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1 旅行

始まりはそう、5月。この時、私は熱が出ていたのに学校に向かった。別に皆勤賞とかそんなものが目当てじゃない。ただ家にいようと学校に行こうと変わらない気がしただけ。案の定、私は3時間目の途中に倒れた。そんな時にすぐに私を背負って保健室に運んでくれた。たったそれだけのこと。

あなたからしたら当たり前だと思うかもしれないこと。でもあなたが言ってくれた一言が私にはとても忘れられなかった。

『鈴。大丈夫か?俺が連れてってやる。』

それを聞いて私は朦朧としながら思わず言いそうになってしまった。

『私を連れ去って。』と。








 明日から夏休みという日、俺は欠伸をしながら授業を受けていた。俺は秋原 揚羽。

奈津北学園の2年。授業などどうでもいいと俺は眠る姿勢に入った。すると後ろから消しゴムをちぎって投げてくる男子生徒がいた。

(お前はいったい何歳なんだ・・・。)

そんなことをやってくるアイツは藤野 恭介。まぁハッキリ言ってしまえば馬鹿である。

それを離れた席から見て、腹の立つ笑みを浮かべているのが赤坂 拓海。こっちはなんというか変わった奴で、『俺にかかればこの世界など1年で制圧できる。』などと真顔で言う。

