ゲーム・ヒスパニック
春の陽気が学校を包む緩やかな放課後。
「ふんふーん、ふふふーん♪」
蒼琉高校の部室棟に続く渡り廊下を、鼻歌交じりでご機嫌なニベが歩く。
学生応援部の部室入り口に掛かっているホワイトボードをニベがチラッと見る。
「お、今日はこの2人かぁ」
そう言ってニベは、自分のマグネットを『在室』の欄に持っていき、部室に入った。
「みんなお疲れー!」
「お疲れ様でーす」
「お、お疲れ様です……」
ニベが元気よく挨拶をすると、ソファーに寝っ転がったミケとパソコンにかじりついているシドがそれぞれ返事をした。
「今日は何か依頼あった?」
ニベが自分の席にリュックを置いて、2人に問いかける。
「なーんにも。だから今日は暇してました」
ミケがお手上げのポーズをして答える。
「ふーん。それでシドは何してんの?」
ニベがずっとパソコンをいじっているシドに声をかけた。
「えっ、いや、特に何も……ゲームしてただけで………」
突然話を振られたシドは、びくっと体を震わせながら驚き答えた。
「へぇー何やってんの?」
そう言ってニベがパソコンを覗き込む。
「あ、え、FPSなんですけど……」
「……えふぴーえす?」
シドの言葉に、ニベは頭を傾げた。
「今人気のある自分視点のシューティングゲームですよ。まあ僕も詳しくは知らないんですけど」
ミケが補足説明をする。
ちなみに得意なゲームはパズルゲーム。
「うん……最近、アップデートが来たから、やってたんだ……」
シドがそう言ってパソコン上で武器を拾ったり相手と銃で撃ち合ったりしていた。
ちなみに得意なゲームはほぼ全般。
「へぇー、そうなんだー。あたしゲームとかよくわかんないしなぁ」
ニベがあっけらかんと言う。
ちなみに得意なゲームはどう○つの森。
「というか、そんなに面白いのか?それ」
チラッとパソコンを見ながらミケがそんなことを言う。
「うん、結構……やってみる?今、ちょうど終わったとこだし………」
「えっ⁉︎いや、僕は別に……」
シドの突然な提案に、ミケは戸惑う。
「あ、ご、ごめん……無理にとは、言わないから………」
シドのこの一言がミケに火をつけた。
「は、はぁぁぁ!!??出来ますけどぉ?全っ然出来ますけどぉ⁉︎」
ミケが挑発に乗せられやすいのは、部位全員の知ってる事だった。
「じ、じゃぁ、ここ押して……」
「はいはい、っと」
ミケがシドの説明を受けながらパソコンをいじっていく。
ニベはお菓子を食べながらパソコンの画面を見ている。
「おつかれー、あんた達何してんの?」
気怠そうな挨拶と共に、ロキが部室の扉を開けて入ってきた。
「あ、ロッキー。今ミケがゲームしてるの」
「どうなったらそんな展開になんのよ……」
ニベのざっくりとした説明に慣れているロキも、今回は意味がわからなかった。
「さ、最初は目的地まで、飛んで行くから、何もしなくても……」
「うわっ!なんか僕飛んでるけど!どうやって降りんの!?ねぇ!どうやんの!?」
「ミケうるさいー」
シドの話も聞かず1人でパニックになるミケ。
「ねぇ!パラシュート!パラシュートはないの!?そもそもなんで飛んでるの?死ぬの?死んでからやっと始まりって事!?このゲーム個性強すぎない!?」
「そんなゲーム誰がやるのよ……」
普段は傍観者に徹するロキも思わずツッコミを入れる。
「ああっ、やっと着地した」
ミケがほっと息をつく。
「あたし、全くこのゲームわかんないけど、多分盛り上がるポイントはそこじゃないと思うよ?」
ニベのツッコミに答えず、ミケはどんどん先へ進む。
「シド、次はどうすれば?」
「あ、うん。建物とかに入って、武器とか拾うんだ。」
「じゃあ今、僕丸腰状態って事?」
「まあ、そうなるかな……」
「まじか……こいつら武器無しであんな怖い思いしてたのか。ていうかこんな危ない場所に行かせといて武器持ってないとかどういうことよ。普通、戦うってわかってたら武器持ってくだろ」
「そ、そんなこと言われても……」
ミケはたまにいる、ゲームの設定に現実の価値観を持ち込み、ケチをつけて否定していくタイプの人間である。
そういう奴に限ってゲームの腕は大したことない。
なのでミケは……
「あれ、武器取れない……」
「い、いやミケ、ボタン押し間違えてる…」
教えてもらったはずの操作も忘れるほどのゲームの腕前の持ち主である。
「あんた、ゲーム向いてないんだからもうやめなさいよ」
ロキがボソッと呟く。
「ミケ全然だめじゃーん」
「もう!みんなうるさいんだよ!!見てるだけなんだからホント邪魔しないでよ!!!」
ミケがとうとう我慢出来ずに叫んだ。
故に視線は自ずと画面から外れてしまう。
「み、ミケ、やられてる………」
「あっ!!!!」
ミケが操作していたキャラは、背後から来た敵に銃弾を浴びせられ、無惨に倒れてしまった。
「ほらぁ!やられちゃったじゃないか!みんなが邪魔するからぁ!!」
「いや、あんたはそれ以前の問題でしょ」
ミケが憤慨するも、他のメンバーには子供が駄々をこねているようにしか見えなかった。
「違いますー、みんながうるさくて集中出来なかっただけですー」
「ま、まあ、初めてなんだから、仕方ないよ……」
シドがミケの肩に手を置く。
「ふん、僕はもうゲームやらないからな」
ミケがふてくされたように言った。
すると部室のドアがノックされる。
「はーい、どうぞー」
ニベが返事をすると、ある男子生徒がドアから顔を覗かせた。
「あのー、相談があるんですけど……」