お互いに
有名なケーキ屋を実家に持つ三熊早苗の依頼により、料理特訓に付き合うことになったナンバーズ。
今まさに、家庭科室にてクッキーを制作中であった。
「とりあえず、早苗ちゃんがやりたいようにやってみて!」
「頑張って下さい、早苗さん!」
ニベとクリスが早苗に言う。
「は、はい。やってみます!」
早苗がむんっとやる気を出す。
「まあ言ってもケーキ屋の娘だろ?実はそんなに酷くないんじゃない?」
ミケがそう言った数分後、早苗が作ったクッキーが完成した。
「で、出来ました」
早苗がおそるおそるクッキーを出した。
「ほら、見た目は普通じゃん」
ミケが少しホッとして言った。
「たしかに…普通、ですわね」
クリスも想像していた物とは違ったのか、少し驚いて言った。
「じゃあミケ、どうぞ」
ニベがクッキーを食べるようミケに促す。
「はいはい、いただきまーす」
正直、炭みたいに焦げたクッキーを食べさせられると思っていたミケだったが、見た目が案外まともだったので、迷うことなく口にした。
だが、それが間違いだった。
ミケが口にクッキーを入れて数秒。
「ぐっ…かはっ!」
突然、ミケが目を見開いてそのままばたんとぶっ倒れた。
「わー!ちょっとミケ!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!!」
思わず大声を出すニベとひたすら謝る早苗だったが、ミケはそのまま力尽きてしまった。
「っは!!」
「あら、気がつきましたか?」
意識を失っていたミケに、クリスが声をかける。
「はぁっはぁっ、何秒くらい気絶してた?」
「えーと、10秒くらいでしょうか?」
ミケの問いかけに、クリスが素直に答える。
「あの、本当にごめんなさい」
「大丈夫!ミケは意外と丈夫だから」
「なんでニベ先輩が答えてんの⁉︎全然大丈夫じゃないから!」
ミケが気がついて間もないにもかかわらず大声を上げる。
「さてどうしようかー?」
「おい、まだ僕の話終わってないんだけど」
ミケをガン無視してニベが話を進める。
「ええ、どうすれば良いのでしょうか」
クリスが頭を悩ませる。
「三熊がもう料理をしないこと」
「それじゃ解決してないじゃん!」
ニベがミケ突っ込む。
「しょうがないなー、私がお手本として作ってあげるよ!」
ニベが満更でもない様子で言った。
「え、ニベ先輩って料理出来んの?」
ミケの生意気でデリカシーに欠ける発言に、クリスが反論する。
「ミケ君は知らないでしょうけど、ニベ先輩はお料理が上手なんですよ」
「まあ、人並みにだけど」
クリスの褒め言葉に思わず照れるニベ。
「まあ早苗ちゃん、見ててね」
「はい、お願いします」
それから数分後。
「はい、どーぞ!」
ニベが出来立てのクッキーを皆の前に差し出した。
「「「いただきまーす」」」
3人がクッキーに手を伸ばす。
「どう?」
ニベがニコニコしながら3人に聞いてくる。
「お、美味しいです!」
「ええ、さすがニベ先輩ですわ」
「まあ、さっきの『自分をクッキーだと思い込んでる変な物』よりかはマシかな」
3人はクッキーの感想を口々に言った。
「えへへ、みんなありがと」
ニベがお礼を言う。
だが本題は、ニベがクッキーを作ることではない。
「じゃあ早苗ちゃん、一緒に作ろ?」
「はい!頑張ります!」
そう言って早苗は料理に取り掛かる。
いそいそと支度を始める早苗を他所に、ミケはひとり、家庭科室から外を眺めた。
部活動の掛け声が響く校庭。
時たまキキーッと自転車のブレーキの音が自転車置き場から鳴る。
「はぁ……帰りたい」
ミケがそう呟いてから実際に家に帰ることができたのは、それから数時間後のことであった。
「やっほー早苗ちゃん!会いに来たよ!」
料理特訓から数週間後、ナンバーズの面々はスイーツ☆ミクマを訪れていた。
「あ、いらっしゃいませ!今日は皆さんいらっしゃるんですね!」
厨房から出てきた早苗がニベに聞いた。
「うん!早苗ちゃんのスイーツが食べたくて、みんな連れて来ちゃった!あ、ここのテーブル使ってもいい?」
「はい、どうぞ!」
早苗が注文を聞くため、ナンバーズが座るテーブルに近づく。
「いや、ニベが行こう行こうってうるさくてなぁ……」
おもむろに言い訳をする一海をロキは見逃さない。
「あら、一海が結構喜んでるように見えたのは私だけかしら?」
「そ、それはあまり言わないでくれ……」
ロキにいじられて、一海はバツの悪そうな顔をした。
「ぼ、僕あまり、甘いものとか、得意じゃないんだけど……」
シドがボソッと呟く。
早苗はすかさず甘くないものを勧めようとした。
「あ、でしたら……」
「なら甘くないものもあるから、そっち食べれば?」
しかし、意外にも早苗の言葉を遮ったのはミケだった。
「あれ?なんでミケがそんなこと知ってるの?」
「ここに来る前に、クラスの連中から話は聞いてたから」
ニベの問いに、ミケは涼しい顔で答える。
しかし、早苗は知っている。
自分が厨房に入るようになってから、すぐにミケがケーキを買いに来てくれたことを。
そしてその時の感想も覚えている。
「まあ、前よりかはマシなんじゃない?」
これがミケの精一杯の褒め言葉なのだろう。
そう思うと早苗は、ミケの不器用さに、ニヤニヤが止まらない。
「ちょっとー、注文したいんですけどー?」
ミケがいつものつまらなそうな顔で言ってくる。
早苗は全員の注文を聞き、厨房に戻ると、一人でそっと呟いた。
「……素直じゃないなぁ」