実際この学校で起きる大概の問題はこいつの手によって行われているのだから怖い話だ。

 授業が終わると俺は恭介の机に行った。

「お前な。授業中にちょっかい出すのやめろよな。」

しかし、恭介は反省の色無くこう言った。

「まぁ良いじゃんか。どうせ寝ようとしてたところだったし。」

「むぅ・・・。」

確かにその通りなのだが、それを面と向かって言われると何か我慢できないものがある。   「わかってるなら俺の安眠妨害はやめてくれ。」

この際、寝ようとしていた事については開き直る。そうでもしなければこの状況を打破できそうにない。

「あ、寝ようとしたことは認めた。」

「事実だしな。」

2人でそんなことを続けていると、3人組の女子が近づいてくる。

「なにやってるの?」

その中の1人が言う。

「お、花穂。」

こいつは羽山 花穂。クラスメイトで俺の幼馴染でもある。

「聞いてくれよ、コイツがさ・・・。」

俺が言い終わるより早く、恭介が俺と花穂の間に入ってくる。

「羽山〜、揚羽がいじめるんだよ〜。」

泣きつくように花穂に抱きつこうとする。すると横から勢いのある蹴りが恭介の頭に命中した。

「アンタはドサクサに紛れて何しようとしてんのよ。」

この女は西岡 海。3人の中では最も暴力的な女だ。

「いって〜、何すんだよ。」

意識が飛んだのか、少し間を置いて恭介がそう言った。

「アンタが花穂に変なことしようとするからでしょ!」

海が言葉を荒げて言う。

「はいはい、そこまでにしなさい。」

そこで止める声が入った。

「え〜。鈴ちゃん、なんで止めるのよ〜?」

「別にそんな事やりに来た訳じゃないでしょ。」

海は不満そうに下がっていった。

「そういえば何か用事か?」

俺は鈴に向かって聞く。雪宮 鈴。3人の中で1番落ち着いていていつもまとめ役に

なっている。

「そうね。旅行について話し合おうと思って。」

「ああ。」

俺達6人はよく一緒に出掛けたりするのだ。それで夏休みに泊まりでどこかに旅行に

行こうと話していた。

「それで何から決めるんだ?やっぱり場所か?」

「そのことなんだけど・・・・。」

鈴がみんなに説明するような口調になる。

「夏休みといっても皆それぞれ予定もあるでしょうし急いで決めるべきだと思うの。

それにはこの人数で話し合うのは合理的じゃないわ。」

「そうだな。しかし雪宮嬢、どうするつもりだ?」

いつの間にか俺の後ろに立っていた拓海が聞く。

「だからここは男女1人ずつ代表者を出して話し合うのはどうかしら?」

鈴の提案に皆は少し考えた。

「あのさ、女子の代表は鈴ちゃんがやるんだよね?」

花穂が質問する。それに鈴は首を振って答える。

「ええ、2人には後悔させないつもりよ。」

「うん、鈴ちゃんなら賛成だよ。」

「そうね。」

花穂が承諾すると海も続くように答えた。

恭介がこっちを見ながら聞いて来る。

「どうする?」

「う〜ん・・・」

俺は考える。

「俺は女子がいいならそれでいいと思うけどな。」

俺の意見をとりあえずは言ってみる。

「そうだな。俺も賛成。」

恭介もいいらしい。残るは拓海だがこいつの意見は聞かないことにしよう。

「となるとこっちの代表は拓海がやるか?」

こういった事では拓海の普段は使わないような知識や人脈が役に立つ。

俺は拓海に聞いてみた。

「悪いが俺はこれから忙しくなりそうでな。2人のどちらかがやってくれ。」

「また何やらかす気なんだよ・・。」

こいつが忙しいと何か悪いことを起こしかねない。だが今はそれを気にする時では無い。

「じゃあ恭介がやるか?」

「いや、俺もしばらくはバンドのほうがあるしな。揚羽に頼むわ。」

恭介はバンドでドラムをやっている。これからライブがあるのでしばらくはそっちの練習があるらしい。

「じゃあ俺がやるっきゃないか。鈴もそれでいいか?」

鈴が文句を言うとも思えなかったが一応聞いてみる。

「ええ。じゃあさっそく話し合いに入りましょうか。じゃあ他のみんなは帰っていいわよ。」

鈴がそう言うと4人は次々に教室を後にしていった。








 「じゃあここなんか・・・・」

「でもそれならこっちの方がいいんじゃない?」

あれからしばらく時間が経ったが、なかなか決まらずにいた。

「俺とかだとこっちがいいんだけどな。」

「でもそこだとあまりにも旅費がかかるんじゃない?」

「う〜ん、でもな・・・。」

ずっとこの調子だ。大量のパンフレットや本を見ながら話し合っているが一向に決まる気がしない。

「とりあえず海か山かそれを決めようぜ。」

それさえ決まれば見る資料の量も半分以下になる。

「それは海でしょ。」

「よし。じゃあ海で探すぞ。」

「ええ。あ、ここはどうかしら?」

「どれどれ・・・・、お、ここならいいんじゃないか?」

「じゃあここで泊まる所を決めないと・・・。」

「そういえばそこらへんでさっきあったな・・・。ここは?」

「そこならこっちのほうがいいわよ。」

「そこじゃちょっと離れてないか?」

「そうかしら?ならこっちは・・・・・。」

学校が閉まるまでかかって、やっと場所と泊まる所を決定した。

「時間かかったわね。」

「そうだな。」

学校を出ると夏だからか、日は長くなっていたがそれでも薄暗くなってきていた。

「確か鈴の家って西地区だよな。」

「ええ。」

この町は東西南北の4地区に分かれている。それぞれが結構広いため、この学校がある

北地区以外に住んでいる生徒は電車またはバスを使って登校している。

「じゃあ駅まで送るよ。電車で帰るんだろ?」

「ええ。その方が良さそうね。」

鈴はいつもはバスを使うのだがこの時間ではバスはもうほとんど無くなっていた。

 俺と鈴は並んで駅への道を歩く。その途中、鈴が話しかけてきた。

「ねぇ、揚羽。」

「何だ?」

「これからの話し合いどこでやるの?」

そういえば考えてなかったと思った。今日だけで全部決まると思っていたからその事に

ついて触れてなかったのだ。

「そうだな。俺の家はどうだ?」

「わ。」

「どうかしたのか?」

俺が意味も分からずにしていると鈴が言った。

「確か揚羽って一人暮らしだったわよね?」

「ああ、そうだけど?」

確かに俺の家は小さい頃に両親とも亡くなっているから一人暮らしだ。だからこそ

落ち着いて話せると思ったのだが。

「どうかしたのか?」

「そんな誰もいない場所に女の子を誘い込もうなんて・・・。」

「おい、今何を考えてる?」

とりあえずそう言ってみるが、鈴の考えは俺にもわかる。確かにそんな状況である。

「冗談よ。揚羽にはそんな度胸無いし。」

ある訳が無い。もしそんな事をしたならば花穂に軽蔑されるだけでなく、海に殺されかねない。そこまでの危険を冒すなどまっぴらごめんだ。

「それにそれならそれで・・・。」

「え?」

声が小さくて俺には聞き取れなかった。その後、結局は俺の家の場所を知らない鈴のために明日の午後2時に駅前で待ち合わせてそれから俺の家で話し合うことになった。

「じゃあまた明日。」

駅に着くと鈴はそう言って改札をくぐっていった。

それを見送ると俺も家に向かって歩き出した。








 電車に乗り込むと私は開いている座席を見つけ、そこに座った。私の家の最寄りの駅

までは15分はかかる。私は鞄を抱きながら考えていた。

(明日、明日は家に行くのね・・・・・。)

嬉しい反面、私の脳裏には親友とも呼べる人物の顔が思い出された。

(御免なさい・・・でもこれだけは譲れないから・・・。)

私はその親友に心の中で謝る。たぶん謝っても許してはもらえないと思いながら。



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