③
「すみません、オズモンドさん僕てっきり知らなくて、もしかしてリリアンヌ様と、その、仲が悪いんですか?」
仲が悪いと言えばNOだ、今でも寝室は一緒だし、会話だってする、俺がエスコートすれば手を添えてくれる。
「いや、仲が悪いわけじゃないんだ。でも仲が良いと聞かれれば、YESと答えられない」
今の俺は中途半端な立ち位置にいる。
「無理に聞けないんですけど、自分でそうなった理由はわかっているんですか?」
「まぁなんとなく、というか明確にわかる俺のせいだって」
「オズモンドさんのせいですか?」
こんなことに誰にも話したことがなかったでも、先程、彼も同じように自分の秘密を話してくれたのだから、なんとなく自分のことも話さないとなという気になってしまう。
「子供にこんな話をするのはどうかと思うが聞いてくれるか?」
「えぇもちろん僕は16歳ですけど腕輪の数分入れたら成人ですから話を聞きますよ!」
「何だその計算式。」
そのあと俺は話を続ける。
「俺とリリアンヌ様はもともと政略結婚だったんだ」
「あぁ、お金持ち特有の」
「そう、お金持ち特有の」
「だから、何というかその、別に好きだから結婚した訳じゃない」
「じゃあ、オズモンドさんも?」
「俺の場合は違う!!その、なんというか一目惚れだったんだ」
初めて会ったとき、こんなにも可愛らしい女の子がいるんだと初めて知った。俺の故国レコンキスタからノーザンデリアに向かう途中でみた、穏やかで海のような瞳に、太陽を浴びて輝く麦のような髪。そして、レコンキスタに降る雪のように色白で華奢な体。俺は彼女の夫となり支えることができる、こんなに嬉しいことはなかった。
「でも、彼女はそうじゃなかった。」
「どういうことですか?」
「その時俺はお前と同じ16歳で未熟だったのもあるけど彼女の気持ちに気づいてやれなかったんだ。俺が好きでも相手が俺のことを好きとは限らないだろう」
「なるほど、では最初からお互いの気持ちがズレていたと」
「そういうことだな」
もともと、当時ノーザンデリアの前王リリアンヌの父が病に倒れ、男子の跡継ぎもいなかった為、次の王を誰にしようかと悩んでいた時、同盟国の俺の父バートラム王が介入してきて、「第一王女のリリアンヌの後継人となる代わりに女王になった暁には我がレコンキスタの王子を婿に入れて欲しい」という背景があった。
リリアンヌの父は「それで娘たちの未来が保証されるなら」とすぐに返事を返した。もともと、王に即位するには王太子であることは勿論だが、成人していることも条件の一つだった。
ノーザンデリアの成人は18歳で当時リリアンヌは15歳で届かなかった。
しかし、彼女の父が亡くなったことをきっかけに空位を恐れた大臣達がすぐ、リリアンヌを王太子にし、そのまま王に即位させることにした。
しかし王になるにも結婚しており、配偶者がいることが求められていた為、15歳のリリアンヌ王女とレコンキスタの王子の中で歳が近く16歳、母も平民出身でこの先貴族の後ろ盾も得られない第二王子の俺ことオズモンド王子が特例として成人していないのに結婚することになった。
「俺と彼女はそれぞれ16歳と15歳で結婚したんだ。夫婦になったけど、それは本当に形だけで結婚式もそうだし、そのあとの初夜も一緒に寝るだけで何もしなかったんだ。それに俺はもともと当時学生で高等部を出るまでは通い婚だったんだ。」
「ではレコンキスタからノーザンデリアを行ったり来たりしていたんですか?」
「そういうこと、長期休暇を利用して会いに行ってた」
「大変だったんですね」
「確かに大変だけど彼女に会えると思えば苦じゃなかったし、早く大人になって彼女と一緒に暮らせるようになれたら良いなってずっと考えてた、それから高等部を卒業して、こっちの大学に入るようになって彼女とも一緒に暮らすようになってある感情が芽生えたんだ。」
「ある感情ですか?」
「“本当の夫婦”になりたいと思った、形だけじゃなくて心も体も繋がりたいと思った。俺も彼女も成人して少し余裕が出来たんじゃないかと思ったんだ、将来的に世継ぎのこともあるし、いいきっかけだと思った。」
「その時は大丈夫だったんですか?」
