①
抜けない...抜けない!抜けない!!
「困ったなこれは...」
あれから腕輪が抜けなくなってしまったのだ。
風呂の石鹸でやってもびくともせず腕を切り落とそうと思ったぐらいだ。
「どうなってんだ、これ」
もともと人の物なので抜けないのは本当に困る。
「そうか、あいつに聞けばいいのか」
持ち主である青年に聞けば何かわかるかもしれない。
(それまで待つしかないか...)
今日は木曜日、基本的に日曜日にしか市街に行けないのでそれを待つしかない。
とりあえず、ウジウジしても仕方ないので公務へと向かう。
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自分の仕事場へ行く途中、会議を終わらせた女王陛下が出てきた。腕輪の話をしてからというもの三日間まともに会話していない。
(まぁ俺たちの夫婦仲なんてそんなもんだけどさ)
ある日を境に俺の方から一歩引いた関係になりまともに会話することも少なくなってしまった。
言ってしまえばいつもどおりということだ。
そんなことを考えていると彼女と目があってしまった。
(やばいこっちにくる、話すネタなんか何もないんだけど)
そう考えていると不思議な現象が起こった。
1.女王陛下と呼んでみる
2.呼び捨てで呼んでみる
と目の前に映ったのだ。
(いや女王陛下にタメ口はダメだろていうかなんだこれ?)
そうこう考えているうちに彼女が来てしまった。
何も考えられず頭が真っ白だった俺はとりあえず目の前の事を言うことにした。
2番はダメだよな。なら1番で、
「女王陛下、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、オズモンド様」
そう言った瞬間目の前にあった文字が消えたのだ。
(なんだったんだ、今の)
そのあと先日の件もありなんとか平常を装いその場をあとにした。
しかし同じようなことが明日も起こってしまった
(またかよ!!)
昨日と同じように彼女と廊下で顔を合わせた時、同じようなことが起こってしまった。
なんと丁寧に1番の文字には赤いチェックマークが付いている。
(選んだからついたのかこれ...)
どういうシステムかわからないがもしかしたら全部選べば何か変わるかもしれない。
(でも呼び捨てはダメだろ呼び捨ては)
名前なんて新婚の頃、数年呼んでいただけでそれ以降呼んだこともない。
しかし、この現象がなくなるならやってみる価値はあるかもしれない。
「ご機嫌よう、えっと...リリアンヌ...様」
と言った次の瞬間
「ピロリン♪」
(・・・え)
この前の「カチッ」という音と同じように外から今度は聞き覚えのない音が聞こえてきた。そのあと目の前の彼女に目を通す。
一瞬、目を見開いていたが平常に戻りすこし頬を赤くして
「えぇ、ご機嫌よう、オズモンド様」
と笑みと一緒に返してくれる。
そのあと、離れたが彼女は機嫌が良いのか鼻歌を歌っていた。
その後、数日が過ぎ日曜日、市街に赴き青年を探すことにした。
「確かオンバ通りで見かけたんだよな。」
王都中でも商店が集まるオンバ通りを歩いていた。
先週見た青年を思い出しながら彼を探す。
(確か茶色の髪で目元が前髪で隠れててよくわからなかったんだよな...)
