妥協しない兎と亀
「おい、ソコのお前よ。リベンジだ」
「何だって?」
「俺と、駆けっこ勝負をしろ!」
「はぁ? 何、言ってんだ、てめぇ」
「数百年前の始祖の無念、今ここで晴らさせてもらおうか!」
「何ほざいてんだよ。知らねぇよ、先祖のことなんか。先祖が何してようと、今の俺には関係ねぇから」
「いや、関係ある! だって、俺たちは、ウザキとカメじゃないか」
「種が同じってだけじゃねえか」
「種が同じっていう関係だろ?」
「……はぁ」
「とにかく勝負だ!」
「そうかよ。勝手にやれよ。……また、どうせ、サボるんだろうけど」
「フン、サボるものか。……それじゃあ、ここから、あの丘のテッペンまでだ」
「わかった」
「今、ここにスタートラインを引いた。ここより前に出るなよ?」
「わかってるよ」
「それでは、位置について……」
――グルルルルルルルルル。
「ちょ、ちょちょっと待てよ、ウサギ」
「どうした、カメよ」
「お前の後ろにいる、ライオンは、なんだ」
――グルルルルルルルルル。
「ああ、コレか。コレは、俺が勝つための解さ……!」
「……ふーん」
「て、聞けよ!」
「なんだよお」
「いいか。数百年前のウサギの始祖は、相手がくそノロマの亀だと見くびって、その結果が無念の敗北だった」
「らしい、な」
「だから、俺はもう見くびらないぜ。相手が亀であったとしても、俺は全力で駆け抜ける」
「ほう」
「そう、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすようにだ! 俺はまさに獅子を見倣うべきだったのさ」
――グルルルルルルルルル。
「涎、ボタボタじゃん」
「スタートと同時に、俺の後ろにある獅子を入れた檻の扉が開くようになっている。獅子は全力でウサギの俺を狩ろうとしてくるだろう。だから、俺は全力で逃げなければならない。その結果、俺はお前に勝つことが出来るのだ!」
「馬鹿な話だ」
「行くぞ……? 位置について、よーい…………ドン!」
「うぎゃああああああああああああ」
カメよ、屍を越えて行け!