「最初は、俺も緊張してたけど。それ以上に不安な思いをしながらも、俺に身を委ねてくれる彼女の気持ちに応えたかったんだ。それからも病弱だった彼女の体をみながら体を重ねていった。だけど…」
「だけど…?」
「ある時、いつもと同じように体を重ねていた時、こう言われたんだ。「いやだ、もう、やめてください」って」
「なるほど、それはショックですね」
「理由がわからなかったんだ、自分なりに彼女のことを大切にしていたと思っていたから、なおさら傷が重かった」
「そのあと、オズモンドさんはどうしたんですか?」
「途中でやめて、彼女に服を着せて、これ以上嫌な思いをさせないように部屋を出た」
「そのあと、リリアンヌ様と何か話をしたんですか?」
「いや、してない。怖かったんだこれ以上嫌われたくなくて、話を振ることもできなかったし、嫌な思いをさせたくなかった。」
「じゃあ、今でもそのまま。」
「もう7年になる、あの時から彼女と体を重ねるのが怖くなって、今でもそれが続いている」
「なんというか、重症ですね」
「本当に重症だな俺」
すぐに手を打てばよかったのかもしれないと今でも思う、時が過ぎれば過ぎるほど取り返しのつかないことになる。
「ありがとうございました、オズモンドさん。僕が周回している年分すごく辛い思いをされてたんですね。」
(周回!?まぁそこはスルーしておこう)
「まぁ周りから見ればおれの悩みなんてちっぽけなものなのかもしれないけど、自分にとってはこれが彼女の本音なのかと思うとショックを隠せなかった」
「大なり小なり悩みは悩みですから、僕はオズモンドさんの話を聞けて嬉しかったですよ。」
「こちらこそ聞いてくれてありがとう、なんというか深い話をすると仲良くなった気分になるよな。」
「確かに今日は僕も色々話をしましたからね。出会って2度目ですけど友達になった感じがします」
「あと最後に一つ聞いていいか?」
「はい、なんでしょう」
「ほら、腕輪を外す条件が“真実の愛”だって言ってただろ?」
「はい、クロエが設定したものですね」
「なんでクロエはそんな条件にしたのかなと思って」
「なるほど、そういうことですか。あれは実は時間稼ぎだったんですよ」
「時間稼ぎ?」
「もともと僕を召喚して、そのあと帰りたいと説得するんですが、彼女は「召喚する魔法」はできても「それをかえす魔法」を知らなかったんですよ。」
「そうだったのか!?」
「だからその帰還の魔法を覚えるのに1年かかってるんです」
「なんで1年も!」
「僕を召喚した後、2か月ぐらい魔力がなくて寝込んでいるので気づいたら一年もかかったそうです。」
「なら、その前に召喚していた奴らはどうしたんだ?」
「あれは寿命を待つか、腕輪が外れたら町で暴れ出すので律儀に倒してたんですよ!」
(本当にポンコツなんだなその魔女)
「クロエもマイペースな人なので僕に絶対叶えられないような条件を付けて時間稼ぎをしていた訳ですね」
「ならおれは絶対に叶えられない条件を達成しようとしている訳か。」
「大丈夫だと思いますよオズモンドさん、一緒に頑張りましょう!」
まぁ、こうなってしまったのも仕方ない、やれることはやっておいた方がいいだろう。
「ではオズモンドさん」
「何だ」
「これからなんですが一か月に一回月末にこうして2人で集まって情報交換というか、定例会議をしましょう」
「なるほど、そうだな、まだ解らないこともあるし、カイトがいてくれると心強い」
「何か困ったことがあったらメールというか手紙ですね、寮に入っているのでその住所に届けてもらえれば会いに行きますので」
「ありがとう、次は4月末だな。その間俺はどうしたらいい?」
「そうですね、まだ慣れてないということもありますので、あまりリリアンヌさまにガツガツ行かない方がいいと思いますよ。」
「なんで俺がリリアンヌ様にガツガツするんだ!!」
「最初、ガツガツしすぎると好感度が上がりすぎてしまうので、その後に影響が出てしまうんですよ」
「影響?」
「これは、バランス良くいかないといけないんです。会話し過ぎてはいけない、プレゼントを渡し過ぎてはいけないんです。それぞれのタイミングでイベントもあるのでそこで好感度が一杯だとこれ以上上がらなくてダメになってしまうことがあるんです。」
