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ナンバーズクエスト  作者: 鳴神 春
8/8

お互いに

有名なケーキ屋を実家に持つ三熊早苗の依頼により、料理特訓に付き合うことになったナンバーズ。

今まさに、家庭科室にてクッキーを制作中であった。


「とりあえず、早苗ちゃんがやりたいようにやってみて!」


「頑張って下さい、早苗さん!」


ニベとクリスが早苗に言う。


「は、はい。やってみます!」


早苗がむんっとやる気を出す。


「まあ言ってもケーキ屋の娘だろ?実はそんなに酷くないんじゃない?」


ミケがそう言った数分後、早苗が作ったクッキーが完成した。


「で、出来ました」


早苗がおそるおそるクッキーを出した。


「ほら、見た目は普通じゃん」


ミケが少しホッとして言った。


「たしかに…普通、ですわね」


クリスも想像していた物とは違ったのか、少し驚いて言った。


「じゃあミケ、どうぞ」


ニベがクッキーを食べるようミケに促す。


「はいはい、いただきまーす」


正直、炭みたいに焦げたクッキーを食べさせられると思っていたミケだったが、見た目が案外まともだったので、迷うことなく口にした。

だが、それが間違いだった。

ミケが口にクッキーを入れて数秒。


「ぐっ…かはっ!」


突然、ミケが目を見開いてそのままばたんとぶっ倒れた。


「わー!ちょっとミケ!!」


「ごめんなさい!ごめんなさい!!」


思わず大声を出すニベとひたすら謝る早苗だったが、ミケはそのまま力尽きてしまった。





「っは!!」


「あら、気がつきましたか?」


意識を失っていたミケに、クリスが声をかける。


「はぁっはぁっ、何秒くらい気絶してた?」


「えーと、10秒くらいでしょうか?」


ミケの問いかけに、クリスが素直に答える。


「あの、本当にごめんなさい」


「大丈夫!ミケは意外と丈夫だから」


「なんでニベ先輩が答えてんの⁉︎全然大丈夫じゃないから!」


ミケが気がついて間もないにもかかわらず大声を上げる。


「さてどうしようかー?」


「おい、まだ僕の話終わってないんだけど」


ミケをガン無視してニベが話を進める。


「ええ、どうすれば良いのでしょうか」


クリスが頭を悩ませる。


「三熊がもう料理をしないこと」


「それじゃ解決してないじゃん!」


ニベがミケ突っ込む。


「しょうがないなー、私がお手本として作ってあげるよ!」


ニベが満更でもない様子で言った。


「え、ニベ先輩って料理出来んの?」


ミケの生意気でデリカシーに欠ける発言に、クリスが反論する。


「ミケ君は知らないでしょうけど、ニベ先輩はお料理が上手なんですよ」


「まあ、人並みにだけど」


クリスの褒め言葉に思わず照れるニベ。


「まあ早苗ちゃん、見ててね」


「はい、お願いします」





それから数分後。


「はい、どーぞ!」


ニベが出来立てのクッキーを皆の前に差し出した。


「「「いただきまーす」」」


3人がクッキーに手を伸ばす。


「どう?」


ニベがニコニコしながら3人に聞いてくる。


「お、美味しいです!」


「ええ、さすがニベ先輩ですわ」


「まあ、さっきの『自分をクッキーだと思い込んでる変な物』よりかはマシかな」


3人はクッキーの感想を口々に言った。


「えへへ、みんなありがと」


ニベがお礼を言う。

だが本題は、ニベがクッキーを作ることではない。


「じゃあ早苗ちゃん、一緒に作ろ?」


「はい!頑張ります!」


そう言って早苗は料理に取り掛かる。

いそいそと支度を始める早苗を他所に、ミケはひとり、家庭科室から外を眺めた。

部活動の掛け声が響く校庭。

時たまキキーッと自転車のブレーキの音が自転車置き場から鳴る。


「はぁ……帰りたい」


ミケがそう呟いてから実際に家に帰ることができたのは、それから数時間後のことであった。





「やっほー早苗ちゃん!会いに来たよ!」


料理特訓から数週間後、ナンバーズの面々はスイーツ☆ミクマを訪れていた。


「あ、いらっしゃいませ!今日は皆さんいらっしゃるんですね!」


厨房から出てきた早苗がニベに聞いた。


「うん!早苗ちゃんのスイーツが食べたくて、みんな連れて来ちゃった!あ、ここのテーブル使ってもいい?」


「はい、どうぞ!」


早苗が注文を聞くため、ナンバーズが座るテーブルに近づく。


「いや、ニベが行こう行こうってうるさくてなぁ……」


おもむろに言い訳をする一海をロキは見逃さない。


「あら、一海が結構喜んでるように見えたのは私だけかしら?」


「そ、それはあまり言わないでくれ……」


ロキにいじられて、一海はバツの悪そうな顔をした。


「ぼ、僕あまり、甘いものとか、得意じゃないんだけど……」


シドがボソッと呟く。

早苗はすかさず甘くないものを勧めようとした。


「あ、でしたら……」


「なら甘くないものもあるから、そっち食べれば?」


しかし、意外にも早苗の言葉を遮ったのはミケだった。


「あれ?なんでミケがそんなこと知ってるの?」


「ここに来る前に、クラスの連中から話は聞いてたから」


ニベの問いに、ミケは涼しい顔で答える。

しかし、早苗は知っている。

自分が厨房に入るようになってから、すぐにミケがケーキを買いに来てくれたことを。

そしてその時の感想も覚えている。


「まあ、前よりかはマシなんじゃない?」


これがミケの精一杯の褒め言葉なのだろう。

そう思うと早苗は、ミケの不器用さに、ニヤニヤが止まらない。


「ちょっとー、注文したいんですけどー?」


ミケがいつものつまらなそうな顔で言ってくる。

早苗は全員の注文を聞き、厨房に戻ると、一人でそっと呟いた。


「……素直じゃないなぁ」

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