それが特徴ともいえるのかもしれないと青年のことを考えながらフラフラ歩いていると人とぶつかってしまった。
「あ、失礼」
「こちらこそすみません」
二人「あ...」
その考えていた青年に丁度会うことができた。
「あ、この間のお兄さんですよね。こんにちはお買い物ですか?」
と呑気に話す青年だがこっちは緊急事態だ
「良かった、お前を探してたんだよ。見てくれ、これお前の腕輪だろ抜けなくて困っているんだよ助けてくれ!」
と俺も必死になり、まくし立てるように言う。
「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてください」
と青年は俺をなだめるように言う、これじゃどっちが年下かわからない。
「そうですね...お兄さんすこし時間はありますか?」
「まぁ夕方ぐらいまでは大丈夫だ」
「なら良かった」
とそのあと声を小さくし、耳打ちで周りに聞こえないように話す。
「実は僕も人前で軽々しく話せないんです。話も長くなりますし、どこか二人で長く話せる場所はありませんか?」
と促してくる。そんなに話せないことなのだろうか。
青年は何か秘密を抱えているのかもしれない。
「俺の行きつけの酒場があるんだ、個室もあるしそこでもいいか?」
と青年を促す。
「うわぁ酒場ですか、僕未成年なので入ったことないんですよ大人って感じがしますね!!そこに行きましょう。」
と彼もノリノリの模様。
(確かに未成年をつれていくのは大人としてダメだけどまぁいっか)
と一緒に酒場へ移動することにした
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酒場につき店主に個室へ案内される
「そういえば、昼飯食ってるか?まだなら奢るぞ」
「お兄さんありがとうございます。入学の準備で金欠なんで助かります何食べよっかな~」
と数品頼み料理が運ばれてくるとここで本題に入った
「えっと、そういえば名前を教えてもらってなかったな。名前を教えてもらってもいいか?」
そう言うと料理を食べながらコクコクと頷いてくれる料理を食べ終わると口を開いた。
「カイト、カイト・ソラジマと言います。春から国立セントライト学園に通う2年生です。」
(セントライト学園の生徒だったのか!!)
俺もその名前に聞き覚えがある国内唯一の国立校で王族も通う名門校、リリアンヌ女王陛下の母校で今は妹君のアイリス第二王女が通う学校だ。
「あぁ、えっと俺も自己紹介してなかったよな。えっとオズモンド・ノーザンデリアだ...ここまで言えばわかるか?」
彼も名乗ったのだからこちらも名乗るのが筋だろう。なんで王配がここにいるのかと言われそうだが...
「えっと、その、すみませんどちら様ですか?」
と言われた瞬間俺は肩を落としてしまった。
「えっとお兄さんの言い方できに有名人というか著名な方なんだろうなと思うんですが、すみませんこの国のことに疎くて」
もしかしたら国民は案外みんなそう思っているのかもしれない。
「まあいい、えっとこの国の君主は知っているよな」
これ知らなかったら逆にすごいな。
「えっとそう、アーちゃんじゃなかったアイリス王女のお姉さんですよね、確か花の名前がモチーフの...」
(アイリス王女のことは知ってるのなよくわからんヤツだな)
「リリアンヌ女王陛下のことだな、というか自国の君主の名前ぐらい覚えていた方がいいぞ」
そう言うと彼はまさに「それだ!!」といった態度を示す。
「そうです、そう、リリアンヌ様ですよ!!ん...そういえば二人の苗字って国名そのままですよね、オズモンドさんも、もしかして...」
やっと気づいてくれたか、という感じだ。
「あぁ俺はリリアンヌ女王陛下の夫でアイリス王女とも義理の兄弟になる」
「すごい!アイリス王女のお義兄さんいいな、羨ましい!!」
(なんでリリアンヌ様じゃなくてアイリスちゃんに持っていかれるんだ!)
「じゃあ、めちゃくちゃ偉い人なんですねオズモンドさんって」
「あぁめちゃくちゃ偉いんだけどな俺って」
俺もそんなこと言いながら王配としての自覚なんてあまりないような気がする。
「なるほど、なんとなくオズモンド殿下のことがわかりました。」
「いいよ殿下なんて柄じゃないし、名前にさん付けで」
「わかりましたオズモンドさん、そうだ本題の腕輪のことですよね」
となんとか本題にありつくことができた。
「そう、それが聞きたかったんだ。いろいろ試したけど抜けないんだ何か、特別な方法でもあるのか?」
と俺も必死にすがりつく
「実は、結論から言うと、“ある条件”でしかこの腕輪は抜けないようになっているんです」
「それで“その条件”とはなんなんだ教えてくれ」
「それは“真実の愛”です!!」
「・・・はぁ!?」
イヤイヤ、おとぎ話じゃあるまいし
「冗談だろ?」
そう聞くと苦虫を噛み潰したような表情で
「申し訳ないんですが、それが真実なんです」
あまりの言葉にため息をついてしまった
Ep1の①を読んでいただきありがとうございました。Ep1は物語の大切な部分になりますので長くなりますがよろしければ読んでやってください。
次はEp1再開の季節②に続きます