「じゃあ、動けない時はどうしたらいいんだ?」
「個人パラメーターを上げてください」
「個人パラメーター!?」
「はい、5つあって運動・学力・流行・勇気・魅力があるんですけどこれを上げてください」
「それはどこでわかるんだ!!」
「好感度と同じように腕輪から見ることができます」
そう言われるがまま板を出し、さっき言っていたパラメーターの所を触ってみる。そうするとこのように出てきた。
「運動5
学力5
流行2
勇気1
魅力1」
「これが俺のパラメーターか!?」
「はいこれですね、5段階評価になっているので、この場合運動と学力は凄いですね」
「まあそこそこ鍛えてるし、王族は文武両道が基本だからな」
「流行・勇気・魅力は低いですね、王宮にずっといらっしゃるので流行が低いのは仕方ありませんが勇気と魅力が1ってなんですか!?冴えないですね」
「仕方ないだろこれから上げていくんだから!!というか実際、上げるにはどうしたらいいんだ?」
「そうですね、僕の場合バイトをして、運動を上げたり勉強をしたりして学力を上げてましたけどオズモンドさんは学生ではないので違う方法を使うしかないですね。」
「違う方法?」
「まず、オズモンドさんの場合、運動と学力は最高なのでこれ以上上げられません問題はあと3つですね、これは僕も上げにくいのでゆっくりやってください。」
「そんなに上げにくいのか?」
「はい、というか上げられる環境が少ないんですよ、街を歩いても流行を上げられるわけじゃないですからね」
「確かにそうだな」
「オズモンドさんにとってパラメーターを上げられる環境があるといいんですけどね。流行だったら流行に敏感な人達の集まりに行くとか。」
(集まりか…)
あまり自分ではそんな集まりに行く機会もないしすぐには出てこなかった。
「なんというか、社交界みたいなのって貴族の皆さんにはあるじゃないですか、そんなのがあるといいですけどね」
社交界、一様この国にも存在するがそれは未婚の男女が出会いを求めて行く場所であり俺には無縁だった。
(まてよ、その逆なら…)
「確かに、婦人会というのがあったな」
「なんですかそれ?」
「既婚の女性たちが集まる集会があるんだ、貴族出身というのが最低条件だけどそれさえ無ければ身分問わずみんなでお菓子を持ち寄ったりして楽しく過ごしているらしい、最近だと男子禁制も無くなって少数だけど男性もいるらしいな」
「へぇ、そういうのもあるんですね、オズモンドさんは参加したことがあるんですか?」
「リリアンヌ様がゲストかなんかで、参加しているのは聞いたことはあるけど俺はないな」
「でもリリアンヌ様が参加しているんなら一緒に参加してみるのもアリじゃないですか?」
「いや、そんな気軽に参加できる物じゃなくて、きちんと手順を踏まないといけないんだ」
「なるほど、そうなんですね」
「まず参加するには会員証か紹介状が必要になるんだ」
そうまず会員証は婦人会に5回以上参加している者に贈られる物で俺は一回も参加したことがないのでそれを貰うことはできない。
一方で、紹介状であれば初回でも参加することができる。
「紹介状があれば参加することができるからそれを貰わないといけないな」
「じゃあ、それを貰いにいきましょうよ、誰から貰うことができるんですか?」
「婦人会には会長が2人いて、一人は名誉会長であるリリアンヌ様と会長のノーザンリバー公爵夫人のどちらかに紹介状を書いて貰えればいいな」
「良かったですね、身近にいらっしゃるならリリアンヌ様にお願いしましょう」
「あぁそうだな」
そのあと長い話も終わりカイトに別れを告げこの場を後にした。
これからまだまだやることはありそうだが、とりあえず婦人会の紹介状を貰うためリリアンヌ様にお話をしようと思った。
Ep1の③を読んでいただきありがとうございます。これでEp1は終わりになります。これからまたEp4、5とストックを増やしてから投稿するのでEp2川の公爵夫人までには時間がかかります。ですのでそれまでカイトのように周回してお待ち下さい。