学生応援部の面々
高木の無くしたお守りを探すため、一海は高木と共に蒼琉高校の中庭に来ていた。
「落とした場所はここでいいのか?」
一海が周りを見渡しながら高木に聞く。
「多分……それ以外のところはくまなく探したし、あるとしたらここかなって」
「なるほど。で、なんでここにあると思うんだ?」
一海が高木に聞く。
すると高木は少し口籠って答えた。
「実は…恥ずかしい話、僕は猫が苦手で……昨日ここで見つけた野良猫に驚いて、鞄を放り投げちゃったんだ……」
蒼琉高校の中庭は学校の通路とフェンスを隔てて住宅街が近くにある。
故に学校に迷い込む猫も少なくない。
「なるほどなぁ。たしかに用務員のおじさんもたまに猫に餌やってるし、居ついちまうんだなぁ」
一海がうんうん頷いて納得する。
「しかし何で猫が苦手なんだ?俺も特別好きって訳でもねーけど、何が嫌なんだ?」
「うーん……何て言うんだろう。フォルムというか、動きというか。とにかく体が受け付けないんですよね……」
猫を思い出したのか、高木は身震いしながら答えた。
「ふーん、まあいいや。とにかく探すぞ」
一海がそう言って肩を回した。
「お、お願いします」
そう言って2人が中庭を探し始めてから数分後。
「あの、さっき聞きたかったんだけど」
「ん?どうした?」
不意に高木が一海に声をかけると、一海はしゃがんでお守りを探しながら返事だけした。
「失礼だと思うけど、他の人はなんで何もしないの?」
高木は部室に入った時からずっと気になっていた。
部活動とは言うものの、一海以外は全くやる気が感じられなかった。
実際、探し物の件でもちゃんと動いているのは一海ぐらいで、他のメンバーは誰一人動かなかった。
この部員で果たして部活は機能するするのだろうか。
「あー、そのことか……」
一海は苦笑いをしながら頭を掻き、立ち上がってうーんと背伸びした後答えた。
「俺たちには俺たちの役割があるっつーか、まあこれでも去年はやってこれたんだよ」
そう言って一海は腰に手を当て笑った。
「え?去年?たしか一年生もいたよね?」
「ああ、それは……」
一海が答えようとしたその時、突然茂みからガサガサという音がした。
2人は息を飲み、茂みを見つめた。
するとそこから現れたのは。
「ね、猫ぉぉっ!!!」
高木が叫ぶほど苦手などこにでもいる普通の野良猫だった。
「ぼ、僕、もう…ダメ……」
そう言ってその場に座り込む高木。
「おい高木!しっかりしろ!」
一海が一生懸命肩を揺らして高木を起こそうとするが、高木は目の焦点が合っておらず、完全に気が動転している。
「おいおい……ただの猫だぞ。ほんとに苦手なんだな…ん?」
一海が猫を見ると、猫が何かを咥えているのが見えた。
そしてそれは完全に……
「お守りあったー!!!」
まさに一海たちが探していたお守りだった。
見つけた嬉しさで思わず高木を地面に落としてしまったが一海は気にも止めなかった。
一海が猫に近寄ろうとすると、猫は危険を察知してそのまま逃走した。
「待てやおらぁぁ!!」
「おーい、クリスちゃーん」
「あら、ニベ先輩ではありませんか。お仕事ご苦労様でした」
教室棟と部室棟を繋ぐ渡り廊下を歩くクリスをニベが発見し、声をかけた。
「お仕事は上手くいきましたか?」
「うん、多分ねー。恋愛相談だったから難しかったなー」
「それは大変でしたわね。ちょうど私が持ってきましたクッキーが部室にあったと思いますので、ご一緒にどうですか?」
「うん!ご一緒するする!やったぁ!」
そんな和やかな会話を女子2人で話していると、後ろから叫び声が聞こえた。
「待てやおらぁぁ!!」
「え、何?かずみん?」
一海の叫び声が後ろから聞こえ、2人は思わず振り返った。
「おお、2人ともちょうどよかった!そいつ捕まえてくれ!」
「ええっ!そいつって猫のこと⁉︎いきなりそんなこと言われても……」
「あらあら、どうしましょう」
オロオロするニベとニコニコ笑うクリス。
そうしてるうちに猫は2人の間をすり抜け、先に行ってしまった。
「部室棟に行ったぞ!2人とも来てくれ!」
一海は猫を追いかけながら2人に言った。
「わ、わかった!」
「承知しましたわ」
こうして猫追っかけ隊が3人になった。
「はぁ、今日はもう帰るか。ダルいし」
部室棟の階段を降りながらミケがぼそっと言うと、
「ミケ、その猫捕まえてくれー!」
一海が下からミケに呼びかける。
いきなり言われたミケも驚きを隠せない。
「え、ちょ、何ですかいきなり!そんな、ちょ、待っ」
その時思わず後ろに仰け反ったミケの顔に飛び上がった猫の前足がクリーンヒットした。
「へぶっ!!」
猫はミケを踏み台にして階段を上って行った。
「ちょっとぉ!あの猫、僕に猫パンチかましてきたんですけどぉ!」
「ミケ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですよぉ!あの猫絶対許さないからなぁ!」
立ち上がるミケの顔にはしっかり肉球の跡が残っていた。
階段を上った猫は左に曲がってそのまま学生応援部の部室に入っていった。
「あいつ、うちの部室に入ったぞ。ミケ、開けっ放しにするなっていつも言ってるだろ」
「そうだよー、しっかりしてよミケ」
「マナーはきちんと守りましょうねミケ君」
「いや、僕今日はちゃんとドア閉めたんですけどぉ!!何なの今日!!」
文句を言うミケを含めた4人が部室に入るとそこには猫とロキ、離れたところにシドがいた。
「あ、あの……猫…来るの見えて………それで………」
「私が捕まえたって訳。シドは人はも動物も苦手だから」
「ハハ……すいません………」
ロキの言葉でさらに沈むシド。
猫はさっきまでとは違い床に寝っ転がってリラックスしていた。
「しかしどうやって捕まえたんだロキ。また変な薬でも嗅がせたのか?」
「そんなことしてないわよ……まあ、似たようなもんだけどね」
そう言ってロキは手に持っていた小さい袋を差し出した。
「またたびが入った袋。偶然持ってたから」
「それ、偶然持ってるもんなのか……?」
ロキへの謎がまた深まった。
「ありがとうございます!皆さんのお陰で見つけることが出来ました!!」
目を覚ました高木がお守りを手にし、勢いよくお辞儀をして礼を述べた。
「いやぁなんのなんの。見つかって良かったなぁ」
一海がニコニコしながら言った。
(ナンバーズかぁ……ここに来る前はちょっと怖かったけど、話してみるといい人たちだな)
高木がそう心の中で呟いた。
すると部室から叫び声が聞こえた。
「かずみん手伝ってー!ロキちゃんがミケに変な薬飲ませようとしてるー!!」
「ちょっとぉ!ロキ先輩、その変な薬持って近づかないで下さい!!」
「ミケ、あんたの不幸体質治してあげるんだから我慢しなさい」
「そ、それ…人が飲む色してない……」
「あらあら、賑やかですこと」
「こりゃまずいな。悪い高木、ちょっと止めてくる!」
「ハハハ、頑張って……」
(………ちょっと変わってるけど)
後日、ナンバーズの噂に薬物による病院送りの伝説が追加されたとかないとか……。