病風に吹かれてレーネとシスを身代わりにして城に逃げ帰った所を王に処罰された事を
そして、またジーンの力を借りたいと言うことを
「……もう、無理だ」
憎む事は解っている、だけど罪なき人々が危機に陥っていると説得するが、あの人は違うと悔しそうな表情で何度も呟いていた。
「クローム、私は何も憎いとか復讐とかで戦わないんじゃないんだ……戦えない様になってしまったんだ」
?
それはどういう事?
「……私が勇者に、選ばれた時『魔王を倒し、世界を救うのです』と聖剣が囁いてきたんです……そして私は聖剣に導かれ、魔物を倒し、人々を助けてきました……でも全ては綺麗事じゃなかったでしょ?」
……確かに
助けた村人に利用され、殺されそうにもなった。
勇者の力を利用しようとした悪人もいた。
守るべき領民を私利私欲で虐げる領主もいた。
「そんな人の醜さを見た聖剣はとうとう私にこう語りかけてきたのです『もう、この国の人々を救う価値などない』と」
!?
ま、まさか……聖剣が私たちを……見捨てた……!?
「その日から聖剣は力を発揮しなくなりました……それでも私は聖剣を説得しつつ自力で人々を救ってきました……パーティーを解散したのは聖剣の力を使えなくなった私があなた達を守れきれないと思ったからです」
そんな……そんな勝手な事を!
なんで相談しなかったんですか!?
「……もししてたらあの日と同じく追放されたでしょう」
……確かに。
あの追放もよく思わない奴らが誰が聖剣が使えない事を王に進言したに違いない。
「そして、聖剣が次に選んだのは『世界を救う者』では無く『国を滅ぼす者』……あの青年ダイチだったのです」
だから、国を滅ぼさせない為に聖剣に固執していたのか。
ただ単に勇者の座を渡さない為じゃなかったんだ。
「……そして、追放された時聖剣が最後に『今までの功績によってあなたに褒美を与えます……国が滅び、魔王を倒した後、あなたが王となる為に』……そして、私はこの地に封印されているんです。老いず飢えずただここに座っているだけの封印を」
!?
そ、それじゃ……
背中に背負った荷物から『聖剣ヴァルカリバー』を取り出した。
その話を聞いてからはもはや聖剣とは思えなくなったそれを。
「やっぱり持ってきてしまったんですね……だから封印が強くなってきたはずです」
思わず手にしてた恐ろしい物を落とした。
それからは魔王より邪悪な笑い声が聞こえた気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
前々から疑問に思っていた勇者の証である聖剣が逆に勇者や、世界の行く末を選定していたら
なんて考えて執筆しました。
久々に執筆し、深夜2時から4時までの2時間で急ピッチで書いたので急な展開な感じがしますが……
次回作はその辺を修正して執筆します。